
裁判所に破産手続を開始してもらうためには、形式的要件(手続的要件・申立ての適法性)および実体的要件を充たしている必要があります。
形式的要件としては、①申立ての方式が適式であること、②申立人に申立権があること、③債務者に破産能力があること、④手数料を納付したこと、⑤裁判所の管轄が正しいことが必要です。
また、実体的要件としては、①債務者に破産手続開始原因(支払不能または債務超過)があること、②破産障害事由が無いことが必要です。
破産手続開始決定の要件
破産法 第30条
- 第1項 裁判所は、破産手続開始の申立てがあった場合において、破産手続開始の原因となる事実があると認めるときは、次の各号のいずれかに該当する場合を除き、破産手続開始の決定をする。
- 第1号 破産手続の費用の予納がないとき(第23条第1項前段の規定によりその費用を仮に国庫から支弁する場合を除く。)。
- 第2号 不当な目的で破産手続開始の申立てがされたとき、その他申立てが誠実にされたものでないとき。
- 第2項 前項の決定は、その決定の時から、効力を生ずる。
破産手続は、裁判所によって破産手続開始決定がなされたときから開始されます。裁判所に破産手続開始の決定を発令してもらうためには、破産手続開始の申立てをしなければなりません。
とはいえ、申立てをすれば、どのような場合でも破産手続が開始されるわけではありません。
破産手続開始決定も、裁判所による裁判の一種ですから、破産法で定める破産手続開始の要件を満たしていなければなりません。破産手続開始の要件には、以下のものがあります。
- 形式的要件(手続的要件・申立ての適法性)
- 実体的要件
破産手続開始の形式的(手続的)要件
破産手続開始決定がなされるためには、破産手続開始の形式的要件(手続的要件)を満たしていることが必要です。
破産手続開始の形式的要件とは、破産手続開始の申立てが適法であるということです。
破産手続開始の形式的要件には以下のものがあります。
- 破産手続開始の申立ての方式が適式であること
- 申立人に申立権があること
- 債務者に破産能力があること
- 手数料を納付したこと
- (裁判所の管轄が正しいこと)
破産手続開始の申立ての方式が適式であること
破産法 第20条
第1項 破産手続開始の申立ては、最高裁判所規則で定める事項を記載した書面でしなければならない。
第2項 債権者以外の者が破産手続開始の申立てをするときは、最高裁判所規則で定める事項を記載した債権者一覧表を裁判所に提出しなければならない。ただし、当該申立てと同時に債権者一覧表を提出することができないときは、当該申立ての後遅滞なくこれを提出すれば足りる。
破産手続開始決定をしてもらうためには、破産手続開始の申立てをしなければなりません。この申立ての方式については、破産法20条に規定があります。
具体的には、破産手続開始の申立書を管轄の裁判所に提出するという方式で、破産手続開始の申立てをする必要があります。
そして、その申立書には破産規則13条に定められている必要的記載事項を記載しておかならければならなず、また、同規則14条に定められている事項を記載した債権者一覧表や添付書類等を提出することも必要です。
なお、これらに不備があれば、即座に申立書が却下されるというわけではなく、裁判所から不備の補正を命じられ、それにもかかわらず不備を補正しなかった場合に却下されることになります。
申立人に申立権があること
破産手続開始の申立ては、誰でもできるわけではありません。破産手続開始の申立てをすることができる権利を誰が有しているのかについては、破産法で決められています。
この破産手続開始の申立てをすることができる権利のことを「申立権」といい、申立権を有する人のことを「申立権者」といいます。
破産手続開始の申立権者は、債務者本人、債務者が法人である場合の取締役・理事、債権者および監督官庁だけです。
なお、債務者である会社など法人自身が申立てをすることを「自己破産申立て」といい、取締役等が申立てをすることを「準自己破産申立て」といい、債権者が申立てをすることを「債権者破産申立て」と呼んでいます。
この申立権がない者が申立てをしても、その申立ては却下されます。
債務者に破産能力があること
破産手続を開始してもらうためには、破産者となるべき債務者に「破産能力」があることが必要です。破産能力とは、破産者となることができる一般的な地位または資格のことをいいます。
一般的な地位または資格などというと、とても特別なもののように思えますが、権利義務の主体であれば破産能力があると解されています。
つまり、個人や法人は、破産能力があることに何らの問題もないということです。
日本人や日本法人だけでなく、外国人や外国法人であっても、日本国内に住所・居所や営業所・事業所などがあれば、日本における破産手続の破産能力があるとされています(破産法3条、4条1項)。
債務者に破産能力がなければ、申立ては却下されます。もっとも、通常の個人や法人の破産において、破産能力が問題となることはまずないといってよいでしょう。
手数料を納付したこと
破産手続開始を申し立てる当たっては、裁判所に手数料を納付する必要があります。これを納付しなければ、申立ては却下されます。
手数料は、収入印紙で納付します。金額は、自己破産や準自己破産の場合は1000円です(個人破産において免責許可も申し立てる場合は、追加で500円が必要となります。)。
なお、手数料を申立書提出と同時に納付しなかったからといって、即座に申立てが却下されるわけではなく、裁判所から納付を命じられ、それにもかかわらず納付しなかった場合に却下されることになります。
裁判所の管轄が正しいこと
破産手続開始の申立ては、どこの裁判所に申し立ててもよいというものではありません。破産法で定められた管轄の裁判所に申し立てる必要があります。
具体的には、債務者である会社など法人の主たる営業所の所在地を管轄する地方裁判所が管轄裁判所になるのが原則です。
ただし、いくつかの例外もあります。例えば、一定の大規模事件などの場合には、東京地方裁判所や大阪地方裁判所を管轄とすることも可能です。
なお、管轄が正しいことは要件ではありますが、土地管轄を間違えた地方裁判所に申立てをしたとしても、申立てが却下されるわけではありません。管轄違いとして、正式な管轄のある裁判所に移送されるだけです。
実体的要件
前記の破産手続開始の形式的要件を満たしていたとしても、それだけで破産手続開始決定がなされるわけではなく、さらに、破産手続開始の実体的な要件も満たしている必要があります。
破産手続開始の実体的要件とは、以下のものです。
- 債務者に破産手続開始原因があること
- 債務者に破産障害事由がないこと
債務者に破産手続開始原因があること
破産手続は、経済的に破たんしている状態にある債務者の財産等を法的に整理するという手続です。経済的に健全な債務者を破産させる必要はありません。
したがって、経済的な破たん状態にあることが破産手続を利用するための要件とされる必要があります。
それを具体化したものが「破産手続開始原因」です。この破産手続開始原因がなければ、破産手続は開始されません。この破産手続開始原因には、「支払不能」と「債務超過」があります。
支払不能
支払不能とは、「債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態」にあることをいいます(破産法2条11項)。
「一般的かつ継続的に弁済することができない状態」とは、重要な財産を処分しなければならないなど、通常の方法ではもはや返済を継続していくことができない状態になってしまっているということです。
債務超過
債務超過とは、「債務者が、その債務につき、その財産をもって完済することができない状態」にあることをいいます(破産法16条1項)。要するに、赤字であるということです。
なお、法人破産の場合は、上記の支払不能とこの債務超過が破産手続開始原因となりますが、個人破産の場合には、支払不能のみが破産手続開始原因となるとされています。
債務者に破産障害事由がないこと
破産手続において障害となる事由(破産障害事由)がある場合も、破産手続は開始されません。破産障害事由としては、以下のものがあります。
- 破産手続の費用の予納がないこと
- 不当目的・不誠実な破産手続開始申立てがされたこと
- 民事再生・会社更生・特別清算手続が開始されていること
破産手続費用の予納をしたこと
破産手続においては、破産手続を進めていくための最低限の費用が必要となってきます。たとえば、破産管財人報酬などです。
この最低限の費用は、もし破産者に財産があればそこから賄うことがもできますが、破産手続開始の時点では回収できるかどうかは未確定です。
そのため、申立人において、一定の額を予納金として納付しなければならないとされます(前記の手数料とはまた別の費用です。)。
この予納金の納付をしないことは、破産障害事由となります。
不当目的・不誠実な破産手続開始申立てではないこと
破産手続も裁判手続ですから、当然、不当・不誠実な者を助けることはできません。そのため、不当目的・不誠実な破産手続開始申立てがされたことも破産障害事由とされています。
例えば、単なる嫌がらせや脅迫のための申立て、財産を隠匿するための計画倒産などがあげられるでしょう。
民事再生・会社更生・特別清算手続が開始されていないこと
経済的に破たんしている債務者であっても、清算ではなく、経済的再建が可能なのであれば、そちらを優先させた方が、債務者・債権者のためにも、また社会経済的にもよいことは間違いないでしょう。
そのため、民事再生手続開始決定がされている場合、会社更生手続開始決定がされている場合には、そのことが破産障害事由となります。つまり、再生や更生手続を優先するこということです。
特別清算手続は、破産手続と同じく清算型の手続ではありますが、破産手続よりも穏便かつ簡便な手続であるため、それを優先させた方が望ましいということから、特別清算開始決定がされている場合には、それも破産障害事由になります。