この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
- Q不動産物権変動の対抗要件・対抗問題とは何?
- A
対抗要件とは、不動産の物権変動を第三者に認めさせる(対抗する)ために必要となる要件です。対抗要件を備えなければ、民法177条の第三者に物権変動を対抗できません。対抗関係に立つ人の優劣を決めることを対抗問題と呼んでいます。
このページでは、不動産物権変動の対抗要件・対抗問題について、わかりやすく説明します。
- 不動産物権変動の対抗要件とは何か・対抗要件の種類
- 民法177条の「第三者」の意味・要件
- 対抗問題の意味・基本ルール・趣旨
- 対抗問題になるケースや問題となる事例
- 中間省略登記や登記請求権に関する問題

- 物権変動とは
- 不動産の物権変動の対抗要件とは
- 不動産の登記、その他の対抗要件:不動産対抗要件の種類
- 民法177条の「第三者」とは
- 不動産物権変動の対抗問題とは
- 対抗要件の先後のみで対抗問題の優劣を決める理由・趣旨
- 二重譲渡以外で対抗問題となるケース
- 不動産の所有者と抵当権者
- 土地の所有者と地上権者
- 地役権者と承役地の譲受人
- 不動産の所有者と賃借人
- 土地の所有者と土地上の建物の所有者
- 不動産の所有者と差押債権者
- 共有者と共有持分の譲受人
- 詐欺被害者と第三者:詐欺取消しと第三者
- 強迫被害者と第三者:強迫取消しと第三者
- 時効取得した占有者と第三者:取得時効と第三者
- 契約解除者と第三者:契約解除と第三者
- 共同相続人と第三者:遺産共有と第三者
- 遺産分割による権利取得者と第三者:遺産分割と第三者
- 対抗問題にならない:相続放棄と第三者
- 特定受遺者と第三者:特定遺贈と第三者
- 特定受遺者と生前受贈者:同一財産の遺贈と生前贈与
- 立木のみの譲受人と土地の譲受人
- 立木所有権の留保者と土地の譲受人
- 民法177条の第三者の例外:背信的悪意者
- 中間省略登記に関する問題
- 登記請求権に関する問題
- 民法と資格試験
- 参考書籍
- 資格試験の関連過去問
物権変動とは
物権とは、物を直接に支配して利益を受けることができる排他的な権利のことです。
物権変動とは、物権が発生・変更・消滅することを意味します。物権変動は、契約だけでなく、時効や相続などによっても生じます。
この物権変動のうち物権の設定や移転は、当事者の意思表示だけで効力を生じます(意思主義。民法176条)。
例えば、当事者間で特定の土地の所有権を売買する場合、売買契約を締結すれば、登記や引渡しをしないでも土地の所有権は原則として移転します。
ただし、物権変動を第三者に主張(対抗)するには、その物権変動について「対抗要件」を備えていなければなりません。
不動産の物権変動の対抗要件とは
民法 第177条
- 不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成16年法律第123号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。
引用元:e-Gov法令検索
前記のとおり、物権変動を第三者に認めさせる(対抗する)には対抗要件が必要です。対抗要件とは、物権変動を第三者に認めさせる(対抗する)ために必要となる要件です。
不動産の物権変動の場合、対抗要件は、原則として不動産登記法その他の法律で定める「登記」です。登記を備えていなければ、第三者に物権変動を対抗できません(民法177条)。
例えば、ある土地を売買によって購入したとしても、民法177条の「第三者」に売買によって土地所有権を取得したことを主張するには、土地について所有権移転登記を備えていなければいけません。
不動産の登記、その他の対抗要件:不動産対抗要件の種類
不動産の物権変動の対抗要件は、原則として「登記」です。登記とは、一定の事実や権利関係を登記簿に記録して公開することによって、登録された事実や権利関係を広く公示する制度です。
不動産を購入した場合、時効や相続によって取得した場合などには、登記をしておくことによって、第三者に対抗できるようになります。
また、土地上の立木には、土地や建物とは異なる対抗要件があります。さらに、物権だけでなく、債権である不動産の賃借権に対抗要件が必要となることもあります。
土地・建物の対抗要件:登記
前記のとおり、不動産の代表である土地や建物の物権変動の対抗要件は、不動産登記法その他の法律で定める登記です。
土地・建物の所有権に限らず、永小作権・地上権・地役権、不動産質権・不動産に関する先取特権・抵当権なども、それぞれに応じた登記を備えなければ、第三者に対抗できません。
未登記の土地・建物
建物を建てたにもかかわらず、そもそも一切登記がされていなかった場合など、登記がされていない不動産(未登記不動産)についても、民法177条の適用があります。
そのため、未登記不動産に物権変動が生じた場合は、対抗要件を備えなければ第三者に物権変動を対抗できないと考えられています(最一小判昭和57年2月18日)。
滅失建物の登記の流用の可否
旧建物が滅失した後、同じ跡地に建物を新築することがあります。
この場合、取り壊した旧建物の登記を新築建物に流用することはできません。新築建物について改めて登記する必要があります(最三小判昭和40年5月4日)。
土地上の立木の対抗要件:立木法の登記または明認方法
土地に生えている立木(りゅうぼく)は、本来土地と一体の物ですが、立木ニ関スル法律(立木法)で定める登記または明認方法を備えれば、土地から独立した物として取引の対象にできます。
そして、この立木法の登記または明認方法は、立木の物権変動を第三者に主張するための対抗要件にもなります。
例えば、土地上の立木だけ留保して土地を譲渡した場合、土地譲受人から土地をさらに譲り受けた転得者に立木の留保を主張するには、立木法の登記や明認方法が必要です(最二小判昭和34年8月7日)。
明認方法とは
上記のとおり、立木の対抗要件は、原則として立木法の登記を備えることですが、明認方法によることも可能とされています。
明認方法とは、立木などを土地から分離したものであることを公示するための慣習上の方法です。例えば、以下のような明認方法があります。
- 対象の範囲を明示して所有者が誰かを明記した立札を立てておく
- 木の皮を削って所有者が誰かを墨書しておく(大審院昭和8年6月20日判決)
ただし、明認方法の場合は、現在の所有者が誰かが第三者からわかるような記載があれば足り、登記のように前所有者や権利取得の原因などを明示する必要はないと考えられています(大審院大正9年2月19日判決)。
明認方法が消失した場合
明認方法は、実際に第三者が確認できるものでなければ、対抗要件としての効力を発揮しません。
そのため、明認方法が何らかの原因で消失していまい、第三者が立木に関する権利関係を取得した時に存在しない場合は、対抗要件としての効力が生じません(最一小判昭和36年5月4日)。
不動産賃借権の物権化:不動産賃借権の対抗要件
不動産を賃借する権利(賃借権)は、物権ではなく債権です。しかし、地上権や地役権などとかなり似た性質の権利です。
そこで、不動産賃借権を不動産の物権を取得した第三者に対抗するには、物権と同じように、登記を備える必要があります(民法605条)。
また、借地借家法で認められる土地の賃借権(借地権)や建物の賃借権(借家権)は、登記以外の対抗要件も認められています。
- 借地権:土地上の所有建物の登記(借地借家法10条1項)
- 借家権:引渡し(借地借家法31条)
民法177条の「第三者」とは
前記のとおり、物権変動を「第三者」に対抗するには、対抗要件が必要です。物権変動を主張しようとしている人と、対抗要件を備えなければ物権変動を対抗できない民法177条の第三者の関係を「対抗関係」と呼んでいます。
この対抗関係に立つ民法177条の「第三者」とは、当事者もしくはその包括承継人以外の者であって、不動産に関する物権の得喪、変更の登記欠缺を主張する正当な利益を有する者のことを指します(大連判明治41年12月15日など)。
つまり、民法177条の「第三者」となるのは、以下の要件を充たす人です。
- 当事者もしくはその包括承継人ではないこと
- 登記など対抗要件を備えていないことを主張する正当な利益があること
要件1:当事者もしくはその包括承継人ではないこと
対抗関係に立つのは、あくまで第三者です。物権変動の当事者同士は第三者になりません。
また、当事者の包括承継人も第三者に当たりません。包括承継とは、他人の権利・義務を一括して受け継ぐことです。
代表的な人は相続人です。相続人は被相続人から相続財産に関する一切の権利義務を受け継ぐため、包括承継人に当たります。そのため、当事者の相続人に対しては、対抗要件を備えなくても物権変動を対抗できます。
例えば、BがAから不動産を購入した後に、Aが亡くなってCが相続人となった場合、Bは登記を備えていなくても、Cに不動産の所有権取得を対抗できます。
要件2:対抗要件の欠缺を主張する正当な利益があること
対抗関係に立つ第三者は、登記など対抗要件を備えていないことを主張することに正当な利益がある人でなければいけません。
相手に対抗要件を備えていないことを主張しても、自分が利益を得られるわけではない人は、第三者に該当しません。また、得られる利益が、正当なものであることも必要です。
例えば、以下の人は相手が登記を備えていないことを主張する正当な利益があるとはいえないので、民法177条の「第三者」に該当しません。
- 前主・後主関係にある人(最一小判昭和39年2月13日)
例えば、Aが所有する不動産をBに売却し、Bがその不動産をさらにCに売却した場合、AとCは直接の当事者ではないものの前主・後主であるため、対抗関係にはならず、Cは登記を備えなくても、Aに不動産の所有権取得を対抗できます。 - 実質上の無権利者(最一小判昭和34年2月12日)
例えば、Aが所有する不動産の登記名義をBが無断で自分の名義に変えてCに売却した場合、B・Cは実質上の権利を何も有していないので、Aは登記を備えてなくても、Cに不動産の所有権を対抗できます。 - 不法占有者(最三小判昭和25年12月19日)
例えば、Aが所有する不動産をBが無断で占有していた場合、Bは実質上の権利を何も有していないので、Aは登記を備えてなくても、Bに不動産の所有権を対抗できます。 - 買主の代理人であった人(東京高判昭和53年6月28日)
例えば、Cは、Aの代理人としてBから不動産を購入したが、登記がB名義のままだったのを利用してBから同じ不動産を自ら購入した場合、Aは登記を備えていなくても、Bに対して不動産の所有権取得を対抗できます。
不動産物権変動の対抗問題とは
前記のとおり、物権変動を民法177条の第三者に対抗するには、対抗要件を備えなければいけません。対抗要件を備えなければ物権変動を主張できない第三者相互の関係は、対抗関係と呼ばれます。
この対抗関係に立つ人同士のどちらの物権変動が優先されるのかを決めることを「対抗問題」といいます。
不動産の対抗問題の典型例:二重譲渡とは
不動産物権変動の対抗問題が生じる最も典型的な事例は、「二重譲渡」のケースです。二重譲渡とは、ひとつの不動産を別々の人に譲渡するケースのことです。
例えば、Aが所有する不動産をBに売却した後に、同じ不動産をCにも売却したようなケースです。
この二重譲渡の場合、譲り受けたBとCは互いに所有権取得を主張する対抗関係になります(大審院昭和9年5月1日判決)。
とはいえ、不動産の所有権はひとつです。そのため、BとCのいずれが優先されるのかを決めなければいけません。これが対抗問題です。
対抗問題の基本ルール:先に対抗要件を備えた方が勝つ
前記の二重譲渡のような対抗問題でどのように優劣をつけるのかについては、基本ルールがあります。
対抗問題の基本ルールは、「先に対抗要件(登記など)を備えた方が勝つ」です。対抗要件を先に備えた方が、物権変動を主張できます。対抗問題の優劣は、対抗要件の先後で決するのです。
例えば、前記の事例で言えば、BとCのどちらが先に所有権移転登記を備えるのかで優劣が決まります。Bが先に登記を備えればBが所有権を取得し、Cが先に登記を備えればCが所有権を取得することになります。
当事者の主観(善意・悪意)は影響しないのが原則
前記のとおり、対抗問題の基本ルールは「先に対抗要件(登記など)を備えた方が勝つ」です。
当事者の善意(事実を知らないこと)、悪意(事実を知っていること)は、関係ありません。また、事実を知らなかったことに落ち度(過失)があるか否かも影響しません。
例えば、前記の事例で言うと、Bが先に登記を備えた場合、仮にCが二重譲渡について善意無過失であったとしても、所有権を主張できるのはBになります。
あくまで、対抗要件の先後によって優劣が決まるのが原則です。
民法177条の第三者でない人との関係は対抗問題にならない
対抗問題になるのは、物権変動を主張する人が互いに民法177条の「第三者」に該当する場合(対抗関係になる場合)です。
民法177条の第三者に該当しない人に対しては、対抗要件を備えなくても物権変動を主張できるので、対抗問題にはなりません。
例えば、物権変動の当事者や前主後主関係にある人などは、対抗問題になりません。前記の例で言えば、BもCも、Aに対しては登記を備えてなくても所有権移転を主張できます。
対抗要件の先後のみで対抗問題の優劣を決める理由・趣旨
当事者の主観を問題にせず対抗要件の先後だけで対抗問題の優劣を決める理由は、「取引の安全」を図るためです。
対抗要件による公示機能
誰が権利者なのかを調べられないと、安心して不動産を取引できません。そこで、事前に権利関係を確認できるものが必要です。そのために設けられているのが、登記などの対抗要件制度です。
登記などの対抗要件が備えられていれば、不動産の取引をしようとする人は、事前に登記や物件の引き渡し状況などを調べて、権利者や権利関係を確認できます。それによって、安心して取引を進められます。
登記などの対抗要件には、物権の権利者や物権変動を社会に広く明らかにする(公示する)機能があるのです。
対抗要件には公信力がない
公信力とは、公示を信頼した第三者がいる場合、仮に公示が実体に即していないものであったとしても、公示されたとおりの法律関係を生じさせることを意味します。
上記のとおり、登記など対抗要件には公示機能はあります。しかし、わが国では、登記などの対抗要件には、公信力は認められていません。
そのため、実際には、二重譲渡など実際には公示どおりではない法律関係であった場合、公示を信頼していたからといって、公示どおりの法律関係が発生するわけではありません。
取引の安全を確保する必要が生じる
上記のとおり、登記などの対抗要件には公信力がありません。
とは言え、登記など対抗要件を信じて取引したにもかかわらず、実は公示どおりの法律関係ではなかったとして取引が覆されてしまうと、安心して不動産取引ができません。
公示が間違っていたら後で取引が簡単に覆されるようでは、リスクが大きく誰も不動産取引をしなくなってしまうでしょう。
そこで、二重譲渡のような対抗問題が生じる場合は、「先に登記など対抗要件を備えた方が勝つ」という簡明なルールにすることにより、取引の安全を確保しているのです。
理論的説明
「なぜ先に登記を備えた方が物権変動を主張できるのか」については、さまざまな理論的説明が試みられています。代表的な見解は、いわゆる「不完全物権変動説」と呼ばれる見解です(不完全物権変動説の中でもさらにさまざまな見解はあります。)。
前記の二重譲渡事例の場合、最初にAが不動産をBに売却した時点でAは所有権を失い、後に同じ不動産をAがCに売却したとしても、他人物売買にすぎず、Cが所有権を取得することはないはずです。
Cが無権利であれば、先に不動産を購入したBと対抗関係にはならず、Bは登記を備えなくてもCに所有権取得を対抗できるように思えます。そうなると、対抗問題は発生しないことになってしまいます。
では、なぜBとCが所有権を争う対抗問題になるのでしょうか?不完全物権変動説では、対抗要件を備えるまでは完全な物権変動は生じないと考えます。
事例で言えば、AはBに不動産を売却しているものの、Bが登記を備えるまでは不完全な物権変動しか発生していないので、Aにもまだ不完全な所有権が残っており、同じ不動産をCに売却することが可能と考えるのです。
そして、BとCのいずれかが登記を備えた時にはじめて完全な物権変動になり、他方の物権変動は対抗できないものとなると考えるのが、不完全物権変動説による民法177条の説明です。
二重譲渡以外で対抗問題となるケース
対抗問題が生じるのは、二重譲渡事例に限りません。
二重譲渡以外のケースでも、対抗要件を備えなければ不動産の物権変動を対抗できない「第三者」が存在する場合には、対抗関係が生じ、対抗問題となります。
以下では、二重譲渡以外に対抗問題となるケースや、対抗問題となるか否かが問題になるケースについて説明します(なお、以下のものがすべてではありません。)。
不動産の所有者と抵当権者
対抗問題となるのは、所有権同士の優劣が問題となるケースだけではありません。例えば、Aが所有する土地をBに売却した後に、Aが債権者Cのために同じ土地に抵当権を設定したようなケースです。
この場合、一見すると、権利が異なるので、所有者と抵当権者は、対抗関係に立たないように思えます。
しかし、抵当権が設定されていると所有者は完全な支配権を得られず、他方、完全な所有権が認められると抵当権は効力を失うため、所有者と抵当権者は互いに登記の欠缺を主張する正当な利益があります。
そのため、同一の不動産について所有権移転を主張する人と抵当権設定を主張する人は、対抗問題になることがあります(大審院連合部明治41年12月15日判決)。
この場合は、所有者が先に所有権保存や移転の登記を備えるか、抵当権者が先に抵当権設定登記を備えるかによって、優劣が決められます。
土地の所有者と地上権者
同一の土地の所有者と地上権者が対抗関係に立つケースもあります。
土地に地上権が設定されると、所有権は制限されます。一方、完全な所有権が認められると、地上権者は土地を利用できなくなります。そのため、土地の所有者と地上権者が対抗関係に立つことがあります。
例えば、Aが所有する土地をBに売却した後、AがCのために同じ土地に地上権を設定したケースです。
この場合は、所有者が先に所有権移転登記を備えるか、地上権者が先に地上権設定登記を備えるかによって、優劣が決められます。
地役権者と承役地の譲受人
地役権の設定も物権変動です。地役権者は、地役権の登記を備えなければ、その地役権の承役地(便益を与える側の土地)を所有者から譲り受けた第三者に対して地役権を対抗できないのが原則です。
ただし、通行地役権の場合、承役地の譲渡の際に以下の事情がある場合には、特段の事情がない限り承役地の譲受人は民法177条の第三者に当たらず、地役権者は地役権設定登記を備えてなくても地役権を対抗できると考えられています(最二小判平成10年2月13日)。
- 承役地が要役地の所有者によって継続的に通路として使用されていることがその位置、形状、構造などの物理的状況から客観的に明らかであること
- 譲受人がそのことを認識していたかまたは認識することが可能であること
不動産の所有者と賃借人
前記のとおり、不動産賃借権は、債権であるものの、第三者に対抗するには対抗要件を備えることが必要です。そのため、同一の不動産の所有者と賃借人が対抗関係に立つこともあります(大審院昭和6年3月31日判決)。
例えば、Aが所有する不動産をBに売却した後、同じ不動産をCに賃貸したケースです。
この場合、Cは、Bが所有権移転登記を備えるよりも先に、登記など賃借権の対抗要件を備えなければ、Bに対して賃借権を対抗できません。
土地の所有者と土地上の建物の所有者
土地の所有権と土地上の建物の所有権は、一見すると対抗関係に立たないように思えます。しかし、土地上に建物を建てておくには、地上権や賃借権などの土地利用権が必要です。
そうすると、前記の同一不動産の所有者と賃借人の関係と同じく、お互いに同一土地について利害関係が対立します。そのため、土地の所有者とその土地上の建物の所有者が対抗問題になるケースがあります(最三小判昭和49年3月19日)。
例えば、AがBに所有する土地を賃貸し(またはBのために地上権を設定し)、Bがその土地上に建物を建てた後、AがCに土地を売却したケースです。
この場合、Bは、土地賃借権または地上権の登記(賃借権が借地借家法の借地権である場合は、土地上の建物の所有権保存登記)を備えなければ、Cに対して賃借権を対抗できません。
他方、Cが先に所有権移転登記を備えた場合、CはBに対して建物を収去して(取り壊して)土地を明け渡すよう請求できます。
対抗問題にならない:土地所有者と土地上の建物所有者からの賃借人
上記のとおり、土地所有者と土地上の建物の所有者は、対抗問題になることがあります。一方、土地所有者と、土地上の建物所有者の「賃借人」は、対抗問題にならないと考えられています。
土地上の建物の賃貸借関係は、あくまで建物の賃貸借の当事者の問題です。土地所有者とは関わりがありません。
建物所有者からの賃借人は、そもそも土地に関して利害関係がないので、登記を備えているか否かにかかわらず、土地所有者に対して建物賃借権を対抗できません。
例えば、AがBに所有する土地を賃貸し(またはBのために地上権を設定し)、Bがその土地上に建物を建てた上でCにその建物を賃貸した後、AがDに土地を売却したケースの場合、BとDは対抗関係に立つものの、CとDはそもそも対抗問題になりません。
この場合、Cは、登記を備えているか否かにかかわらず、Dに対して建物賃借権を対抗することはできません。
対抗問題にならない:土地所有者と無権利の建物名義人
正当な権利者と、単に登記名義を移しているだけの無権利者とは対抗問題になりません。土地の所有者は、実質的な所有権はなくただ建物の名義をもっているだけの人に対しては、登記がなくても土地所有権を対抗できます。
そのため、建物名義人が土地を利用している場合、土地所有者は建物名義人に対して、土地を利用しないよう請求することは可能です。
ただし、土地所有者は、所有権のない建物登記の名義人に建物を収去して土地を明け渡すよう請求することはできません(最一小判昭和47年12月7日)。
これは、土地所有者が建物名義人に権利を対抗できないからではありません。所有権のない建物名義人には建物を収去する権限がないため、請求する意味がないからです。
不動産の所有者と差押債権者
前記のとおり、不動産の所有者と、その不動産に抵当権を設定した抵当権者は、対抗問題になるケースがあります。
一方、不動産に抵当権などの担保権を設定していない一般債権者は、不動産に直接の利害関係がないので、不動産所有者と対抗問題になりません。
ただし、一般債権者が、不動産を差し押さえた場合は、その不動産に直接の利害関係を持つことになります。そのため、不動産の所有者とその不動産を差し押さえた一般債権者(差押債権者)は、対抗問題になるケースがあります(大審院明治40年7月30日判決)。
例えば、Aが所有する不動産をBに売却した後、その不動産をAの一般債権者Cが差し押さえたケースでは、BとCは対抗関係に立ちます。
この場合は、Bが先に所有権移転登記を備えれば差押えは効力を失い、Cが先に差押えの登記を備えれば差押えをBに対抗できます。
対抗問題にならない:不動産の所有者と差押えしていない一般債権者
上記のとおり、まだ差押えの手続をしていない一般債権者と不動産の所有者は、対抗関係に立ちません。一般債権者は、不動産に直接の利害関係を持っていないからです。
そのため、不動産の所有者は、登記を備えていなくても一般債権者に所有権を対抗できます。
共有者と共有持分の譲受人
共有とは、ひとつの物を複数人が所有することです。各共有者は、それぞれの持分に応じて物の権利を有します。また、各共有者は、自分の共有持分を第三者に譲渡できます。
この共有持分が譲渡された場合、他の共有者(譲渡した共有者以外の共有者)と持分譲受人の関係は、対抗関係になります(最二小判昭和46年6月18日)。
そのため、共有持分の譲受人は、譲り受けた財産について対抗要件を備えなければ、他の共有者に持分の取得を対抗できません。
例えば、共有物の分割を行う場合、譲受人が持分取得を対抗できないときは、共有者全員に対する関係でなお持分がもとの共有者のもとにあるものとして分割手続が行われます。
詐欺被害者と第三者:詐欺取消しと第三者
詐欺による意思表示は、取消しが可能です。取り消されると、意思表示ははじめからなかったことになります(遡及効。民法96条1項)。
この詐欺取消しの事例では、詐欺被害者と取り消される意思表示を前提として法律関係に入った第三者のどちらが優先されるのかが問題となります。
この詐欺取消しと第三者の問題は、第三者がいつ法律関係を持ったのかによって、扱いが異なります。
対抗問題にならない:詐欺取消し前の第三者
民法 第96条
- 第3項 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。
引用元:e-Gov法令検索
例えば、AがBに騙されて所有する不動産をBに売却し、Bがその不動産をCに売却した後、Aが詐欺を理由にAB間の売買契約を取り消したようなケースです。
本来、詐欺取消しされると、意思表示は始めからなかったことになります。そのため、被害者から詐欺行為者への譲渡が取り消されれば詐欺行為者は無権利者となり、詐欺行為者からの譲受人も無権利になるのが原則です。
しかし、取引した後に「実は詐欺だったので取り消す」と言われて取引を覆されてしまうのでは、リスクが大きく誰も取引をしなくなったしまいます。
そこで、民法96条3項は、善意(詐欺の事実を知らない)無過失(詐欺の事実を知らないことに落ち度がない)の第三者に対しては、詐欺取消しを主張できないとしています。
そのため、詐欺被害者と詐欺取消し前の第三者は、対抗問題ではなく、第三者が善意無過失か否かによって優劣が決まります。
詐欺取消し後の第三者
上記の詐欺取消し前の第三者と違い、詐欺取消し後に現れた第三者と被害者の関係は、対抗問題として優劣が決められます。つまり、対抗要件を先に備えた方が勝つのです。
例えば、AがBに騙されて所有する不動産をBに売却したものの、AがAB間の売買契約を詐欺を理由に取り消した後、BがCに不動産を売却したようなケースです。
この詐欺取消しによって不動産の所有権が被害者に戻るのも物権変動(復帰的物権変動)であるため、この復帰的物権変動と詐欺取消し後の第三者への物権変動は、詐欺行為者を起点としてあたかも二重譲渡のような形になります。
そのため、詐欺被害者と詐欺取消し後の第三者は対抗関係に立ち、被害者であっても対抗要件を備えなければ取消しによる物権の復帰を対抗できないと考えられています。
強迫被害者と第三者:強迫取消しと第三者
強迫による意思表示も取消しが可能です。取り消されると、意思表示ははじめからなかったことになります(遡及効。民法96条1項)。
この強迫取消しの事例でも、強迫被害者と取り消される意思表示を前提として法律関係に入った第三者のどちらが優先されるのかが問題となります。
対抗問題にならない:強迫取消し前の第三者
例えば、AがBに脅されて所有する不動産をBに売却し、Bがその不動産をCに売却した後、Aが強迫を理由にAB間の売買契約を取り消したようなケースです。
強迫取消しの場合、詐欺取消しと違って、第三者保護規定がありません(前記の民法96条3項では、「詐欺による意思表示の取消し」しか定められていません。)。第三者が善意無過失であっても保護されません。
また、第三者は意思表示が取り消されている前に取引をしているため、対抗問題にもなりません。
そのため、被害者は、登記を備えていなくても、第三者が善意無過失であっても、第三者に対して強迫取消しによる所有権の復帰を対抗できます。
強迫取消し後の第三者
例えば、AがBに脅されて所有する不動産をBに売却したものの、AがAB間の売買契約を強迫を理由に取り消した後、BがCに不動産を売却したようなケースです。
強迫取消し後の第三者が現れた場合は、前記の詐欺取消し後の第三者と同じく、対抗問題になると考えられています(大審院昭和17年9月30日判決)。上記事例で言えば、AとCは対抗問題として優劣が決められます。
そのため、強迫の被害者であっても、対抗要件を備えなければ、強迫取消し後の第三者に対して、取消しによる物権の復帰を対抗できません。
時効取得した占有者と第三者:取得時効と第三者
取得時効とは、一定期間の占有や権利行使の継続によって、権利を取得できる制度です。不動産の所有権などの権利も、時効取得する場合があります(民法162条、163条)。
この取得時効が成立すると、時効期間のはじめにさかのぼって、占有者・権利行使者が権利を取得します(民法144条)。
この取得時効によって権利を取得した人と元の権利者(原権利者)は、物権変動の当事者です。そのため、時効取得者は、対抗要件を備えなくても、原権利者に対して時効による権利の取得を対抗できます(大審院大正7年3月2日判決)。
一方、第三者が現れた場合は、時効による権利取得者と時効によって消滅する権利を前提として法律関係に入った第三者のどちらが優先されるのかが問題となります。
対抗問題にならない:取得時効完成前の第三者
時効取得者と法律関係を持った人が、当事者関係に立つのか、民法177条の第三者として対抗関係に立つのかは、取得時効が完成した時を基準に判断します。
第三者が現れたのが取得時効完成前であったとしても、時効完成時点で時効取得者と第三者は当事者関係になっています。そのため、時効取得者と時効完成前の第三者は、対抗問題になりません(最一小判昭和33年8月28日、最一小判昭和35年7月27日、最一小判昭和36年7月20日、最三小判昭和41年11月22日など)。
例えば、Aが所有する不動産をBに売却した後、時効が完成してCが不動産を取得した場合、時効取得者Cは、対抗要件を備えなくても、時効完成前の第三者Bに対して時効取得を対抗できます。
取得時効完成後の第三者
上記の取得時効完成前の第三者と違い、時効完成後に現れた第三者と時効取得者は、対抗問題になります(前掲最一小判昭和33年8月28日、最一小判昭和35年7月27日、最一小判昭和36年7月20日、最三小判昭和41年11月22日など)。
例えば、Aが所有する不動産についてCの取得時効が完成した後に、Aが不動産をBに売却したようなケースです。
時効によって原権利者の権利が失われて占有者が権利を取得するのも、物権変動です。売買とは違いますが、権利が原権利者から占有者に移っているのと似ています。
この時効による物権変動と時効完成後の第三者への物権変動は、原権利者を起点としてあたかも二重譲渡のような形になります。
そのため、占有者と時効完成後の第三者は対抗関係に立ち、占有者は対抗要件を備えなければ、第三者に対して時効取得を対抗できないと考えられています。
再度の時効取得と第三者の関係
上記のとおり、時効取得者と時効完成後の第三者は対抗問題となります。先に対抗要件を備えたのが第三者であった場合、第三者が確定的に権利を取得し、時効取得者は時効取得を主張できません。
ただし、第三者が先に登記を備えた場合でも、占有者が、第三者による登記日から占有を継続して再度時効期間を経過した場合は、対抗要件を備えなくても、第三者に時効取得を対抗できるようになります(前掲最一小判昭和33年8月28日、最一小判昭和35年7月27日、最一小判昭和36年7月20日、最三小判昭和41年11月22日、最二小判平成24年3月16日など)。
再度の時効取得時を基準にすると、時効取得者と第三者は、物権変動の当事者関係になっているからです。
時効完成前の第三者が時効完成後に登記を備えた場合
前記のとおり、時効取得者は対抗要件を備えなくても、時効完成前の第三者に対して時効取得をし対抗できます。これは、第三者がいつ対抗要件を備えたのかは関係ありません。
時効完成前に権利を取得した第三者である限り、対抗要件を備えたのが時効完成後であっても、時効取得者は、対抗要件を備えていなくても時効取得を対抗できます(最二小判昭和42年7月21日)。
契約解除者と第三者:契約解除と第三者
契約解除とは、当事者の一方が契約を解消させることです。契約が解除されると、契約締結時にさかのぼって契約はなかったことになります(遡及効。民法545条)。
契約が解除の事例では、解除した人と解除された契約を前提として法律関係に入った第三者のどちらが優先されるのかが問題となります。
この契約解除と第三者の問題でも、第三者がいつ法律関係を持ったのかによって、扱いが異なります。
契約解除前の第三者
民法 第545条
- 第1項 当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない。
引用元:e-Gov法令検索
本来、解除されると、契約は始めからなかったことになります。しかし、取引した後に「契約は解除されたので権利はなくなった」と言われて取引を覆されてしまうのでは、リスクが大きく誰も取引をしなくなってしまいます。
そこで、民法545条1項ただし書きは、契約解除前に法律関係を有することになった第三者の権利を害することはできないと定めています。
「第三者の権利を害することはできない」とは、解除前の第三者に対しては遡及効が制限され、「解除によって契約ははじめからなくなった」ことを主張できなくなることを意味します。
ただし、解除前の第三者が民法545条1項ただし書きの保護を受けるには、対抗要件を備えていることが必要と考えられています。
そのため、解除者と解除前の第三者は、対抗問題のような関係になり、対抗要件を先に備えた方が権利を主張できることになります(最一小判昭和33年6月14日)。
なお、判例は、この解除者と第三者の関係を対抗問題と捉えていると考えられていますが、学説では、あくまで権利保護要件としての登記が必要とされているのであって、対抗問題そのものではないと考えるのが一般的です。
契約解除後の第三者
契約解除後の第三者と解除者の関係は、判例でも学説でも、対抗問題になると考えられています。
例えば、AがBに所有する不動産を売却し、Bがその不動産をCに売却した後、AがAB間の売買契約を解除したようなケースです。
契約解除によって解除者に権利が復帰するのも物権変動(復帰的物権変動)であるため、この復帰的物権変動と契約解除後の第三者への物権変動は、解除の相手方を起点としてあたかも二重譲渡のような形になります。
そのため、解除者と解除後の第三者は対抗関係に立ち、解除者は対抗要件を備えなければ、第三者に対して契約解除による権利の復帰を対抗できないと考えられています(最三小判昭和35年11月29日)。
共同相続人と第三者:遺産共有と第三者
相続人が複数人いる共同相続の場合、相続財産は原則として共同相続人の共有になります(遺産共有。民法898条1項)。各共同相続人の持分は、それぞれの相続分に応じて決められます(民法898条2項)。
この共同相続において、共同相続人の一部が自分の持分を超える部分も含めて相続財産を第三者などに譲渡してしまった場合に、他の共同相続人はそれぞれ自分の持分を第三者に主張できるのかが問題となります。
対抗問題にならない:法定相続分に相当する部分
例えば、被相続人の妻(法定相続分2分の1)、長男(法定相続分4分の1)、次男(法定相続分4分の1)が相続人の場合に、長男が相続財産である不動産の全部を勝手に第三者に売却してしまったようなケースです。
この場合、各共同相続人は、自分の法定相続分に相当する部分については、対抗要件を備えていなくても第三者に権利を対抗できます(民法899条の2第1項)。
上記の事例で言うと、妻は第三者に自分の持分2分の1を、次男は第三者に自分の持分4分の1を主張できます。
なお、民法改正前の判例(最二小判昭和38年2月22日)では、法定相続分であるか否かにかかわらず、各共同相続人は自分の持分を登記がなくても第三者に対抗できるとされていました。
しかし、民法899条の2第1項が新設されて、登記がなくても対抗できる範囲は法定相続分に限定されることになっています。
法定相続分を超える部分
上記のとおり、各共同相続人は、自分の法定相続分に相当する部分については対抗要件を備えてなくても第三者に権利を対抗できます。
ただし、各共同相続人は、自分の法定相続分を超える部分については、対抗要件を備えていなければ第三者に権利を主張できません(民法899条の2第1項)。
例えば、前記の事例で、妻の相続分を100%に指定する遺言があった場合でも、妻は、対抗要件(相続登記)を備えていなければ、自分の法定相続分(2分の1)を超える部分を第三者に対抗できません。
遺産分割による権利取得者と第三者:遺産分割と第三者
遺産分割とは、相続人が複数人いる共同相続の場合に、共同相続人間で共有になっている相続財産の具体的な帰属を確定させるための手続です(民法906条)。
遺産分割が完了すると、決められた内容のとおり相続財産の帰属が確定し、その効力は相続開始の時にさかのぼって発生します(民法909条)。
この遺産分割に基づく法律関係を基礎として取引をした第三者がいる場合、相続人と第三者の関係をどのように考えるかが問題となります。
法定相続分の範囲内については対抗問題にならない
遺産分割において第三者との関係が問題となるのは、各共同相続人の法定相続分を超える部分です。
前記のとおり、各共同相続人は、法定相続分の範囲内の部分については、対抗要件などがなくても、第三者に遺産分割による権利の取得を対抗できます(民法899条の2第1項)。
遺産分割前の第三者
民法 第909条
- 遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。
引用元:e-Gov法令検索
遺産分割をすると、相続開始時にさかのぼって効力を発生します。そのため、遺産分割する前の共有状態の時に取引をしても、遺産分割によって遺産の取得者が変わっていることもあります。
そこで、民法909条ただし書きは、遺産分割する前に相続財産について法律関係を有することになった第三者の権利を害することはできないと定めています。
「第三者の権利を害することはできない」とは、遺産分割前の第三者に対しては遡及効が制限され、「遺産分割によって相続財産の帰属が変わった」ことを主張できなくなることを意味します。
ただし、遺産分割前の第三者が民法909条ただし書きの保護を受けるには、対抗要件を備えていることが必要と考えられています。
そのため、相続人と遺産分割前の第三者は、法定相続分を超える部分については対抗問題のような関係になり、対抗要件を先に備えた方が権利を主張できることになります(最一小判昭和33年6月14日)。
なお、前記のとおり、法定相続分に相当する部分については対抗問題になりません。相続人は、法定相続分に相当する部分については、対抗要件を備えていなくても、遺産分割前の第三者に権利を主張できます。
遺産分割後の第三者
遺産分割した後に現れた第三者と共同相続人の関係は、対抗問題となります。
例えば、被相続人の妻(法定相続分2分の1)、長男(法定相続分4分の1)、次男(法定相続分4分の1)が遺産分割で相続財産である不動産を妻の単独所有に決めた後に、長男が不動産全部を第三者に売却してしまったようなケースです。
このような場合、遺産分割によって共有財産が相続人の一部に帰属する物権変動と、遺産分割後の第三者への物権変動は、相続財産を処分した相続人を起点としてあたかも二重譲渡のような形になります。
そのため、遺産分割により権利を取得した相続人と遺産分割後の第三者は対抗関係に立ち、相続人は対抗要件を備えなければ、第三者に対して遺産分割による権利の取得を対抗できないと考えられています(最三小判昭和46年1月26日)。
対抗問題にならない:相続放棄と第三者
相続放棄とは、相続財産を受け継がない旨の意思表示です。家庭裁判所で相続放棄をすると、放棄者は、相続開始時にさかのぼって相続人ではなかったことになります。
この相続放棄の遡及効には、第三者保護規定はなく、絶対的なものです。遺産分割のように、対抗要件を備えたからといって、第三者が保護されることはありません。
また、相続放棄した後に放棄者が対抗要件を備えることも考えられないため、対抗問題と考えることもできません。
※なお、放棄する人が対抗要件を備えてしまうと、相続放棄できなくなり、すでにした相続放棄も効力がなくなります。
そのため、相続放棄前であっても相続放棄後であっても、第三者は保護されず、対抗問題になることもありません。放棄者は、常に第三者に対して相続放棄したことを対抗できます(最二小判昭和42年1月20日)。
特定受遺者と第三者:特定遺贈と第三者
遺贈とは、遺言で相続人や第三者に相続財産を贈与することです。この遺贈には、包括遺贈と特定遺贈があります。このうち、特定遺贈とは、特定の財産を遺贈することです。
特定の財産を遺贈する旨の遺言がある場合、対象の財産は、相続開始時に、遺贈によって相続財産を譲り受けた人(受遺者)に承継されます。
この特定受遺者と第三者の優劣が問題となるケースもあります。例えば、Aが亡くなり、遺贈で相続人でないBに不動産が遺贈された場合に、他の相続人が勝手に不動産を第三者に譲渡してしまったようなケースです。
この場合、特定遺贈を受けた人(特定受遺者)と第三者は、対抗問題となり、先に対抗要件を備えた方が勝ちます。
なお、受遺者が相続人であった場合は、法定相続分に相当する部分については対抗要件を備えなくても第三者に対抗できますが、法定相続分を超える部分については対抗要件がなければ第三者に対抗できません(最二小判昭和39年3月6日)。
特定受遺者と生前受贈者:同一財産の遺贈と生前贈与
被相続人が生前に贈与をしていたにもかかわらず、同じ財産を別の人に特定遺贈していた場合、贈与を受けた人(受贈者)と受遺者も、対抗問題になります(最三小判昭和46年11月16日)。
例えば、Aが生前にBに所有する不動産を贈与していたところ、Aが遺言でBに不動産を遺贈していたケースです。
立木のみの譲受人と土地の譲受人
前記のとおり、土地上の立木は、本来土地と一体の物ですが、立木法の登記または明認方法を備えることによって土地から独立した財産として取引の対象にできます。
そして、立木を独立の物として取引したことによる物権変動を第三者に対抗するためにも、立木法の登記または明認方法を備えることが必要です。
そのため、立木のみの所有権を取得した人と土地全体の所有権を取得した人との関係は対抗問題となり、先に対抗要件を備えた方が物権変動を対抗できることになります(大審院大正10年4月14日判決、最二小判昭和30年9月23日)。
立木所有権の留保者と土地の譲受人
立木の所有権を移転した場合だけでなく、立木を含む土地の所有者が立木のみ自分の所有物として留保した上で土地を譲り渡し、その譲受人がさらに第三者に立木を含むものとして土地を譲り渡した場合も、対抗問題が発生します。
例えば、Aが立木のみ自分の所有物として留保した上で、土地のみをBに売却した後、Bが立木を含めて土地全部をCに売却した場合です。
この場合、本来立木は土地と一体の物であるため、土地と切り離して立木のみ留保することも物権変更の一種と考えられています。
そのため、立木を留保した所有者と土地譲受人は対抗問題となり、立木を留保した所有者は、立木法の登記または明認方法を備えなければ、土地全部の譲受人に対して立木の留保所有権を対抗できません(最二小判昭和34年8月7日、最三小判昭和35年3月1日)。
民法177条の第三者の例外:背信的悪意者
前記のとおり、民法177条の第三者が存在する場合は対抗問題が生じます。そして、対抗問題は、当事者の主観に関係なく、対抗要件の先後によって決するのが原則です。
とは言え、単なる悪意(事実を知っている)を超えるような背信的意図を持つ人まで保護すると、かえって取引の安全を害します。
そこで、「背信的悪意者」は民法177条の第三者に該当せず、背信的悪意者に対しては、対抗要件を備えていなくても物権変動を対抗できると考えられています(最三小判昭和31年4月24日、最三小判昭和40年12月21日、最二小判昭和43年8月2日、最二小判昭和43年11月15日など)。
背信的悪意者とは
背信的悪意者とは、単なる悪意(事実を知っている)だけでなく、信義に反する意図を持っている人のことです。
例えば、Aは、BがCから不動産を譲り受けたことを知りながら、Bが所有権移転登記を備えていないことを奇貨として、Bに高値で売りつけようと考え、Cから同じ不動産を譲り受けて登記を備えたようなケースです。
上記のケースでは、Aは背信的悪意者となり、民法177条の第三者に該当しません。
背信的悪意者がいる場合の対抗問題
例えば、前記の事例の場合、対抗問題の基本ルールでは、登記を備えているAが所有権を確定的に取得し、BはAに所有権を主張できないはずです。
しかし、Aは背信的悪意者です。背信的悪意者は民法177条の第三者に該当しないので、対抗関係にはなりません。権利者は、対抗要件を備えなくても、背信的悪意者には権利を対抗できます。
そのため、Aは登記を備えていてもBに所有権を対抗できず、他方、Bは登記を備えていなくてもAに所有権を対抗できます。具体的には、Bは、Aに対して不動産の所有権移転登記の抹消を請求できます。
転得者が背信的悪意者であるケース
例えば、前記の事例で、Bが背信的悪意はないDに不動産を転売したようなケースでは、権利者と背信的悪意者からの転得者の関係が問題となります。
この場合、AとBは対抗関係に立ちますが、Bが背信的悪意者であるため、AはBに対しては登記を備えていなくても権利を対抗できます。そうすると、背信的悪意者であるBからの転得者であるDにも、登記を備えなくても権利を対抗できるように思えます。
しかし、背信的悪意者に対しては対抗要件を備えていなくても権利を主張できるからといって、背信的悪意者と転得者の譲渡が無効になるわけはないので、転得者は無権利者ではありません。
また、背信的悪意者論の根拠は信義則違反にあるため、民法177条の第三者から排除されるか否かは、人ごとに相対的に判断する必要があります。
そこで、背信的悪意者からの転得者であっても、その転得者自身が背信的悪意者でない限りは民法177条の第三者に該当し、権利者と転得者は対抗問題となると考えられています(最三小判平成8年10月29日)。
上記の事例で言えば、Aは、背信的悪意者でないDに対しては登記を備えなければ不動産の所有権を対抗できないことになります。
中間省略登記に関する問題
中間省略登記とは、例えば、AがBに所有する不動産を譲渡し、Bがその不動産をCに譲渡した場合に、AからBへの所有権移転登記を省略して、AからCに直接所有権移転登記をすることです。
かつては、登記の費用や手続の手間を省けるメリットがあったため、中間省略登記が行われることがありました。
しかし、中間省略登記は物権変動の実体を正確に公示するものではないため、現在では、不動産登記法の改正によって、中間省略登記の手続は事実上できなくなっています。
かつての中間省略登記
上記のとおり、不動産登記法の改正前は、中間省略登記が行われることもありました。そのため、以下のような論点が存在していました。
- 中間省略登記の要件
中間省略登記をするには、中間者も含めた全員の合意が必要。全員の合意なしに中間省略登記を請求することはできない(大審院大正5年9月12日判決)。前記の例で言えば、ABC全員の合意がなければ中間省略登記はできない。 - 現所有者による中間省略登記の請求
現在の所有者であっても、中間者よりも前の所有者に対して直接所有権移転登記するよう請求できない(最三小判昭和40年9月21日、最一小判平成22年12月16日)。前記の例で言えば、ABCの合意がない限り、CはAに所有権移転登記を請求できない。 - 中間者による中間省略登記の抹消請求
中間者の同意なく中間省略登記がされた場合でも、中間者は、中間省略登記の抹消を求める法律上の利益がない限り、現所有者に対して中間省略登記の抹消を請求できない(最一小判昭和35年4月21日)。前記の例で言えば、Bは、Aからまだ代金を支払ってもらっていないなど法律上の利益がある場合でない限り、Cに対して中間省略登記の抹消を請求できない。 - 第三者による中間省略登記の抹消請求
中間者の同意なく中間省略登記がされた場合でも、第三者は、中間省略登記の抹消を請求できない(最二小判昭和44年5月2日)。
現在の不動産登記実務の運用
前記のとおり、現在では、不動産登記法の改正によって中間省略登記は事実上できなくなっています。そこで、中間省略登記に代わる方法として、以下のような方法がとられています。
- 第三者のためにする契約を利用する方法
例えば、AB間で「BがAに代金を支払う代わりに所有権をCに移転する」旨の第三者のためにする契約を締結し、CがBに代金を支払って受益の意思表示をする。 - 買主である地位の譲渡による方法
例えば、AB間で売買契約をした後、ABC間で、Bの買主としての地位をCに譲渡する旨の契約を締結する。
これらの方法は、「新中間省略登記」と呼ばれることがあります。なお、これらの方法は、実体的にもAからCへと所有権が移転しているので、厳密に言うと、中間省略登記そのものではありません。
登記請求権に関する問題
不動産物権変動の対抗要件は、原則として「登記」です。
例えば、不動産の売買契約の場合、売主は買主に登記を備えさせる法的義務を負うため、買主は売主に対して所有権移転登記手続をするよう請求できる権利を取得します(民法560条)。
この登記請求権に関してもさまざまな論点があります。
中間者の所有権移転登記請求権
不動産が転々譲渡された場合、中間者は、不動産を譲渡した後でも買主としての所有権移転登記請求権を失わないと考えられています(大審院大正5年4月1日判決)。
例えば、AがBに所有する不動産を売却し、その不動産をBがCに売却したものの、不動産の登記名義はまだAのままになっているようなケースです。
この場合、Cに不動産を譲渡した後でも、Bは買主としてAに対して所有権移転登記を請求できます。
物権変動の原因が無効である場合の登記抹消請求権
例えば、不動産がA→B→Cと転々譲渡され、順次所有権移転登記が備えられた後に、AB間の売買契約もBC間の売買契約も無効であると判明した場合、不動産の所有権はAに戻ります。
そのため、所有者に戻ったAは、物権的請求権を行使して、BとCに対して所有権移転登記の抹消を請求できます。
また、すでにBは所有権も売主の地位も失っているはずですが、真実に合致しない登記を是正するため、BもCに対して所有権移転登記の抹消を請求できると考えられています(最二小判昭和36年4月28日)。
不実登記の引取り請求
前記のとおり、登記が真実に合致していない場合、登記の当事者には、真実に合致する登記をするよう他の当事者に請求できます。
例えば、AがBに所有する不動産を売却して、Bが所有権移転登記を備えた後、Aの債務不履行を理由にBが売買契約を解除した場合、BはAに対して所有権移転登記の抹消登記手続をするよう請求できます(最二小判昭和36年11月24日)。
登記が不正な方法で抹消された場合
登記は公示のための制度です。抹消されれば公示としての機能がなくなるため、対抗要件としての効力もなくなります。
ただし、対抗要件としての効力が失われるのは、法律上消滅事由がある場合です。正当な法的手続ではなく、不正な方法によって登記が抹消された場合には、対抗要件としての効力は失われないと考えられています(最二小判昭和36年6月16日)。
そのため、不正な方法で登記が抹消されていても、権利者は第三者に権利を対抗でき、第三者に対して回復登記に必要な手続に承諾するよう請求できます。
登記が過誤によって抹消された場合
上記のとおり、不正な方法によって登記が抹消された場合は、対抗要件としての効力は失われません。
一方、不正でなく、手続や事務処理のミスなどの過誤によって登記が抹消された場合は、対抗要件としての効力が失われると考えられています(最二小判昭和42年9月1日)。
この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
この記事が参考になれば幸いです。
民法と資格試験
民法は、私法の基本法です。我々の生活に最も身近な法律です。
そのため、例えば、司法試験(本試験)、司法試験予備試験、司法書士試験、行政書士試験、宅建試験、マンション管理士試験・・・など、実に多くの資格試験の試験科目になっています。
これら法律系資格の合格を目指すなら、民法を攻略することは必須条件です。
とは言え、民法は範囲も膨大です。メリハリを付けないと、いくら時間があっても合格にはたどり着けません。効率的に試験対策をするには、予備校や通信講座などを利用するのもひとつの方法でしょう。
STUDYing(スタディング)
・司法試験・予備試験も対応
・スマホ・PC・タブレットで学べるオンライン講座
・有料受講者数20万人以上・低価格を実現
参考書籍
本サイトでも民法について解説していますが、より深く知りたい方や資格試験勉強中の方のために、民法の参考書籍を紹介します。
新訂物権法(民法講義Ⅱ)
著者:我妻榮 出版:岩波書店
民法の神様が書いた古典的名著。古い本なので、実務や受験にすぐ使えるわけではありませんが、民法を勉強するのであれば、いつかは必ず読んでおいた方がよい本です。ちなみに、我妻先生の著書として、入門書である「民法案内3 物権法(上)」「民法案内4 物権法(下)」や「楽天で購入」などもありますが、いずれも良著です。
我妻・有泉コンメンタール民法(第8版)
著書:我妻榮ほか 出版:日本評論社
財産法についての逐条解説書。現在も改訂されています。家族法がないのが残念ですが、1冊で財産法全体についてかなりカバーできます。辞書代わりに持っていると便利です。
司法試験・予備試験など資格試験向けの参考書籍としては、以下のものがあります。
民法(全)(第3版補訂版)
著者:潮見佳男 出版:有斐閣
1冊で民法総則から家族法まで収録されています。基本書というより入門書に近いでしょう。民法全体を把握するのにはちょうど良い本です。
民法の基礎2(物権)第3版
著者:佐久間毅 出版:有斐閣
定番の基本書のひとつ。「基礎」となっているものの初学者が使うにはややレベルが高いかもしれません。判例・通説ベースなので使いやすいです。
物権法(伊藤真試験対策講座2)第4版
著者:伊藤塾 出版:弘文堂
いわゆる予備校本。予備校本だけあって、実際の出題傾向に沿って内容が絞られており、分かりやすくまとまっています。民法は範囲が膨大なので、学習のスタートは、予備校本から始めてもよいのではないでしょうか。
資格試験の関連過去問
このページで確認した知識で、「不動産物権変動の対抗要件」に関連する資格試験の過去問を解いてみましょう。



