個人再生をするとどうなるのか?

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個人再生(個人民事再生)をすると,財産を処分せずに,借金など債務を減額した上で3年間から5年間の分割払いにしてもらうことができます。また,住宅資金特別条項の利用が認められると,住宅ローンの支払いが終わっていない自宅を残したまま,住宅ローン以外の借金を整理することも可能です。

ただし,このようなメリットがある反面,利用のための条件(法律要件)が厳しく,いくつかのデメリットがあることも確かです。

個人再生するとどうなるのかについて正確な情報を把握した上で,個人再生を選択するのが適切なのかを検討する必要があります。

  1. 個人再生のメリットとデメリット
  2. どのようなメリットがあるのか?
    1. 借金・債務はどうなるのか?
    2. 借金・債務はどのくらい減額されるのか?
      1. 小規模個人再生の場合
      2. 給与所得者等再生の場合
    3. 借金・債務は分割払いにできるのか?
    4. 滞納している税金や国民年金保険料・国民健康保険料などはどうなるのか?
    5. 奨学金は減額できるのか?
    6. 養育費は減額できるのか?
    7. 債権者からの取立てはどうなるのか?
    8. 債権者からの訴訟提起はどうなるのか?
    9. 給料の差押えはどうなるのか?
    10. 自己破産のように財産を処分されてしまうのか?
    11. 住宅ローンの残っていない持ち家はどうなるのか?
    12. 住宅ローンの残っている持ち家はどうなるのか?
    13. 住宅資金特別条項(住宅ローン特則)を使うとどうなるのか?
    14. 自宅以外の不動産でも住宅資金特別条項は使えるのか?
    15. 住宅資金特別条項を使えば住宅ローンも減額できるのか?
    16. 住宅ローンが代位弁済されてしまった後でも住宅資金特別条項を使えるのか?
    17. 自宅が競売にかけられてしまっている場合でも住宅資金特別条項を使えるのか?
    18. 預金を解約されるのか?
    19. 通帳を作れなくなるのか?
    20. 家を借りることができなくなるのか?
    21. 賃借している借家・借地はどうなるのか?
    22. 所有している自動車はどうなるのか?
    23. 自動車ローンが残っている自動車はどうなるのか?
    24. 加入している生命保険などはどうなるのか?
    25. 給料はどうなるのか?
    26. 退職金はどうなるのか?
    27. 年金はどうなるのか?
    28. 就けなくなる職業・仕事があるのか?
    29. 取締役・社長になることができなくなるのか?
    30. ギャンブルで借金を増やした場合でも個人再生を利用できるのか?
  3. どのようなデメリットがあるのか?
    1. 何ができなくなるのか?
    2. 借入れ,ローンを組むこと,クレジットカードを作ることができなくなるのか?
    3. 官報に掲載されてしまうのか?
    4. 携帯電話・スマートフォンも解約されるのか?
    5. 保証人・連帯保証人にはどのような影響を生じるのか?
    6. 家族に知られてしまうのか?
    7. 家族にはどのような影響を生じるのか?
    8. 勤務先の会社などに知られてしまうのか?
    9. 本籍地の役所に個人再生をしたことが通知されてしまうのか?
    10. 必ず再生計画が認可されるのか?
    11. 個人事業・自営業は廃業しなければならないのか?
    12. 個人再生の手続は自分で進めていかなけばならないのか?
    13. 個人再生をすると自己破産をすることができなくなるのか?
  4. 再生計画が認可された後はどうなるのか?
    1. 再生計画に基づく返済ができなくなってしまうとどうなるのか?

個人再生のメリットとデメリット

借金などの債務が増えすぎてしまい返済ができなくなってしまった場合,債務整理をすることにより,借金に追われる生活から脱出することが可能となります。

この債務整理の方法の1つに「個人再生(個人民事再生)」があります。

個人再生をすると,裁判所から再生計画について認可してもらうことによって,借金を減額した上で3年から5年の分割払いにしてもらうことができます。最大で10分の1まで減額してもらえる場合もあります。

また,個人再生の場合,自己破産と異なり,必ず財産を処分しなければならないわけではなく,財産を残したまま借金を減額してもらえることもあります。

加えて,住宅資金特別条項という制度を利用できる場合には,住宅ローンの支払いが終わっていない自宅不動産を処分せずに,住宅ローン以外の借金を減額してもらえます。

このように個人再生には多くのメリットがありますが,デメリットも当然あります。

したがって,個人再生のメリット・デメリットについての正確な情報に基づいて,個人再生をするかどうかを検討しなければなりません。

以下では,個人再生するとどうなるのかについてのよくあるご質問に回答していきます。

どのようなメリットがあるのか?

個人再生をすると生じるメリットは,借金を減額してもらえること,そして,減額した借金を分割払いにしてもらえることができるという点です。

しかも,自己破産と違って,必ずしも財産を処分しなければならないわけではなく,資格の制限もありません。免責不許可事由があっても,利用が可能です。

また,個人再生の手続が開始されると,債権者からの取立ては停止されます。財産を差し押さえることもできなくなります(ただし,訴訟を提起することは可能とされています。)。

すでに差押えがされている場合も,差押えを停止させることができ,場合によっては取り消すことも可能です。

さらに,個人再生には,住宅資金特別条項という特別な制度が設けられています。

住宅資金特別条項を利用できる場合,住宅ローンの支払いを従前どおりまたは若干変更して支払いを継続することにより,住宅ローンが残っている自宅不動産を処分せずに,住宅ローン以外の借金だけを減額して債務整理することが可能となります。

このように,個人再生をすることにより,平穏な生活を取り戻すことができ,生活の再建に向けて行動することができるようになるのです。

借金・債務はどうなるのか?

個人再生をすると,裁判所によって再生計画を認可してもらうことにより,借金などの債務を減額した上で分割払いにしてもらうことができます。

どのくらい減額されるのかは,小規模個人再生と給与所得者等再生のいずれの手続を選択しているか,債務の総額はいくらか,財産を有しているか等によって異なってきますが,概ね5分の1から10分の1にまで債務を減額できることがあります。

そして,その減額された債務を,通常の場合は3年間,特別な事情がある場合には,最長で5年間の分割払いにすることができます。

ただし,税金,国民健康保険の保険料,国民年金の保険料,罰金などは減額・分割払いにされない一般優先債権とされていますので,通常通りに支払っていかなければなりません。

また,上記の税金など以外にも,悪意の不法行為債権や養育費などは減額にされない非減免債権とされていますので,これらの支払いは減額されません。

借金・債務はどのくらい減額されるのか?

前記のとおり,個人再生をすると,裁判所によって再生計画を認可してもらうことにより,借金などの債務を減額した上で分割払いにしてもらうことができます。

個人再生には,小規模個人再生と給与所得者等再生の2種類の手続が設けられています。どのくらい借金が減額されるかの基準は,まずどちらの手続を選択するするかによって異なってきます。

小規模個人再生の場合

まず,小規模個人再生の場合は,「最低弁済額」と「清算価値の額」のいずれか大きい方が弁済額となり,その額にまで減額されます。

最低弁済基準額は,借金などの再生債権の総額によって定められます(以下の無異議債権や基準債権額は,とりあえず借金の総額と考えていただいてよいでしょう。)。

小規模個人再生の最低弁済額
  • 無異議債権等が3000万円以下の場合
    • 基準債権額が100万円未満 
      →基準債権額がそのまま最低弁済額
    • 基準債権額が100万円以上500万円未満 
      →最低弁済額は100万円
    • 基準債権額が500万円以上1500万円未満 
      →基準債権額の5分の1の額が最低弁済額
    • 基準債権額が1500万円以上3000万円未満 
      →最低弁済額は300万円
  • 無異議債権等が3000万円を超え5000万円以下 
    →無異議債権等の10分の1の額が最低弁済額

清算価値は,持っている財産の価額によって定められます。持っている財産の価額が上記最低弁済額を上回る場合には,その財産価額まで減額が可能ということになります。

例えば、借金の額が3000万円で、清算価値が300万円未満であれば、弁済額は300万円まで減額、つまり10分の1にまで減額されるということです。

給与所得者等再生の場合

給与所得者等再生の場合には,上記の「最低弁済基準額」と「清算価値の額」に加えて「可処分所得2年分の額」という要素が加わってきます。

可処分所得とは,平均年収額から再生債務者及びその扶養を受けるべき者の最低限度の生活を維持するために必要となる所得のことをいいます。その2年分の額が要素となってくるわけです。

これら「最低弁済基準額」「清算価値の額」「可処分所得2年分の額」のいずれか最も大きいものが弁済額となり,その額にまで減額されます。

例えば、借金の額が3000万円で、清算価値が300万円未満であったとしても、可処分所得2年分の額が400万円であれば、弁済額は400万円までしか減額されないということです。

借金・債務は分割払いにできるのか?

前記のとおり,個人再生をすると,裁判所によって再生計画を認可してもらうことにより,借金などの債務を減額してもらうことができます。

しかも,この減額された借金などを一括で支払う必要はなく,分割払いにしてもらうことができます(むしろ,分割払いにするのが原則であり,一括払いにはできないと考えられています。)。

分割の期間は,原則3年間とされています。これより短い期間にすることはできません。

また,3年間で支払うのは厳しいなど特別の事情がある場合には,最長で5年間にまで伸ばすことができます。

滞納している税金や国民年金保険料・国民健康保険料などはどうなるのか?

前記のとおり,個人再生をすると,借金などの債務を減額した上で分割払いにすることができます。

ただし,滞納している税金,国民年金保険料,国民健康保険料は,減額・分割払いの対象とされない一般優先債権とされています。また,交通違反等の罰金なども同様に対象外です。

したがって,上記の滞納税金等については,個人再生にかかわらず,通常どおりの支払いをしなければなりません。

奨学金は減額できるのか?

奨学金も貸金(または立替金)ですから,個人再生をすると,裁判所によって再生計画認可の決定を受ければ,減額の上分割払いにしてもらうことができます。

ただし,奨学金に保証人・連帯保証人がいる場合,その保証人・連帯保証人に請求がいくことになります。

保証人・連帯保証人に請求が行く場合,法的には一括請求が可能ですが,従前と同じ条件での分割払いで請求されることが多いと思います。

なお,その保証債務も債務ですから,保証人が個人再生をする場合には,その保証債務の支払いを減額の上分割払いにすることができます。

養育費は減額できるのか?

養育費の支払債務は,非減免債権とされています。したがって,個人再生をしたとしても,減額はされません。

ただし,減額はされませんが,借金などと同様に再生債権であるため,再生計画に従った分割払いの対象にはなります。

したがって,再生計画に定められた他の借金等と同率の弁済率で計画弁済期間の計画弁済を行い,不足分を期間終了後に支払うことになります。

なお,養育費をもらう側の方が個人再生をした場合,養育費をもらう権利は財産として扱われ,清算価値算定の基礎財産として扱われます。

ただし,養育費をもらう権利の2分の1は差押禁止とされていますので,その部分は清算価値算定の対象になりません。

債権者からの取立てはどうなるのか?

個人再生の手続が開始されると,債権者は個別に取立てをすることができなくなります。したがって,取立てをうけることはなくなります。また,個人再生の手続開始後は,強制執行することはできなくなります。

ただし,個人再生手続の開始後であっても,訴訟を提起することはできるものとされています(実際には、手続開始後に訴訟を提起してくる債権者はほとんどいません。)。

なお,個人再生手続の開始前であっても,弁護士等が受任通知(介入通知)を送付すると,貸金業者やサービサーなどからの取立てを停止することができます(ただし,受任通知のみでは訴訟提起や強制執行を止めることまではできません。)。

債権者からの訴訟提起はどうなるのか?

自己破産と異なり,個人再生手続が開始されても,債権者は訴訟を提起することができます。

もっとも,個人再生手続が開始されると,強制執行はできなくなりますので,手続開始後にあえて訴訟を提起するという債権者はほとんどいないでしょう。

個人再生手続の開始時点ですでに訴訟が提起されている場合,その訴訟は中断されずに続行されます。

とはいえ,上記のとおり強制執行ができなくなりますので,通常の債権者であれば,個人再生手続の開始後に訴訟を取り下げることが多いでしょう(ただし,訴訟を頑として取り下げない貸金業者もいます。)。

給料の差押えはどうなるのか?

個人再生の手続が開始されると,債権者は,給料の差押え等の強制執行をすることができなくなります。

したがって,すでに判決をとられて給料差押え等の強制執行のおそれがある場合には,早めに個人再生の申立てをする必要があるでしょう。

また,個人再生手続の開始時点ですでに給料差押え等の強制執行がされている場合,その強制執行手続は中止されます(実際には,強制執行を担当している裁判所に強制執行の停止を上申して手続を停止させることになります。)。

ただし,あくまで手続が中止されただけであり,債務者の方が給料をすぐに受け取れるようになるわけではありません。

給与支払いをする会社等が債権者に支払いをしなくてもよくなるに過ぎず,その会社等において差押分をプールしておき,再生計画認可確定後に債務者の方にプールしておいた分を支払うことになります。

すぐに給料を受け取れるようにするためには,別途,個人再生を申し立てた裁判所に強制執行手続の取消命令を申し立て,取消命令を出してもらう必要があります。

なお,個人再生手続開始前であっても,個人再生の申し立てをした後であれば,給料差押え等強制執行の中止命令を出してもらうことも可能です(この場合も,開始後に取消命令を出してもらい,給料を受け取ることになります。)。

自己破産のように財産を処分されてしまうのか?

自己破産の場合,生活に必要最小限度のものを除いて財産を処分しなければなりません。これに対し,個人再生の場合は,財産の処分が必須とされていません。したがって,財産を処分せずに債務を整理することが可能です。

ただし,財産の価額は清算価値として扱われます。この清算価値が,債務総額によって定められる最低弁済額などよりも高額である場合には,その清算価値の額が個人再生による返済総額とされます。

そのため,あまりに清算価値の額が大きくなりすぎるような場合には,ある程度,財産の処分をしなければならないこともあり得ます。

住宅ローンの残っていない持ち家はどうなるのか?

個人再生においては,財産の処分は必須とされていません。したがって,個人再生をすると所有している持ち家が当然に処分されるということもありません。

もっとも,持ち家のような不動産は高額資産です。その価額が借金の額よりも大きいようであれば,それを売って返済できるので,支払不能のおそれがなく,そもそも個人再生申立てが認められないことになります。

また,不動産価額が借金総額よりも小さいとしても,その価額は清算価値として返済額の基準となります。不動産価額が高額であればあるほど,個人再生による返済額も高額になるということです。

したがって,あまりに清算価値が高額であるため,個人再生をしても返済を続けていける見込みがないということもあります。

そのような場合には,やはり持ち家を売却する,または自己破産の手続きを検討するなどの必要があるでしょう。

住宅ローンの残っている持ち家はどうなるのか?

個人再生においては,財産の処分は必須とされていません。持ち家などの不動産も同様です。

しかし,住宅ローンを個人再生の対象とすると,住宅ローン債権者によって,その住宅ローンの担保となっている持ち家不動産が競売にかけられ,最終的に処分されることになります。

もっとも,個人再生には「住宅資金特別条項」という特別な制度が用意されています。

裁判所によって住宅資金特別条項を定めた再生計画が認可されると,住宅ローンは従前どおりまたは若干変更して支払いを継続して,持ち家不動産の処分を免れつつ,住宅ローン以外の借金を減額の上分割払いにしてもらうことができます。

したがって,住宅ローンの残っている持ち家を維持したい場合には,この住宅資金特別条項を使った個人再生を検討することになるでしょう。

ただし,住宅資金特別条項の利用には厳しい条件があります。そのため,誰でも利用できるというわけではありません。

住宅資金特別条項(住宅ローン特則)を使うとどうなるのか?

個人再生においては,住宅資金特別条項という特別な制度が用意されています。

この住宅資金特別条項を定めた再生計画が裁判所によって認可されると,自宅の住宅ローンだけ他の借金等とは別扱いとなり,他の借金等のように減額の対象とされなくなります。

そのため,自宅の住宅ローンだけは,従前どおりまたは若干変更して支払いを継続することができるようになり,その結果,持ち家不動産の処分を免れつつ,住宅ローン以外の借金を減額の上分割払いにしてもらうことができるのです。

自宅以外の不動産でも住宅資金特別条項は使えるのか?

住宅資金特別条項の対象となる「住宅」とは,①再生債務者が所有し,②再生債務者が自己の居住の用に供しており,③その建物の床面積の2分の1以上の部分が専ら自己の居住の用に供されている建物です。

したがって,自宅でない建物,例えば,他人に貸している投資用マンションや居住に使っていない別荘などの住宅ローンには,住宅資金特別条項を使うことはできません。

住宅資金特別条項を使えば住宅ローンも減額できるのか?

住宅資金特別条項は,住宅ローンを他の借金等と別扱いにし,個人再生による減額の対象とさせないことにより,住宅ローンの支払いが終わっていない自宅不動産を残せるようにする制度です。

したがって,住宅資金特別条項を使った場合,むしろ住宅ローンを減額することはできなくなります。その代わり,自宅を処分せずに済むのです。

他方,住宅資金特別条項を利用しない場合は,住宅ローンも他の借金と同様に減額の対象となります。

ただし,この場合,住宅ローン債権者によって,その住宅ローンの担保となっている持ち家不動産が競売にかけられ,最終的に処分されることになります。

住宅ローンが代位弁済されてしまった後でも住宅資金特別条項を使えるのか?

住宅ローンを数か月滞納すると,保証会社によって代位弁済が行われ,住宅ローン債権が,住宅ローン会社から保証会社に移ってしまうことがあります。

この代位弁済が行われた場合でも,代位弁済の日から6か月を経過する日までの間に個人再生の申立てがされたときは,再生計画に住宅資金特別条項を定めることができるとされています。

代位弁済日から6か月以内に個人再生申立てがされ,住宅資金特別条項を定めた再生計画が裁判所によって認可されると,保証会社が代位弁済した保証債務の履行はなかったものとみなされることになり,従前の住宅ローン会社が住宅ローンの債権者に戻ることになります。

この制度のことを「巻戻し」と呼んでいます。

この巻戻し制度が用意されているので,住宅ローンが保証会社によって代位弁済されてしまった後でも,住宅資金特別条項を利用した個人再生を申し立てることは可能です。

ただし,上記のとおり,巻戻しをするには,代位弁済の日から6か月を経過する日までの間に個人再生の申立てをしなければなりませんので,すでに代位弁済されてしまっている場合には,急いで行動する必要があるでしょう。

自宅が競売にかけられてしまっている場合でも住宅資金特別条項を使えるのか?

住宅ローンを数か月滞納すると,住宅ローンの担保となっている不動産が競売にかけられてしまうということがあります。

すでに自宅が競売にかけられてしまっている場合であっても,競売手続において開札期日になる前までに,個人再生の申立てと抵当権実行手続中止の申立てを行い,裁判所によって抵当権実行手続の中止命令を出してもらい,その命令の正本を競売を担当している裁判所に提出することができれば,競売を停止させることが可能です。

したがって,上記の競売停止まで行えるだけの時間的猶予があるのであれば,自宅について抵当権が実行がされて競売の手続が開始されていたとしても,住宅資金特別条項を使った個人再生を申し立てることは可能です。

預金を解約されるのか?

前記のとおり,個人再生の場合は,自己破産と異なり,財産の処分が必須とされていません。

したがって,個人再生をしたからといって,預金を解約しなければならないということはありません。

ただし,預金残高は清算価値に計上されます。したがって,預金残高が,個人再生おいてどのくらい減額できるのかに影響を与えることはあり得ます。

もっとも,東京地方裁判所では,すべての預金残高合計額が20万円以下の場合には,その預金残高は清算価値に計上されない扱いとなっています。

通帳を作れなくなるのか?

個人再生をしたからと言って,預金口座を開設できなくなるわけではありません。個人再生をしても,預金口座の通帳を新たに開設することは可能です。

家を借りることができなくなるのか?

個人再生をしたからといって,新たに家を借りれなくなるということはありません。

ただし,家を借りる際の賃貸保証会社が信販会社系の賃貸保証会社である場合,その賃貸保証会社は信用情報を確認することができます。

そうすると,ブラックリストに登録されていることを確認できますから,それによって,賃貸保証の審査が通らず,家を借りることができなくなるという事態が生じる可能性はあり得るでしょう。

その場合には,信販系でない賃貸保証会社にしてもらうか,保証会社ではなく連帯保証人にしてもらうなどの対応をする必要があるでしょう。

賃借している借家・借地はどうなるのか?

個人再生をしたからといって,借りている借地や借家を返さなければならないということはありません。

もっとも,土地・建物を賃借している場合,敷金・保証金を差し入れているのが通常です。この敷金返還請求権も個人再生における清算価値に計上されるのが原則です。

したがって,したがって,戻ってくる敷金・保証金の額が,個人再生おいてどのくらい減額できるのかに影響を与えることはあり得ます。

ただし,東京地方裁判所では,居住している自宅の敷金返還請求権は自由財産として扱われています。そのため,個人再生をしても,清算価値に影響を与えません。

他方,自宅でない賃借不動産の敷金や保証金の額は,東京地方裁判所であっても,清算価値に計上され,どのくらい減額できるのかに影響を与えることになります。

なお,個人再生をしたことを理由に,賃貸人(貸主)が賃貸借契約を解除することはできません。賃貸人から解約されてしまうおそれはないということです。

所有している自動車はどうなるのか?

個人再生の場合は,自己破産と異なり,財産の処分が必須とされていません。

したがって,個人再生をしたからといって,所有している自動車を処分しなければならないということはありません。

ただし,自動車は清算価値に計上されます。したがって,自動車の査定額が,個人再生おいてどのくらい減額できるのかに影響を与えることはあり得ます。

もっとも,東京地方裁判所では,所有自動車全部の査定額合計額が20万円以下の場合には,その自動車は清算価値に計上されない扱いになっています。

他方,自動車ローンが残っており,所有権留保が付いている場合には,個人再生をすると,留保所有権者によって,自動車が引き上げられてしまうことはあります。

自動車ローンが残っている場合には,原則として,自動車を残すことはできないと考えておいた方が良いでしょう。

自動車ローンが残っている自動車はどうなるのか?

個人再生の場合は,自己破産と異なり,財産の処分が必須とされていません。

もっとも,自動車ローンが残っており,所有権留保が付いている場合には,個人再生をすると,留保所有権者によって,自動車が引き上げられてしまうことはあります。

したがって,自動車ローンが残っている場合には,原則として,自動車を残すことはできないと考えておいた方が良いでしょう。

ただし,例外的に,自動車ローンが残っている場合でも,(通常は考えられませんが)所有権留保の登録がされていない場合や,自動車販売会社名義で所有権の登録がされており,ローン契約の内容が立て替え払い方式となっているような場合には,自動車ローン会社からの引渡し請求を拒絶できる可能性はあります。

加入している生命保険などはどうなるのか?

個人再生の場合は,自己破産と異なり,財産の処分が必須とされていません。

したがって,個人再生をしたからといって,加入している生命保険などを解約しなければならないということはありません。

ただし,生命保険などの民間の保険に加入している場合,解約すると納めた保険料の一部が解約返戻金(かいやくへんれいきん)として返ってくることがあります。

この解約返戻金を返してもらえる権利も債権であり,財産に当たりますから,清算価値に計上されます。したがって,解約返戻金見込額が,個人再生おいてどのくらい減額できるのかに影響を与えることはあり得ます。

もっとも,東京地方裁判所では,加入している保険全部の解約返戻金見込額合計額が20万円以下の場合には,その解約返戻金額は清算価値に計上されない扱いになっています。

給料はどうなるのか?

個人再生の場合は,自己破産と異なり,財産の処分が必須とされていません。したがって,個人再生をしたからといって,給料が差し押さえられることはありません。

退職金はどうなるのか?

個人再生の場合は,自己破産と異なり,財産の処分が必須とされていません。したがって,個人再生をしたからといって,退職金が差し押さえられることはありません。

もっとも,まだ退職をしていなくても,将来退職したときに退職金が支給されることになっているのであれば,その退職金の請求権も財産として扱われ,清算価値に計上されます。

したがって,退職金見込額が,個人再生おいてどのくらい減額できるのかに影響を与えることはあり得ます。

ただし,将来退職したときの金額ではなく,個人再生における再生計画認可または不認可決定の時点で退職したと仮定して,その時点でもらえるであろう金額が基準となります。

また,退職金請求権の4分の3は差押えが禁止されていますので,その4分の3の額は清算価値に計上しなくてよく,計上されるのは,退職金請求権の4分の1の金額のみです。

東京地方裁判所では,清算価値に計上しなくてもよい範囲が8分の7にまで拡大されており,さらに,8分の1の額が20万円以下の場合には全額について清算価値に計上しなくてもよいことにされています。

したがって,清算価値に計上しなくてはならない場合は,再生計画認可または不認可決定の時点における退職金請求権の見込み額が160万円を超える場合に限られることになります。

年金はどうなるのか?

個人再生の場合は,自己破産と異なり,財産の処分が必須とされていませんから,年金が差し押さえられることはありません。

また,国民年金や厚生年金などの年金を受給している場合,これら年金の受給権は差押禁止とされていますので,個人再生をしたとしても,清算価値に計上されることもありません。

したがって,個人再生をしたとしても,従前どおり,受給することができますし,減額率に影響を与えることもありません。

就けなくなる職業・仕事があるのか?

個人再生の場合,自己破産と異なり,資格制限がありません。したがって,個人再生をしたことによって就けなくなる職業や仕事はありません。

取締役・社長になることができなくなるのか?

自己破産と異なり,個人再生(民事再生)手続の開始は,委任契約の終了事由になっていません。

したがって,個人再生をしても,取締役・社長になることはできますし,すでに取締役・社長である場合は,(会社等との契約等で定められていない限り)解任されることはありません。

ギャンブルで借金を増やした場合でも個人再生を利用できるのか?

自己破産の場合,ギャンブルで借金を大幅に増やしてしまったなどの免責不許可事由があると,免責を受けられないことがあります。

これに対し,個人再生は,自己破産における免責不許可事由がある場合でも,他の要件を充たす限り,再生計画認可の決定による借金の減額等を認めてもらえます。

したがって,免責不許可事由があるため免責が不許可となる可能性が高い場合には,個人再生を検討するのも1つの方法です。

※ なお,自己破産において免責不許可事由があると,必ず免責不許可となるというわけではありません。免責不許可事由がある場合でも,内容や程度等によっては,裁判官の裁量により免責が許可されることも少なくありません。

どのようなデメリットがあるのか?

個人再生は,財産を処分せずに借金・債務を大幅に減額にできるという強力な効力・メリットがある反面,一定のデメリットも存在します。具体的には,以下のようなデメリットがあります。

個人再生のデメリット
  • ブラックリスト(事故情報)に登録されること
  • 個人再生をしたことが官報に公告されること
  • 利用のための要件が厳格であること
  • 手続きが複雑なうえに自ら進めていかなければならないこと
  • 返済を継続していかなければならないこと

これらのデメリットがあることを踏まえて,個人再生を選択するかどうかを決める必要があるでしょう。

何ができなくなるのか?

個人再生は,自己破産に比べれば制限は少ないものの,できなくなることがいくつか生じてきます。具体的には以下のことができなくなります。

個人再生するとできなくなること
  • 新たに借入れ・ローンを組むこと・クレジットカードを作ることが非常に難しくなる。
  • 信販会社系の賃貸保証会社を使って家を借りることが難しくなる。
  • 給与所得者等再生の再生計画許可決定の確定後7年間は,自己破産において免責を受けることが難しくなる。

なお,借入れ等や信販会社系の賃貸保証会社を使って家を借りることは,必ずできなくなるわけではなく,審査が厳しくなり,その結果することができない場合があるということです。

給与所得者等再生の再生計画認可決定確定後7年間は,自己破産をすると,免責不許可事由があるという扱いになります(小規模個人再生の認可決定の場合には,この制限はありません。)。

借入れ,ローンを組むこと,クレジットカードを作ることができなくなるのか?

個人再生をすると,再生計画に基づく返済完了から5年間,信用情報に事故情報(いわゆる「ブラックリスト」。)に登録されると言われています。

したがって,個人再生の手続中やその返済完了後から5年間(または個人再生手続の開始から10年間)ほどは,新たに借入れをしたり,ローンを組んだり,クレジットカードを作ったりすることが非常に難しくなります。

審査に通りにくくなるというとことですので,まったくできなくなるというわけではありませんが,せっかく個人再生をして経済的更生を図ろうというにもかかわらず再び借金をしてしまうのがは望ましくありません。

基本的には,新たな借入れ等ができなくなると考えておいた方がよいでしょう。

官報に掲載されてしまうのか?

個人再生の手続においては,関係者に再生手続への参加の機会を与えるため,官報による公告がなされます。これを止めることはできません。

官報に掲載されるタイミングは,以下のとおりです。

個人再生において官報公告されるタイミング
  • 個人再生の再生手続開始決定がされたとき
  • 小規模個人再生において書面決議に付する旨の決定がなされたとき,または,給与所得者等再生において意見聴取を行う旨の決定がされたとき
  • 再生計画認可決定がなされたとき

官報を常にチェックしているような人はほとんどいないと思いますが,掲載される以上,だれにも知られずに個人再生の手続きを進めることは難しいとは言えるでしょう。

携帯電話・スマートフォンも解約されるのか?

携帯電話やスマートフォンは,現在においてはほとんど必須の通信手段となっています。そのため,これらの通話料は,生活に必要不可欠な支出として,支払いを継続していても問題ないでしょう。

問題となるのは,スマートフォンの端末機器を分割払いで購入している場合の割賦代金です。

このスマートフォン端末の割賦代金については,通信費の一環として扱うべきか,または,割賦代金である以上,他の債権と同様に債権者として扱うべきかという議論がありますが,まだ定まった見解はありません。

債権者として扱うということになれば,個人再生をすると減額の対象となり,これまでどおりの支払いを続けていくことができませんから,いずれ解約されて利用できなくなってしまう可能性が生じます。

スマートフォン端末の割賦代金が残っている場合には,一括で購入できるようなものに変えておくなどの措置をとっておいた方が無難でしょう。

保証人・連帯保証人にはどのような影響を生じるのか?

個人再生をして再生計画認可許可を受けると,借金・債務が減額の上分割払いにしてもらえます。しかし,減額や分割払いの効果が生じるのは個人再生をした人のみです。

そのため,主たる債務者が個人再生をすると,その債務のうち減額されてしまった部分は,保証人・連帯保証人が支払わなければならなくなります。

この場合,約定にもよるでしょうが,債権者は,保証人・連帯保証人に対して一括請求が可能となるのが通常です。実際に一括請求するかどうかは債権者次第ではありますが,その可能性があることは間違いありません。

場合によっては,保証人・連帯保証人の方も何らかの債務整理をしなければならないということもあり得るでしょう。

家族に知られてしまうのか?

ご家族から借金をしているような場合,そのご家族も債権者ですから,裁判所から通知が送付されます。したがって,当然,個人再生をしていることは知られてしまいます。

また,ご家族に対して偏頗弁済をしていたり,財産を移転していたりなどの事情がある場合には,その調査や返還請求などをしなければならなくなることもあるので,それによって知られるということもあるでしょう。

その他,債権者からの連絡によって発覚するということがないわけではありません。

個人再生により生活再建を図るためには,ご家族の協力が必要です。したがって,隠すのではなく,事前に個人再生することを伝え,協力を仰いだ方が望ましいでしょう。

家族にはどのような影響を生じるのか?

個人再生によって影響を受けるのは個人再生を申し立てたご本人です。原則として,ご家族の方に直接の影響は生じません。

もっとも,ご家族が保証人・連帯保証人となっている場合には,個人再生ををすると,そのご家族に対して請求が行きます。

また,ご家族に対してだけ偏頗弁済をしている場合,支払不能になった後に財産をご家族の名義に移してしまっている場合などには,それらの財産を返還してもらわなければならない場合はあり得るでしょう。

なお,個人再生の手続においては,ご家族も含めた収支を作成して裁判所に提出しなければならないため,収支の作成や資料の収集などに協力してもらう必要が生じるでしょう。

勤務先の会社などに知られてしまうのか?

原則として,個人再生をしたからといって,裁判所や個人再生委員が勤務先の会社に通知をすることはありません。

ただし,勤務先会社から借入れをしているような場合,その勤務先会社も債権者ですから,裁判所から通知がなされます。

また,財産の調査,特に退職金請求権の金額の調査のために勤務先会社に連絡を取らなければならない場合はあり得ます。これを避けるためには,事前に退職金の金額等の証拠資料をご自身で準備しておく必要があるでしょう。

本籍地の役所に個人再生をしたことが通知されてしまうのか?

個人再生をしたからといって,本籍地の役所に個人再生をしたことが通知されてしまうことはありません。

必ず再生計画が認可されるのか?

自己破産の手続をとる最大の目的は,裁判所によって再生計画を認可してもらうことにあります。とはいえ,個人再生を申し立てれば,必ず再生計画を認可してもらえるというわけでありません。

再生計画認可に至るまでには,多くの条件(法律要件)を充たさなければなりません。実際,個人再生を申し立てたものの,認可に至らないというケースは少なくありません。

したがって,個人再生が認可に至るかどうかは,事前に十分な検討が必要です。

個人事業・自営業は廃業しなければならないのか?

個人再生をしたからといって,必ず個人事業・自営業を廃業しなければならないわけではありません。

個人事業者であっても,個人再生(小規模個人再生)によって,事業を継続しながら,借金を整理することが可能です。

ただし,個人事業者・自営業者の方の個人再生手続は,サラリーマンの方などの手続に比べて,条件的にも手続的にも,かなり難しいものとなってきます。

個人再生の手続は自分で進めていかなけばならないのか?

自己破産の手続は,裁判所が選任した破産管財人が手続を遂行していき,破産者はその指示に従って協力をするという形で進みます。

これに対し,個人再生の手続では,裁判所により個人再生委員が選任されることはありますが,この個人再生委員はあくまで監督が業務であり,手続を主導的に遂行してくれるわけではありません。

したがって,個人再生の手続においては,個人再生を申し立てた再生債務者が自ら,債権者対応等も含めて手続を進めていかなければなりません。

ただし,弁護士等に代理人を依頼している場合には,その代理人弁護士等が代わりに手続を進めていってくれるはずので,依頼者である再生債務者が自分で手続を進めていくという必要はありません。

個人再生をすると自己破産をすることができなくなるのか?

自己破産において免責許可を申し立てた時点で,そこからさかのぼって7年以内に給与所得者等再生について再生計画認可決定を受けて確定したことがあった場合,そのことが免責不許可事由に当たります。

つまり,給与所得者等再生の再生計画認可決定確定日から7年間は,自己破産をして免責許可を受けることができないのが原則であるということです。

ただし,7年以内の自己破産・免責許可の申立てであっても,裁判所の裁量によって免責が許可されることはあり得ます。

また,この制限があるのは給与所得者等再生のみです。小規模個人再生の場合は,認可確定後7年以内に自己破産を申し立てても,免責不許可事由にはなりません。

再生計画が認可された後はどうなるのか?

個人再生の手続において,裁判所によって再生計画を認可してもらった後は,その再生計画に基づいて返済をしていくことになります。

そして,その再生計画に基づくすべての返済を終えることができれば,手続は終了となります。

その後に,貸金業者などから減額した分を支払うよう請求を受けたり,嫌がらせを受けたりするようなことはありません。

もっとも,返済を完了してから5年間(または、個人再生手続の開始から10年間)程度は,信用情報に事故情報(ブラックリスト)として登録されていますので,新たに借入れをしたり,ローンを組んだりすることは難しくなります。

個人再生によって,仕事を解雇されたり(ただし,個人事業・自営業は廃業せざるを得ないことはあります。),賃借している家を追い出されたりするようなことはありません。

したがって,返済を継続することやブラックリストに登録されていることを除くと,大きな生活の変化は無いのが通常でしょう。

再生計画に基づく返済ができなくなってしまうとどうなるのか?

裁判所によって認可してもらった再生計画に基づく返済ができなくなってしまった場合,債権者の申立てによって,その認可決定が取り消されてしまいます。

認可決定が取り消されると,その認可決定による減額の効果もなくなってしまうため,個人再生をする前の状態に戻ってしまいます。

ただし,認可取り消しの前に,再生計画の変更を申し立てることにより,最長で2年間,計画を延長してもらえます。

また,認可取り消しの前に,再生計画に基づく基準債権等に対する弁済のうち4分の3以上をすでに支払い終わっている場合には,「ハードシップ免責」を申し立てることにより,返済ができなくなった部分についての支払いを免責してもらえます。

ただし,この再生計画の変更もハードシップ免責の申立ても,単に支払えないという程度では認められず,やむを得ない事情がなければ認められません。

再生計画の変更等が認められず,認可が取り消されてしまった場合は,自己破産等他の手続や再度の個人再生申立てを検討するほかないでしょう。

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