記事内にPR広告が含まれます。

交通事故加害者の使用者(勤務先・雇用主)に損害賠償請求できるか?

この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。

Q
交通事故の加害者の雇い主や勤務先にも損害賠償を請求できる?
A

加害者が業務中や通勤中に交通事故を起こした場合であれば、加害者の使用者(勤務先や雇い主)にも損害賠償を請求できるケースがあります。

このページでは、交通事故加害者の使用者(雇用主・勤務先)への損害賠償請求について詳しく説明します。

このページで説明していること
  • 交通事故加害者の使用者に損害賠償請求できる2つの法的根拠
  • 使用者に損害賠償できるか否かが問題となる11個のケース
  1. 交通事故加害者の使用者への損害賠償請求
  2. 使用者(雇用主)が責任を負う場合
  3. 法的責任1:使用者責任
    1. 使用者責任の要件
    2. 人身事故や自動車事故に限られない
    3. 使用者と加害者の両方に全額請求できる
  4. 法的責任2:運行供用者責任
    1. 運行供用者責任の要件
    2. 使用者が運行供用者に該当するケース
    3. 自動車の運行による人身事故に限られる
    4. 使用者(運行供用者)と加害者の両方に全額請求できる
  5. ケース1:加害者が業務中に勤務先が所有する自動車やバイクで人身事故を起こした場合
    1. 使用者責任と運行供用者責任の関係
  6. ケース2:加害者が業務中に勤務先がリースしている自動車やバイクで人身事故を起こした場合
    1. リースしている自動車・バイクの運行供用者
  7. ケース3:加害者が業務中に自分の自動車やバイクで人身事故を起こした場合
    1. 使用者責任の成否
    2. 運行供用者責任の成否
  8. ケース4:加害者が業務中に自転車で人身事故を起こした場合
  9. ケース5:加害者が業務中に物損事故を起こした場合
  10. ケース6:加害者が通勤中に勤務先が所有する自動車やバイクで人身事故を起こした場合
    1. 使用者責任の成否
    2. 運行供用者責任の成否
    3. 通勤事故の場合の使用者責任と運行供用者責任の判断基準
  11. ケース7:加害者が通勤中に勤務先がリースしている自動車やバイクで人身事故を起こした場合
  12. ケース8:加害者が通勤中に自分の自動車・バイクで人身事故を起こした場合
    1. 使用者責任が成立するケース
    2. 運行供用者責任が成立するケース
  13. ケース9:加害者が通勤中に自転車で人身事故を起こした場合
  14. ケース10 加害者が通勤中に物損事故を起こした場合
  15. ケース11:加害者が業務や通勤以外で交通事故を起こした場合
    1. 使用者責任の成否
    2. 運行供用者責任の成否
  16. 弁護士に依頼するメリット
  17. 参考書籍

交通事故加害者の使用者への損害賠償請求

交通事故の被害に遭った場合、被害者は加害者本人に損害賠償を請求できます。

しかし、加害者に資力がない上、自賠責保険任意保険に加入していなかった場合、加害者本人に損害賠償を請求しても十分な金額を得られず、被害を補填できません。

そこで、加害者本人以外の相手に損害賠償を請求できないかが重要な問題となってきます。

加害者が業務中社用車の使用中に交通事故を起こした場合であれば、その加害者の使用者(雇い主・勤務先)に損害賠償を請求できるケースがあります

使用者(雇用主)が責任を負う場合

被用者(従業員)である加害者が起こした交通事故について、使用者(雇用主・勤務先)が損害賠償責任を負うのは、以下のケースです。

使用者が損害賠償責任を負う場合
  • 使用者責任民法715条)
    事業の執行について被用者(従業員)が交通事故を起こした場合、使用者も損害賠償責任を負担します。
  • 運行供用者責任(自動車損害賠償保障法3条)
    使用者が保有する自動車の運行によって交通事故を起こした場合、使用者も運行供用者として損害賠償責任を負担します。

以下、それぞれの法的責任ついて説明します。

法的責任1:使用者責任

加害者の使用者に損害賠償を請求できる場合のひとつが、使用者に「使用者責任」が発生するケースです。

使用者責任とは、事業の執行について被用者(従業員)が交通事故を起こした場合、使用者も損害賠償を支払わなければならない法的責任のことです(民法715条)。

使用者責任の要件

交通事故において使用者責任を追求できるのは、以下の要件を充たしている場合です。

使用者責任の要件
  • 被用者である加害者が、交通事故を起こしたこと(被用者の不法行為責任
  • 加害者を使用者が事業のために使用(雇用)していること
  • 「事業の執行について」交通事故が起こったこと
  • 免責事由がないこと
    • 使用者が、加害者の選任およびその事業の監督について相当の注意をしなかったこと
    • 相当の注意をしても損害が生ずべきであったときでないこと

特に問題となりやすいのは、「事業の執行について」交通事故が起きたと言えるかどうかです。

人身事故や自動車事故に限られない

上記のとおり、使用者責任は、事業の執行について起きた交通事故について加害者の使用者が損害賠償責任を負う制度です。人身事故や自動車事故に限定されません。

そのため、自動車やバイクによるものではない人身事故の場合でも、物損事故の場合でも、使用者責任が成立すれば、使用者に対して損害賠償を請求できます

使用者と加害者の両方に全額請求できる

使用者責任が成立する場合、被害者は、使用者と加害者本人の両方に損害賠償を請求できます。

この場合、使用者と加害者は連帯して責任を負うと考えられています(不真正連帯債務)。そのため、被害者は、使用者と加害者のいずれにも、損害賠償の全額を請求できます

なお、使用者と加害者の両方に全額請求できるといっても、金額が2倍になるわけではありません。あくまで、両者に全額を請求できるだけで、金額は調整されます。

法的責任2:運行供用者責任

加害者の使用者に損害賠償請求できるのは、使用者責任の場合だけではありません。使用者が運行供用者責任を負う場合も、使用者に対して損害賠償を請求できます。

運行供用者責任とは、自動車等の運行による人身事故の場合に自動車の保有者などの運行供用者も損害賠償を支払わなければならないとする法的責任のことです(自賠法3条)。

運行供用者責任の要件

使用者に運行供用者責任を追求するためには、以下の要件が必要です。

運行供用者責任の要件
  • 使用者が自己のために自動車を運行の用に供する者(運行供用者)であること
  • 加害者が自動車を運行して人身事故(人損事故)を起こしたこと
  • 加害者の自動車の運行によって被害者の生命・身体が侵害されたこと
  • 免責事由がないこと
    • 使用者・加害者が自動車の運行に関し注意を怠ったこと
    • 被害者または運転者以外の第三者に故意または過失がなかったこと
    • 自動車に構造上の欠陥または機能の障害がなかったこと

使用者が運行供用者に該当するケース

使用者に運行供用者責任を追求できるのは、使用者が「運行供用者」に該当するケースです。

運行供用者とは、自己のために自動車を運行の用に供する者のことです。具体的には、以下の場合に、運行供用者に該当します。

運行供用者
  • 自動車の保有者
    自動車の所有者、その他自動車を使用する権利を有する者で、自己のために自動車を運行の用に供するもの
  • 自動車について運行支配・運行利益を有する者
    自動車の使用について支配権があり(運行支配)、自動車の使用によって利益を得ている(運行利益)者

自動車の運行による人身事故に限られる

運行供用者責任は、交通事故の被害者にかなり有利な制度です。通常の不法行為責任よりも、被害者の立証の負担が小さく、損害賠償請求が認められやすくなっています。

ただし、運行供用者責任が認められるのは、「自動車の運行による人身事故」だけです。物損事故や、人身事故であっても自動車の運行によるものではない事故(例えば、自転車事故)には適用されません。

被害者が損害賠償請求するための要件が緩和されている分、適用される範囲が限定されているのです。

使用者(運行供用者)と加害者の両方に全額請求できる

運行供用者責任が成立する場合、被害者は、使用者(運行供用者)と加害者本人の両方に損害賠償を請求できます。

この場合、使用者と加害者は連帯して責任を負うと考えられています(不真正連帯債務)。そのため、被害者は、使用者と加害者のいずれにも、損害賠償の全額を請求できます

なお、使用者と加害者の両方に全額請求できるといっても、金額が2倍になるわけではありません。あくまで、両者に全額を請求できるだけで、金額は調整されます。

ケース1:加害者が業務中に勤務先が所有する自動車やバイクで人身事故を起こした場合

例えば、運送業に勤務している加害者が、業務上の配達中に、勤務先が所有する自動車やバイクを運転して人身事故を起こしたケースです。

この場合、業務中であるため「業務の執行について」交通事故を起こしています。そのため、被害者は、加害者だけでなく、使用者責任に基づいて使用者(勤務先)に対しても損害賠償を請求できます。

また、自動車やバイクの所有者が使用者(勤務先)であるため、運行供用者責任に基づいて使用者に損害賠償請求することも可能です。

加害者が業務中に勤務先が所有する自動車やバイクで人身事故を起こしたケースでは、使用者責任と運行供用者責任の両方を主張して、使用者に損害賠償請求できるのです。

使用者責任と運行供用者責任の関係

使用者責任と運行供用者責任がいずれも成立する場合、被害者は、どちらでも選ぶことができます。両方を主張することも可能です。

もっとも、運行供用者責任では、被害者は加害者の過失を立証する必要がありません。他方、使用者責任の場合は、使用者の過失は立証する必要がないものの、加害者の過失は立証しなければいけません。

そのため、使用者責任と運行供用者責任の両方を追求できる場合は、運行供用者責任を選ぶのが通常でしょう。

なお、仮に使用者責任と運行供用者責任の両方を主張したとしても、損害賠償の金額が2倍になるわけではありません。あくまで、損害賠償請求の根拠を2つ主張できるだけです。

ケース2:加害者が業務中に勤務先がリースしている自動車やバイクで人身事故を起こした場合

加害者が、業務中に使用者がリース会社からリースしている自動車やバイクで人身事故を起こすこともあるでしょう。この場合、使用者責任が成立するのは、前記のケース1と同様です。

また、ケース1と違って、加害車両がリース物件であり、使用者が所有しているわけではないものの、運行供用者責任に基づいて使用者に損害賠償を請求することも可能です。

リースしている自動車・バイクの運行供用者

運行供用者に該当する「自動車・バイクの保有者」の代表例は、自動車・バイクの所有者です。リースの場合、所有者はリース会社です。

ただし、実際に自動車・バイクを使用する権利を持っているのは、リース会社ではなく、リースしている使用者(勤務先)です。

そのため、使用者が「自動車を使用する権利を有する者」として運行供用者になります(リース会社は所有者ですが、運行供用者には該当しません。)。

加害者が業務中に使用者がリース会社からリースしている自動車やバイクで人身事故を起こした場合、被害者は、使用者責任のほか、運行供用者責任に基づいて損害賠償を請求できます。

ケース3:加害者が業務中に自分の自動車やバイクで人身事故を起こした場合

業務中の事故であっても使用者に損害賠償を請求できるか否かが問題となるのが、人身事故を起こした自動車やバイクが、使用者の所有物ではなく、加害者本人の所有物(マイカー・マイバイク)であるケースです。

使用者責任の成否

業務中の交通事故の場合、加害車両が加害者の所有物であっても、「業務の執行について」交通事故被害を生じている以上、使用者責任が成立するのが原則です。

ただし、使用者が「被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をした」ことを主張立証した場合、使用者責任は成立しません(民法715条1項ただし書き)。

例えば、使用者が、業務でマイカーやマイバイクを使用することを禁止することを就業規則に記載して従業員に周知させ、定期的に監査するなど使用禁止を徹底させるための措置を講じていた場合には、使用者に損害賠償を請求できない可能性があります

運行供用者責任の成否

加害車両が加害者自身の所有物である場合、使用者は自動車保有者に該当しないので、基本的には運行供用者責任は成立しません。

もっとも、前記のとおり、自動車やバイクの保有者でなくても、自動車やバイクの使用について支配権(運行支配)を有し、使用によって利益(運行利益)を得ている者は、運行供用者に該当します。

そのため、加害車両が加害者自身の所有物であっても、加害車両について使用者が運行支配や運行利益を有している場合には、運行供用者責任が成立することがあります

例えば、使用者が以下のような対応をしていたケースでは、使用者に運行支配・運行利益が認められやすいでしょう。

使用者に運行支配・運行利益が認められやすいケース
  • 業務でマイカー・マイバイクを使うよう指示していた
  • 業務でマイカー・マイバイクを使うことを推奨していた
  • 業務でマイカー・マイバイクを使うことを禁止しておらず、実際に従業員が使っていることを知りながら黙認していた
  • 車両が必要となる業務であるにもかかわらず、従業員が利用できる車両が用意されていなかった

ケース4:加害者が業務中に自転車で人身事故を起こした場合

最近では、自転車での配達中の人身事故も増えています。

自転車の事故には、運行供用者責任の適用がありません。そのため、被害者は、使用者責任に基づいて、使用者に対して損害賠償を請求することになります

なお、前記ケース3と同様、業務で自転車を使用することが厳格に禁止されていた場合には、使用者責任も成立しない可能性はあります。

ケース5:加害者が業務中に物損事故を起こした場合

加害者が業務中に物損事故を起こした場合、人身事故ではないので運行供用者責任は成立しませんが、使用者責任は成立します。

そのため、被害者は、使用者責任に基づいて使用者に対して損害賠償を請求することになります

なお、前記ケース3・4のように、業務でマイカーや自転車などの使用が厳格に禁止されていたにもかかわらず、従業員が勝手にマイカーや自転車などを運転して物損事故を起こしたような場合には、使用者責任も成立しない可能性はあります。

ケース6:加害者が通勤中に勤務先が所有する自動車やバイクで人身事故を起こした場合

ケース1~5は「業務中」の事故ですが、業務に向かうまでの「通勤中」に交通事故が発生するケースもあります。

加害者が、使用者が所有する自動車やバイクを運転して勤務先に向かう通勤中に人身事故を起こした場合でも、被害者は使用者に対して損害賠償を請求できるケースがあります。

使用者責任の成否

使用者責任が成立するのは、「業務の執行について」従業員が交通事故を起こした場合です。通勤は業務に入る前の段階であり、業務そのものではありません。

もっとも、被害者を救済するため事業の執行の範囲は広く解釈されており、「必ずしも被用者がその担当する業務を適正に執行する場合だけを指すのでなく、広く被用者の行為の外形を捉えて客観的に観察したとき、使用者の事業の態様、規模等からしてそれが被用者の職務行為の範囲内に属するものと認められる場合で足りる」とし考えられています(最三小判昭和39年2月4日)。

通勤中の事故であっても、従業員が使用者所有の自動車やバイク(社用車・営業車など)を運転して人身事故を起こした場合は、外形からみれば業務中のように見えます。そのため、使用者責任が成立します

ただし、使用者が「被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をした」ことを主張立証した場合、使用者責任は成立しません(民法715条1項ただし書き)。

例えば、使用者が、マイカーやマイバイクでの通勤を禁止することを就業規則に記載して従業員に周知させ、定期的に監査するなど使用禁止を徹底させるための措置を講じていた場合には、使用者に損害賠償を請求できない可能性があります

運行供用者責任の成否

通勤中に使用者所有の自動車・バイクを運転して人身事故を起こしたケースでは、使用者が自動車所有者です。

とは言え、業務外の通勤中の事故の場合、使用者は自動車・バイクを使うことによって運行利益を得ているとは必ずしもいえません。従業員が勝手に使っているような場合には、自動車・バイクの使用に支配権(運行支配)があるとも言えないでしょう。

そこで、判例は、「自動車の所有者と第三者との間に雇傭関係等密接な関係が存し、かつ日常の自動車の運転及び管理状況等からして、客観的外形的には前記自動車所有者等のためにする運行と認められるとき」に運行供用者責任が成立すると判断しています(最三小判昭和39年2月11日)。

具体的に言うと、実務では、常に運行供用者責任が成立するわけではなく、以下のような事情がある場合に限定されています

使用者が運行供用者と判断される事情の具体例
  • 通勤に使用者所有の自動車やバイクを使うよう指示していた
  • 通勤に使用者所有の自動車やバイクを使うことを推奨していた
  • 通勤で使用者所有の自動車やバイクを使うことを禁止しておらず、実際に従業員がいつでも使える体制になっていた

通勤事故の場合の使用者責任と運行供用者責任の判断基準

使用者責任と運行供用者責任は、要件が違います。ただし、上記のとおり、実際に使用者責任や運行供用者責任が成立するための判断基準は、かなり似通っています。

いずれの場合も、「使用者が通勤で社用車などを使うことを許容していたか否か」が重要な判断基準となっています。

ケース7:加害者が通勤中に勤務先がリースしている自動車やバイクで人身事故を起こした場合

加害者が通勤中に起こした人身事故で運転していた自動車・バイクが、使用者がリースしていたものである場合も、前記ケース6の自動車・バイクが使用者の所有物である場合と同じです。

使用者がリース車両を通勤に利用することを厳格に禁止していた場合でないときは、使用者責任や運行供用者責任が認められやすいでしょう

なお、前記ケース2のとおり、リース物件の所有者はリース会社ですが、実際に運行支配や運行利益があるのはリースしている使用者であるため、使用者が運行供用者となります。

ケース8:加害者が通勤中に自分の自動車・バイクで人身事故を起こした場合

通勤事故でよく問題となるのは、加害者が自分の自動車(マイカー)やバイク(マイバイク)で人身事故を起こしたケースです。

業務そのものではない通勤中、しかも加害者自身の自動車・バイクで起こしている事故ではあるため、使用者は損害賠償責任を負わないのが原則です。

ただし、例外的に一定の場合には、被害者は、使用者に損害賠償を請求できることがあります。

使用者責任が成立するケース

前記ケース6のとおり、通勤中の事故であっても、外形上職務行為に属すると認められる場合には、使用者責任が成立することがあります。しかし、従業員がマイカーなどで通勤している場合は、外形上職務行為に属するようには見えません。

ただし、被害者を救済するため事業の執行の範囲は広く解釈されており、「事業の執行行為を契機とし、これと密接な関連を有すると認められる行為」も事業の執行に含まれると考えられています(最三小判昭和44年11月18日)。

そのため、マイカーなどによる通勤が、事業の執行と密接な関連性のある行為と認められる場合も、使用者責任が成立します

マイカーなどの通勤が事業の執行と密接に関連すると認められる場合は限られますが、以下のようなケースでは使用者責任が成立すると判断されています。

マイカーなどの通勤で使用者責任が認められるケース
  • 使用者がマイカー・マイバイクでの通勤を指示または奨励していた
  • 勤務先周辺に公共交通機関がない上に市街地から遠く、自動車以外に通勤手段がない上、専用駐車場やマイカー通勤手当を支給するなど、マイカー通勤を前提とする運営が行われていた(前橋地裁高崎支判平成28年6月1日)

運行供用者責任が成立するケース

通勤にマイカー・マイバイクを使っている場合、運行供用者責任は成立しないのが原則です。

ただし、従業員のマイカーなどの通勤について使用者に運行支配・運行利益がある場合には、使用者に運行供用者責任が成立するケースがあります

例えば、以下のケースでは、マイカー通勤・退勤で人身事故を起こした場合に運行供用者責任の成立が認められています。

マイカー通勤で運行供用者責任が認められた事例
  • 最一小判昭和52年12月22日
    加害者は、上司の指示で業務現場と自宅の往復をすることがしばしばあり、使用者から通勤距離に応じたガソリン手当を支給されていた。事故当日も上司の指示で自宅から業務現場に向かい、退勤の際に事故を起こした事例

ケース9:加害者が通勤中に自転車で人身事故を起こした場合

前記のケース4のとおり、自転車の事故の場合には運行供用者責任は適用されません。被害者が所有者に損害賠償請求できるのは、使用者責任が成立する場合に限られます。

また、通勤中の自転車事故の場合も、自動車事故と同様、使用者は損害賠償責任を負わないのが原則です。

ただし、以下のようなケースでは、使用者責任が成立し、被害者は使用者に損害賠償を請求できる可能性があります

通勤中の自転車事故で使用者責任が認められる可能性があるケース
  • 使用者が、自転車通勤を指示または奨励していた
  • 使用者が自転車通勤を禁止せず、駐輪場を設置するなど従業員が自転車通勤していることを黙認していた
  • 自転車の利用が必要な業務であるにもかかわらず、使用者側で自転車を用意していなかったため、従業員が自転車で通勤していた

ケース10 加害者が通勤中に物損事故を起こした場合

前記のケース5のとおり、物損事故には運行供用者責任は適用されないので、使用者に損害賠償を請求できるか否かは、使用者責任が成立するか否かにかかっています。

ケース6〜9で説明したとおり、通勤中の事故の場合、原則として使用者責任は成立しません。

ただし、ケース6〜9で説明したように、通勤中の事故であっても、被害者が使用者に損害賠償を請求できるケースがあります物損事故も同様です

なお、被害者が使用者に損害賠償を請求できるケースについては、ケース6〜9を参照してください。

ケース11:加害者が業務や通勤以外で交通事故を起こした場合

例えば、加害者が休日に交通事故を起こした場合などのように、業務中でも通勤中でもない場合に起きた事故のケースでは、加害者に損害賠償を請求できないのが原則です。

ただし、加害者が業務外で使用者所有の自動車を運転して交通事故を起こした場合には、使用者が損害賠償責任を負うケースはあります。

使用者責任の成否

前記のとおり、「業務の執行」か否かは、外形から業務の範囲内と認められるか否かによって判断されます。

そのため、完全に業務外であっても、社用車や営業車を運転して事故を起こした場合には、外形上業務の範囲内と見えるので、使用者責任が成立する可能性があります

ただし、使用者が社用車の私的利用を減額に禁止し、従業員が業務以外では使用できないように管理していたにもかかわらず、勝手に持ち出して私的利用し事故を起こしたような場合には、使用者責任は成立しないでしょう。

運行供用者責任の成否

業務外の事故であっても、使用者が保有する社用車や営業車を運転して人身事故を起こした場合は、運行供用者責任が成立する可能性もあります

ただし、この場合も、使用者が社用車の私的利用を減額に禁止し、従業員が業務以外では使用できないように管理していたにもかかわらず、勝手に持ち出して事故を起こしたような場合には、運行支配や運行利益がないため、運行供用者責任は成立しません。

この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
この記事が参考になれば幸いです。

弁護士に依頼するメリット

「交通事故の損害賠償請求は弁護士に頼んだ方がいいの?」
とお悩みの方は少なくないでしょう。

実は、交通事故の損害賠償額には、保険会社の基準と裁判基準(弁護士基準とも呼ばれます。)があります。保険会社の基準は、裁判基準よりもかなり低額に抑えられています。

そのため、自分で保険会社と示談交渉する場合よりも、弁護士に依頼して裁判基準で示談交渉または訴訟をしてもらう方が、損害賠償額が高額になる可能性が高いのです。弁護士に依頼する一番のメリットは、その点にあります。

特に、自動車保険に弁護士特約を付けてある場合には、弁護士費用を保険金で支払うことが可能です。そのため、自己負担がほとんどないまま、弁護士に依頼することができます。弁護士特約がある場合には、間違いなく弁護士に依頼すべきです

北千住いわき法律事務所

  • 被害者の相談無料
  • メール相談可・土日祝日対応可
  • 着手金無料(完全成功報酬・費用の後払い可能)
  • 損害賠償額が増額しない場合は弁護士報酬0円
  • 弁護士特約の利用可能
  • 所在地:東京都足立区

やよい共同法律事務所

  • 相談無料
  • 全国対応・メール相談可
  • 着手金無料(完全成功報酬型)
  • 増額できなければ弁護士費用は無料
  • 弁護士特約の利用可能
  • 所在地:東京都港区

参考書籍

本サイトでも交通事故損害賠償について解説していますが、より深く知りたい方のために、交通事故損害賠償の参考書籍を紹介します。

民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準
出版:日弁連交通事故相談センター東京支部
通称「赤い本」。交通事故損害賠償請求を扱う弁護士は、ほとんどが持っている必携書。東京地裁の実務を中心に、損害賠償額の算定基準(裁判基準)を解説しています。この本の基準が実務の基準と言ってよいほどに影響力があります。毎年改定されています。

交通事故損害額算定基準 -実務運用と解説-
出版:日弁連交通事故相談センター
通称「青本」。こちらは、赤い本と違って、東京地裁だけでなく、全国の裁判所における裁判例を紹介しています。2年に1回改訂されています。

民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準(全訂5版)別冊判例タイムズ38号
編集:東京地裁民事交通訴訟研究会 出版:判例タイムズ社
こちらも実務必携と言われる書籍。交通事故では過失相殺がよく問題となりますが、その過失相殺率の認定基準を解説する実務書です。東京地裁の裁判官が中心となって執筆されている本ですが、この本の認定基準が全国的な実務の基本的な認定基準となっています。

大阪地裁における交通損害賠償の算定基準(第4版)
編集:大阪民事交通訴訟研究会 出版:判例タイムズ社
大阪地裁交通部(第15民事部)の裁判官による大阪地裁における交通事故損害賠償額算定基準を解説する実務書。大阪地裁で交通事故訴訟をする場合には必携です。(※なお、大阪弁護士会交通事故委員会による「交通事故損害賠償算定のしおり(通称、緑の本)」とは異なります。こちらは、裁判官執筆の本です。)

新版注解交通損害賠償算定基準
著者:高野真人ほか 出版:ぎょうせい
赤い本や青本の解説書。実務書の解説書という珍しい本ですが、赤い本や青本はどちらかと言うと資料集的な実務書であるため、詳細な理由付けなどが説明されていない部分もあります。本書は、そこを解説しています。赤い本や青本とセットで持っていると便利です。

交通事故損害賠償法(第3版)
編集:北河隆之 出版:弘文堂
交通事故損害賠償に関する法律の体系書。実務マニュアル的なものではなく、理論的な面の解説も体系的にまとめられており、交通事故損害賠償の基本書といった感じの本です。

タイトルとURLをコピーしました