この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。

民法第二編は「物権」です。「物権」とは、物を直接に支配して利益を受けることができる排他的な権利のことをいいます。
物権とは
民事において基本となるのは、物権と債権です。実際、民事の基本法である民法は、第二編において「物権」を、第三編において「債権」の基本ルールを定めています。
物権とは、物を直接に支配して利益を受けることができる排他的な権利のことです。
物権の基本ルール1:一物一権主義
物権の基本ルールとして「一物一権主義」があります。
一物一権主義とは、1つの物の上には同一内容の物権は1つしか存在せず、1つの物権の客体は1つの独立した物でなければならないとする原則です。
この一物一権主義は、以下の3つの内容を持っています。
- 物権の排他性:1つの物の上には同一内容の物権は1つしか存在しない
- 客体の単一性:物権の客体は、1つの物でなければならない
- 客体の独立性:物権の客体は、独立した物でなければならない
例えば、ある不動産にAの(単独)所有権がある場合、その不動産にBの(単独)所有権が成立することはありません。
ただし,物権の効力を第三者に対抗するためには、対抗要件が必要となります。例えば、不動産の場合、対抗要件として登記を具備していることが必要です。
物権の基本ルール2:物権法定主義
民法 第175条
- 物権は、この法律その他の法律に定めるもののほか、創設することができない。
当事者の合意などで自由に物権を創設できるとすると、第三者が物権の存在を知らずに別の物権を設定してしまい、一物一権主義に反する結果になるおそれがあります。そうなると、第三者が不測の損害を受け、取引の安全を害します。
そこで,何が物権として効力を有する権利となるのかは,法律で決められており,当事者で自由に新しい物権を創設することはできないのが原則とされています。このことを「物権法定主義」といいます(民法175条)。
ただし、取引の安全を害しない場合は、物権法定主義の例外として、慣習上の物権が認められることがあります。
例えば、流水利用権(大判大正6年2月6日)、温泉権(大判昭和15年9月18日)や譲渡担保権や所有権留保(現在は、譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律が制定されています。)などが物権として認めらています。
物権と債権の違い
物権とはどのような権利なのかは、債権と比較して考えると理解しやすいでしょう。
債権とは、特定人に対して一定の給付または行為をするように請求する権利のことをいいます。物の支配権である物権と異なり,債権は,ある特定の人に対して主張することができる権利です。
物権には,債権と比べるといくつかの違いがあります。
他者の行為の要否
上記のとおり,債権は特定人に対する請求権です。したがって,債権の場合には,権利を実現するには相手方の行為が必要となってきます。
これに対し,物権は,人に対する権利ではなく,物の直接的な支配権です。特に他人の行為がなくても、直接権限を実行すれば権利を実現できることになります。
同一内容の権利の可否
債権は,同一内容の債権が複数成立することがあります。例えば,ある物を引き渡す債権・債務が複数成立することもあり得ます。
しかし、物権は、前記の一物一権主義により、1つの物の上に1つの物権が存在する場合、その物の上に同一内容の物権が成立しないのが原則です。
明文規定のない権利の可否
債権の場合、当事者間の合意によって同じ内容の債権が複数成立したとしても、債務不履行などの契約責任の問題として処理できます。そのため、どのような内容の債権とするのかについては,当事者で自由に定めることが可能です。
しかし,物権の場合、前記のとおり、取引の安全のため物権法定主義が採用されています。そのため、当事者で自由に新しい物権を創設することはできないのが原則です。
物権の効力
前記のとおり,物権の効力は、物を直接・排他的に支配できることです。
物権相互間の優先的効力
物権の優先的効力とは、内容が競合する物権の相互間では、先に成立した物権が後に成立した物権よりも優先される効力です。
ただし,前記のとおり,物権を第三者に対抗するためには対抗要件(不動産であれば登記)が必要です。
したがって,先に成立した物権であっても,対抗要件を備えていなければ,後に成立した第三者の物権に対して優先的効力を対抗できません。
逆に,後に成立した物権の方が先に対抗要件を備えれば,後に成立した物権が,対抗要件のない先に成立した物権に対して優先的効力を対抗できることになります。
債権に対する優先的効力
物権は、債権に対して原則として優先的効力を持っています。債権に対しては、対抗要件を備えなくても、優先的効力を主張できます。
したがって,仮に,債権の方が先に成立していたとしても,後から成立した物権の方が優先されることになります。
例えば,AがBからある不動産を賃借し,その後に,その不動産をBからCが買い取ったとすると,Aは賃借権をCに対抗できなくなる場合があります。
そのため,物権の債権に対する優先的効力を示すものとして,「売買は賃貸借を破る」という言葉があります。
もっとも,不動産の賃借権は,賃借人保護のために,物権に近い効力が与えられています(これを賃借権の物権化といいます。)。
したがって、不動産賃借権の場合には、必ずしも「売買は賃貸借を破る」ことにはならず,不動産賃借権と物権は,物権相互間の場合と同様に,対抗要件(登記など)の具備の先後で優劣が決まることになります。
物権的請求権
物権の排他的効力を具体化するものとして、物権には物権的請求権が認められています。
物権的請求権とは,物権が何らかの事情で妨げられている場合に,その妨害者に対して,その妨害を除去して物権の完全な実現を可能とするために行為を請求する権利のことをいいます。
例えば,Aが所有する不動産をBが勝手に占拠している場合,AはBに対し,その不動産から出て行くように請求できます。
物権の種類・分類
物権には、本権と占有権があります。本権は、所有権と制限物権に分類され、制限物権は、さらに用益物権と担保物権に分類されます。
- 占有権
- 本権
- 所有権
- 制限物権
- 用益物権
- 担保物権
以下では、それぞれについて説明します。
占有権
民法 第180条
- 占有権は、自己のためにする意思をもって物を所持することによって取得する。
占有権とは、自己のためにする意思をもって物を所持することにより取得する物権です(民法180条)。
本権と異なり、物に対する支配権を保護するものではなく、占有している事実状態を法的に保護する権利です。
占有が侵害された場合、占有者は、侵害者に対し、占有権に基づき妨害の排除や占有の返還を求めることができます。
ただし、占有権はあくまで占有状態を保護するものにすぎません。正当な法的根拠のない占有であった場合は、本権者に対して占有権を主張することはできません。
なお、占有ではなく、財産権を行使する場合に、その財産権を行使している事実状態を保護する権利を準占有権といいます(民法205条)。
本権
本権とは、占有を法的に正当なものとして根拠付ける物権のことです。この本権には、所有権と制限物権があります。
所有権
民法 第206条
- 所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する。
所有権とは、物を全面的に排他的支配できる物権です。最も典型的な物権です。所有者は、所有物の処分、使用、収益すべてを行えます。
制限物権
制限物権とは、所有権と違い、物の使用、収益、処分の一部が制限されている物権です。制限物権には、用益物権と担保物権があります。
用益物権
用益物権とは、他人の物を使用・収益できる物権です。物の処分権がないので、制限物権に属します。用益物権には、以下のものがあります。
- 地上権
他人の土地において工作物または竹木を所有するため、その土地を使用する権利(民法265条) - 永小作権
小作料を支払って他人の土地において耕作または牧畜をする権利(民法270条) - 地役権
設定行為で定めた目的に従い、他人の土地を自己の土地の便益に供する権利(民法280条)
担保物権
担保物権とは、担保物権とは,ある債権の回収を確実にするために特定の物に担保を設定する物権のことです。担保物権には、以下のものがあります。
- 留置権
他人の物を占有している者が、その物に関して生じた債権が弁済されるまで、その物を留置(返還せずに占有したままに)しておける担保物権(民法295条1項) - 先取特権
債務者の財産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受けることができる担保物権(民法303条) - 質権
債務者または第三者の物の占有を権利者に移転し、権利者はその物から他の債権者に先立って優先的に弁済を受けることができる担保物権(民法342条) - 抵当権
債務者または第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した不動産・地上権・永小作権について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受けることができる担保物権(民法369条1項、2項)
物権変動とは
物権変動とは、物権が発生・変更・消滅することです。契約や相続・離婚などさまざまな原因で、物権変動が生じます。
例えば、新しく家を建てれば新たな所有権が発生します。売買契約が成立すると、目的物の所有権が売主から買主に移転します。相続の場合であれば、被相続人が所有していた財産は、相続人が所有権を取得することになります。
この物権変動については、公示の原則と公信の原則を知っておく必要があります。
公示の原則
物権変動は外部から認識が難しいため、単に物権変動が生じたら絶対的な効力を生じるとすると、取引の安全を害する危険性があります。
そこで、物権変動を第三者に対抗するには、登記・登録その他の外部から認識できる客観的な表象が必要とされています。これを公示の原則といいます。
例えば、以下の公示の方法があります。
- 登記:不動産の物権変動
- 登録:自動車の物権変動
- 引渡し:登録制度など他の公示方法がない動産の物権変動(物権ではないですが、建物の借家権)
- 明認方法:立木
公信の原則
公示の原則は、あくまで外部的表象を必要とするもので、その表象の内容が真実であることまでは求められていません。
そのため、登記などの公示が真実を表示していない場合、公示と異なる真実の法律関係が証明されると、公示にかかわらず、その真実の法律関係が効力を取り戻します。
これに対し、公示が間違っていたとしても、その公示を信頼した第三者がいる場合には、その公示どおりの法律関係に効力を与えるとするのが、公信の原則です。
民法では、基本的に公信の原則は採用されていません。ただし、例外的に、動産の即時取得は公信の原則を認めたものと考えられています。
この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
この記事が参考になれば幸いです。
民法と資格試験
民法は、私法の基本法です。我々の生活に最も身近な法律です。
そのため、例えば、司法試験(本試験)、司法試験予備試験、司法書士試験、行政書士試験、宅建試験、マンション管理士試験・・・など、実に多くの資格試験の試験科目になっています。
これら法律系資格の合格を目指すなら、民法を攻略することは必須条件です。
とは言え、民法は範囲も膨大です。メリハリを付けないと、いくら時間があっても合格にはたどり着けません。効率的に試験対策をするには、予備校や通信講座などを利用するのもひとつの方法でしょう。
STUDYing(スタディング)
・司法試験・予備試験も対応
・スマホ・PC・タブレットで学べるオンライン講座
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参考書籍
本サイトでも民法について解説していますが、より深く知りたい方や資格試験勉強中の方のために、民法の参考書籍を紹介します。
新訂物権法(民法講義Ⅱ)
著者:我妻榮 出版:岩波書店
民法の神様が書いた古典的名著。古い本なので、実務や受験にすぐ使えるわけではありませんが、民法を勉強するのであれば、いつかは必ず読んでおいた方がよい本です。ちなみに、我妻先生の著書として、入門書である「民法案内3 物権法(上)」「民法案内4 物権法(下)」や「楽天で購入」などもありますが、いずれも良著です。
我妻・有泉コンメンタール民法(第8版)
著書:我妻榮ほか 出版:日本評論社
財産法についての逐条解説書。現在も改訂されています。家族法がないのが残念ですが、1冊で財産法全体についてかなりカバーできます。辞書代わりに持っていると便利です。
司法試験・予備試験など資格試験向けの参考書籍としては、以下のものがあります。
民法(全)(第3版補訂版)
著者:潮見佳男 出版:有斐閣
1冊で民法総則から家族法まで収録されています。基本書というより入門書に近いでしょう。民法全体を把握するのにはちょうど良い本です。
民法の基礎2(物権)第3版
著者:佐久間毅 出版:有斐閣
定番の基本書のひとつ。「基礎」となっているものの初学者が使うにはややレベルが高いかもしれません。判例・通説ベースなので使いやすいです。
物権法(伊藤真試験対策講座2)第4版
著者:伊藤塾 出版:弘文堂
いわゆる予備校本。予備校本だけあって、実際の出題傾向に沿って内容が絞られており、分かりやすくまとまっています。民法は範囲が膨大なので、学習のスタートは、予備校本から始めてもよいのではないでしょうか。


