この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
- Q民法上の強迫とは何?
- A
強迫とは、暴行や害悪の告知により畏怖させて、他人に意に沿わない意思表示をさせる行為です。強迫により行われた意思表示は、取り消すことができます(民法96条1項)。なお、民法では「脅迫」ではなく、「強迫」と表記します。
このページでは、民法上の強迫についてわかりやすく説明します。
- 民法上の強迫の意味
- 強迫取消しの要件・効果・手続・期間
- 強迫による意思表示の追認
- 取消しと無効の違い
- 強迫取消しと第三者
- 第三者による詐欺

民法上の強迫とは:脅迫との違い
「きょうはく」と聞くと、「脅迫」を思い浮かべる人は多いかもしれません。ただ、この「脅迫」は、犯罪として処罰される刑法上の「きょうはく」です。
民法においての「きょうはく」は、脅迫ではなく「強迫」と表記します。
民法上の強迫とは、暴行や害悪の告知により畏怖させて、他人に意に沿わない意思表示をさせる行為です。
強迫は、簡単に言うと「脅す」ことです。行為の意味としては、刑法上の脅迫とそれほど大きな違いはありません。
強迫による意思表示は「取り消し得る」
民法 第96条
- 第1項 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
引用元:e-Gov法令検索
強迫と脅迫は、意味内容に大きな違いはありませんが、法的効果は異なります。刑法上の脅迫は、脅迫罪として刑罰を科されます。一方、民法上の強迫では、刑罰ではなく民事上の効果が発生します。
具体的に言うと、強迫されたために行ってしまった意思表示は、取り消すことができます(民法96条1項)。
強迫によって行われた意思表示は、意思表示した人(表意者)の真意に基づくものではありません(このような真意に基づかない意思表示を「瑕疵ある意思表示」といいます。)。
そのため、強迫によって行った意思表示は、後から取り消すことができるものとされているのです。
例えば、「契約しないと危害を加える」と脅して、無理やり契約を締結させる場合などが、強迫に当たります。
強迫取消しの要件
強迫による意思表示を取り消すには、以下の要件を充たしている必要があります。
- 強迫行為をされたこと
- 強迫行為により畏怖したこと
- 被害者が意思表示をしたこと
- 強迫行為と意思表示の因果関係
- 意思表示をした本人が取り消すこと
以下、それぞれの要件を説明をします。
要件1:強迫行為をされたこと
強迫取消しをするには、被害者(表意者)の意思表示が、加害者の「強迫行為」によって行われたものであることが必要です。
この強迫行為には、害悪の告知(被害者にとって有害な事実を告げること)や暴行が含まれます。例えば、危害を加えてると脅したり、暴力をふるったりする行為が、強迫行為に該当します。
強迫は故意に基づく行為であることが必要
強迫は、加害者の故意に基づく行為でなければいけません。故意を欠く害悪の告知や暴行では、民法96条1項の強迫には該当しません。
この強迫の故意としては、具体的な脅迫行為の認識があることに加えて、相手方を畏怖させて意思表示をさせることについての認識も必要です(二重の故意)。
法律上正当な事実の告知が強迫となるケースがある
法的には正当な事実の告知であっても、相手方を脅して畏怖させることにより意思表示をさせる認識がある場合は、強迫行為に該当することはあり得ます。
例えば、「契約しなければ告訴する」との告知も、告訴すること自体は法的に許されることですが、強迫の故意に基づく行為であるときは、民法上の強迫と評価されるケースがあります。
黙示的行為でも強迫となるケースがある
強迫行為は、明示的なものに限られません。黙示的な行為でも、強迫と評価される場合があります。
例えば、直接的に何かを告知していなくても、密室で複数人で取り囲み、契約書にサインせざるを得ない状況を作った場合などは、強迫に該当する可能性があります。
要件2:被害者が畏怖したこと
強迫取消しには、被害者(表意者)が畏怖したことが必要です。強迫されても、被害者がまったく畏怖していなければ、取り消せません。
強迫による意思表示を取り消せるのは、その意思決定に瑕疵があるからです。被害者がまったく畏怖していなければ、意思決定に瑕疵があるとは言えません。そのため、被害者の畏怖が要件とされるのです。
なお、被害者が畏怖(恐怖心を感じた)により意思決定の自由が制限されていれば足り、意思決定の自由を完全に奪われていなくても強迫取消しは可能です(最三小判昭和33年7月1日)。
要件3:意思表示をしたこと
強迫により被害者(表意者)が畏怖して「意思表示をした」場合に、取消しができます。
当然のことですが、強迫されたとしても、何も意思表示していないのであれば、意思表示の取消しはできません。
要件4:強迫行為と意思表示の因果関係
強迫取消しの要件として、「強迫行為→被害者の畏怖→意思表示」に因果関係があることが必要です。強迫行為によって被害者(表意者)が畏怖し、その畏怖によって意思表示をしたものでなければなりません。
そのため、強迫をしても被害者が畏怖しなかった場合だけでなく、強迫行為による畏怖とは無関係にした意思表示は、取り消すことができません。
例えば、「契約しないと危害を加える」と言われたことによって畏怖したものの、被害者が、むしろ契約した方が利益があると思い直して契約をした場合は、因果関係を欠き、強迫取消しできません。
要件5:意思表示をした本人(被害者)が取り消すこと
民法 第120条
- 第2項 錯誤、詐欺又は強迫によって取り消すことができる行為は、瑕疵ある意思表示をした者又はその代理人若しくは承継人に限り、取り消すことができる。
引用元:e-Gov法令検索
強迫による意思表示を取り消す権利ある人(取消権者)は、意思表示をした被害者(表意者)およびその代理人もしくは承継人です(民法120条2項)。
強迫の加害者はもちろん、第三者が意思表示を取り消すこともできません。
強迫によってした意思表示であっても、あるいは被害者にとって有益であるかもしれません。そのため、取り消すか否かについて被害者の意思を尊重するため、取消権者が被害者だけに限定されているのです。
強迫取消しの効果
前記のとおり、強迫による意思表示は取り消せます。取消しとは、表意者が自分の意思で意思表示の効力を失わせることです。
強迫による意思表示が取り消されると、意思表示は遡及的に無効となり、意思表示の当事者には原状回復義務が発生します。
効果1:意思表示は遡及的に無効となる
民法 第121条
- 取り消された行為は、初めから無効であったものとみなす。
引用元:e-Gov法令検索
強迫を理由に意思表示が取り消されると、その意思表示は、意思表示をした時にさかのぼって、はじめからなかったこと(無効)になります(遡及効。民法121条)。
取消しをした時からではなく、意思表示をした時にさかのぼって無効になるのです。
効果2:当事者に原状回復義務が課される
民法 第121条の2
- 第1項 無効な行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、相手方を原状に復させる義務を負う。
引用元:e-Gov法令検索
強迫取消しされると、意思表示は遡及効無効となります。意思表示をした後、取り消されるまでの間に、取り消された意思表示を基礎として行われた事実行為や法律行為も根拠を失います。
そのため、強迫取消しがされた後、意思表示の当事者はお互いに、意思表示前の状態に戻す義務(原状回復義務)を負います(民法121条の2第1項)。
具体的には、すでに履行されている債務があれ場合、お互いに相手方に受け取ったものを返還しなければいけません。
ただし、加害者は被害者から受け取ったものを返還しなければならないものの、強迫の被害者(表意者)は加害者から受け取ったものを返還しなくてもよいと考える見解もあります(不法原因給付説)。
なお、遡及的に無効になるため、まだ履行したいない債務は、履行しなくてよくなります。
強迫取消しの方法・手続
民法 第123条
- 取り消すことができる行為の相手方が確定している場合には、その取消し又は追認は、相手方に対する意思表示によってする。
引用元:e-Gov法令検索
強迫による意思表示を取り消すには、被害者(表意者)が、取り消そうとしている意思表示の相手方に対して「意思表示を取り消す」旨の意思表示をする必要があります(民法123条)。
特別な手続をする必要はなく、意思表示の相手方に取消しの意思表示が到達すれば、取消しの効果が発生します(民法97条1項)。
実務では、取消しの意思表示が確実に届いたことを証拠として残しておくため、配達証明を付けた内容証明郵便で、取り消す旨の意思表示を記載した書面(通知書)を郵送するのが、一般的です。
強迫取消しができる期間
民法 第126条
- 取消権は、追認をすることができる時から5年間行使しないときは、時効によって消滅する。行為の時から20年を経過したときも、同様とする。
引用元:e-Gov法令検索
強迫による取消しには、期間の制限があります。いかに強迫の被害者(表意者)とはいえ、永続的にいつでも取り消せるわけではありません。取消権にも消滅時効があります。
具体的には、以下の期間内に強迫取消しの意思表示をしなければいけません(民法126条)。
- 強迫行為が止んだ時から5年間
- 意思表示した時から20年間
強迫取消しと第三者
前記のとおり、強迫取消しがされると、強迫による意思表示は遡及効に無効となり、当事者は互いに原状回復義務を負います。
加害者に対しては、取消しの意思表示をすれば、特に他の条件を充たさなくても、当然に取消しの効果を主張できます。
問題は、強迫による意思表示を基礎として新たに利害関係を持つ第三者が現れた場合です。
第三者とは、当事者およびその包括承継人以外の者で、詐欺もしくは強迫によって形成された法律関係の外形を信頼して新たな法律関係に入った者のことです。
この場合、被害者(表意者)は、強迫取消しによる権利の復帰(原状回復)を第三者に主張(対抗)できるのかが問題となります。
強迫取消し「前」の第三者
例えば、AがBに脅されて所有する不動産をBに売却する契約を締結し、その不動産をBがCに転売した後に、Aが強迫を理由としてBとの売買契約を取り消したようなケースです。
このような場合、強迫取消しによって意思表示は遡及効無効になります。そうすると、加害者ははじめから無権利者となり、加害者から権利を譲り受けた第三者も無権利になります。
そして、強迫取消しの場合、詐欺取消しと違って、遡及効により不利益を受ける第三者を保護する規定がありません(民法96条3項は、あえて強迫を除外している。)。
そのため、被害者(表意者)は、たとえ第三者が強迫の事実を知らず(善意)知らないことに落ち度がない(無過失)であっても、強迫取消しによる権利の変動を主張できます。
上記の事例で言うと、Aは、Cが強迫の事実について善意無過失であっても、AB間売買契約の取り消しによって不動産の所有権が自分のもとに復帰したことを主張できます。
補足:詐欺取消し前の第三者との違い
上記のとおり、強迫取消しの場合、被害者(表意者)は、第三者が善意無過失であっても強迫取消しによる権利変動を主張できます。
他方、詐欺取消しの場合には、表意者は、善意無過失の第三者に対して詐欺取消しによる権利変動を主張できません(民法96条3項)。
強迫の場合、脅されているので、表意者は自由な意思決定できずに意思表示しています。しかし、詐欺の場合は、騙されているとはいえ、一応は自分の意思に基づいて意思決定した上で意思表示しています。
意思決定の自由度が低い分、強迫の場合の方が表意者を保護する必要性が高いといえます。
そのため、表意者は、強迫取消し前の第三者が善意無過失であっても取消しを主張できるものの、詐欺取消し前の第三者が善意無過失でありは場合は取消しを主張できないとされているのです。
強迫取消し後の第三者
例えば、AがBに脅されて所有する不動産をBに売却する契約を締結したものの、Aが強迫を理由としてBとの売買契約を取り消した後に、その不動産をBがCに転売したケースです。
この場合、強迫取消しによる原状回復も一種の権利変動です。そうすると、強迫の加害者を起点として、被害者(表意者)への復帰的な権利変動と第三者への権利変動の相反する2つの権利変動が発生しています。
そこで、表意者と強迫取消し後の第三者は、対抗関係に立つと考えられています(大審院昭和17年9月30日判決)。両者の優劣は、対抗問題として民法177条により決められます。
そのため、表意者は、先に対抗要件(登記など)を備えなければ、強迫取消し後の第三者に強迫取消しによる権利の復帰を主張できません。
上記の事例で言うと、Aは、登記を備えなければ、Cに対して、AB間売買契約の取り消しによって不動産の所有権が自分のもとに復帰したことを主張できません。
補足:詐欺取消し後の第三者と同じ
上記のとおり、強迫取消しの被害者(表意者)と取消し後の第三者は、対抗問題として扱われます。また、詐欺取消しの場合も、表意者と取消し後の第三者は対抗問題になります。
強迫・詐欺いずれの場合も、表意者と取消し後の第三者のいずれか先に対抗要件を備えた方が、取消しによる権利変動を主張できると考えられています。
どちらも、すでに意思表示が取消し済みであり、表意者の取消権が実現されています。そのため、強迫の表意者を詐欺の表意者よりも優位に扱う理由はありません。
そのため、強迫でも詐欺でも、取消し後の第三者との関係は同じ扱いになっているのです。
補足:民法94条2項の類推適用
上記のとおり、強迫取消しの被害者(表意者)と取消し後の第三者は、対抗問題として扱うとするのが判例・実務です。
ただし、学説では、民法94条2項の類推適用によって、取消し後の第三者との関係を決するべきとする見解も有力です。
具体的に言うと、強迫取消し後の第三者が登記などの外観を信じて利害関係を持った場合、その第三者が意無過失であるときは、表意者は強迫取消しによる権利の復帰を主張できないと考えます。
登記など対抗要件の先後ではなく、第三者が善意無過失か否かによって優劣を決める考え方です。
なお、学説を採用するとしても、民法94条2項が類推適用されるのは、あくまで実体に即しない外観(強迫者が登記を備えているなど)がある場合に限られます。
虚偽の外観がない(すでに表意者が登記を自分に戻している)場合には、民法94条2項を類推適用することはできません。
第三者による強迫
民法96条2項は、第三者による詐欺については規定しているものの、第三者による強迫については何も定めていません。
もっとも、第三者による強迫によって意思表示した場合も、被害者は意思表示を取り消すことができます(民法96条1項)。
例えば、AがBを強迫して、Cと無理矢理に契約を結ばせた場合でも、Bは契約を取り消すことができます。
この場合、第三者による詐欺と違い、第三者による強迫の場合は、意思表示の相手方が善意無過失であっても、取り消せると考えられています。
強迫により意思能力が完全に奪われた場合:当然に無効
これまで説明したきたとおり、強迫による意思表示は、当然に無効となるのではなく、取消し得るものとなります。
ただし、強迫の度合いが著しく、被害者(表意者)の意思決定が制限されるだけにとどまらず、完全に意思決定できない状態にされた場合は別です。
このように表意者の意思決定の自由が強迫によって完全に奪われた場合は、意思能力を欠くことになり、表意者のした意思表示は当然に無効となります(前掲最三小判昭和33年7月1日)。
そして、表意者の意思決定の自由が完全に失われた場合は当然に無効になるため、取り消す必要がなくなります。
強迫による意思表示の追認
強迫による意思表示は、当然に無効になるわけではありません。強迫の被害者(表意者)が取り消すまでは、一応有効な意思表示として存在します。
さらに、強迫の被害者(表意者)は、強迫による意思表示を取り消すのではなく、有効なものとして認める(追認する)こともできます。
追認の効果
民法 第122条
- 取り消すことができる行為は、第120条に規定する者が追認したときは、以後、取り消すことができない。
引用元:e-Gov法令検索
被害者(表意者)またはその代理人もしくは承継人が強迫による意思表示を追認した場合、その意思表示は有効なものとして確定します。
そのため、いったん追認した後は、取消しはできなくなります(民法122条)。
追認の要件
民法 第124条
- 取り消すことができる行為の追認は、取消しの原因となっていた状況が消滅し、かつ、取消権を有することを知った後にしなければ、その効力を生じない。
引用元:e-Gov法令検索
強迫による意思表示を追認するには、以下の要件が必要です。
- 強迫行為が止んだ後にすること
追認できるのは、強迫行為が止んだ後です。強迫行為が続いている間に被害者(表意者)が追認しても、追認の効果は発生しません。 - 被害者(表意者)が取消権を有することを知っていること
被害者(表意者)が、意思表示を取り消せることを知りながら追認したものでなければいけません。取消しできることを知らずに追認したとしても、追認の効果は発生しません。 - 被害者(表意者)が加害者に対して追認の意思表示をすること(民法123条)
追認をするには、被害者(表意者)または代理人もしくは承継人が、加害者に対して追認の意思表示をする必要があります。
法律上当然に追認とみなされる場合(法定追認)
民法 第125条
- 追認をすることができる時以後に、取り消すことができる行為について次に掲げる事実があったときは、追認をしたものとみなす。ただし、異議をとどめたときは、この限りでない。
- 第1号 全部又は一部の履行
- 第2号 履行の請求
- 第3号 更改
- 第4号 担保の供与
- 第5号 取り消すことができる行為によって取得した権利の全部又は一部の譲渡
- 第6号 強制執行
引用元:e-Gov法令検索
上記の要件を充たす場合だけでなく、強迫の被害者(表意者)が以下の行為をした場合は、自動的に追認したものとして扱われます(法定追認。民法125条)。
- 被害者が、意思表示に基づく債務の全部または一部を履行した場合
- 被害者が、意思表示に基づく債務の履行を相手方に請求した場合
- 被害者が、意思表示について更改契約をした場合
- 被害者が、意思表示に基づく債務について、相手方に担保を提供した場合
- 被害者が、意思表示に基づく債務について、相手方から担保の提供を受けた場合
- 被害者が、意思表示に基づいて取得した権利の全部または一部を第三者に譲渡した場合
- 被害者が、意思表示に基づく債権について強制執行をした場合(意思表示に基づく債務について強制執行された場合は含まれません。)
ただし、表意者が異議をとどめた場合(追認するわけではないと明らかにしていた場合)は、法定追認の効果は生じません。
追認の方法・手続
強迫による意思表示を追認する場合も、被害者(表意者)が、取り消そうとしている意思表示の相手方に対して「意思表示を追認する」旨の意思表示をする必要があります(民法123条)。
特別な手続をする必要はなく、意思表示の相手方に追認の意思表示が到達すれば、追認の効果が発生します(民法97条1項)。
実務では、追認の意思表示が確実に届いたことを証拠として残しておくため、配達証明を付けた内容証明郵便で、追認する旨の意思表示を記載した書面(通知書)を郵送するのが、一般的です。
追認できる期間
追認できる期間は、特に決まっていません。
取消権が時効消滅すると、それ以降取り消せなくなるので、追認したのと同じ状況になります。そのため、あえて追認権の期間を決める必要がないのです。
取消しと無効の違い
強迫による意思表示は、当然に無効となるわけではなく、「取り消し得る」ものです。実際に取り消されるまでは、意思表示は有効なものとして存在します。
そのため、強迫があっても、被害者が取消しをせず、あえて意思表示を有効なものとして認めた(追認した)場合、無効にはなりません。
取り消し得る意思表示と、そもそも無効な意思表示は、法律上違うものであることは覚えておきましょう。
また、取消しと無効には、以下のような違いもあります。
| 比較項目 | 取消し | 無効 |
|---|---|---|
| 効果 | 取り消されるまでは有効 取り消した場合に、意思表示の時にさかのぼって無効 (民法121条) | 意思表示した時から当然に無効 |
| 主張できる人 | 取消権者(表意者または代理人もしくは承継人) (民法120条) | 誰でも主張できる |
| 期間の制限 | 強迫行為が止んだ時から5年 意思表示した時から20年 (民法126条) | なし |
| 追認の可否 | 追認できる (民法122条) | 追認できない 新たな行為とみなされる (民法119条) |
強迫による身分行為の取消し
意思表示に限らず、強迫による身分行為を取り消せる場合もあります。
- 強迫による婚姻の取消し(民法747条)
- 強迫による協議上の離婚の取消し(民法764条、747条)
- 強迫による養子縁組の取消し(民法808条1項、747条)
また、取消しではありませんが、強迫によって遺言を妨げたり、遺言をさせたりした法定相続人は、相続権を失うこともあります(相続欠格。民法891条)。
この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
この記事が参考になれば幸いです。
民法と資格試験
民法は、私法の基本法です。我々の生活に最も身近な法律です。
そのため、例えば、司法試験(本試験)、司法試験予備試験、司法書士試験、行政書士試験、宅建試験、マンション管理士試験・・・など、実に多くの資格試験の試験科目になっています。
これら法律系資格の合格を目指すなら、民法を攻略することは必須条件です。
とは言え、民法は範囲も膨大です。メリハリを付けないと、いくら時間があっても合格にはたどり着けません。効率的に試験対策をするには、予備校や通信講座などを利用するのもひとつの方法でしょう。
STUDYing(スタディング)
・司法試験・予備試験も対応
・スマホ・PC・タブレットで学べるオンライン講座
・有料受講者数20万人以上・低価格を実現
参考書籍
本サイトでも民法について解説していますが、より深く知りたい方や資格試験勉強中の方のために、民法の参考書籍を紹介します。
新訂民法総則(民法講義Ⅰ)
著者:我妻榮 出版:岩波書店
民法の神様が書いた古典的名著。古い本なので、実務や受験にすぐ使えるわけではありませんが、民法を勉強するのであれば、いつかは必ず読んでおいた方がよい本です。ちなみに、我妻先生の著書として、入門書である「民法案内1(第二版)」や「ダットサン民法総則・物権法(第4版)」などもありますが、いずれも良著です。
我妻・有泉コンメンタール民法(第8版)
著書:我妻榮ほか 出版:日本評論社
財産法についての逐条解説書。現在も改訂されています。家族法がないのが残念ですが、1冊で財産法全体についてかなりカバーできます。辞書代わりに持っていると便利です。
司法試験・予備試験など資格試験向けの参考書籍としては、以下のものがあります。
民法(全)(第3版補訂版)
著者:潮見佳男 出版:有斐閣
1冊で民法総則から家族法まで収録されています。基本書というより入門書に近いでしょう。民法全体を把握するのにはちょうど良い本です。
民法の基礎1(総則)第5版
著者:佐久間毅 出版:有斐閣
民法総則の基本書。基礎的なところから書かれており、読みやすく情報量も多いので、資格試験の基本書として使うには十分でしょう。
スタートアップ民法・民法総則(伊藤真試験対策講座1)
著者:伊藤塾 出版:弘文堂
いわゆる予備校本。予備校本だけあって、実際の出題傾向に沿って内容が絞られており、分かりやすくまとまっています。民法は範囲が膨大なので、学習のスタートは、予備校本から始めてもよいのではないでしょうか。


