
借金問題の法的な解決方法の総称を「債務整理」と呼んでいます。この債務整理の具体的な手続としては,任意整理・自己破産・個人再生などがあります。
債務整理に共通するメリットは,借金返済を軽減または免除できるという点です。他方,債務整理をすると,信用情報に事故情報(ブラックリスト)として登録され,新たな借入れ等が非常に難しくなるというデメリットもあります。
これだけではなく,個々の債務整理手続ごとに異なるメリットやデメリットがあります。したがって,それらを踏まえた上で個々の事情に合わせて最も最適な債務整理の方法を選択する必要があります。
債務整理とは
借金返済の問題は法的な解決が可能です。特に個人の方の借金問題解決の法的手段のことをまとめて「債務整理(さいむせいり)」と呼んでいます。
債務とは,特定の人に対して何らかの行為をしなければならない法的な義務のことをいいます。
借金をするということは,借金を返すという行為をしなければならない義務を負うということですから,これもやはり債務です。
この借金債務を,通常の日常生活を維持したまま支払いが可能となるように,または,支払いを免除してもらえるように,整理していくことを債務整理というのです。
債務整理の方法
債務整理にはいろいろな方法があります。
債務整理の主な方法は「自己破産」「個人再生」「任意整理」の3種類です。払い過ぎた金銭を返してもらう「過払金返還請求」も債務整理の一種と言えるかもしれません。
また,これらの他にも,事情によっては,消滅時効の援用や相続放棄・限定承認などによって債務整理をすることもあります。
任意整理
任意整理とは、弁護士等に依頼をして、その弁護士等が債務者に代わって債権者と交渉し,長期の分割払いや利息のカットなどによって,生活を立て直せる程度の返済条件にしてもらうという手続です。
裁判外の手続であるため,自己破産や個人再生などのような強制力がないというデメリットがある反面,自己破産や個人再生にあるような法的制限が少ないというメリットを持っています。
自己破産
自己破産とは,自由財産を除く財産を換価処分して債権者に配当する代わりに,それでも支払いきれない借金の支払い義務を免除(免責)してもらうという裁判手続です。
自己破産は,一定の財産を処分しなければならず,資格の制限や居住の制限などのデメリットもありますが,借金の支払い義務がすべて免除されるという非常に大きなメリットがあります。
個人再生
個人再生とは,借金総額を大幅に減額(最大で10分の1まで減額可能な場合もあります。)してもらった上で,それを3年から5年の分割払いにするという再生計画を裁判所に認可してもらう裁判手続です。
利用の要件や手続が自己破産よりも複雑であるというデメリットはあります。また,自己破産と異なり,返済をしていかなければなりません。
しかし,その代わりに財産の処分をしなくてもよいものとされており,資格制限などの制約もありません。また,住宅資金特別条項という制度を利用すれば,住宅ローンの残っている自宅を処分せずに,住宅ローン以外の借金を整理することも可能となります。
過払金返還請求
利息制限法所定の制限利率を超える利率の利息を支払い続けていた場合,支払い過ぎになっている分を「過払い金」として返してもらえることがあります。
この過払金返還請求も,回収した過払い金を他の借金に充てるなどして借金の整理を行うことができますし,生活費に充てるなど経済的更生にも役立ちますから,その面からいえば,債務整理の方法の1つといってよいでしょう。
その他債務整理に利用できる制度
上記の4つの方法以外にも,債務整理に利用できる方法があります。
例えば,裁判所の特定調停を利用する方法や,消滅時効を援用する方法,相続放棄や限定承認を利用する方法なども,借金整理に有用となる場合がありますので,債務整理の方法といってよいでしょう。
債務整理に共通するメリット
前記のとおり,債務整理には各種の方法がありますが,これら債務整理手続に共通するメリットがあります。
それは,言うまでもなく,借金の返済を軽減または免除してもらえるということです。それにより,借金返済に苦しむ生活から解放され,生活を立て直していくことが可能となります。
また、弁護士等に依頼して債務整理をする場合、弁護士等が各債権者に受任通知(介入通知)を送付します。これにより、返済を一時停止させるとともに、貸金業者や債権回収会社からの直接の取立てを停止させることができます。
直接の取立てが停止することにより,債務整理の準備を進めることができるだけでなく,平穏な生活を早い段階で取り戻すことができます。
債務整理に共通するデメリット
債務整理をすることにより,借金の返済を軽減または免除してもらうことができます。
しかし,債務整理の手続は,率直に言えば,債権者にある程度は泣いてもらう手続です。一方的に債務者にのみ有利であるというので公平に反します。そのため,デメリットも生じます。
債務整理に共通するデメリットは,やはり,債務整理をすることにより,信用情報に事故情報として登録されるという点でしょう。いわゆる「ブラックリスト」に登録されるということです。
ブラックリストに登録されると,少なくとも5年以上は,新たに借入れをしたり,ローンを組んだり,または保証人になることが非常に難しくなります。
債務整理の各手続の選択
前記のとおり,債務整理には共通するメリット・デメリットがあります。
それだけでなく,自己破産・個人再生・任意整理などの各種の手続は,それぞれ利用条件が異なりますし,また,それぞれに異なるメリットとデメリットがあります。
例えば,自己破産であれば,借金を全額免責してもらえるという強力なメリットがある反面,一定の財産を処分されてしまうことや資格の制限があるなどのデメリットがあります。
個人再生は,自己破産のように財産の処分は必須でなく,住宅ローンの残る自宅を維持したまま債務を大幅に減額してもらえるというメリットがありますが,自己破産よりも利用の要件が厳しく,誰でも利用できるわけではないというデメリットがあります。
任意整理は,自己破産や個人再生と異なり,裁判手続ではないため,法律的な制限は少ないのがメリットですが,返済額が高額になることがあるというデメリットがあります。
どの手続を選択すればよいのかは,個々の事情によって異なってきますので,どれがよいのかは一概に決めることはできません。
したがって,債務整理の手続のうちのどれを選択できるのか,どれを選択すればよいのかでお悩みの場合には,法律の専門家にご相談されることをお勧めいたします。
債務整理の関連情報
ここまで債務整理とは何かについて説明してきましたが、以下は、債務整理に関連する情報について説明していきます。
債務整理をもっと詳しく知りたい方
債務整理については、インターネットでもいろいろな情報が出ていますし、もちろんこのサイトでも、随時、債務整理に関する情報を掲載していく予定ですが、債務整理についてより詳しく知りたいという方は、書籍で勉強する方法もあります。
以下で紹介している書籍は、債務整理についての書籍です。債務整理全般、任意整理、自己破産、個人再生、過払金返還請求から1冊ずつ挙げています。いずれも実務家向けの書籍ですが、債務整理実務を知るのには役立ちます。
クレジット・サラ金処理の手引 6訂版
出版:東京弁護士会
実務家向けです。債務整理全般について書かれた書籍です。債務整理全般について書かれた書籍の中では、比較的最近も改訂されています。実務家向けですが、内容的にもそこまで難解というわけではなく、一般の人が読んでも、債務整理の全体像をつかみやすいでしょう。
クレジット・サラ金の任意整理実務Q&A
編著:柄澤 昌樹 著:尾崎 毅ほか 出版:青林書院
実務家向けです。任意整理を中心に、債務整理全般について書かれた書籍。任意整理に関しては、意外と細かいところも説明されています。任意整理に関する専門書はあまりないので、貴重です。ただし、やや古いので、アップデートは必要です。
破産実務Q&A220問 (全倒ネット実務Q&Aシリーズ)
監修:木内 道祥 編集:全国倒産処理弁護士ネットワーク 出版:きんざい
実務家向けです。破産事件を扱う弁護士や司法書士は全員持っているのではないでしょうか。というくらいスタンダードになっている専門書です。裁判官や書記官も使っています。実際、裁判所から「Q&Aだと○○となっているので~」などと言われることもあります。
個人再生の実務Q&A120問 (全倒ネット実務Q&Aシリーズ)
監修:木内 道祥 編集:全国倒産処理弁護士ネットワーク 出版:きんざい
実務家向けです。上記破産実務Q&Aのシリーズ本です。これもまた、個人再生事件を扱う弁護士や司法書士は全員持っていると言ってもよいくらいにスタンダードになっている専門書です。やはり裁判所でも良く使われています。
Q&A過払金返還請求の手引: サラ金からの簡易・迅速な回収をめざして
編集:名古屋消費者信用問題研究会
実務家向けです。過払金返還請求の論点を網羅している専門書です。これもやや古いので、アップデートは必要ですが、過払金のことはこの本でだいたい分かるでしょう。付録として、引き直し計算用のエクセルデータCDーROMが付いています。
債務整理をしようと考えている方
この記事をご覧いただいている方の中には、もしかしたら借金で困り債務整理をしたいと考えている方もいらっしゃるかもしれません。
記事中でも述べましたが、債務整理にはいろいろな方法があります。それぞれ一長一短があり、人によって状況も異なりますから、どれが良いのかは一概には言えないところがあります。そのため、債務整理をするのであれば、やはり専門家に相談してみるのが一番確実なことは間違いないでしょう。
どの専門家を選べばよいのかは、実際に相談をしてみないと分かりません。大手だからとか、小さい事務所だからとかは、はっきり言って関係ありません。実際に相談をしてみれば、良いか悪いかは意外とよく分かります。
しかし、1件しか相談してないというのでは、比較のしようもないので、本当に良いのか悪いのか、自分の判断に確信を持ちにくいでしょう。
現在では、債務整理の相談は、どこの弁護士事務所、司法書士事務所でも無料であるのが通常だと思います。むしろ有料の方が珍しいくらいです。無料相談ですので、手間はかかりますが、複数件相談してみて、一番良いところを選べばよいのです。
弁護士や司法書士に債務整理を依頼するのは、安くありません。1件だけ相談して決めてしまうと後悔するかもしれません。後悔のないよう、納得できるところを探すべきです。