この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。

契約を解除すると、契約を終了させる効果が発生します。それに伴い、法律関係を元に戻す必要が生じます、契約解除の効果は、契約の始めに遡って発生する場合(遡及効)と将来に向かってのみ発生する場合(将来効)があります。
契約解除の基本規定は、民法545条です。この民法545条による契約解除が具体的にどのような効果を生じるのかについては、法的性質論と関連してさまざまな解釈があります。
契約解除の効果
契約には法的拘束力があります。そのため、契約は解消できないのが原則です。しかし、契約を解除できる場合は別です。
契約の解除とは、当事者の一方による契約を消滅させる旨の意思表示です。契約を解除できるのは、当事者間の合意がある場合や法律で定められている場合に限られます。
契約が解除されると、契約は消滅します。なかったことになるのです。また、契約の消滅に伴い、契約に基づく権利や義務も消滅します、
そのため、契約を解除した後は、法律関係を元に戻す必要が生じます。
契約解除の遡及効と将来効
前記のとおり、契約を解除すると、契約は消滅します。この契約消滅の効果がいつから発生するのかについて、遡及効と将来効と呼ばれる2つのタイプがあります。
遡及効とは、契約消滅の効果が、契約締結時に遡って発生する場合です。他方、将来効とは、契約消滅の効果は、将来に向かって(解除以降)に発生する場合です。
遡及効のある解除の場合、過去に遡って契約が消滅するので、契約締結時から解除までの間の契約に基づく法律関係がすべて覆ることになります。
そのため、契約締結時から解除までの間に、消滅した契約に基づいて取引をした第三者の保護を考える必要があります。
これに対し、将来効の場合、解除以後の将来に向かって契約が消滅するだけなので、それより前の契約に基づく法律関係は有効なままです。
したがって、遡及効の場合と違い、第三者保護を考慮する必要はありません。
このように、契約解除の効果が遡及効なのか、将来効なのかによって、法律関係に与える影響は大きく変わります。
解除と解約の違い
契約解除の遡及効と将来効の違いに関連して、「解除」と「解約」の違いを説明します。
どちらも、契約を消滅させる意思表示であることは同じです。しかし、講学では、遡及効の有無により、解除と解約を区別する場合があります。
具体的に言うと、講学上では、遡及効がある場合を解除、将来効の場合を解約と区別することがあります。
ただし、法律の条文では明確に区別されていません。
例えば、民法620条は「賃貸借の解除をした場合には、その解除は、将来に向かってのみその効力を生ずる」と規定しています。
「将来に向かってのみその効力を生ずる」とある以上、講学上の解約であることは明白ですが、この条文は「解除」と規定しています。
したがって、遡及効なのか将来効なのかは、単に解除、解約の文言だけでなく、それぞれの条文ごとに解釈をして判断する必要があります。
民法545条の解除の効果
民法 第545条
- 第1項 当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない。
- 第2項 前項本文の場合において、金銭を返還するときは、その受領の時から利息を付さなければならない。
- 第3項 第1項本文の場合において、金銭以外の物を返還するときは、その受領の時以後に生じた果実をも返還しなければならない。
- 第4項 解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げない。
民法その他の法律では、さまざまな契約解除の規定が置かれていますが、基本となるのは、民法541条の債務不履行解除です。この債務不履行解除の効果は、545条に規定されています。
545条は、以下の効果を定めています。
- 原状回復義務
- 原状回復によって第三者の権利を害することはできない
- 原状回復のために金銭返還する場合は利息を付けて返還する必要がある
- 原状回復のために金銭以外の物を返還する場合は、受領時以降に生じた果実も返還する必要がある
- 損害賠償請求権
ところが、この民法545条には、解除の効果が遡及効なのか将来効なのかが、定められていません。
遡及効か将来効かによって、原状回復義務や損害賠償などの個々の効果の内容も違ってきます。そのため、民法545条の解釈が必要です。
この解除の効果については、民法545条の解除の法的性質と関連して、さまざまな解釈があります。代表的な考え方として,直接効果説,間接効果説,折衷説があります。
直接効果説
直接効果説は、契約解除の効果の法的性質を遡及効と考える見解です。
直接効果説によると、545条は、以下のとおり解除することになります。
1項本文の解釈
契約締結時に遡って契約が消滅するので、契約に基づいて行われた行為は根拠を失い、原状回復をして、一切を契約前の状態に戻す必要が生じます。
また、契約に基づく法律関係は根拠を失っているので、当事者が債務の履行として受領したものは不当利得となり、相互に相手方に返還しなければいけません。
すでに履行している債務(既履行債務)があれば、履行したものを返還するよう相手方に請求できます。
そのため、直接効果説では、原状回復を不当利得返還の性質を持つものと捉えます。
1項ただし書きの解釈
もし契約を解除する前に、契約に基づく法律関係を信頼して取引をした第三者がいたとしても、契約は遡及的に消滅するので、第三者の取引も根拠を失うはずです。
しかし、第三者には関係のない契約解除によって損失を受けることを許すと、取引の安全を図れません。
そこで、遡及効を制限して第三者を保護するために特別に設けられたのが1項ただし書きであると考えるのが、直接効果説の考え方です。
2項の解釈
不当利得返還請求の場合、悪意の受益者は、利息の支払いが必要です。同様に、545条2項は、原状回復の際に利息の支払いが必要と規定しています。
直接効果説では、原状回復は不当利得返還の性質を有すると捉えるため、2項は、当然の規定と考えることになります。
ただし、不当利得返還請求の場合と違って、2項3項の場合、悪意の受益者であることが必要とされていません。
3項の解釈
3項は、原状回復する際に、果実の償還も必要と規定しています。
契約が遡及的に消滅するので、契約に基づいて発生した果実を取得できる権利も遡及的に失われます。
そのため、果実が発生していた場合、果実の取得者は何の根拠もなく果実を収取していたことになるので、この果実を契約の相手方に償還しなければいけません。
そのため、直接効果説からは、3項は当然のことを規定しているものと捉えることになります。
4項の解釈
直接効果説によると契約が遡及的に消滅するので,損害賠償も発生しないはずです。しかし,不公平を生じるおそれがあります。
そこで、直接効果説では、4項は特別に損害賠償できることを規定していると考えることになります。
未履行債務
直接効果説によると、契約が遡及的に消滅するため、まだ履行していない債務は消滅すると考えることになります。
間接効果説
間接効果説は,契約解除の法的性質を、遡及効ではなく、将来効と解釈する見解です。
1項本文の解釈
契約を解除しても遡及効を生じないので、本来であれば原状回復は不要なはずです。
そのため、間接効果説では、1項本文を、契約関係を清算するために特別に原状回復を認めた規定であると考えることになります。
1項ただし書きの解釈
契約解除に遡及効はないので、第三者保護を特別に図る必要がありません。
そのため、1項ただし書きは単なる注意規定に過ぎないと考えるのが、間接効果説です。
2項3項の解釈
契約に遡及効がないので、解除前の金銭の受領や果実の収取に影響を及ぼさないはずです。
そのため、間接効果説からは、2項3項は、契約関係清算のために、特別に利息の支払いや果実の償還を認める規定と捉えることになります。
4項の解釈
契約解除に遡及効はないので、損害賠償に影響を及ぼしません。
間接効果説では、4項は当然のことを定めているに過ぎないと捉えることになります。
未履行債務
契約解除に遡及効がないので、解除前に発生していた債務はなくならないはずです。しかし、そのように考えると、解除後も清算できない法律関係が残ってしまいます。
そこで、間接効果説では、契約解除により、当事者には未履行債務の履行を拒絶できる特別な権利が発生すると考えることになります。
折衷説
折衷説は,契約解除によっても契約は遡及的消滅しないものの,未履行債務は将来に向かって消滅すると考える見解です。
折衷説は遡及効を否定するので、基本的には間接効果説と同じ解釈です。違うのは、未履行債務の扱いです。
間接効果説の場合、未履行債務については履行を拒絶できると考えます。しかし、折衷説の場合、履行拒絶権のような明文のない権利を認めることはできないため、未履行債務の履行義務は解除後も消滅しないと考えます。
3説の比較
直接効果説、間接効果説、折衷説の比較は、以下のとおりです。
| 直接効果説 | 間接効果説 | 折衷説 | |
|---|---|---|---|
| 法的性質 | 遡及効 | 将来効 | 将来効 |
| 1項本文(原状回復・既履行債務) | 不当利得返還の性質 | 特別に原状回復を認める規定 | 特別に原状回復を認める規定 |
| 1項ただし書き(第三者の保護) | 遡及効を制限して第三者を保護 | 注意規定 | 注意規定 |
| 2項・3項(利息と果実の償還) | 当然の規定 | 特別に利息・果実の償還を認める規定 | 特別に利息・果実の償還を認める規定 |
| 4項(損害賠償) | 特別に損害賠償を認める規定 | 当然の規定 | 当然の規定 |
| 未履行債務 | 消滅する | 未履行債務の履行拒絶権が発生する | 消滅しない |
判例・通説による契約解除の効果
前記のとおり,契約解除の法的性質論として代表的な3つの学説がありますが,判例・通説は直接効果説を採用しています。したがって,直接効果説を前提に実務が運用されているといってよいでしょう。
直接効果説によれば,契約解除の効力は,以下のとおりです。
- 契約ははじめに遡って消滅し,契約に基づく効果も遡及的に消滅する。
- 契約の遡及的消滅により,未履行債務も消滅する。
- 契約が遡及的に消滅する以上,第1項の既履行債務の原状回復請求権は,不当利得返還請求権の性質を有している。
- 契約が遡及的に消滅する以上,契約解除前の第三者は契約目的物を所有者等に返還しなければならないはずであるが,1項ただし書きにより特別に遡及効が制限され,第三者保護が図られている(ただし,判例は,第三者が対抗要件を具備している場合のみ遡及効制限による保護が生じるとしています。大判大正10年5月17日等)。
- 契約が遡及的に消滅する以上,損害賠償請求権は本来発生しないはずであるが,第4項により特別に認められている。
契約解除の将来効
前記のとおり、契約を解除すると、契約のはじめに遡って契約は消滅すると考えるのが、判例・通説であり、実務の運用です。ただし、すべての場合に遡及効が生じるわけではありません。
契約の種類や性質によっては、将来効を生じるのみの場合もあります。
特に、継続的な契約は、積み重ねられた契約関係がすべて覆ると、法的安定性や取引の安全を著しく損なうおそれがあります。そのため、継続的契約の場合、将来効しか認められないことが多くなります。
例えば、以下の契約は解除しても、将来効のみしかなく、遡及効を生じません。
- 賃貸借契約(民法620条本文)
- 雇用契約(民法630条、620条)
- 委任契約(民法652条、620条)
- 組合契約(民法684条、620条)
この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
この記事が参考になれば幸いです。
民法と資格試験
民法は、私法の基本法です。我々の生活に最も身近な法律です。
そのため、例えば、司法試験(本試験)、司法試験予備試験、司法書士試験、行政書士試験、宅建試験、マンション管理士試験・・・など、実に多くの資格試験の試験科目になっています。
これら法律系資格の合格を目指すなら、民法を攻略することは必須条件です。
とは言え、民法は範囲も膨大です。メリハリを付けないと、いくら時間があっても合格にはたどり着けません。効率的に試験対策をするには、予備校や通信講座などを利用するのもひとつの方法でしょう。
STUDYing(スタディング)
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参考書籍
本サイトでも民法について解説していますが、より深く知りたい方や資格試験勉強中の方のために、民法の参考書籍を紹介します。
新訂債権各論上巻(民法講義Ⅴ1)
著者:我妻榮 出版:岩波書店
民法の神様が書いた古典的名著。古い本なので、実務や受験にすぐ使えるわけではありませんが、民法を勉強するのであれば、いつかは必ず読んでおいた方がよい本です。ちなみに、我妻先生の著書として、入門書である「民法案内10(契約総論)」や「ダットサン民法2 債権法(第4版)」などもありますが、いずれも良著です。
我妻・有泉コンメンタール民法(第8版)
著書:我妻榮ほか 出版:日本評論社
財産法についての逐条解説書。現在も改訂されています。家族法がないのが残念ですが、1冊で財産法全体についてかなりカバーできます。辞書代わりに持っていると便利です。
契約法(新版)
著者:中田裕康 出版:有斐閣
契約法の概説書です。債権法の改正にも対応しています。説明は分かりやすく、情報量も十分ですので、基本書として使えます。
司法試験・予備試験など資格試験向けの参考書籍としては、以下のものがあります。
民法(全)(第3版補訂版)
著者:潮見佳男 出版:有斐閣
1冊で民法総則から家族法まで収録されています。基本書というより入門書に近いでしょう。民法全体を把握するのにはちょうど良い本です。
基本講義 債権各論Ⅰ(契約法・事務管理・不当利得)第4版補訂版
著者:潮見佳男ほか 出版:新世社
債権各論全般に関する概説書。どちらかと言えば初学者向けなので、読みやすい。情報量が多いわけではないので、他でカバーする必要はあるかもしれません。
債権各論(第4版)伊藤真試験対策講座4
著者:伊藤塾 出版:弘文堂
いわゆる予備校本。予備校本だけあって、実際の出題傾向に沿って内容が絞られており、分かりやすくまとまっています。民法は範囲が膨大なので、学習のスタートは、予備校本から始めてもよいのではないでしょうか。


