
債務整理の方法として主要なものは「任意整理」「自己破産」「個人再生(個人民事再生)」の3種類です。払い過ぎた利息を取り戻す「過払金返還請求」も,債務整理の一種といえるかもしれません。また,これらだけでなく,事案によっては,「消滅時効の援用」や「相続放棄」「相続の限定承認」などを利用して債務整理をすることもあります。
いずれの方法も一長一短がありますから,それぞれの事情に応じて最適な方法を選択する必要があります。
債務整理の種類・方法
借金返済問題の法的な解決方法のことを「債務整理」と呼んでいます。この債務整理の具体的な方法として,いくつかの種類の方法があります。
債務整理の方法として主要なものは,「自己破産」「個人再生(個人民事再生)」「任意整理」の3種類の方法です。
また,払いすぎた利息(過払金)の返還請求は,上記の主要な債務整理方法に付随して行われることが多く,過払金を取り戻すことによって債務をなくし,または,別の債務の支払いに充てることなどができるようになりますので,債務整理の一種といってよいでしょう。
さらに,消滅時効の援用や相続放棄・限定承認なども,場合によっては,債務整理の方法として利用することが可能です。
任意整理
債務整理の主要な3種類の方法の1つが,「任意整理」です。
任意整理とは,弁護士等が,債務者の方に代わって,より有利な内容での支払条件になるよう債権者と交渉する手続です。
裁判外での手続ですので,自己破産や個人再生に比べて柔軟な手続が可能であり,また,法的な制限も少ないというメリットがあります。ただし,裁判外の交渉ですから,法的な強制力はありません。
任意整理においては,通常は,最低限の生活を維持できる程度の長期の分割払いにしてもらうことを目標とします。
例えば,Aさんは,B社,C社,D社から借金をしていました。毎月の返済額は,B~D社合計で20万円にもなっています。しかし,Aさんは,生活費を除けば,月々5万円支払うのがやっとの状態です
そこで,弁護士が,B~D社と交渉します。 具体的には,B社とC社には月々2万円ずつ,D社には月々1万円の長期分割払い,加えて,将来利息なしにしてもらい,月々5万円の範囲内での支払いに収まるように調整していきます。
任意整理のメリット
任意整理のメリットは,裁判外の交渉であるため,裁判手続である自己破産や個人再生のような制限がないという点です。
そのため,自己破産のように,裁判所の調査が入ったり,資格が制限されたり,住居の制限を受けたりするようなことはありません。また,官報公告などもされません。柔軟な処理も可能となります。
任意整理のデメリット
任意整理のデメリットは,他の債務整理と同様,信用情報に事故情報(ブラックリスト)として登録されることです。任意整理の場合は,完済から5年間程度はブラックリストに登録され,その間は,新たに借り入れをしたり,ローンを組むことが難しくなります。
もう1つの任意整理のデメリットは,強制力がないことです。裁判外の交渉であるため,自己破産や個人再生のような制限はありませんが,強制力もありません。
したがって,相手方の債権者に対して強制的に和解を認めさせることができません。相手方が話に応じなければ,任意整理が上手くいかないというデメリットがあるのです。任意整理の場合は,相手方の債権者がどの業者なのかということも重要になることがあります。
また,任意整理の場合は,大幅な減額は見込めないことが多くなっています。そのため,個人再生と比べても返済額が大きくなるというデメリットもあります。
自己破産とは
債務整理の主要な3種類の方法の1つが,「自己破産」を申し立てることです。
自己破産とは,裁判手続により,債務者の財産を換価処分し,それによって得た金銭を債権者に公平に分配するという手続です。
個人の自己破産の手続においては,破産手続と同時に免責手続が行われ,この免責手続において,裁判所によって免責が許可されると,財産を処分しても支払いきれなかった借金などの債務の支払義務を免除してもらうことができます。
この破産と免責の手続は,一応は別個の手続とされていますが,実際には,一体のものとして行われています。
つまり,破産・免責手続は,2つの手続を併せて,債務者の財産をすべて処分してお金に換え,それを債権者に分配した上,足りない分はすべて,免除してもらうという手続なのです。
もっとも,財産を処分するといっても,生活必需品など「自由財産」に該当する財産は処分不要です。本当に,「裸一貫」になってしまうわけではありません。
一定の財産を処分しなければならないとはいえ,支払いきれない借金を免除してもらえるというのですから,債務整理の方法として最も強力な手続であるといえるでしょう。
自己破産のメリット
自己破産のメリットは,何と言っても,借金などの債務の支払義務を免責してもらえることです。言い方は悪いかもしれませんが,借金をチャラにできるということです。
また,自己破産の手続が開始されると,債権者は,取立てはもちろん,訴訟を提起したり,給料などの差押えをすることもできなくなります。
そのため,安定した生活を送ることができるようになるメリットもあると言えるでしょう。
自己破産のデメリット
自己破産には,借金を免責してもらえるという強力なメリットがある反面,以下のようなデメリットもあります。
- ブラックリスト(信用情報の事故情報)に10年間登録される
- 生活必需品等を除く財産を処分しなければならない
- 自己破産をしたことが官報に公告される
- 破産手続中は公的な資格を使った仕事ができなくなる
- 破産手続中は住居を自由に移転できなくなる
- 破産手続中は郵便物が破産管財人によって調査される
- 免責不許可の場合,破産したことが市町村役場に通知される
自己破産を選択する場合には,これらのデメリットも考慮に入れて検討する必要があります。ただし、自己破産のデメリットには誤解も含まれています。
- すべての財産を処分しなければならないわけではありません。
- 居住制限・郵便物の転送も破産手続の期間中だけです。
- 免責が許可されれば、資格制限は解除されます。
- 免責が許可されれば、市町村役場への通知もなされません。
- 選挙権が制限されることもありません。
- ギャンブルなどで借金を増やしてしまった場合,たしかに免責不許可事由には当たりますが,絶対に免責されないというわけでもありません。
デメリットを考慮するとしても,間違ったデメリットまで鵜呑みにしてしまうことはよくありません。正確な知識に基づいて検討すべきです。
個人再生(個人民事再生)とは
債務整理の主要な3種類の方法の1つが,「個人再生(個人民事再生)」を申し立てることです。
民事再生法に基づく民事再生手続は,債務を減額した上で,その減額された債務を分割払い等で支払っていくという手続です。その中でも,個人の方を対象にしたものを,「個人再生」といいます。
言ってみれば,任意整理と破産手続の中間のようなものです。借金の一部を減額してもらうという点では,破産に似ています。残額を分割払いで支払っていくという点では,任意整理にも似ているのです。
ただし,破産手続と違って,借金の全部を免責してもらうことはできません。また,任意整理と違って,法律に従って,裁判所における裁判手続として行われるものです。
しかし,個人再生の場合には,自己破産のように財産の処分をしなくてもよいというメリットがあります。
また,特に,住宅ローンの残っている自宅を残したまま借金の整理ができる住宅資金特別条項という特別の制度があるという点が最大のメリットかもしれません。
個人再生のメリット
個人再生には,以下のようなメリットがあります。
- 自己破産と違い,財産の処分は必須とされていない。
- 自己破産と違い,資格の制限がない。
- 自己破産と違い,免責不許可事由があっても債務整理できる。
- 任意整理と違い,裁判手続なので強制力がある。
- 任意整理と違い,大幅な減額(最大10分の1)が可能となる。
- 減額した上で3年から5年の分割払いにできる。
- 住宅資金特別条項を利用することにより,住宅ローンの残っている自宅を処分せずに債務を整理できる。
個人再生は,自己破産のように借金の全額免除はされないものの,一部免除(減額)はされます。債務額や財産状況等にもよりますが,5分の1から10分の1までの減額が可能な場合もあります。
また,自己破産と異なり,財産処分や資格制限もなく,免責不許可事由があっても利用できるというメリットがあります。
さらに,住宅資金特別条項という特別の制度を利用すると,住宅ローンを従前どおり(またはリスケして)支払うことにより,住宅ローンの残っている自宅を処分せずに,住宅ローン以外の借金のみ個人再生で減額・分割払いにできます。
住宅ローンの残っている自宅を処分したくないという場合の債務整理として,個人再生には大きなメリットがあると言えるでしょう。
個人再生のデメリット
上記のとおり,個人再生は債務整理の方法として大きなメリットがある手続ですが,以下のデメリットもあります。
- ブラックリスト(信用情報の事故情報)に10年間登録される
- 個人再生をしたことが官報に公告される
- 自己破産よりも要件が厳しく,利用できない場合がある
- 手続を自分で進めていかなければならない
- 小規模個人再生の場合,債権者の不同意によって認可されないことがある
個人再生は,有用な反面,さまざまな要件が必要とされます。また,手続を自分で進めていかなければならないというデメリットもあります。
過払金返還請求
利息制限法所定の制限利率を超える利息は無効です。もし,貸金業者との取引で利息制限法違反の利息をとられていることがあれば,その支払過ぎた利息は「過払金」として返してもらえることがあります。
この過払金返還請求も,過払いであればその取引の債務はゼロ円ということになりますし,返してもらった過払金を他の債務に充てることも可能となりますから,債務整理の一種といえるかもしれません。
過払金返還請求は,あくまで支払過ぎた利息を返してもらうだけのことですから,それをしたからといって,ブラックリストに登録されることはありません。
デメリットがあるとすれば,自己破産や個人再生をする予定であるにもかかわらず,先に過払金返還請求だけしてしまうと,後に本当に自己破産や個人再生をしたときに,否認権や不利益な財産処分などの問題が生じてしまうおそれがあるという点くらいでしょう。
消滅時効の援用
借金は,債権者の側からみれば,返済を求めることができる債権(貸金返還請求権)です。債権である以上,一定期間,権利を行使しなければ,時効によって消滅することがあります。
債権者が,一定期間,権利を行使してこなかった場合,債務者は,消滅時効を援用できます。つまり,「時効によって貸金返還請求権は消滅したので,もう返済をしません」と主張できるということです。
この消滅時効の援用も,債務整理の一種といえるでしょう。
貸金業者からの借入れの場合,その貸金返還請求権の消滅時効期間は「5年」です。したがって,最終の取引日から5年を経過していれば,消滅時効を援用できます。
ただし,5年を経過する前に,債権者と和解をしていたり,訴訟を提起されて判決をとられているような場合には時効が更新されてしまいますので,消滅時効を援用できない場合があります。
消滅時効援用をすること自体には,特段のデメリットはありません。
相続の放棄・限定承認
相続をすると、相続人は、亡くなった方(被相続人)のプラスの財産(資産)だけでなく、マイナスの財産(負債・債務)も引き継ぐことになります。
そこで,遺産のうちにマイナスの財産がある場合には,その相続債務を引き継がないようにするため,相続の放棄や限定承認といった法的手続をとることがあります。
相続債務については,相続放棄や限定承認によって債務整理をすることもあり得るでしょう。
ただし,相続放棄も限定承認も,相続の開始を知った時から3か月以内に家庭裁判所に申述をしなければなりません。期限には注意しておく必要があります。
どの種類の手続を選択すればよいのか?
これらの債務整理の各種手続は,前記のとおり,いずれの手続も一長一短があります。どの手続を選択すべきかは,個々の事情によってことなってきます。一概にどれがよいということはいえないのです。
したがって,もっともよい選択をするには,やはり法律の専門家のアドバイスを受けておくのがよいかと思います。