
債務整理すると,借金など債務の支払義務を免れたり減額できるなどのメリットがある反面,いくつかの制限やデメリットがあることも確かです。ただし,インターネットで出回っている自己破産のデメリットには間違った情報も少なくありません。
債務整理するとどうなるのかについて正確な情報を把握した上で,債務整理をすべきかどうか,どの債務整理手続を選択するのかを検討する必要があります。
- 債務整理とは何か?
- どのようなメリットがあるのか?
- 借金・債務はどうなるのか?
- どのようなデメリットがあるのか?
- 借入れ,ローンを組むこと,クレジットカードを作ることができなくなるのか?
- 家を借りることができなくなるのか?
- 自己破産にはどのようなデメリットがあるのか?
- 個人再生にはどのようなデメリットがあるのか?
- 任意整理にはどのようなデメリットがあるのか?
- 官報に掲載されてしまうのか?
- 保証人・連帯保証人にはどのような影響を生じるのか?
- 家族に知られてしまうのか?
- 家族にはどのような影響を生じるのか?
- 勤務先の会社などに知られてしまうのか?
- 本籍地の役所に自己破産したことが通知されてしまうのか?
- 就けなくなる職業・仕事があるのか?
- 取締役・社長になることができなくなるのか?
- 選挙権もなくなってしまうのか?
- どのような場合に失敗することがあるのか?
- 持っている財産はどうなるのか?
- その後の生活はどうなるのか?
債務整理とは何か?
借金などの債務が膨れ上がって多重債務になってしまった場合,これを解決するための法的手段のことを総称して「債務整理」と呼んでいます。
この債務整理には,主として「自己破産」「個人再生(個人民事再生)」「任意整理」という3つの方法があります。
自己破産とは,借金等を負っている債務者が自ら裁判所に破産を申し立て,裁判所から免責を許可してもらうことにより,借金等の債務の支払い義務をすべて免除してもらう裁判手続です。
個人再生とは,債務者が自ら裁判所に個人再生を申し立て,借金減額・分割払い等を定めた再生計画を裁判所に認可してもらうことにより,借金等の債務の減額や分割払いを実現できる裁判手続です。
任意整理とは,弁護士等が代理人となって貸金業者などと交渉して,返済条件を変更してもらう裁判外での手続です。
いずれの方法にも,一長一短があります。どれが良いのかは一概には言えません。それぞれの事情によって異なってきます。
以下では,これら債務整理手続きを行った場合にどうなるのかについて説明します。
どのようなメリットがあるのか?
債務整理の最大のメリットは,自己破産・個人再生・任意整理のいずれであっても,借金など債務の負担を軽減できるところにあります。
どの程度,借金の負担を軽減できるかは,それぞれの手続によって違いがありますが,借金の減免,長期の分割払いへの変更などによって,借金の負担を軽減していくことになります。
また,いずれの手続であっても,弁護士等が受任通知(介入通知)を送付することによって,返済を一旦停止させるとともに,貸金業者や債権回収会社からの直接の取立て・督促も停止させることができる点もメリットの1つでしょう。
この支払いを停止し,取立てが止んでいる間に,手続の準備を進めていくことになります。
借金・債務はどうなるのか?
自己破産の場合は,裁判所から免責を許可してもらうことにより,税金などを除いて,すべての借金などの債務の支払い義務を免除してもらえます。つまり,返済しなくてもよいことになるということです。
これに対して,個人再生や任意整理の場合は,返済を継続しなくてはなりません。ただし,利息の払い過ぎ(いわゆる過払い)がある場合には,その払い過ぎの分は減額できます。
個人再生の場合は,払い過ぎの分の減額だけでなく,裁判所から再生計画を認可してもらうことにより,借金などの債務を大幅に減額してもらえることがあります。
債務の額,財産の価額,小規模個人再生と給与所得者等再生のどちらの手続を選択したのか等によって異なりますが,概ね5分の1(ただし100万円まで),最大で10分の1まで減額できる場合もあります。
そして,その減額された債務を,原則3年間の分割払いにできます。事情によっては,5年間まで延長できます。
他方,任意整理の場合は,払い過ぎの分の減額を超えて減額することは難しいのが現状です。
任意整理の場合の分割払いも,原則は3年間です。債権者によっては3年間を超える期間(概ね5年間程度)の分割払いが可能な場合もあります。
滞納税金や国民年金保険料・国民健康保険料などはどうなるのか?
自己破産や個人再生をしても,税金・国民健康保険料・国民年金保険料は減免されません。任意整理も,税金などは対象外です。
したがって,債務整理をしても,上記の滞納税金等については通常どおりに支払わなければなりません。
そのため,税金等の滞納や支払いが厳しい場合には,税務署等関係機関に相談し,分納等の措置を取る必要があります。
奨学金はどうなるのか?
奨学金も貸金(または立替金)ですから,自己破産をして裁判所によって免責許可の決定を受ければ,支払いをしなくてもよいことになります。
個人再生も,裁判所によって再生計画免責許可の決定を受ければ,減額の上分割払いで支払っていくことになります。
他方,任意整理も可能ではありますが,奨学金はもともとかなりの長期分割払いにになっているため,任意整理をしても月々の返済額を減らすことは難しく,あまり任意整理をする意味がないことが多いでしょう。
なお,奨学金に保証人・連帯保証人がいる場合,その保証人・連帯保証人に請求がいくことになります。
保証人・連帯保証人に請求が行く場合,法的には一括請求が可能ですが,従前と同じ条件での分割払いで請求されるのが一般的でしょう。
自己破産や個人再生では,連帯保証人等が付いている奨学金債務だけ除外することができません。
連帯保証人等への請求を避けるためには,任意整理を選択し,奨学金債務だけ除外して,その他の借金等だけ任意整理をするという方法をとる他ないでしょう。
住宅ローンはどうなるのか?
住宅ローンも貸金ですから,自己破産であれば,住宅ローンの支払いは免除され,個人再生であれば,減額の上分割払いで支払っていくことになります。
他方,住宅ローンは金額もかなり高額ですので,任意整理をすることは困難です。リスケジュールをしてもらう他ないでしょう。
ただし,いずれの場合であっても,住宅ローンを対象として債務整理をすると,担保となっている住宅は,住宅ローン会社によって競売にかけられ処分されることになります(自己破産の場合には,裁判所が選任した破産管財人によって換価処分されることもあります。)。
住宅を残したい場合には,任意整理を選択し,住宅ローンだけ除外して,その他の借金等だけ任意整理をするか,または,個人再生の住宅資金特別条項(住宅ローン特則)を利用する方法を選択することになるでしょう。
個人再生において,住宅資金特別条項を利用できる場合には,住宅ローンだけ通常どおり(または若干リスケジュールして)支払いを継続することにより,住宅(自宅に限られます。)を維持したまま,その他の借金等を個人再生によって整理することが可能となります。
自動車ローンはどうなるのか?
自動車ローンも貸金(または立替金)ですから,自己破産であれば,自動車ローンの支払いは免除され,個人再生であれば,減額の上分割払いで支払っていくことになります。
また,任意整理によって,自動車ローンを長期の分割払いにしてもらうことも相手方によっては可能です。
ただし,いずれの場合であっても,自動車ローンを対象として債務整理をすると,所有権留保の対象となっている自動車は,クレジット会社によって引き揚げられます(自己破産の場合には,裁判所が選任した破産管財人によって換価処分されることもあります。)。
自動車を残したい場合には,任意整理を選択し,自動車ローンだけ除外して,その他の借金等だけ任意整理をすることになるでしょう。
商品購入のローンはどうなるのか?
商品購入のローン(ショッピングローン)も貸金(または立替金)ですから,自己破産であれば,ローンの支払いは免除され,個人再生であれば,減額の上分割払いで支払っていくことになります。
また,任意整理によって,ローンを長期の分割払いにしてもらうことも相手方によっては可能です。
ただし,いずれの場合であっても,ローンを対象として債務整理をすると,クレジット会社によって対象商品が引き揚げられることがあります(自己破産の場合には,裁判所が選任した破産管財人によって換価処分されることもあります。)。
もっとも,引き揚げられるか否かは,相手方や商品によって異なります。引き揚げても価値の無いものや引き揚げるために過剰なコストがかかるものは,引き揚げられないこともあります。
返済は止められるのか?
債務整理を弁護士に依頼すると,依頼後すぐに,弁護士等が受任通知(介入通知)を各債権者に送付します。
自己破産・個人再生であればすべての債権者に,任意整理であれば対象の債権者に,それぞれ受任通知を送付します。
受任通知を送付した後は,返済は一旦停止されます。また,返済停止しても,債権者からの取立ても停止します。
この支払い停止・取立て停止をしている間に,債務整理の手続の準備をしていくことになります。
支払いが再開されるのは,任意整理であれば和解が成立した後,個人再生であれば再生計画が認可された後です(自己破産の場合は免責が許可されれば返済はなくなります。)。
債権者からの取立てはどうなるのか?
債務整理を弁護士に依頼すると,依頼後すぐに,弁護士が受任通知(介入通知)を各債権者に送付し,支払いを停止します。
また,受任通知を送付すると,貸金業者,債権回収会社(サービサー),金融機関からの直接の取立ても停止することができます。
そのため,受任通知後は,貸金業者等からの電話,FAX,手紙などによる取立て・督促はすべて,弁護士宛てになり,債務者ご本人には来なくなります。
ただし,受任通知のみでは訴訟提起や強制執行を止めることまではできません。
債権者から裁判を起こされることはあるのか?
上記のとおり,弁護士から受任通知を送付すれば直接の取立てを止めることはできますが,裁判の提起まで止めることはできません。
そのため,受任通知後に,債権者から貸金返還等の裁判(訴訟など)を起こされることはあります。
一般的な貸金業者等であれば,ある程度の期間は裁判提起をしないで待ってくれます。
しかし,一部の業者(モビットなど)は,3か月程度しか裁判提起を待ってくれないこともあります。フクホーなどは,受任通知が届くとすぐに訴訟提起をしてくることもあります。
訴訟を提起され判決を取られると,給料差押えなどのリスクが生じます。これを止めるためには,自己破産や個人再生を急いで裁判所に申し立てるか,訴訟中に任意整理の和解をする他ないでしょう。
すでに提起されている訴訟はどうなるのか?
債務整理開始の時点ですでに貸金返還などの訴訟が提起されている場合,これを止めるためには,自己破産や個人再生を裁判所に申し立てるか,訴訟中に任意整理の和解をする他ありません。
自己破産を申し立てて破産手続が開始されると,すでに提起されている訴訟は中断されます。
個人再生の場合は,手続が開始されても訴訟は中断されませんが,手続開始後に給料差押えなどの強制執行をすることができなくなります。
給料の差押えはどうなるのか?
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債務整理開始の時点でまだ給料の差押えがされていない場合には,できる限り早く自己破産や個人再生を裁判所に申し立てるか,任意整理の和解を完了する以外ありません。
また,債務整理開始の時点ですでに給料の差押えがされている場合,これを止めるためには,自己破産や個人再生を裁判所に申し立てる他ありません。
任意整理の場合には,すでに開始されている給料の差押えを解除してもらうことはかなり困難でしょう。
自己破産の手続が開始されると,それ以降給料差押えなどの強制執行をすることはできなくなり,すでにされている給料差押えは停止または取り消されることになります。
個人再生の場合も,手続が開始されると,それ以降給料差押えをすることはできなくなり,すでにされている給料差押えは中止または取り消されることになります。
どのようなデメリットがあるのか?
債務整理の各手続き(自己破産・個人再生・任意整理)にはそれぞれメリットがありますが,その反面,デメリットも存在します。
債務整理に共通するデメリットとしては,やはり,信用情報に事故情報(ブラックリスト)として登録されることでしょう。
ブラックリストに登録されると,一定期間,新たに借入れをしたり,ローンを組んだり,クレジットカードを利用したりすることができなくなります。
また,これ以外にもそれぞれの手続ごとに異なるデメリットがあります。
借入れ,ローンを組むこと,クレジットカードを作ることができなくなるのか?
上記のとおり,債務整理をすると,信用情報に事故情報(いわゆる「ブラックリスト」。)として登録されます。
したがって,その期間中は,新たに借入れをしたり,ローンを組んだり,クレジットカードを作ったりすることが非常に難しくなります。
審査に通りにくくなるというとことですので,まったくできなくなるというわけではありませんが,せっかく債務整理をして経済的更生を図ろうというにもかかわらず再び借金をしてしまうのがは望ましくありません。
基本的には、10年間ほどは新たな借入れ等ができなくなると考えておいた方がよいでしょう。
家を借りることができなくなるのか?
債務整理をしたからといって,新たに家を借りれなくなるということはありません。
ただし,家を借りる際の賃貸保証会社が信販会社系の賃貸保証会社である場合,その賃貸保証会社は信用情報を確認することができます。
そうすると,ブラックリストに登録されていることを確認できますから,それによって,賃貸保証の審査が通らず,家を借りることができなくなるという事態が生じる可能性はあり得るでしょう。
その場合には,信販系でない賃貸保証会社にしてもらうか,保証会社ではなく連帯保証人にしてもらうなどの対応をする必要があるでしょう。
自己破産にはどのようなデメリットがあるのか?
自己破産は借金・債務を帳消しにできるという強力な効力・メリットがある反面,一定のデメリットも存在します。具体的には,以下のようなデメリットがあります。
- ブラックリスト(信用情報の事故情報)に10年間程度登録されること
- 生活必需品等を除く財産を処分しなければならないこと
- 自己破産をしたことが官報に公告されること
- 破産手続中は公的な資格を使った仕事ができなくなること
- 破産手続中は住居を自由に移転できなくなること
- 破産手続中は郵便物が破産管財人によって調査されること
- 免責不許可になった場合には,自己破産したことが市町村役場に通知されること
ただし,自己破産のデメリットには誤解されている部分も少なくありません。正確な情報を把握しておく必要があります。
個人再生にはどのようなデメリットがあるのか?
個人再生は,財産を処分せずに借金・債務を大幅に減額にできるという強力な効力・メリットがある反面,一定のデメリットも存在します。具体的には,以下のようなデメリットがあります。
- ブラックリスト(事故情報)10年間程度登録されること
- 個人再生をしたことが官報に公告されること
- 利用のための要件が厳格であること
- 手続きが複雑なうえに自ら進めていかなければならないこと
- 返済を継続していかなければならないこと
これらのデメリットがあることを踏まえて,個人再生を選択するかどうかを決める必要があるでしょう。
任意整理にはどのようなデメリットがあるのか?
任意整理は,裁判手続でないため利用条件が厳しくなく柔軟な対応が可能となる反面,一定のデメリットも存在します。具体的には,以下のようなデメリットがあります。
- ブラックリスト(事故情報)完済から5年間程度登録されること
- 返済を継続していかなければならないこと
- 返済額が高額になる場合があること
- 強制力がないため,任意整理困難な貸金業者などがいると失敗に終わる可能性があること
官報に掲載されてしまうのか?
自己破産と個人再生の場合には,関係者に破産手続への参加の機会を与えるため,官報による公告がなされます。これを止めることはできません。
他方,任意整理の場合は,官報に公告されることはありません。
保証人・連帯保証人にはどのような影響を生じるのか?
債務整理をした場合,対象とする債務に保証人・連帯保証人が設定されていると,その保証人や連帯保証人が,債務整理をした人に代わって,債務を支払わなければならなくなります。
この場合,約定にもよるでしょうが,債権者は,保証人・連帯保証人に対して一括請求が可能となるのが通常です。実際に一括請求するかどうかは債権者次第ではありますが,その可能性があることは間違いありません。
場合によっては,保証人・連帯保証人の方も何らかの債務整理をしなければならないということもあり得るでしょう。
なお,自己破産や個人再生の場合は,連帯保証人等がついている債務だけを除外することはできませんが,任意整理の場合には可能な場合があります。
家族に知られてしまうのか?
ご家族から借金をしているような場合,そのご家族も対象として債務整理をすれば,当然,その家族には債務整理をしていることを知られてしまいます。
自己破産や個人再生の場合は,家族からの債務だけを除外することはできませんが,任意整理の場合には可能です。
また,自己破産の場合には,ご家族に対して偏頗弁済をしていたり,財産を移転していたりなどの事情があるときは,破産管財人によってそのご家族に対して否認権行使がなされ,それによって知られるということもあるでしょう。
その他,債権者や破産管財人・個人再生委員からの連絡によって発覚するということがないわけではありません。
生活再建を図るためには,ご家族の協力が必要です。したがって,隠すのではなく,事前に債務整理をすることを伝え,協力を仰いだ方が望ましいでしょう。
家族にはどのような影響を生じるのか?
債務整理をしたことによって影響を受けるのはご本人です。原則として,ご家族の方に直接の影響は生じません。
自己破産であっても,処分される財産は破産者本人のものだけですので,ご家族の財産が処分されることもありません。
ただし,ご家族が保証人・連帯保証人となっている場合には,その債務を対象として債務整理をすると,そのご家族に請求が行きます。
また,自己破産の場合には,ご家族に対して偏頗弁済をしていたり,財産を移転していたりなどの事情があるときは,破産管財人によってそのご家族に対して否認権行使がなされ,それによって知られるということもあるでしょう。
勤務先の会社などに知られてしまうのか?
原則として,債務整理をしたからといって,裁判所や破産管財人が勤務先の会社に通知をすることはありません。
ただし,勤務先会社から借入れをしているような場合,その勤務先会社を対象とすれば,当然,その勤務先会社に債務整理をしていることを知られることになります。
自己破産や個人再生の場合は,勤務先会社からの債務だけを除外することはできませんが,任意整理の場合には可能です。
また,自己破産の場合には,財産の調査,特に退職金請求権の金額の調査のために,破産管財人が勤務先会社に連絡を取ることはあり得ます。これを避けるためには,事前に退職金の金額等の証拠資料をご自身で準備しておく必要があるでしょう。
その他,債権者から給料差押えをされてしまうと,少なくとも借金を支払っていないことは知られてしまうことになるでしょう。
本籍地の役所に自己破産したことが通知されてしまうのか?
債務整理をしたからと言って,本籍地の役所に債務整理をしたことが通知されてしまうようなことはありません。
ただし,自己破産をして免責が不許可になってしまった場合には,本籍地の役所に自己破産をしたことが通知されてしまうことがあります。(最高裁民三第000113号平成16年11月30日最高裁判所事務総局民事局長通達)。
免責不許可になるのは、よほどの場合だけです。したがって,それほど心配することはないでしょう。
就けなくなる職業・仕事があるのか?
自己破産の場合には,手続が開始されると,一定の資格の利用を制限されるという効果を生じます。
例えば,警備員,保険外交員,各種の士業などの資格は,自己破産の手続開始後に利用が制限され,その資格を使った仕事に就けなくなります。
ただし,この資格制限は,裁判所により免責許可決定を受けてそれが確定すれば解除されます。したがって,資格利用が制限されるのは,数か月間に限られます。
他方,個人再生や自己破産の場合には,資格の制限などはありません。
取締役・社長になることができなくなるのか?
自己破産の場合には,手続が開始されると,会社との委任関係が当然に終了するため,取締役は解任となります。
とはいえ,破産手続開始後に,株主総会で選任されれば,再度,取締役に就任することは可能です。
他方,個人再生や自己破産の場合には,委任の終了事由に当たらないので,取締役を解任されることはありません。
選挙権もなくなってしまうのか?
債務整理をしたからといって,選挙権がなくなるようなことはありません。自己破産の場合でも同様です。
どのような場合に失敗することがあるのか?
自己破産や個人再生は裁判手続ですから,法律で定める要件を充たしていなければ失敗することになります。
他方,任意整理の場合は,裁判外の手続であるため,特別な法律要件が定められているわけではありません。もっとも,そもそも返済できるだけの収入が無い場合には利用できませんし,相手方が強硬で話し合いに応じてくれない場合には,失敗してしまうことがあり得ます。
持っている財産はどうなるのか?
債務整理のうち,任意整理は裁判外の手続ですから,財産を処分しなければならないようなことはありません。
個人再生も,財産処分は必須とされていません。しかし,持っている財産の価値は,どのくらい減額できるのかに影響します。高額の財産を持っていると,あまり減額できないことがあります。
ただし,ローンで購入した商品は,ローン会社によって引き揚げられることがあります。
任意整理の場合は,ローン債務を任意整理の対象から除外することによって引き揚げを回避できますが,個人再生の場合には,ローン債務だけ除外することはできません。
もっとも,個人再生であっても,ローンが住宅ローンの場合には,住宅資金特別条項を利用できる場合には,住宅ローンだけ通常どおり(または若干リスケジュールして)支払いを継続することにより,住宅(自宅に限られます。)を維持したまま,その他の借金等を個人再生によって整理することが可能となります。
これに対し,自己破産の場合には,財産を処分しなければなりません。とはいえ,すべての財産を処分しなければならないわけではありません。
個人(自然人)の破産の場合,自己破産をしても処分しなくてもよい財産が認められています。この自己破産しても処分しなくてもよい財産のことを「自由財産」といいます。
自由財産としては以下のものがあります。
- 破産手続開始後に取得した新得財産(破産法34条1項)
- 差押禁止財産(破産法34条3項2号)
- 99万円以下の現金(破産法34条3項1号)
- 裁判所によって自由財産の拡張が認められた財産(破産法34条3項4号)
- 破産管財人によって破産財団から放棄された財産(破産法78条2項12号)
また,各地の裁判所ごとに、上記の他にも自由財産として扱ってもらえるものがあります。例えば、東京地方裁判所では,以下の財産も自由財産として扱われています。
- 残高(複数ある場合は合計額)が20万円以下の預貯金
- 見込額(数口ある場合は合計額)が20万円以下の生命保険解約返戻金
- 処分見込額が20万円以下の自動車
- 居住用家屋の敷金債権
- 電話加入権
- 支給見込額の8分の1相当額が20万円以下の退職金債権
- 支給見込額の8分の1相当額が20万円を超える退職金債権の8分の7相当額
- 家財道具
どのような財産が自由財産として扱われるのかについては,裁判所によって運用が異なる場合があります。あらかじめ確認しておいた方がよいでしょう。
預金を解約されてしまうのか?
上記のとおり,個人再生や任意整理では,預金を解約されてしまうようなことはありません。
これに対し,自己破産の場合には,預金を解約されてしまうことがあります。
もっとも、前記のとおり、東京地方裁判所では、預金すべての合計額が20万円以下の場合には自由財産として扱われるので,自己破産をしても解約する必要はありません。
通帳を作れなくなるのか
債務整理したからと言って,預金口座を開設できなくなるわけではありません。債務整理しても,預金口座の通帳を新たに開設することは可能です。自己破産でも同様です。
所有している持ち家はどうなるのか?
前記のとおり,個人再生や任意整理では,所有している持ち家を処分されることはありません。
もっとも,個人再生の場合,財産価額が返済総額に影響しますので,持ち家の価値が高額だと,返済総額が高額になり,返済できるだけの収入が無いとして個人再生を利用できなくなることがあります。
また,持ち家に住宅ローンや不動産担保ローンが設定されている場合,そのローンを対象とすると,担保となっている持ち家不動産は,ローン会社によって競売にかけられて処分されます。
任意整理の場合は,ローン債務を任意整理の対象から除外することによって競売によって処分されることを回避できますが,個人再生の場合には,ローン債務だけ除外することはできません。
もっとも,個人再生であっても,ローンが住宅ローンの場合には,住宅資金特別条項を利用できる場合には,住宅ローンだけ通常どおり(または若干リスケジュールして)支払いを継続することにより,住宅(自宅に限られます。)を維持したまま,その他の借金等を個人再生によって整理することが可能となります。
これに対し,自己破産の場合,所有している持ち家は,裁判所が選任した破産管財人によって換価処分されるか,ローンが残っている場合には,ローン会社によって競売されて処分されることになります。
したがって,任意整理や個人再生と違い,自己破産の場合には,ほとんど必ず持ち家は処分されることになります。
賃借している賃貸の借家・借地はどうなるのか?
賃借している借家や借地が自宅の場合,すでに数か月分賃料を滞納しているような場合を除いて,債務整理をしたからと言って,借家や借地の賃貸借契約を解約されることはありません。
借家や借地の敷金・保証金の返還請求権も財産ですが,東京地裁など多くの裁判所では,自宅の敷金・保証金は自由財産とされています。
そのため,自己破産において敷金・保証金を回収するために自宅の賃貸借契約が解約されたり,個人再生において敷金・保証金の額を清算価値に算入されるようなことはありません。
他方,自宅ではない借地や借家は別です。
任意整理の場合には,自宅でない借地や借家であっても,すでに数か月分賃料を滞納しているような場合を除いて,賃貸借契約が解除されるようなことはありません。
しかし,自己破産の場合には,自宅でない借地・借家の敷金・保証金を回収するために,賃貸借契約が解約されたり,借家権や借地権が換価処分されることはあり得ます。
個人再生の場合も,自宅でない借地・借家の敷金・保証金(場合によっては借家権や借地権)が清算価値に算入されて,返済総額が高額になることがあります。
所有している自動車はどうなるのか?
前記のとおり,個人再生や任意整理では,所有している自動車を処分されることはありません。
もっとも,個人再生の場合,財産価額が返済総額に影響しますので,自動車の価値が高額だと,返済総額が高額になり,返済できるだけの収入が無いとして個人再生を利用できなくなることがあります。
また,自動車ローンが残っている場合は,その自動車ローンを対象とすると,自動車がローン会社によって引き揚げられます。
任意整理の場合は,ローン債務を任意整理の対象から除外することによって引き揚げを回避できますが,個人再生の場合には,ローン債務だけ除外することはできません。
他方,自己破産の場合には,裁判所が選任した破産管財人によって換価処分されるか,ローンが残っている場合には,ローン会社によって競売されて処分されることになります。
ただし,東京地方裁判所では,ローンが残っていない場合,その自動車の査定額が20万円以下であれば,自己破産をしても処分しなくてよいものとされています。
加入している生命保険などはどうなるのか?
前記のとおり,個人再生や任意整理では,加入している生命保険を解約されることはありません。
もっとも,保険の解約返戻金は財産として扱われますから,個人再生の場合,保険解約返戻金が高額であると,返済総額が高額になることがあります。
他方,自己破産の場合には,解約返戻金のある保険は解約されるのが原則です。
ただし,東京地方裁判所では,加入している生命保険などの保険解約返戻金額合計が20万円以下であれば,自己破産をしても解約しなくてよいとされています。
給料はどうなるのか?
債務整理をしても,給料に影響はありません。自己破産の場合でも,給料が裁判所の選任した破産管財人によって差し押さえられるようなことはありません。
退職金はどうなるのか?
任意整理の場合,退職金には何の影響もありません。
もっとも,自己破産や個人再生では,退職金を請求できる権利(退職金請求権)も財産として扱われます。
そのため,実際に退職する必要はありませんが,自己破産の場合,破産手続開始時における退職金請求権見込額の4分の1(東京地裁では8分の1)の額を裁判所に納付しなければならないとされています(なお,東京地裁では8分の1の額が20万円以下の場合には納付自体が不要とされています。)。
また,個人再生の場合には,再生手続認可時における退職金請求権見込額の4分の1(東京地裁では8分の1)の額を清算価値に算入しなければならず,それによって返済総額が高額になることがあります(なお,東京地裁では8分の1の額が20万円以下の場合には清算価値への算入自体が不要とされています。)。
年金はどうなるのか?
債務整理をしても,国民年金や厚生年金などの公的年金や確定拠出企業年金,確定給付型企業年金,厚生年基金,国民年金基金などには影響ありません。自己破産でも同様です。
債務整理をした後も,通常どおり受給できますし,処分されることもありません。
他方,民間保険会社との間で締結している保険契約に基づいて支給される年金については,取り扱いが異なります。
民間保険でも,任意整理の場合には何の影響もありません。
しかし,自己破産の場合には,民間保険の解約返戻金がある場合に保険契約が解約されて受け取れなくなったり,破産手続開始前に加入した保険について破産手続開始中に支給される年金が破産管財人に回収されるなどして受け取れなくなることがあります。
個人再生も,保険解約返戻金が清算価値に算入されて,返済総額が高額になることがあります。
携帯電話・スマートフォンも解約されるのか?
携帯電話やスマートフォンは,現在においてはほとんど必須の通信手段となっています。そのため,これらの通話料は,生活に必要不可欠な支出として,支払いを継続していても問題ないでしょう。
問題となるのは,スマートフォンの端末機器を分割払いで購入している場合の割賦代金です。
このスマートフォン端末の割賦代金については,通信費の一環として扱うべきか,または,割賦代金である以上,他の債権と同様に債権者として扱うべきかという議論がありますが,まだ定まった見解はありません。
債権者として扱うということになれば,自己破産や個人再生の場合には,約定どおりの支払いを続けていくことができませんから,いずれ解約されて利用できなくなってしまう可能性が生じます。
任意整理の場合も、端末代金を対象にすれば,解約されてしまう可能性はあります。
スマートフォン端末の割賦代金を債務整理する場合には,一括で購入できるようなものに変えておくなどの措置をとっておいた方が無難でしょう。
その後の生活はどうなるのか?
自己破産の場合,裁判所によって免責を許可してもらえれば,借金などの返済はなくなります。
個人再生や任意整理の場合には,返済を継続していく必要があります。個人再生であれば大幅な減額ができることもありますし,任意整理でも利息等のカットがされることもあります。
したがって,債務整理をすることによって,平穏な生活を取り戻すことが可能です。
債務整理をしたからといって,その後に,貸金業者などから追及や嫌がらせを受けることもありません。
もっとも,債務整理をすると,信用情報に事故情報(ブラックリスト)として登録されますので,一定の期間は,新たに借入れをしたり,ローンを組んだりすることは難しくなります。
任意整理や個人再生の場合には,上記以外にそれほど大きな生活の変化はないでしょう。最も大きな変化を生じる可能性があるのは,やはり自己破産でしょう。
自己破産の場合には,自由財産を除く財産を処分しなければなりません。不動産を持っていた場合,それも処分されますので,転居しなければならなくなるなど生活の変化を生じることもあるでしょう。
また,自己破産をしたからと言って,仕事を解雇されたり(ただし,個人事業・自営業は廃業せざるを得ないことはあります。),賃借している家を追い出されたりするようなことはありません。
引っ越しをすることができなくなるのか?
自己破産の手続が開始されると,裁判所の許可なく居住地を離れることができなくなります(破産法37条1項)。
ただし,破産手続が終了すれば,居住制限はなくなります。その後は,自由に引っ越しすることができます。
他方,任意整理や個人再生には居住制限はありません。したがって,いつでも引っ越しは可能です(個人再生の場合の場合,住所変更の届出は必要です。)。
出張や旅行をすることができなくなるのか?
自己破産の手続が開始されると,裁判所の許可なく居住地を離れることができなくなります(破産法37条1項)。
居住地を離れることには,住居移転のほか,2泊以上の宿泊を含む出張や旅行をすることも含まれ,海外である場合には1泊でも含まれると解されています。
ただし,破産手続が終了すれば,居住制限はなくなります。その後は,自由に引っ越しすることができます。
他方,任意整理や個人再生には居住制限はありません。したがって,出張や旅行は可能です。
生活保護を受けている場合はどうなるのか?
生活保護を受給していることは,債務整理に特段の影響を及ぼしません。したがって,生活保護受給中でも債務整理は可能です。
ただし,生活保護の給付で返済をすることは望ましくありませんから,生活保護受給中の場合に選択すべき債務整理手続は,やはり自己破産ということになるでしょう。
生活保護を受けることができなくなるのか?
債務整理をしたからといって,生活保護を受けれなくなるようなこともありません。債務整理をした後に生活保護の申請をして保護費を受給することは,もちろん可能です。
個人事業・自営業は廃業しなければならないのか?
債務整理したからといって,必ず個人事業・自営業を廃業しなければならないわけではありません。
もっとも,自己破産の場合には,事業で使っている機材・設備や在庫品などを処分しなければなりませんし,事業所の賃貸借契約などの契約を解約しなければならないこともあります。
また,取引先が債権者であれば,信用を失い取引を継続できなくなることもあるでしょう。
そのため,自己破産の場合には,事実上,個人事業・自営業を廃業しなければならない状況になることは少なくないでしょう。
もう一度債務整理することができなくなるのか?
自己破産の場合,免責許可を申し立てた時点で,そこからさかのぼって7年以内に免責許可決定を受けて確定したことがあったときには,そのことが免責不許可事由に当たります。
つまり,免責許可決定確定日から7年間は,再度,自己破産をして免責許可を受けることができないのが原則であるということです(ただし,7年以内の再度の申立てであっても,裁判所の裁量によって免責が許可されることはあり得ます。)。
個人再生の場合には,給与所得者等再生を申し立てた時点で,そこからさかのぼって7年以内に自己破産の免責許可決定や個人再生の再生計画認可決定を受けて確定したことがあったときには,再度,給与所得者等再生を利用することができなくなります。
上記のほかには,特に法的な制限はありません。
とはいえ,2回目以降ですから,当然,手続も厳しくなってきます。2回目があると考えて浪費などをしないように努める必要があります。