この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。

推定相続人の廃除とは、被相続人の意思に基づいて、被相続人対して虐待、重大な侮辱その他著しい非行をした推定相続人から相続権を奪う制度です。
相続人になる資格者(法定相続人)
ある人(被相続人)が亡くなると相続が開始され、遺産(相続財産)が相続人に受け継がれます。この相続人になれるのは、民法で決められた法定相続人だけです。
民法では、法定相続人になるのは、被相続人の子・直系尊属・兄弟姉妹・配偶者とされています(ただし、子が第一順位、直系尊属が第二順位、兄弟姉妹が第三順位とされ、配偶者は常に相続人となります。民法887条、889条、900条)。
誰が法定相続人になるかについては、被相続人の遺言でも変更することはできません。
ただし、一定の事由がある場合、被相続人の意思によって、相続人から相続権を剥奪できる制度があります。それが、推定相続人の廃除と呼ばれる制度です。
推定相続人の廃除とは
民法 第892条
- 遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。
引用元:e-Gov法令検索
被相続人としては、自分を虐待・侮辱するなどの行為をした相続人に自分の財産を相続させたくないと思う場合はあり得るでしょう。
このような場合、被相続人は、法定相続人を変えることはできないものの、遺言によって、その相続人に対する相続分を法定相続分と異なるものにすることはできます。
しかし、その相続人となるはずの人が遺留分を有する法定相続人(子、直系尊属、配偶者。なお、兄弟姉妹には遺留分はありません。)であった場合、遺言で遺留分までは剥奪することはできません。
そこで、民法では、遺留分さえも取得させたくないとする被相続人の意思を尊重するため「推定相続人の廃除(はいじょ)」制度が設けられています。
推定相続人の廃除とは、被相続人の意思に基づいて、相続人となる予定の人(推定相続人)が被相続人に対して虐待、重大な侮辱その他著しい非行をした推定相続人(相続が開始したら相続人となる予定の人)から相続資格を奪う制度です。単に「相続廃除」と呼ばれることもあります。
この推定相続人の廃除は、被相続人の意思を尊重する趣旨の他に、被相続人と推定相続人との人的信頼関係を破壊したことに対する民事的制裁を課す意味も有しています。
なお、細かい話ですが、漢字は「排除」ではなく「廃除」です。
相続廃除の対象:被相続人の子・直系尊属・配偶者
推定相続人とは、相続が開始した場合に遺留分を有する相続人となるべき者です。
具体的に言うと、法定相続人となる可能性のある子・直系尊属・配偶者が、推定相続人です。遺留分がない兄弟姉妹は、廃除の対象になりません。
前記のとおり、推定相続人の廃除は、遺留分も含めて相続財産を相続させないところに意味があります。
遺留分を有しない兄弟姉妹については、遺言で相続分を付与しなければよいだけ(遺留分がない以上、遺言で相続分を指定されなければ何らの反論もできなくなります。)であるため、廃除の対象となっていないのです。
推定相続人の廃除が認められる事由(廃除事由)
推定相続人の廃除が認められるのは、遺留分を有する推定相続人(相続が開始した時に相続人となる予定の人)に以下の事由がある場合です(民法892条)。
- 被相続人に対し虐待をした場合
- 被相続人に対し重大な侮辱を加えた場合
- その他の著しい非行があった場合
ただし、廃除は相続人から遺留分も含めて一切の相続権を奪う制度です。そのため、裁判所も相続廃除の判断には慎重であり、廃除事由が認められるケースは多くありません。
例えば、一度暴力をふるったり罵声をあびせた程度では、虐待や重大な侮辱とまでは認められにくいでしょう(詳しくは、下記リンク先で説明しています。)。
推定相続人の廃除の手続
廃除事由に該当していれば、ただちに廃除の効力が発生するわけではありません。推定相続人を廃除するには、家庭裁判所によって推定相続人廃除の審判をしてもらう必要があります。
被相続人の生前に行う場合(生前廃除)
相続が開始する前の場合、被相続人(となるべき人)は、家庭裁判所に推定相続人廃除の審判を請求(申立て)できます。生前廃除と呼ばれています。
この審判手続で廃除事由があると認められた場合、家庭裁判所により推定相続人廃除の審判(決定)が下され、廃除の効力が発生します。
被相続人が亡くなった後に行う場合(遺言廃除)
民法 第893条
- 被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思を表示したときは、遺言執行者は、その遺言が効力を生じた後、遅滞なく、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければならない。この場合において、その推定相続人の廃除は、被相続人の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。
引用元:e-Gov法令検索
被相続人は、遺言で推定相続人の廃除を定めることもできます。遺言廃除と呼ばれています。
ただし、廃除の遺言があってもそれだけでは廃除の効力は発生しません。相続開始後に、遺言執行者が家庭裁判所に推定相続人廃除の審判を申し立て、廃除を審判(決定)してもらう必要があります(民法893条)。
この遺言執行者を誰にするかは、遺言で決めておくことができます。遺言廃除する場合は、あわせて遺言執行者も決めておいた方がよいでしょう。
戸籍の届出(廃除届)
家庭裁判所による推定相続人廃除の審判が確定した場合、被相続人の本籍地を管轄する市町村役場に、廃除の届出をする必要があります。
この届出がされると、推定相続人の戸籍に廃除審判を受けたことが記載されます。
推定相続人の廃除の効果
家庭裁判所によって推定相続人の廃除が認められると、その推定相続人(相続が開始した時に相続人となる予定の人)は相続権を失います。
そのため、法定相続人であっても、相続できず、相続財産を受け継ぐことはできません。また、廃除によって遺留分もなくなるので、遺留分侵害額を請求することもできなくなります。
相続廃除の効果の発生時期
家庭裁判所の審判が確定すると、推定相続人廃除の効果が発生します。
遺言廃除の場合は、家庭裁判所の審判が確定すると、相続開始の時にさかのぼって廃除の効果が発生します(民法893条)。
相続廃除の効果の範囲
推定相続人の廃除によって失う相続権は、虐待や侮辱などを受けて審判申立てをした被相続人の相続に限られます。
他の人が被相続人となる相続についてまで、相続資格を剥奪されるわけではありません。
代襲相続は発生する
代襲相続とは、相続人となるはずの人が、相続開始時に死亡または相続欠格や推定相続人の廃除によって相続権を失った場合に、その相続人となるはずだった人の子が代わりに相続人となる制度のことです。
廃除された推定相続人は相続人になれませんが、その推定相続人が被相続人の子であった場合、推定相続人の子が代わりに相続人となって相続財産を受け継ぐことができます。

推定相続人廃除の取消し
いったんは廃除したものの、思い直してやはり相続人に戻してやりたいと被相続人が考えることもあるでしょう。
推定相続人の廃除は被相続人の意思を尊重するための制度であるので、廃除を取消しを望む意思も尊重されます。
ただし、家庭裁判所の審判で決まったものであるため、簡単に取り消せるわけではありません。
廃除を取り消すには、別途、被相続人が家庭裁判所に推定相続人廃除取消しの審判を申し立てる必要があります(民法894条1項)。
遺言で廃除を取り消す場合は、相続開始後に遺言執行者が廃除取消しの審判を申し立てることになります。
なお、廃除審判を申し立てた後、審判が下される前に被相続人が亡くなった場合、家庭裁判所は、親族・利害関係人・検察官の請求によって遺産の管理に関し必要な処分を命じることができます(民法895条1項)。
推定相続人の廃除と相続欠格との違い
法定相続人から相続人になる資格を失わせる制度には、推定相続人の廃除のほか、相続欠格制度もあります。相続欠格とは、民法891条で定める事由がある者が、相続権を失う制度です。
この推定相続人の廃除と相続欠格には、以下の違いがあります。
| 比較項目 | 推定相続人の廃除 | 相続欠格 |
|---|---|---|
| 主たる制度趣旨 | 被相続人の意思の尊重 | 相続秩序の維持(相続秩序を害した者に対する民事的制裁) |
| 対象者 | 推定相続人(遺留分のある被相続人の子・直系尊属・配偶者。兄弟姉妹を除く) | すべての法定相続人(兄弟姉妹を含む) |
| 条件事由 | 廃除事由(民法892条) | 相続欠格事由(民法891条) |
| 手続の要否 | 家庭裁判所の審判 市区町村役場への届出 | 不要 |
| 取消しの可否 | 取消し可能(ただし、家庭裁判所での取消審判が必要) | 取消し不可 |
以下では、各項目ごとにさらに詳しく説明します。
被相続人の意思の尊重に関する違い
推定相続人の廃除は、被相続人の意思を尊重するための制度です。廃除審判を申し立てられるのは、被相続人または被相続人の意思を実現することを職務とする遺言執行者だけです。
他方、相続欠格には、被相続人の意思を尊重する面もありますが、むしろ相続制度の秩序を害する行為をした者に民事的制裁を課すことに趣旨があります。
そのため、被相続人の意思にかかわらず、相続欠格事由があれば、当然に対象の人から相続権が剥奪されます。
推定相続人の廃除と相続欠格には、被相続人の意思を尊重することを主たる目的とするものか否かの違いがあるのです。
対象の違い
推定相続人の廃除の対象は、法定相続人となる予定の被相続人の子・直系尊属・配偶者です。兄弟姉妹は対象になりません。
他方、相続欠格によって相続権を失う法定相続人は、子・直系尊属・配偶者と兄弟姉妹です。
対象に兄弟姉妹を含むか否かについても、推定相続人の廃除と相続欠格には違いがあります。
条件の違い
前記のとおり、推定相続人の廃除が認められるには、民法に定める廃除事由が必要です。
他方、相続欠格が認められるのは、以下の事由がある者です。
- 故意に被相続人または相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、または至らせようとしたために、刑に処せられた者
- 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、または告訴しなかった者(ただし、その者に是非の弁別がないとき、または殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときを除く)
- 詐欺または強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、または変更することを妨げた者
- 詐欺または強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、または変更させた者
- 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者
いずれも被相続人に対する非行が要件事由とされていますが、内容には違いがあります。
手続の違い
前記のとおり、推定相続人を廃除するには、被相続人または遺言執行者が家庭裁判所に審判を申し立てる必要があります。家庭裁判所の審判が確定した後は、市町村役場への廃除届も必要です。
他方、相続欠格に該当する者がいる場合、基本的に特別な手続は不要です。相続欠格者を外して相続手続を進めれば足ります。市町村役場への届出も必要ありません。
家庭裁判所の判断や市町村役場への届出が必要か否かは、推定相続人の廃除と相続欠格の大きな違いです。
取消しの可否の違い
推定相続人の廃除は、別途、家庭裁判所に取消しの審判をしてもらわなければならないものの、取り消すことが可能です。
他方、相続欠格は、取り消せません。(被相続人が遺言で宥恕した場合は、相続資格が回復すると考える見解もあります。)
相続資格剥奪の効果を取り消せるか否かにも、推定相続人の廃除と相続欠格には違いがあります。
この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
この記事が参考になれば幸いです。
民法と資格試験
民法は、私法の基本法です。我々の生活に最も身近な法律です。
そのため、例えば、司法試験(本試験)、司法試験予備試験、司法書士試験、行政書士試験、宅建試験、マンション管理士試験・・・など、実に多くの資格試験の試験科目になっています。
これら法律系資格の合格を目指すなら、民法を攻略することは必須条件です。
とは言え、民法は範囲も膨大です。メリハリを付けないと、いくら時間があっても合格にはたどり着けません。効率的に試験対策をするには、予備校や通信講座などを利用するのもひとつの方法でしょう。
STUDYing(スタディング)
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参考書籍
本サイトでも民法について解説していますが、より深く知りたい方や資格試験勉強中の方のために、民法の参考書籍を紹介します。
逐条解説 改正相続法
著者:堂薗幹一郎など 出版:商事法務
民法改正に対応した逐条解説書。相続を扱う実務家向けですが、持っていると何かと便利です。立法担当者や現役裁判官による著書であるため、内容に信頼性があります。
資格試験向けの参考書籍としては、以下のものがあります。
民法(全)(第3版補訂版)
著者:潮見佳男 出版:有斐閣
1冊で民法総則から家族法まで収録されています。基本書というより入門書に近いでしょう。民法全体を把握するのにはちょうど良い本です。
民法VI 親族・相続 (LEGAL QUEST)第8版
著者:前田陽一ほか 出版:有斐閣
家族法全体の概説書。条文・判例から書かれているので、学習の早い段階から利用できます。情報量もあるので、資格試験の基本書として十分でしょう。
親族・相続(伊藤真試験対策講座12)第4版
著者:伊藤真 出版:弘文堂
いわゆる予備校本。予備校本だけあって、実際の出題傾向に沿って内容が絞られており、分かりやすくまとまっています。民法は範囲が膨大なので、学習のスタートは、予備校本から始めてもよいのではないでしょうか。


