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嘘をついて(詐術により)信用取引で財産を取得すると自己破産しても免責されないのか?

この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。

answer

免責不許可事由の1つに,「破産手続開始の申立てがあった日の一年前の日から破産手続開始の決定があった日までの間に,破産手続開始の原因となる事実があることを知りながら,当該事実がないと信じさせるため,詐術を用いて信用取引により財産を取得したこと」があります。

例えば、支払不能状態であるのに支払不能ではないと嘘を言ってクレジットカードを利用して商品を購入した場合、この免責不許可事由に該当し、免責が許可されないことがあります。ただし、裁判所の裁量によって免責が許可されることはあります。

免責不許可事由となる詐術による信用取引

破産法 第252条

  • 第1項 裁判所は、破産者について、次の各号に掲げる事由のいずれにも該当しない場合には、免責許可の決定をする。
  • 第5号 破産手続開始の申立てがあった日の1年前の日から破産手続開始の決定があった日までの間に、破産手続開始の原因となる事実があることを知りながら、当該事実がないと信じさせるため、詐術を用いて信用取引により財産を取得したこと。

自己破産をする最大の目的は、裁判所に免責を許可してもらうことです。免責が許可されると、借金の支払義務がすべて免除されます。借金を支払わなくてもよくなるのです。

もっとも、自己破産を申し立てたからといって、必ず免責が許可されるとは限りません。破産法252条1項各号に列挙された免責不許可事由がある場合には、免責が不許可とされることもあり得ます。

破産法252条1項5号は,破産手続開始原因となる事実があることを知りながら、その事実がないと信じさせるために詐術を用いて信用取引を行い、それによって財産を所得することは、免責不許可事由に該当すると規定しています。詐術による信用取引と呼ばれる免責不許可事由です。

例えば、すでに支払不能状態であることを知りながら、借金が無いなどと嘘をついてクレジットカードを契約し、そのカードを利用して商品を購入したような場合です。

詐術による信用取引が免責不許可事由となるのは,以下の場合です。

詐術による信用取引が免責不許可事由となる場合
  • 破産手続開始の申立てがあった日の1年前の日から破産手続開始の決定があった日までの間に、信用取引により財産を取得したこと
  • 上記信用取引をするに際して、破産手続開始の原因となる事実があることを知りながら、当該事実がないと信じさせるため、詐術を用いたこと

信用取引による財産の取得

詐術による信用取引が免責不許可事由となるのは、「破産手続開始の申立てがあった日の1年前の日から破産手続開始の決定があった日までの間に,信用取引により財産を取得した」場合です。

信用取引による財産取得

信用取引とは「信用」を使って行う取引です。最も典型的な例は,クレジットカード決済によるショッピングでしょう。

クレジットカード決済によるショッピングでは,商品を買うに当たって,買主が現金を支払うことはありません。クレジットカード会社が立替払いをしてくれます。

つまり,クレジットカード会社は,買主が、後に、自分のところに立替払いした分を返してくれるだろうという信用に基づいて立替払いをしているのです。そのため、信用取引と呼ばれます。

そして,この信用取引によって財産を取得したことが,免責不許可事由たる詐術による信用取引の要件となります。単に信用取引をしただけではなく、信用取引によって財産を取得した場合です。

上記の例で言えば,クレジットカード決済の売買=「信用取引」で,商品=「財産」を取得した場合が、信用取引による財産取得に当たります。

財産取得の時期

信用取引による財産取得が免責不許可事由となるのは、「破産手続開始の申立てがあった日の1年前の日から破産手続開始の決定があった日までの間」に財産を取得した場合です。

それ以外の時期に詐術による信用取引で財産を取得したとしても,免責不許可事由には当たりません。

詐術を用いたこと

詐術による信用取引という免責不許可事由となるのは,信用取引によって財産を取得したことに加え,その信用取引において,「破産手続開始の原因となる事実があることを知りながら,当該事実がないと信じさせるため,詐術を用い」た場合です。

「詐術を用いる」とは

「詐術」とは「騙す」ことです。また、「破産手続開始の原因」とは、支払不能の状態にあることを意味します。

つまり,「破産手続開始の原因となる事実がないと信じさせるため,詐術を用いて信用取引により財産を取得した」とは,支払不能状態ではないと嘘を言って,相手方を騙し,信用取引により財産を取得したことです。

例えば、債務者Aはすでに支払不能状態にあったとします。

それにもかかわらず,自動車を購入するためBカード会社に行き,その担当者に対して自分の収入や財産、借金の有無などについて嘘を言って,さも収入も資産もあり、借金もないかのように装って担当者を騙し,自動車のローン契約を結ばせ,その結果,自動車を手に入れました。

こういう場合がまさに,「破産手続開始の原因となる事実がないと信じさせるため,詐術を用いて信用取引により財産を取得した」ことに該当します。

詐術の内容

相手方に聞かれなかったので,支払不能状態であることを言わないままお金を借りたような場合は,「詐術」には当たらないと考えられています。

「詐術」であるためには,聞かれたことに嘘を言ったとか,積極的に自分から相手方を騙すような行動をしたことが必要となるのです。

破産手続開始の原因となる事実があることを知りながら詐術を用いたこと

単に詐術を用いて財産を取得しただけでは、免責不許可事由には該当しません。「破産手続開始の原因となる事実があることを知りながら」、その事実がないと信じさせるために詐術を用いた場合に、免責不許可事由となります。

前記のとおり、破産手続開始の原因とは、支払不能状態にあるということです。支払不能状態にあるのに、そのような状態でないと信じさせるために詐術を用いた場合に免責不許可事由となるということです。

したがって、(自分が支払不能であることを知らないという場合は、あまり考えられませんが)自分が支払不能状態であることを知らずに詐術を用いて財産を取得したとしても、免責不許可事由には当たりません。

裁量免責の可能性

破産法 第252条

  • 第2項 前項の規定にかかわらず、同項各号に掲げる事由のいずれかに該当する場合であっても、裁判所は、破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を許可することが相当であると認めるときは、免責許可の決定をすることができる。

前記のとおり,詐術による信用取引をすると,免責不許可事由に該当してしまいます。したがって、原則として免責は許可されません。

しかし、常に免責不許可となるわけではありません。裁判所が、「破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を許可することが相当であると認めるとき」には、免責許可されることもあります。これを裁量免責と言います(破産法252条2項)。

取得した財産の価額等にもよりますが、取得財産を破産管財人に引き渡して換価処分してもらい、真摯に反省をして破産手続に誠実に協力すれば、裁量免責される可能性があります。

他方、取得財産が高額で、詐術の態様も悪質であるという場合には、免責不許可事由になることはおろか、対象の債権者に対する詐欺罪など刑罰を負う可能性もあります。くれぐれも虚偽申告などによる信用取引をしないように注意しましょう。

この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
この記事が参考になれば幸いです。

弁護士の探し方

「自己破産をしたいが、どの弁護士に頼めばいいのか分からない」
という人は多いのではないでしょうか。

現在では、多くの法律事務所が自己破産を含む債務整理を取り扱っています。そのため、インターネットで探せば、債務整理を取り扱っている弁護士はいくらでも見つかります。

しかし、インターネットの情報だけでは、分からないことも多いでしょう。やはり、実際に一度相談をしてみて、自分に合う弁護士なのかどうかを見極めるのが一番確実です。

債務整理の相談はほとんどの法律事務所で「無料相談」です。むしろ、有料の事務所の方が珍しいくらいでしょう。複数の事務所に相談したとしても、相談料はかかりません。

そこで、面倒かもしれませんが、何件か相談をしてみましょう。そして、相談した複数の弁護士を比較・検討して、より自分に合う弁護士を選択するのが、後悔のない選び方ではないでしょうか。

ちなみに、個人の自己破産の場合、事務所の大小はほとんど関係ありません。事務所が大きいか小さいかではなく、どの弁護士が担当してくれるのかが重要です。

弁護士法人東京ロータス法律事務所

  • 相談無料(無料回数制限なし)
  • 全国対応・休日対応・メール相談可
  • 所在地:東京都台東区

弁護士法人ひばり法律事務所

  • 相談無料(無料回数制限なし)
  • 全国対応・依頼後の出張可
  • 所在地:東京都墨田区

弁護士法人ちらいふく

  • 相談無料
  • 24時間対応・秘密厳守・匿名相談可能・メールフォーム・LINE相談可能
  • 所在地:東京都千代田区

参考書籍

本サイトでも自己破産について解説していますが、より深く知りたい方のために、自己破産の参考書籍を紹介します。

破産実務Q&A220問
編集:全国倒産処理弁護士ネットワーク 出版:きんざい
破産実務を取り扱う弁護士などだけでなく、裁判所でも使われている実務書。一般の方でも、本書があれば、破産実務のだいたいの問題や自分の場合どうなるのかを知ることができます。

破産・民事再生の実務(第4版)破産編
編集:永谷典雄ほか 出版:きんざい
東京地裁民事20部(倒産部)の裁判官・裁判所書記官による実務書。東京地裁の運用を中心に、破産事件の実務全般について解説されています。

破産管財の手引(第3版)
編著:中吉徹郎 出版:金融財政事情研究会
東京地裁民事20部(倒産部)の裁判官・裁判所書記官による実務書。破産管財人向けの本ですが、申立人側でも役立ちます。東京地裁で自己破産申立てをする場合には、特に必要となります。

はい6民です お答えします 倒産実務Q&A
編集:川畑正文ほか 出版:大阪弁護士協同組合
6民とは、大阪地裁第6民事部(倒産部)のことです。大阪地裁の破産・再生手続の運用について、Q&A形式でまとめられています。

破産申立マニュアル(第3版)
編集:東京弁護士会倒産法部 出版:商事法務
東京弁護士会による破産実務書。申立てをする側からの解説がされています。代理人弁護士向けの本ですが、自己破産申立てをする人の参考にもなります。

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