
破産者とは、債務者であって、裁判所により破産手続開始の決定がされているもののことをいいます(破産法2条3項)。破産手続が開始されると、破産者には一定の制限や義務が課されます。
破産者とは
破産法 第2条
- 第3項 この法律において「破産者」とは、債務者であって、第30条第1項の規定により破産手続開始の決定がされているものをいう。
「債務」とは,特定人に対してある一定の行為や給付を提供しなければならない法的義務のことをいいます。債務を負う者のことを「債務者」といいます。
支払不能または債務超過の状態に陥った債務者について破産手続開始の申立てがされ,破産手続開始の要件を充たしていた場合,裁判所は,その債務者に対し,破産手続開始決定をします(破産法30条1項)。
破産手続上,裁判所による破産手続開始決定を受けた債務者のことを「破産者」と呼んでいます(破産法2条3項)。
会社などの法人が破産手続開始決定を受けた場合、その法人が破産者となります。なお,正式な法律用語ではありませんが,会社などの法人が破産者である場合,個人の破産者と区別して,「破産法人」「破産会社」などと呼ぶこともあります。
破産手続における破産者の地位・役割
破産手続が開始されると,当該債務者は破産者として破産手続に参加することになります。
破産手続は破産管財人が遂行していきますが,破産者は手続の当事者ですから,ただ待っていればよいというものではありません。当事者としての役割を課されることになります。
また,破産者が当事者としての役割を果たし,また,破産管財人による破産手続を円滑に遂行していくため,破産者には各種の制限や義務が課されます。
法人・会社の解散・事業の停止
会社などの法人について破産手続が開始されると,その法人は解散することになるのが通常です。
ただし,解散により完全に消滅してしまうわけではなく,破産手続による清算の目的の範囲内で,破産手続が終了するまで清算法人として法人格を有するものとされています(破産法35条)。
もっとも,あくまで清算の目的の範囲内で存続するだけですので,法人格が消滅しないからと言って,通常どおりの営業が続けられるわけではありません。
財産の管理処分権のはく奪・換価処分
また,破産手続が開始すると,破産者は,財産の管理処分権を剥奪されます。破産者から剥奪された財産の管理処分権は破産管財人に専属することになります(破産法78条1項)。
したがって,破産者は,自分の財産であっても自由に管理処分することはできなくなります(なお,個人破産の場合,自由財産に該当する財産の管理処分権は破産者に残されます。)。
そして,破産者の財産(個人破産の場合の自由財産を除きます。)は,すべて破産管財人によって換価処分されることになります。
破産債権者による個別請求からの解放
破産手続は,裁判所によって選任された破産管財人が,破産者の財産を換価処分して,それによって得た金銭を,公平・平等に,各債権者に弁済または配当することを目的とする手続です。
そこで,破産手続が開始されると,破産債権者による個別の権利行使が制限されます(破産法100条1項等)。これにより,破産者は,債権者からの個別的な督促や請求から解放されることになります。
破産手続への協力
このように,破産者は,破産債権者からの個別的な追及を受けることがなくなり,財産の管理処分権を失い独自に営業を継続することもできなくなりますが,ただ待っていればよいというものでもありません。
破産者の財産状況や負債状況を一番よく知っているのは,その破産者自身のはずです。そのため,破産者に対しては,破産手続に参加して,破産管財業務に協力することが求められます。
具体的には,裁判所や破産管財人からの質問に回答し,資料の提出や情報の提供などの指示・要請があれば,それに応じ,債権者集会などに出席することが必要となってきます。
なお、会社など法人の破産手続の場合、これらの活動を現実に行うのは,その法人の代表者です。ただし,事案によっては,他の役員や従業員に協力を求めることもあります。
債務の消滅
会社など法人の破産手続の場合,財産がすべて換価処分され,債権者に対する弁済または配当が完了するなどして清算が完了すると,破産者である法人・会社は完全に消滅します。そして,それに伴い,破産手続によって支払いきれなかった債務は,税金なども含めてすべて消滅します。
他方、個人破産の場合には、破産手続が終了したからと言って、破産者が消滅するはずがありません。そのため、支払い切れなかった債務は残ります。この残った債務の支払義務を免除するために、別途、免責手続が行われ、免責が許可されると、債務の支払義務が免除されます。
ただし、個人破産の場合には、非免責債権である税金や国民健康保険料などの債務は、免責が許可されても免除されません。
法人破産の場合には、破産手続の終了によって、税金などの支払義務も消滅します。これに対して、個人破産の場合には、破産手続が終了し免責が許可されても、税金など公租公課の支払義務は残ります。
破産者に対する制限
前記のとおり、破産手続が開始されると、破産者は財産の管理処分権を失います。したがって、自分の判断で財産を処分することもできなくなります。
また、会社など法人破産の場合には、清算の目的の範囲内でのみ存続することになりますので、自分たちの判断で法人・会社の営業を今までどおり継続することはできなくなります。
債権者は個別の権利行使が制限されますが,破産者の側も,特定の債権者にだけ弁済をするなど利益を与える行為をすることはできなくなります。
その他,破産管財人による財産や負債等の調査のため,破産者宛ての郵便物等はすべて破産管財人に転送されます(破産法81条1項)。
なお,破産者は、裁判所の許可が得なければ,居住地を離れることができないものとされています(破産法37条1項)。法人破産の場合には、その法人の理事や取締役などは,裁判所の許可が得なければ,居住地を離れることができません(破産法39条)。
個人の破産の場合には、上記のほか、免責許可決定(または復権)まで、一定の資格を利用することができなくなる(資格制限)などの制限もあります。
破産者に課せられる義務
前記のとおり,破産者に対しては,破産手続に協力することが求められます。そこで,破産者の協力を確実にするため,破産者および法人破産の場合には役員等に対しては一定の義務が課せられます。
まず,破産手続が開始されると,破産者に対しては,破産手続開始の決定後遅滞なく,所有する不動産・現金・有価証券・預貯金その他裁判所が指定する財産の内容を記載した書面を裁判所に提出しなければならない義務(重要財産開示義務)を課せられます(破産法41条)。
また、個人破産の場合の破産者および会社など法人破産の場合には破産法人の理事・取締役・監査役等に対しては、破産管財人等に対して破産に関し必要な説明をしなければならない義務(説明義務)が課せられます(破産法40条1項1号、3号、4号、同条2項)。
裁判所の許可がある場合に限られますが、従業員に対しても説明義務が課せられることがあります(破産法40条1項5号、2項)。
その他,破産者は,債権調査期日に出頭しなければならず,そこで必要な事項について意見を述べなければならない義務も課せられています(破産法121条3項,5項,122条2項)。
これらの義務に違反すると,場合によっては,破産犯罪として刑罰を科せられることもあります(破産法268条,269条,277条等)。