
破産手続開始の申立書には、破産規則で定める事項を記載した債権者一覧表を添付する必要があります(破産法20条2項)。債権者一覧表とは、債務者に対して債権を有する債権者を一覧で記載した書面のことをいいます。
破産手続開始の申立書に添付する債権者一覧表
破産法 第20条
- 第2項 債権者以外の者が破産手続開始の申立てをするときは、最高裁判所規則で定める事項を記載した債権者一覧表を裁判所に提出しなければならない。ただし、当該申立てと同時に債権者一覧表を提出することができないときは、当該申立ての後遅滞なくこれを提出すれば足りる。
裁判所によって破産手続を開始してもらうためには、破産申立権者が管轄の裁判所に対して破産手続開始の申立てをしなければなりません。
この破産手続開始の申立ては、「最高裁判所規則で定める事項を記載した書面」を提出する方式で行います(破産法20条1項)。この書面のことを「破産手続開始の申立書」と呼んでいます。
破産手続開始の申立書には、「債権者一覧表」と呼ばれる書面を添付しなければなりません(破産法20条2項)。
債権者一覧表とは、債務者に対して債権を有する債権者を一覧で記載した書面です。
破産手続を開始するためには、債務者が支払不能や債務超過に陥っていることが必要です。これらを判断するためには、債務者の負債状況を確認する必要があります。
また、破産手続において最も重大な利害を持っているのは、何といっても債権者です。
したがって、破産手続開始後できる限りすみやかに債務者について破産手続が開始したことを通知することにより、債権者に対して早期に破産手続に参加できる機会を与える必要があります。
そこで、裁判所が、破産手続開始の申立て段階から債権者の情報を把握できるよう、破産手続開始の申立書に債権者一覧表を添付することが求められているのです。
債権者一覧表の記載事項
破産規則 第14条
- 第1項 法第20条第2項の最高裁判所規則で定める事項は、次に掲げる債権を有する者の氏名又は名称及び住所並びにその有する債権及び担保権の内容とする。
- 第1号 破産手続開始の決定がされたとすれば破産債権(法第2条第5項に規定する破産債権をいう。以下同じ。)となるべき債権であって、次号及び第3号に掲げる請求権に該当しないもの
- 第2号 租税等の請求権(法第97条第4号に規定する租税等の請求権をいう。)
- 第3号 債務者の使用人の給料の請求権及び退職手当の請求権
- 第4号 民事再生法(平成11年法律第225号)第252条第6項、会社更生法第254条第6項又は金融機関等の更生手続の特例等に関する法律第158条の10第6項若しくは第331条の10第6項に規定する共益債権
債権者一覧表には、「最高裁判所規則で定める事項」を記載しなければなりません(破産法20条2項本文)。
ここでいう最高裁判所規則とは「破産規則」のことです。債権者一覧表に記載しなければならない事項(必要的記載事項)は、破産規則14条1項に規定されています。
具体的に言うと、債権者一覧表には、以下の債権について記載する必要があります。
- 破産手続開始の決定がされたとすれば破産債権となるべき債権
- 租税等の請求権
- 債務者の使用人の給料の請求権・退職手当の請求権
- 破産手続に先行する再建型倒産手続における共益債権
そして、上記の各債権それぞれについて、以下の事項を記載する必要があります。
- 債権者者の氏名・名称・住所
- 債権の内容
- 債権に設定されている担保権の内容
なお、実務では、債権の内容として、単にどの債権なのかを特定できる程度の情報だけではなく、取引の期間、保証人の有無、最終の返済日、当該債権に関して係属している裁判手続等についても記載するのが通常です。
債権者一覧表の提出時期
破産規則 第14条
- 第2項 債権者が破産手続開始の申立てをするときは、前項に規定する事項を記載した債権者一覧表を裁判所に提出するものとする。ただし、当該債権者においてこれを作成することが著しく困難である場合は、この限りでない。
債権者一覧表は、破産手続開始の申立ての際に提出する必要があります。つまり、破産手続開始の申立書に添付して提出する必要があるということです(破産法20条1項本文、破産規則14条2項本文)。
ただし、破産手続開始の申立てと同時に債権者一覧表を提出することができないときは、申立て後遅滞なく提出すれば足りるものとされています(破産法20条1項ただし書)。
もっとも、実務では、破産手続開始の申立て時点で申立書に添付して債権者一覧表を提出することが求められています。申立て後に提出するのは、よほどの例外的事情がある場合に限らます。
したがって、破産手続開始の申立てをする場合には、債権者一覧表を作成しておかなければならないと考えておいた方がよいでしょう。
とはいえ、破産手続開始の申立てまでの準備時間によっては、すべての債権者を完全に網羅できないこともあります。
その場合には、申立てまでにできる限りの債権調査をして債権者一覧表を作成し、不足は申立て後に追完すれば足ります。
なお、債権者破産申立ての場合、債権者一覧表の提出が原則とされているものの、例外的に、申立人である債権者において債権者一覧表を作成することが著しく困難であるときは、債権者一覧表の提出をしなくてもよいものとされています(破産規則14条1項ただし書)。
また、監督官庁による破産申立ての場合には、そもそも債権者一覧表を提出することが求められないのが通常です。
債権者一覧表の作成方法
債権者一覧表を作成するには、まずどのような債権があるのかを確認する必要があります。その上で、各債権の内容等について調査をしなければなりません。
法人破産の場合
単に代表者・役員・従業員の方々の記憶だけでなく、決算書類、各種帳簿、通帳の明細、郵便物・電子メール・FAX等で送付されてきているものなどを確認して、どのような債権があるのかを確認する必要があります。
その上で、各債権に関する契約書等を確認して、各債権の内容や担保の有無等を調査しなければなりません。
税金、従業員の給与、税金などは印象に残りやすいのであまり漏れはないかもしれませんが、債権はこれらだけではありません。
水道光熱費や通信費などの経費も破産手続開始時において未払い分があれば債権になりますので、忘れないようにしなければなりません。
法人破産の場合、よくある債権としては、以下のものがあります(ただし、これだけに限るものではありません。)。
- 銀行・信用金庫・公庫・消費者金融・クレジットカード会社・ローン会社・個人などからの融資・借入金・立替金
- リース料金
- 水道光熱費
- 電話料金・インターネット料金・有線放送などの通信費
- 広告費
- 事業所・駐車場・倉庫等の賃料・家賃・地代
- 取引先・仕入先に対する買掛金
- 従業員の給与・退職金
- 役員の報酬・退職金
- 弁護士・税理士等の顧問料金
- 税金・社会保険料等の公租公課
債権者一覧表を作成するためには、これら事前の債権調査が必要です。もっとも、どの程度まで債権調査できるのかは、破産手続開始申立てまでに残されている時間によってきます。
時間的余裕があれば、十分に調査できたり、弁護士から各債権者に対して介入通知(受任通知)を送って調査できることもありますが、即時に申し立てなければならない場合には、じっくりと調査している暇がないこともあります。
その場合には、手元にある書類・資料をもとに、できる限りの調査をし、少なくとも主要な債権に関しては債権者一覧表に記載できるようにしておくべきでしょう。
なお、破産手続開始申立て後に新たに債権が発覚した場合には、それを追完することになります。
個人破産の場合
個人であっても、個人事業者・自営業者の場合は、ほとんど法人と同じです。
ただし、破産した後も自宅を転居せずに従前のライフラインに関する契約を継続する場合、自宅の水道光熱費、公共料金、家賃などは、債権者一覧表に記載しません(使い続けない場合には、債権者一覧表に記載します。)。
個人非事業者の場合は、法人や個人事業者の場合ほど多くの債権者はいないのが通常です。消費者金融、クレジットカード会社、銀行などからの借入れが大半を占めることが多いでしょう。