
倒産法・倒産手続の第一次的な目的は、総債権者の利益の確保にあります。また、債務者の経済的更生や、人的・物的資源を社会に還元することによる社会経済的な目的・意義もあります。
倒産法・倒産手続の目的
倒産とは、一般的に、法人または個人が経済的に破綻し、弁済期にある債務を一般的継続的に弁済できない状態に陥ることをいいます。
この倒産に関して「倒産法」「倒産手続」という用語があります。もっとも、実際には、倒産法という名称の法律はなく、倒産手続という名称の法的手続もありません。いずれも講学上の用語です。
講学上、倒産法とは、倒産処理手続を規律する法律の総称であり、倒産手続とは、倒産処理手続の総称です。
破産法に基づく破産手続・民事再生法に基づく民事再生手続・会社更生法に基づく会社更生手続など倒産処理に関連する法的手続のことをまとめて倒産法・倒産手続と呼んでいるのです。
これら倒産手続(倒産法)の第一次的な目的は、総債権者の利益の確保にあります。また、もちろん債務者自身の経済的更生や社会経済的な人的・物的資源の再分配・流通なども目的に含まれるといえるでしょう。
総債権者の利益の確保
倒産法・倒産手続の目的というと、もっぱら債務の支払いに窮した債務者の救済というイメージがあるかもしれません。
もちろんそうなのですが、法制度としての倒産手続の第一次的な目的は、総債権者の利益の確保にあるとされています。
つまり、倒産した債務者の財産が債権者間で奪い合いになってしまい、不公平を生じるのを防ぐとともに、債務者の責任財産が離散するのを防ぎ、すべての債権者が公平・平等に利益の分配を受けられるようにするというのが、倒産手続の1番の目的であるということです。
そして、そのためには、債務者の財産をすべて換価処分することが最も確実です。そのための倒産手続が破産手続です。
例えば、破産手続は、破産者の財産を換価処分して、それによって得た金銭を債権者に弁済または配当するという手続ですが、すべての倒産手続の基本手続であるといえます。
この破産手続の場合、破産した会社などの法人は消滅します。そのため「清算型」の倒産手続と呼ばれることがあります。特別清算手続もこの清算型に含まれます。
清算型の手続においては、換価処分して得た金銭を各債権者に弁済または配当することによって、債権者の利益を確保することになります。
倒産手続には、清算型のほか、民事再生法に基づく民事再生手続や会社更生法に基づく会社更生手続、私的整理など、債務者の経済的再生を目的とする「再建型」の倒産手続もあります。
再建型の場合には、債務者の財産等はすべて清算されるわけではありませんが、債務の圧縮などによって事業を継続する代わりに弁済は継続されることになります。
したがって、その弁済または事業継続による取引の継続によって、債権者の利益を確保することになります。
債務者の経済的更生
倒産法・倒産手続には、総債権者の利益の確保という目的だけでなく、もちろん債務者の経済的更生を図るという目的もあります。
法人・会社の破産手続や特別清算手続の場合には、会社などの法人は消滅してしまいますので、あまり経済的更生という目的は強くはありません。
債務者の経済的更生の意味合いが強いのは、会社などの法人の倒産手続でいえば、民事再生手続や会社更生手続または私的整理手続などでしょう。
前記のとおり、民事再生手続や会社更生手続は、破産手続や特別清算手続と異なり、法人・会社を存続させることを前提として、財産を一定限度で残しておくことを認めつつ、債務を圧縮して、債務者の再建を図るという手続です。
会社などの法人を清算させることを目的とする破産手続などの「清算型」に対して、民事再生手続や会社更生手続などは「再建型」と呼ばれています。
裁判外で行われる私的整理の手続も、基本的には、この再建型に含まれるでしょう(もちろん清算型の私的整理もあります。)。
再建型倒産手続は、会社などの法人を再建するための手続ですから、債権者の利益の確保ももちろんはかられますが、それよりも、債務者の経済的更生の目的が大きいといえるでしょう。
もっとも、現実的には、特に中小企業の場合、経営者などが法人債務の連帯保証をしていたり、法人経営のために個人的に借入れをしていることが少なくなく、法人・会社の破産等によって、その個人である経営者等が法人経営による債務から解放されて経済的更生が図れるということがあります。
その意味でいえば、法人・会社の破産など清算型の倒産手続の場合でも、経済的更生の意義があるといえるでしょう。
なお、個人の場合には、倒産しても消滅するわけではないので、破産手続(特に自己破産)も債務者の経済的更生の目的が大きいといえます。
社会経済上の目的
倒産法・倒産手続には、前記の債権者の利益の確保や債務者の経済的更生という目的だけではなく、社会経済的な利益を図るという目的もあると言われています。
すなわち、倒産法・倒産手続における社会経済的な目的とは、倒産した債務者の人的・物的な財産を債権者に配当すして再分配することなどによって、有効活用を促すということです。
例えば、倒産した法人・会社の有能な従業員が、他の法人等に移転することで社会経済的な利益が図れますし、倒産した法人・会社の機材や在庫が優良企業に譲渡されて活用されることで社会経済的な利益が図られることもあるわけです。