この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。

自己破産をした場合,債務が免責される代わりに,債務者が有していた財産は破産管財人によって換価処分されます。
ただし,全財産を処分しなければならないわけではありません。個人(自然人)の自己破産の場合には,処分しなくてもよい財産(自由財産)が認められています。
したがって,自己破産において処分しなければならないのは「自由財産に該当しない財産」です。
自己破産における財産の換価処分
破産法 第34条
- 第1項 破産者が破産手続開始の時において有する一切の財産(日本国内にあるかどうかを問わない。)は、破産財団とする。
- 第2項 破産者が破産手続開始前に生じた原因に基づいて行うことがある将来の請求権は、破産財団に属する。
<第3項以下は後述>破産法 第78条
- 第1項 破産手続開始の決定があった場合には、破産財団に属する財産の管理及び処分をする権利は、裁判所が選任した破産管財人に専属する。
破産手続は,破産者の財産を処分して金銭に換価し,それを債権者に公平に弁済・配当する手続です。そのため、自己破産の中心的な作業は、破産者の財産を換価処分することです。
この破産者の財産は、破産手続が開始されると「破産財団」として破産管財人に管理処分権が専属します(破産法78条1項)。自己破産をした場合に処分しなければ財産とは、この「破産財団」に属する財産です。
破産財団に組み入れられる財産は、原則として「破産者が破産手続開始の時において有する一切の財産」です(破産法34条1項)。
この破産財団には,不動産・動産などの「物」だけではなく,金銭の請求権などの「債権」,著作権などの無形の権利なども幅広く含まれます。
さらに,換価できるのであれば,権利とはいえないノウハウなども破産財団に含まれると考えられています。
自己破産した場合、破産者が破産手続開始時に有している財産は、破産管財人による換価処分の対象になります。この処分の対象になる財産には、物だけでなく、債権や無形の権利、権利とはいえないものであっても換価できるものまで含まれます。
自己破産すると全財産が処分されてしまうのか?
前記のとおり,自己破産において処分の対象となり得る財産は,「破産者が破産手続開始の時において有する一切の財産」です。しかも,その財産の範囲は,かなり幅広く解釈されています。
そうすると,自己破産をしたら,破産者の方が有している全財産を処分しなければならないことになりそうですが、実際にはそのようなことはありません。
破産手続においては,破産者(債務者)の経済的更生の観点も考慮することも目的の1つとされています(破産法1条)。
個人(自然人)の債務者が,自己破産をして免責が許可されたことにより借金が無くなったとしても,その代わりにすべての財産が没収されてしまっては、その後の生活が成り立ちません。
生活が成り立たないのであれば,自己破産をした意味がまったくなくなってしまい,債務者の経済的更生を図る破産法の目的も達せられません。
そこで,個人の自己破産の場合には,全財産を処分しなければならないとまではされていません。財産のうちで「自由財産」に該当する財産は処分しなくてもよいことになっています。
したがって、個人の方の自己破産において処分しなければならない財産とは「自由財産に当たらない財産」です。
なお,処分しても換価価値の無いようなものは,換価の対象になりませんし,あまりに廉価で処分コストの方が高いことが明らかなため事実上換価価値が無いといえるようなものも,やはり換価対象にはなりません。
※自由財産が認められるのは個人の破産の場合のみです。法人の破産の場合には自由財産は認められていません。したがって,法人の破産の場合には,全財産の処分が必要となります。
自己破産した場合でも、全財産を処分しなければならないわけではありません。自由財産に該当する財産は、処分しなくてもよいものとされています。
処分しなくてもよい財産(自由財産)
破産法 第34条
- <第1項・第2項は前述>
- 第3項 第1項の規定にかかわらず、次に掲げる財産は、破産財団に属しない。
- 第1号 民事執行法(昭和54年法律第4号)第131条第3号に規定する額に2分の3を乗じた額の金銭
- 第2号 差し押さえることができない財産(民事執行法第131条第3号に規定する金銭を除く。)。ただし、同法第132条第1項(同法第192条において準用する場合を含む。)の規定により差押えが許されたもの及び破産手続開始後に差し押さえることができるようになったものは,この限りでない。
- 第4項 裁判所は、破産手続開始の決定があった時から当該決定が確定した日以後1月を経過する日までの間、破産者の申立てにより又は職権で、決定で、破産者の生活の状況、破産手続開始の時において破産者が有していた前項各号に掲げる財産の種類及び額、破産者が収入を得る見込みその他の事情を考慮して、破産財団に属しない財産の範囲を拡張することができる。
- 第5項 裁判所は、前項の決定をするに当たっては、破産管財人の意見を聴かなければならない。
- 第6項 第4項の申立てを却下する決定に対しては、破産者は、即時抗告をすることができる。
- 第7項 第4項の決定又は前項の即時抗告についての裁判があった場合には、その裁判書を破産者及び破産管財人に送達しなければならない。この場合においては、第10条第3項本文の規定は、適用しない。
前記のとおり,自由財産に当たる財産は,自己破産をしても処分しなくて済みます。破産法上,自由財産に当たるとされているのは,以下の財産です。
- 破産手続開始決定後に取得した財産(新得財産。破産法34条1項)
- 法律上差押えが禁止されている財産(差押禁止財産。破産法34条3項2号)
- 99万円以下の現金(破産法34条3項1号)
- 自由財産の拡張がされた財産(破産法34条4項)
- 破産管財人によって破産財団から放棄された財産(破産法78条2項12号)
破産手続開始決定後に取得した財産(新得財産)
自己破産において処分の対象となる財産は,破産手続開始決定時に破産者が有している財産です(固定主義。破産法34条1項)。
したがって,破産者の財産であっても,破産手続開始決定後に取得した財産は,新得財産として換価処分の対象から外され、自由財産になります。
法律上差押えが禁止されている財産(差押禁止財産)
破産手続は,制度的にみると,債権者全員による民事執行であるともいえます。そこで,さまざまな理由から民事執行において差押えすることを禁じられている財産については,破産手続においても換価処分を認めるべきではないといえます。
そのため,差押えが禁止されている財産も自由財産となります(破産法34条3項2号)。
99万円以下の現金
債務者の生活の確保のため,現金も差押禁止財産とされます。ただし,民事執行では,差押えが禁止される現金は66万以下までとなっています。
破産手続では,すでに債務者が経済的に破たんしており,民事執行の場合よりも債務者の生活費が不足しているのが通常であることから,保護される現金の範囲を拡大して,99万円以下の現金は自由財産となるものとしています(破産法34条3項1号)。
なお、ここで言う「現金」はあくまでも手持ちの現金です。銀行などの預金は含まれません。
裁判所によって自由財産の拡張がされた財産
上記の財産以外はまったく自由財産にならないのかというと,そんなことはありません。
上記の自由財産に該当しない財産であっても,自由財産の拡張制度によって,裁判所が自由財産としてもよいと判断した財産は、自由財産として扱われます(破産法34条4項)。
ただし,自由財産の拡張は,裁判所や破産管財人が判断するものです。したがって,自由財産の拡張を申し立てれば必ず自由財産になるわけではありません。
なお,各裁判所では、破産法上認められている自由財産のほかにも、一定の財産については、自由財産の拡張の申立てをしないでも当然に自由財産の拡張があったものとして扱う運用(または、自由財産拡張の基準が示されている運用)が行われていることがあります。
自己破産の申立てをする場合は、申立てをする裁判所の運用を確認しておきましょう。
破産管財人によって破産財団から放棄された財産
破産管財人が換価処分しないと判断して破産財団から放棄することとなった財産も,自由財産となります(破産法78条2項12号)。
ただし,破産財団からの放棄も,裁判所や破産管財人が判断するものですので,必ず自由財産となるというものではありません。


