
破産障害事由とは、それがあると破産手続の開始が認められなくなる事由のことをいいます。
破産障害事由としては、①破産手続の費用の予納がないこと(破産法30条1項1号)、②不当な目的または不誠実な破産手続開始の申立てがされたこと(同項2号)、③民事再生・会社更生・特別清算手続が開始されていることがあります(民事再生法39条1項、会社更生法50条1項、会社法515条1項)。
破産障害事由とは
破産法 第30条
- 第1項 裁判所は、破産手続開始の申立てがあった場合において、破産手続開始の原因となる事実があると認めるときは、次の各号のいずれかに該当する場合を除き、破産手続開始の決定をする。
- 第1号 破産手続の費用の予納がないとき(第23条第1項前段の規定によりその費用を仮に国庫から支弁する場合を除く。)。
- 第2号 不当な目的で破産手続開始の申立てがされたとき、その他申立てが誠実にされたものでないとき。
- 第2項 前項の決定は、その決定の時から、効力を生ずる。
裁判所によって破産手続を開始してもらうためには、破産手続開始の要件を満たしていなければなりません。破産手続開始の要件には、形式的(手続的)要件と実体的要件があります。
破産手続開始の実体的要件としては、破産手続開始原因があることのほか、「破産障害事由」が無いことも必要です。
破産障害事由とは、それがあると破産手続の開始が認められなくなる事由のことをいいます。
破産障害事由には、以下のものがあります。
- 破産手続の費用の予納がないこと
- 不当目的・不誠実な破産手続開始申立てがされたこと
- 民事再生・会社更生・特別清算手続が開始されていること
これら破産障害事由があると、破産手続開始の申立ては却下されます。
破産手続の費用の予納がないこと
破産法 第22条
- 第1項 破産手続開始の申立てをするときは、申立人は、破産手続の費用として裁判所の定める金額を予納しなければならない。
- 第2項 費用の予納に関する決定に対しては、即時抗告をすることができる。
破産障害事由の1つに「破産手続の費用の予納がないこと」があります(破産法30条1項1号)。
破産手続を遂行していくためには、破産管財人の報酬のほか、破産管財人が管財業務を遂行していくための費用も必要となってきます。
また、裁判所から各債権者に対して破産手続開始決定書などの各種決定や通知などを送付する際にも、送料などが必要となりますし、官報に公告するための費用も必要です。
これらの費用の最低限度をあらかじめ確保しておくため、裁判所は予納すべき破産手続の費用(予納金)を定めることができ、申立人は、破産手続開始の申立てにおいて(またはその後すみやかに)、この予納金を裁判所に納付することが求められます(破産法22条1項)。
この裁判所が定めた予納金の納付を怠ると、破産障害事由があるものとして、破産手続開始の申立ては却下されます。
ただし、破産法23条に基づく費用の仮支弁が認められ場合には、国庫から予納金が仮に支払われるので、申立人が予納金を納付しなくても破産手続開始の申立ては却下されません(破産法30条1項1号括弧書き。)。
もっとも、費用の仮支弁は個人の生活保護受給者など困窮者にのみ認められる例外的で制度です。法人破産申立ての場合に認められることはほぼないでしょう。
不当目的・不誠実な破産手続開始申立てがされたこと
破産障害事由の1つに「不当な目的で破産手続開始の申立てがされたとき、その他申立てが誠実にされたものでないとき」があります(破産法30条1項2号)。
破産手続が開始されれば、債権者は個別の権利行使を制限され、しかも、もはや満足に足るほどの債権回収はできなくなるのが通常です。
つまり、破産手続は債権者が損失を被ることを前提として制度が成り立っているのです。
そのような破産制度において、不当な目的での破産手続開始申立てや不誠実な破産手続開始申立てが認められてしまっては、制度自体への信頼が失われてしまいます。
そのため、不当目的での破産手続開始申立てや不誠実な破産手続開始申立ては破産障害事由とされているのです。
例えば、債務名義を持たない債権者が債務者を威嚇して自己の債権を優先的に取り立てるためにした債権者破産申立てや、単なる嫌がらせ目的で申立てが、不当目的または不誠実な破産手続開始申立てとなると解されています。
民事再生・会社更生・特別清算手続が開始されていること
破産障害事由の1つに「民事再生・会社更生・特別清算手続が開始されていること」があります。
破産手続は、債務者である法人・会社を強制的に清算させてしまう清算型の倒産手続です。したがって、倒産手続の類型としては、最終的な手段であるといえます。
債務者の経済的再建を目的とする再建型の倒産手続である民事再生手続や会社更生手続が採れるのであれば、そちらを選択した方が、債務者にとっても、関係者にとってもメリットがあるといえるでしょう。
そのため、破産手続と再建型の倒産手続とでは、優先関係としてみれば、破産手続の方が劣後する地位にあると解されています。
また、特別清算手続は、破産手続と同じく清算型の倒産手続ですが、破産手続よりも簡易で、かつ、債権者との協定に基づく手続であり、破産手続の特別類型ともいえることから、優先関係としてみれば、破産手続の方が劣後する地位にあると解されています。
そこで、破産手続開始の申立てと再生手続・更生手続・特別清算手続開始の申立てが競合する場合、再生手続・更生手続・特別清算手続の裁判所は、必要があると認めるときは、利害関係人(特別清算の場合は債権者・清算人・監査役・株主)の申立てまたは職権で、破産手続の中止命令を発令することができます(民事再生法26条1項1号、会社更生法24条1項1号、会社法502条1項1号)。
この中止命令が発令された後にされた破産手続開始の申立ては、破産障害事由があるものとして却下されます。
また、民事再生手続・会社更生手続・特別清算手続について裁判所により手続開始決定がされた場合、すでに係属している破産手続は当然に中止され、また、新たに破産手続開始の申立てをすることも禁止されます(民事再生法39条1項、会社更生法50条1項、会社法515条1項)。
この破産手続開始の申立ての禁止に反してなされた申立ては、破産障害事由があるものとして却下されます。