この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
- Q取得時効とは何?
- A
取得時効とは、一定期間の経過により権利を取得する制度です。物の所有権に限らず、その他の権利を時効取得する場合もあります。
このページでは、取得時効をわかりやすく説明します。
- 取得時効とは何か
- 物の所有権の取得時効の要件
- 所有権以外の財産権の取得時効の要件
- 取得時効の効果・存在理由
- 取得時効と第三者(対抗要件)
- 取得時効と相続に関する問題

取得時効とは
刑事だけでなく、民事にも時効制度があります。この民事時効には、消滅時効と取得時効があります。
取得時効とは、一定期間の経過により、権利を取得できる時効制度のことです。
例えば、自分が所有者であると信じて、平穏・公然に他人の不動産を占有し続けていた場合、その不動産の所有権を時効取得することがあります。
この取得時効は、対象とする権利に応じて以下の2種類に分けられます。
- 物の所有権の取得時効
- 所有権以外の財産権の取得時効
取得時効が問題となる具体的なケース
取得時効は、期間の経過によって他人の権利を奪い取ってしまう強力な制度のため、要件は厳しいです。そのため、取得時効が問題となるケースは、限定されてきます。
例えば、取得時効が問題となるケースとしては、以下のような事例が考えられます。
- 隣の家との境界があいまいなため、気づかないまま隣家の土地の一部を占有していた
- 親の土地を相続して長年占有・利用していたが、実は親の所有地ではなく借地だった
物の所有権の取得時効
民法 第162条
- 第1項 20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
- 第2項 10年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。
引用元:e-Gov法令検索
取得時効の典型は、物の所有権の取得時効です。ある特定の物を、一定期間、条件を充たす態様で占有し続けた場合、その物の所有権を取得できます(民法162条1項)。
所有権の取得時効の要件
物の所有権の取得時効が成立するには、「所有の意思をもって」「平穏かつ公然に」、一定期間、物の占有を継続することが必要です。
どの程度の期間が必要となるかは、占有を始めた時に、占有者が善意無過失であったか否かによって異なります。また、取得時効の効果を発生させるには、占有者が時効を援用することも必要です。
- 他人の物の占有を継続すること
- 所有の意思があること
- 占有の態様が平穏・公然であること
- 一定期間占有を継続すること(時効期間)
- 占有者が原権利者に取得時効を援用すること
以下、それぞれについて説明します。
要件1:他人の物を占有すること
所有権を時効取得するには、他人の物を「占有」することが必要です。占有とは、物を客観的に明確な程度に支配することです(最三小判昭和46年3月30日)。
例えば、他人の土地の上に自分が所有する建物を建てた場合は、土地の占有が認められます。
自分の物の時効取得
所有権の取得時効が成立するのは、基本的に「他人の物」です。ただし、自分が所有する物についても、取得時効が成立する場合があると考えられています(最二小判昭和42年7月21日)。
例えば、物の所有権を取得して長く占有していたものの、何らかの理由によって登記を移転できず所有権の立証が難しかったり、第三者に所有権を対抗できなかったりした場合には、自分の物の時効取得を主張する意味があります。
要件2:所有の意思があること(自主占有)
ただ占有していれば物の所有権を時効取得できるわけではありません。ただ占有しているだけで時効取得できるのでは、例えば家を借りている人なども家の所有権を時効取得できることになってしまい、不合理です。
所有権の取得時効が成立するためには、「所有の意思をもって」占有する必要があります。所有の意思とは、所有者として権利行使する意思のことです。
所有の意思をもって占有することを自主占有といいます。他方、所有の意思のない占有は、他主占有といいます。所有権の取得時効が成立するには、自主占有であることが必要となるのです。
上記の家を借りている人などには、所有の意思がないので、取得時効は成立しません。
所有の意思の有無の判断方法
占有者に所有の意思があるか否かは、実際に占有者が内心でどう思っていたかによって判断されるわけではありません。
所有の意思の有無は、占有取得の原因となった事実によって外形的・客観的に判断されます(最一小判昭和45年6月18日など)。
そのため、たとえ占有者が所有者になると内心で考えていたとしても、原権利者と賃貸借契約を締結して賃貸目的物を賃借人として占有を開始した場合には、所有の意思は認められません。
所有の意思の推定と主張・立証
民法 第186条
- 第1項 占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定する。
引用元:e-Gov法令検索
物の占有者は、所有の意思をもって占有しているものと推定されます(民法186条1項)。そのため、占有者は、原則として自分に所有の意思があったことを主張・立証する必要がありません。
ただし、あくまで推定であるため、所有の意思がないことが立証されれば、推定は覆されます。具体的には、以下のような事実が原権利者によって証明されると、所有の意思の推定は覆されます(最一小判昭和58年3月24日・お綱の譲り渡し事件判決)。
- 占有者がその性質上所有の意思のないものとされる権原に基づき占有を取得した事実
例えば、占有者が原権利者と賃貸借契約を締結して占有を開始した事実 - 占有者が占有中、真の所有者であれば通常はとらない態度を示し、若しくは所有者であれば当然とるべき行動に出なかつたなど、外形的客観的にみて占有者が他人の所有権を排斥して占有する意思を有していなかつたものと解される事情
例えば、土地を譲り受けたと主張しながら、所有権移転登記を備えなかったり、固定資産税を支払わなかったりした事実(ただし、個別具体的な事情を総合的に考慮するため、登記がないことや固定資産税を払わなかった事実があるだけでは、所有の意思が否定されるとは限らない場合もある。最二小判平成7年12月15日)
要件3:平穏・公然に占有すること
取得時効の成立には、所有の意思があるほか、平穏・公然に占有することも必要となります。
平穏とは、占有者が占有を取得または保持するにあたって、暴行や脅迫などの違法・不当な手段を用いていないことを意味します。
また、公然とは、原権利者に占有していることを隠していないことです。
そのため、暴力で無理矢理占有を奪ったり、原権利者に占有していることを知られないようにしていた場合には、取得時効は成立しません。
平穏・公然の推定と主張・立証
民法 第186条
- 第1項 占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定する。
引用元:e-Gov法令検索
所有の意思と同様、占有者は、平穏・公然に占有しているものと推定されます(民法186条1項)。そのため、占有者は原則として自分の占有が平穏・公然なものであることを主張・立証する必要はありません。
ただし、これもあくまで推定であるため、原権利者によって平穏・公然な占有ではないことが立証されれば、推定は覆されます。
要件4:一定の時効期間占有を継続すること
取得時効が成立するのは、所有の意思のある平穏・公然な占有を、一定期間継続した場合です。この期間を取得時効期間といいます。
この取得時効期間は、占有者が、占有を開始した時に、自分の所有物でないことを知らず(善意)、知らないことに落ち度がなかった(無過失)か否かによって違いがあります。
- 占有開始時に善意無過失であった場合:10年
- 占有開始時に悪意または過失があった場合:20年
善意無過失・悪意の判定時期:占有開始時
占有者が善意無過失か悪意・有過失かどうかは、占有を開始した時に判定します。
そのため、善意無過失で占有を開始した後、時効期間の途中で悪意または有過失になったとしても、時効期間は10年のままです。
他方、悪意または有過失で占有を開始した場合は、時効期間の途中で善意無過失となったとしても、時効期間は20年から変わることはありません。
占有の継続
民法 第186条
- 第2項 前後の両時点において占有をした証拠があるときは、占有は、その間継続したものと推定する。
引用元:e-Gov法令検索
取得時効が成立するには、占有の開始から時効期間満了まで占有を継続していなければいけません。
ただし、全期間における占有の継続を証明する必要はありません。開始時に占有していたことと、終了時に占有していたことを証明できれば、開始から満了まで占有を継続していたと推定されます(民法186条2項)。
ただし、あくまで推定であるため、占有を継続していなかったことが立証されれば、推定は覆されます。推定が覆された場合、占有者は全期間の占有継続を主張・立証しなければいけなくなります。
占有を中止・喪失した場合
民法 第164条
- 第162条の規定による時効は、占有者が任意にその占有を中止し、又は他人によってその占有を奪われたときは、中断する。
引用元:e-Gov法令検索
上記のとおり、取得時効の成立には、時効期間の占有継続が必要です。占有者が時効期間の途中で占有をやめた場合や、他者に占有を奪われた場合は、取得時効は中断します(民法164条)。
中断とは、時効期間の進行をリセットすることです。中断すると、それまで進行していた時効期間はゼロに戻り、再び占有を開始した時に時効期間がゼロから再スタートになります。
例えば、取得時効完成まであと1年であったとしても、占有の中止または喪失により中断すると、時効期間はゼロに戻ります。その後、再び占有を開始した時は、また10年または20年の占有が必要です。
ただし、占有を第三者に奪われた場合は、占有回収の訴えなどにより占有を取り戻せば、時効は中断せず、取り戻した時から時効期間が再開します(民法203条ただし書き)。
善意・無過失の主張・立証
民法 第186条
- 第1項 占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定する。
引用元:e-Gov法令検索
占有者は、善意で占有しているものと推定されます(民法186条1項)。そのため、占有者は、原則として善意であることを主張・立証する必要はありません。
ただし、「無過失」は推定されません。そのため、取得時効を主張する占有者が、自分に過失がないことを主張・立証する必要があります(最一小判昭和46年11月11日など)。
また、善意の推定も、原権利者によって悪意であることが立証されれば覆ります。
補足:所有権の取得時効と占有の推定規定
前記のとおり、取得時効が成立するには、所有の意思をもって平穏・公然に物の占有を継続する必要があります。また、占有し続けていなければいけない時効期間の長さは、善意無過失か否かによって違いがあります。
これらをすべて立証するのは、事実上不可能に近いです。そのため、民法では、過度に立証が困難な事実については、一定の推定規定を設けています。
- 所有の意思(民法186条1項)
- 平穏・公然(民法186条1項)
- 善意(民法186条1項)
- 占有の継続(民法186条2項)
占有の始期・終期を立証すれば、その間の占有継続が推定される
ただし、無過失であることは、推定されません。そのため、短期取得時効を主張する場合は、時効を援用した人が無過失を立証する必要があります。
また、あくまで「推定」であるため、相手方が反対の事実を立証すれば覆されます。
要件5:取得時効を援用すること
民法 第145条
- 時効は、当事者(消滅時効にあっては、保証人、物上保証人、第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者を含む。)が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。
引用元:e-Gov法令検索
時効期間が経過すると自動的に取得時効の効果が発生するわけではありません。取得時効の効果を発生させるには、時効期間経過後に、占有者が取得時効を「援用」しなければいけません(民法145条)。
援用とは、物の元の所有者(原権利者)に対して、取得時効により所有権を取得したことを主張することです。
実務では、援用したことを証拠として残すため、配達証明を付けた内容証明郵便で「取得時効を援用する」旨の書面を原権利者に郵送するのが一般的です。
所有権以外の財産権の取得時効
民法 第163条
- 所有権以外の財産権を、自己のためにする意思をもって、平穏に、かつ、公然と行使する者は、前条の区別に従い20年又は10年を経過した後、その権利を取得する。
引用元:e-Gov法令検索
時効取得できる権利は、物の所有権に限られません。所有権以外の財産権を時効取得できる場合もあります。例えば、地上権や地役権などの物権も取得時効の対象になります。
単純な金銭債権などは取得時効の対象にはなりませんが、物の占有・利用を基礎とする賃借権は、取得時効の対象になることがあります。
所有権以外の財産権の取得時効の要件としては、以下のものが必要です。
- 取得時効の対象になる財産権であること
- 権利を行使すること
- 自己のためにする意思があること
- 平穏・公然と権利行使すること
- 一定の時効期間権利行使を継続すること
- 取得時効を援用すること
要件1:取得時効の対象となる財産権であること
取得時効の対象になるのは、地上権・永小作権・地役権といった、物の占有利用を継続する用益物権です。
また、債権ではあるものの、物の占有利用を継続する賃借権も、取得時効の対象となる場合があります(最三小判昭和43年10月8日)。
上記以外の財産権は、原則として取得時効の対象にはなりません。例えば、以下のような財産権も、取得時効の対象外です。
- 占有権
- 留置権
- 先取特権
- 形成権(取消権、解除権)
要件2:権利を行使すること
所有権以外の財産権の場合、対象の権利を行使することが必要です。ただし、ただ権利行使すればよいわけではなく、権利行使を客観的に外部に表示しなければいけません。
賃借権の時効取得
前記のとおり、他人から物を借りる権利(賃借権)も、時効取得できる場合があります(前掲最三小判昭和43年10月8日)。
例えば、実際には賃貸借契約を結んでいないのに、賃借していると信じて不動産を占有・利用していた場合、賃借権を時効取得する場合があります。
ただし、ただ利用しているだけでは足りず、以下の要件を充たしていることが必要です。
- 他人の土地の継続的な用益という外形的事実が存在していること
- その用益が賃借の意思に基づくものであることが客観的に表現されていること
そのため、賃借権の取得時効には、物の占有・利用のほか、賃借の意思にも基づくことを客観的に表現する行動として、賃料を支払い続けていることも必要と考えられています(最一小判昭和52年9月29日)。
要件3:自己のためにする意思があること
所有権以外の財産権を時効取得するには、自己のためにする意思が必要です。自己のためにする意思とは、財産権の権利者として権利行使する意思のことです。
何が自己のためにする意思と言えるかは、権利の内容によって異なります。
地上権であれば、地上権者として土地を占有利用する意思が必要となり、賃借権であれば、賃借人として賃料を支払う代わりに物を占有利用する意思が必要となります。
要件4:平穏・公然と権利行使すること
所有権以外の財産権の取得時効についても、平穏・公然に権利行使することが求められます。
平穏とは、権利行使者が権利行使するにあたって、暴行や脅迫などの違法・不当な手段を用いていないことを意味します。
また、公然とは、原権利者に権利行使していることを隠していないことです。
そのため、暴力で無理矢理財産権を奪ったり、原権利者に権利行使していることを知られないようにしていた場合には、取得時効は成立しません。
要件5:一定の時効期間権利行使を継続すること
所有権以外の財産権について取得時効が成立するのも、自己のためにする意思のある平穏・公然な権利行使を、一定期間継続した場合です。
所有権以外の財産権についての取得時効期間は、権利行使者が、権利行使を開始した時に、自分に権利がないことを知らず(善意)、知らないことに落ち度がなかった(無過失)か否かによって違いがあります。
- 権利行使の開始時に善意無過失であった場合:10年
- 権利行使の開始時に悪意または過失があった場合:20年
権利行使を中止・喪失した場合
民法 第164条
- 第162条の規定による時効は、占有者が任意にその占有を中止し、又は他人によってその占有を奪われたときは、中断する。
民法 第165条
- 前条の規定は、第163条の場合について準用する。
引用元:e-Gov法令検索
上記のとおり、取得時効の成立には、時効期間の権利行使の継続が必要です。
権利行使者が時効期間の途中で権利行使をやめた場合や、権利行使できなくなった場合は、時効が中断します(民法165条、164条)。
中断とは、時効期間の進行をリセットすることです。中断すると、それまで進行していた時効期間はゼロに戻り、再び占有を開始した時に時効期間がゼロから再スタートになります。
例えば、取得時効完成まであと1年であったとしても、権利行使の中止または喪失により中断すると、時効期間はゼロに戻ります。その後、再び権利行使を開始した時は、また10年または20年の権利行使の継続が必要です。
ただし、占有を基礎とする財産権について、第三者に占有を奪われたことにより権利行使できなくなった場合は、占有回収の訴えなどにより占有を取り戻せれば中断されず、取り戻した時から時効期間が再開します(民法203条ただし書き)。
要件6:取得時効を援用すること
民法 第145条
- 時効は、当事者(消滅時効にあっては、保証人、物上保証人、第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者を含む。)が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。
引用元:e-Gov法令検索
前記のとおり、取得時効の効果を発生させるには、時効の援用が必要です。所有権以外の財産権でも同様です(民法145条)。
援用とは、元の権利者(原権利者)や所有権者に対して、取得時効により財産権を取得したことを主張することです。
実務では、援用したことを証拠として残すため、配達証明を付けた内容証明郵便で「取得時効を援用する」旨の書面を原権利者に郵送するのが一般的です。
取得時効の効果
占有者や権利行使者が取得時効を援用すると、取得時効の効果が発生します。具体的には、原権利者から対象の権利が失われ、代わりに占有者や権利行使者が対象の権利を取得します。
例えば、土地の占有者に取得時効が成立すると、占有者が土地の所有権を取得します。
効果1:時効援用者が権利を原始取得する
取得時効による権利の取得は「原始取得」です。原始取得とは、他人から承継するのではなく、原初的に権利を取得することです。
そのため、取得時効が成立すると、売買契約のように前の権利者から権利を受け継ぐ(承継取得)のではなく、まったく新しい権利を取得するものとして扱われます。
効果2:対象の権利に付着した権利は消滅する
上記のとおり、時効取得により占有者などは、新たな権利を原始取得します。そのため、もとの権利に付着していた権利などは、時効取得によって消滅するのが原則です。
例えば、抵当権の付いている不動産の所有権を時効取得した場合、抵当権は消滅し、占有者は、まっさらな不動産の所有権を取得できます(民法397条)。
ただし、付着する権利の権利者に時効取得を対抗できない場合は、その付着した権利は洗い流されず、付着する権利がついた所有権などを取得することになります。
例えば、時効完成後に対象の土地に抵当権が設定され、時効取得者が所有権移転登記を備えるよりも先に抵当権設定登記が備えられた場合、時効取得者が取得できるのは、抵当権の設定された土地の所有権になります。
効果3:遡及効が生じる
民法 第144条
- 時効の効力は、その起算日にさかのぼる。
引用元:e-Gov法令検索
取得時効の効果は、占有や権利行使を開始した時にさかのぼって効果を生じます(遡及効。民法144条)。
時効を援用した時でも時効期間が満了した時でもなく、占有・権利行使をはじめた時にさかのぼって、占有者・権利行使者が所有者・権利者であったものとして扱われるのです。
取得時効が認められる存在理由
取得時効は、一定期間の占有・権利行使の継続によって他人から権利を奪ってしまえる強力な制度です。
なぜ取得時効制度が認められているのかについては、以下のような理由があると言われています。
理由1:永続する事実状態の尊重
一定の事実状態が長期間継続していた場合、これを覆すと、その事実状態を信頼して法律関係を持った人に不利益を与えます。
そこで、長期間継続した事実状態を尊重して法的安定性を図ることが、取得時効制度が認められている理由のひとつです。
理由2:権利の上に眠る者は保護せず
権利行使が可能であるにもかかわらず、権利行使を怠っている人は保護に値しないとする考え方です。
権利行使を怠っている人よりも、積極的に権利行使しようとする人を優先することも、取得時効制度の存在理由のひとつと考えられています。
理由3:証拠の散逸による立証困難の救済
長期間の経過によって証拠が散逸してしまい、立証が困難になった当事者を救済することも、時効制度の存在理由と言われています。
ただし、この存在理由は、どちらかと言えば、取得時効よりも消滅時効の場合に妥当しやすい理由と言えるでしょう。
取得時効の完成を阻止するための制度
前記のとおり、一定の条件を充たす占有や権利行使が法定の時効期間継続すると、取得時効が完成し、原権利者は権利を失います。とは言え、原権利者側や所有者側は何もできないわけではありません。
具体的には、時効の更新や時効の完成猶予といった、取得時効完成を阻止するための制度が設けられています。
時効の更新
時効の更新とは、時効期間をリセットする制度のことです。時効が更新されると、それまで進行していた時効期間はゼロに戻り、時効期間がゼロから再スタートします(民法147条等)。
かつては、時効の中断と呼ばれていました。前記の占有の喪失等による中断と同じ効果です。
具体的には、以下の事由がある場合に、時効が更新されます。
時効の完成猶予
時効の完成猶予とは、時効期間の進行を停止させる制度です。かつては、時効の停止と呼ばれていました。時効の更新のように時効期間をリセットできるわけではありませんが、時効期間の進行がストップします。
時効期間が満了してしまいそうであるものの。本格的に時効を更新するまで時間がかかりそうな場合に、時効の完成猶予を使って、時効完成をとりあえず防いでおくことが可能です。
具体的には、以下の事由がある場合に、時効の完成猶予の効果が生じます。
- 裁判上の請求、支払督促、訴え提起前の和解、民事調停、家事調停、破産手続参加、民事再生手続参加、会社更生手続参加をした場合、それらの手続をしている間(民法147条1項)
- 上記各手続が、確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定することなく終了した場合は、手続終了時から6か月を経過するまでの間(民法147条1項)
- 強制執行、担保権の実行、財産開示手続などの手続をしている間(民法148条1項)
- 上記各手続が、申立ての取下げまたは法律の規定に従わないことによる取消しによって終了した場合は、手続終了時から6か月を経過するまでの間(民法148条1項)
- 仮差押え、仮処分の手続の終了時から6か月を経過するまでの間(民法149条)
- 催告をした場合、催告時から6か月を経過するまでの間(民法150条)
- 権利についての協議を行う旨の合意が書面でされた場合、合意時から1年、当事者で定めた協議を行う期間、協議続行拒絶通知時から6か月のいずれか早い時までの間(民法151条1項)
取得時効と対抗要件
資格試験では、時効取得者と他者の関係がよく出題されます。具体的に言うと、時効取得者が他者に対して時効による権利取得を主張するには、対抗要件を備える必要があるのかが問われます。
取得時効と対抗要件に関しては、以下の4つのポイントを押さえておきましょう。
時効取得者と原権利者の関係
時効取得者と他者の関係は、「取得時効完成時」を基準に判断します。時効取得時における時効取得者と元の所有者など(原権利者)は、権利変動の当事者です。民法177条の対抗関係にはありません。
そのため、時効取得者は、対抗要件(登記など)を備えなくても、原権利者に時効取得を対抗できます(大審院大正7年3月2日判決)。
取得時効完成前の第三者との関係
例えば、もとの所有者(原権利者)が第三者に不動産を売却した後に、その不動産の取得時効が完成したような場合です。
このように、取得時効完成前に、対象の権利について利害関係を持つ第三者が現れた場合、時効取得者と第三者の関係は、「取得時効完成時」を基準に判断します。
取得時効完成時を基準とすると、時効取得者と取得時効完成前の第三者は、権利変動の当事者関係です。そもそも民法177条の第三者ではありません。
そのため、対抗関係にならず、時効取得者は、時効完成前の第三者に対して、対抗要件を備えていなくても時効による権利取得を対抗できます(最一小判昭和33年8月28日、最一小判昭和35年7月27日、最一小判昭和36年7月20日、最三小判昭和41年11月22日など)。
取得時効完成後の第三者との関係
例えば、不動産の取得時効が完成した後に、原権利者がその不動産を第三者に売却したようなケースです。
取得時効が完成した後に、対象の権利について利害関係を持つ第三者が現れた場合は、当事者同士とは言えません。
この場合、時効取得による権利変動と第三者の権利取得の2つの相反する権利変動が生じています。そのため、時効取得者と時効完成後の第三者は対抗関係に立ち、民法177条の対抗問題として優劣が決められると考えられています。
具体的には、時効取得者と第三者のいずれか先に対抗要件(登記など)を備えた方が、権利の取得を主張できることになります(前掲最一小判昭和33年8月28日、最一小判昭和35年7月27日、最一小判昭和36年7月20日、最三小判昭和41年11月22日など)。
上記の事例で言うと、時効取得者と第三者のいずれか先に所有権移転登記を備えた方が、不動産の所有権取得を主張できます。
再度の時効取得
上記のとおり、時効取得者と時効完成後の第三者は対抗問題として優劣が決められます。時効完成後の第三者が時効取得者よりも先に対抗要件を備えれば、第三者が権利を取得することになります。
ただし、時効取得者が、第三者が対抗要件を備えた日(例えば、登記した日)からさらに所有の意思をもって平穏・公然に占有・権利行使を10年または20年間継続し、再び取得時効が完成した場合は別です。
この場合、再度の時効完成時を基準にすると、時効取得者と第三者は、権利変動の当事者関係になっています。そのため、再度の時効完成時には、対抗関係に立たなくなっているのです。
そのため、時効取得者は、第三者に対して対抗要件を備えていなくても、再度の時効による権利取得を主張できます(前掲最一小判昭和33年8月28日、最一小判昭和35年7月27日、最一小判昭和36年7月20日、最三小判昭和41年11月22日、最二小判平成24年3月16日など)。
取得時効と相続
取得時効は、相続においても問題となることがあります。
相続による占有の継続
相続は、包括承継です。亡くなった人(被相続人)の地位も相続人にそのまま受け継がれます。
ある期間占有していた者である地位も包括承継されるので、相続人は、自分の占有を主張できるだけでなく、被相続人が占有していた期間を自分の占有期間と合算して主張することもできます(民法187条)。
例えば、被相続人が善意無過失で不動産の占有を開始してから6年が経過した時点で亡くなり、その相続人が4年占有した場合、合わせて10年の占有があると主張できます。
相続による自主占有への転換
民法 第185条
- 権原の性質上占有者に所有の意思がないものとされる場合には、その占有者が、自己に占有をさせた者に対して所有の意思があることを表示し、又は新たな権原により更に所有の意思をもって占有を始めるのでなければ、占有の性質は、変わらない。
引用元:e-Gov法令検索
前記のとおり、所有権の取得時効が成立するには、所有の意思をもった占有(自主占有)が必要です。
相続人が被相続人の地位を包括承継するため、被相続人が他主占有だった場合、相続人の占有も他主占有となるのが原則です。
ただし、民法185条は、「新たな権原」により所有の意思をもって占有を開始した場合、自主占有が開始することを認めています。
相続の場合も、以下の要件を充たす場合には、新権原によって所有の意思をもって占有を開始したものとして扱われる(自主占有への転換が認められる)ことがあります(最三小判昭和46年11月30日、最二小判昭和47年9月8日、最三小判昭和54年4月17日、最三小判平成8年11月12日)。
- 相続人が、被相続人の占有を相続により承継したこと
- 相続人が、新たに相続財産を事実上支配することにより占有を開始したこと
- 相続人が開始した占有に所有の意思があると認められること
この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
この記事が参考になれば幸いです。
民法と資格試験
民法は、私法の基本法です。我々の生活に最も身近な法律です。
そのため、例えば、司法試験(本試験)、司法試験予備試験、司法書士試験、行政書士試験、宅建試験、マンション管理士試験・・・など、実に多くの資格試験の試験科目になっています。
これら法律系資格の合格を目指すなら、民法を攻略することは必須条件です。
とは言え、民法は範囲も膨大です。メリハリを付けないと、いくら時間があっても合格にはたどり着けません。効率的に試験対策をするには、予備校や通信講座などを利用するのもひとつの方法でしょう。
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・司法試験・予備試験も対応
・スマホ・PC・タブレットで学べるオンライン講座
・有料受講者数20万人以上・低価格を実現
参考書籍
本サイトでも民法について解説していますが、より深く知りたい方や資格試験勉強中の方のために、民法の参考書籍を紹介します。
新訂民法総則(民法講義Ⅰ)
著者:我妻榮 出版:岩波書店
民法の神様が書いた古典的名著。古い本なので、実務や受験にすぐ使えるわけではありませんが、民法を勉強するのであれば、いつかは必ず読んでおいた方がよい本です。ちなみに、我妻先生の著書として、入門書である「民法案内1(第二版)」や「ダットサン民法総則・物権法(第4版)」などもありますが、いずれも良著です。
我妻・有泉コンメンタール民法(第8版)
著書:我妻榮ほか 出版:日本評論社
財産法についての逐条解説書。現在も改訂されています。家族法がないのが残念ですが、1冊で財産法全体についてかなりカバーできます。辞書代わりに持っていると便利です。
続 時効の管理(改正民法対応版)
著者:酒井廣幸 出版:新日本法規出版
時効に特化した実務書。具体的な分野ごとに時効の問題をピックアップして解説しています。時効管理のために、持っておいて損はないでしょう。
司法試験・予備試験など資格試験向けの参考書籍としては、以下のものがあります。
民法(全)(第3版補訂版)
著者:潮見佳男 出版:有斐閣
1冊で民法総則から家族法まで収録されています。基本書というより入門書に近いでしょう。民法全体を把握するのにはちょうど良い本です。
民法の基礎1(総則)第5版
著者:佐久間毅 出版:有斐閣
民法総則の基本書。基礎的なところから書かれており、読みやすく情報量も多いので、資格試験の基本書として使うには十分でしょう。
スタートアップ民法・民法総則(伊藤真試験対策講座1)
著者:伊藤塾 出版:弘文堂
いわゆる予備校本。予備校本だけあって、実際の出題傾向に沿って内容が絞られており、分かりやすくまとまっています。民法は範囲が膨大なので、学習のスタートは、予備校本から始めてもよいのではないでしょうか。
関連する資格試験の過去問
「取得時効」については、法律系資格試験の過去問でも出題されることがあります。このページで確認した知識で、「取得時効」に関連する資格試験の過去問を解いてみましょう。
- 宅建試験令和元年度問1
論点:民法177条の第三者・取得時効と第三者など - 宅建試験令和3年度(12月)問6
論点:民法177条の第三者・取得時効と第三者など - 宅建試験令和5年度問6
論点:取得時効と第三者 - 行政書士試験令和5年度問28
論点:取得時効と第三者


