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不法行為(責任)とは?要件・効果・時効などをわかりやすく解説

この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。

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不法行為とは、故意または過失によって他人の権利または法律上保護される利益を侵害する行為のことをいいます。不法行為の加害者は、被害者に対し不法行為責任(損害賠償責任)を負うことになります。

不法行為責任とは

民法 709条

  • 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

債権の発生原因のひとつに「不法行為」があります。

不法行為とは、故意または過失によって他人の権利または法律上保護される利益を侵害する行為のことです(民法709条)。

不法行為を行った者は、被害者に対して損害を賠償する責任(不法行為責任)を負います。被害者は、不法行為の加害者に対して、損害賠償を請求できるのです。

不法行為制度の趣旨

われわれの社会生活は,共同生活です。共同生活においては,ある行為が他人に利益を与えることもありますが、他方、ある行為が他人に損害を与えるということもあり得ます。

これは、共同生活を営んでいる以上避けられません。しかし、この損害の発生を放置しておいては、公平を害し、共同生活が成り立たなくなってしまいます。

そこで、共同生活において不可避的に生じる損害を当事者間において公平に分担するための制度が「不法行為」制度です。

我が国における不法行為制度の趣旨は、加害者に罰を与えるという制度(これを「懲罰的不法行為責任」と呼ぶことがあります。)ではなく、損害の公平な分担を図ることにあります。

不法行為責任の要件

不法行為責任が成立するためには,以下の要件が必要です。

不法行為責任の成立要件(基本4要件)
  • 他人の権利または法律上保護される利益を侵害する行為をしたこと(権利等侵害行為)
  • その権利等侵害行為が故意または過失に基づくこと(故意・過失)
  • 損害が生じたこと(損害の発生)
  • 損害の発生が権利等侵害行為によるものであること(因果関係)

また、上記基本4要件のほか、責任能力があることや正当防衛・緊急避難が成立しないことも不法行為責任の要件です。

要件1:権利・法律上保護される利益を侵害する行為

不法行為責任が成立するためには、他人の権利または法律上保護される利益を侵害する行為(不法行為)が必要です。

以前は権利侵害行為のみが規定されていましたが、民法改正によって、権利とまではいえないとしても法律上保護される利益を侵害した場合も、不法行為が成立することが明示されました。

要件2:故意・過失があること

不法行為責任が成立するためには、権利等侵害行為が行為者の故意または過失によるものでなければなりません。故意がなく過失もない(無過失)場合、不法行為責任は成立しません。

故意とは、自己の行為によって他人の権利または法律上保護される利益を侵害する結果(損害)の発生を認識・予見していながら、あえて行為に及ぶことです。

過失とは、他人の権利または法律上保護される利益を侵害する結果(損害)の発生を予見・回避できる可能性があったにもかかわらず、結果を回避すべき注意義務を怠ることを意味します。

民法上、故意がある場合の方が過失がある場合よりも責任が重くなるとは規定されていませんが、実際は、故意のある場合の方が損害賠償の範囲や金額が大きくなるケースはあります。

要件3:損害の発生

民法 第710条

  • 他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。

不法行為責任が成立するためには、損害が発生している必要があります。何らの損害も発生していないのに、責任だけを追求することはできません。

この損害には、財産的損害と精神的損害があります。

財産的損害

財産的損害とは、経済的な損失のことです。

この財産的損害には、実際に被った損害に限らず、不法行為がなければ得られたであろう将来の利益(逸失利益)も含まれます。

例えば、交通事故で重い障害を負って仕事ができなくなった場合、交通事故がなければ仕事を続けて得られたはずの収入を逸失利益として損害賠償請求できるケースがあります。

精神的損害

損害は財産的損害に限られません。精神的な苦痛も損害として認められる場合があります(民法710条)。精神的損害の賠償を慰謝料と呼んでいます。

財産的損害と精神的損害の両方を被った場合、被害者は、加害者に対して財産的損害と慰謝料の両方を賠償請求できます。

要件4:因果関係

不法行為が成立するためには,権利等侵害行為と発生した損害との間に因果関係が認められることも必要となってきます。権利等侵害行為とはまったく無関係に損害が発生した場合、不法行為責任は発生しません。

この因果関係が認められるためには、単に権利等侵害行為がなければ損害は発生しなかった(条件関係。「あれなければこれなし」の関係。)と言えるだけでは足りません。

社会通念上、当該権利侵害行為から当該損害が発生したと一般的に評価できる場合にだけ因果関係が認められます。これを相当因果関係といいます。

実際の不法行為訴訟などでは、この相当因果関係があるのかどうかが大きな問題となることは少なくありません。

その他の要件

上記の「権利等侵害行為」「故意または過失」「損害の発生」「因果関係」が、不法行為責任の基本的4要件ですが、それ以外にも、以下の要件が必要です。

責任能力があること

民法 第712条

  • 未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない。

民法 第713条

  • 精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にある間に他人に損害を加えた者は、その賠償の責任を負わない。ただし、故意又は過失によって一時的にその状態を招いたときは、この限りでない。

不法行為責任の成立には、行為者に責任能力があることも必要です(民法712条、713条)。

責任能力とは、「自己の行為の責任を弁識する能力」です。具体的に言うと、自己の行為が法律上責任を問われる違法なものであると理解し、その行動を制御できる能力を意味します。

この責任能力が無い者は、不法行為責任を負いません。「自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていない満18歳未満の未成年者」と「精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にある者」が責任無能力者にあたります。

なお、未成年者であっても、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えている場合は、責任能力が認められて不法行為責任を負います。

正当防衛・緊急避難が成立しないこと

民法 第720条

  • 第1項 他人の不法行為に対し、自己又は第三者の権利又は法律上保護される利益を防衛するため、やむを得ず加害行為をした者は、損害賠償の責任を負わない。ただし、被害者から不法行為をした者に対する損害賠償の請求を妨げない。
  • 第2項 前項の規定は、他人の物から生じた急迫の危難を避けるためその物を損傷した場合について準用する。

他の要件を満たす場合でも、不法行為者に正当防衛や緊急避難が成立する場合は、不法行為責任を負いません(民法720条)。

正当防衛とは、他人の不法行為に対して自己または第三者の権利・法律上保護される利益を守るためにやむを得ずにした加害行為のことです(民法720条1項本文)。

緊急避難とは、他人の物から生じた急迫の危難を避けるためにやむを得ずにその物を損傷する行為です(民法720条2項)。

例えば、いきなり包丁で刺されそうになったので、身を守るために相手を殴って怪我を負わせた場合、殴った人には正当防衛が成立するので、不法行為責任を負いません。

また、同じ事例で、身を守るために包丁を叩き落としたため、その包丁の刃が割れてしまったとしても、叩き落とした人には緊急避難が成立し、不法行為責任の問題は生じないのです。

不法行為の効果(不法行為責任)

前記のとおり、不法行為が成立した場合、加害者に不法行為責任(損害賠償責任)が生じます。不法行為をした加害者は、その不法行為の被害者に対して、損害賠償する必要があります。

以下では、不法行為責任の効果について説明します。

賠償すべき損害の範囲(財産的損害と精神的損害)

不法行為責任に基づいて賠償すべき損害は、基本的には財産的損害(経済的損失)です。

この財産的損害には、現実に被っている損失だけでなく、不法行為がなければ得られたであろう利益(将来利益・逸失利益)も含まれます

また、賠償すべき損害は、財産的損害に限られず、精神的損害についても賠償が必要です。

精神的損害の賠償を請求することを慰謝料請求と呼びます。慰謝料も、精神的苦痛の程度を金銭的に評価して、金銭賠償するのが原則です。

金銭による損害賠償(金銭賠償の原則)

民法 第722条

  • 第1項 第417条及び第417条の2の規定は、不法行為による損害賠償について準用する。

民法 第417条

  • 損害賠償は、別段の意思表示がないときは、金銭をもってその額を定める。

損害賠償は,金銭でするのが原則です(金銭賠償の原則。民法722条1項・417条)。そのため、不法行為が生じた場合、金銭によって当事者間の利害を調整することになります。

ただし、「別段の意思表示」がある場合は、金銭以外によって利害調整することは可能です。

例えば、被害者と加害者が示談し、加害者が、金銭ではなく、持っている他の財産で代物弁済して賠償すると取り決めることは可能です。

なお、後述するように、例外的に、金銭賠償以外の方法(原状回復や差し止め)が認められることもあります。

損害賠償額の調整

前記のとおり、不法行為の加害者は被害者に対して損害賠償金を支払わなければなりません。

ただし、発生したすべての損害額を賠償させると、不法行為制度の趣旨である公平に反する場合があります。そのため、実際に支払う損害賠償の金額を調整する制度が設けられています。

中間利息の控除

民法 第417条の2

  • 第1項 将来において取得すべき利益についての損害賠償の額を定める場合において、その利益を取得すべき時までの利息相当額を控除するときは、その損害賠償の請求権が生じた時点における法定利率により、これをする。
  • 第2項 将来において負担すべき費用についての損害賠償の額を定める場合において、その費用を負担すべき時までの利息相当額を控除するときも、前項と同様とする。

前記のとおり、不法行為がなければ得られたであろう将来の利益(逸失利益)も損害として賠償請求できます。

ただし、金銭は多く保有しているほど多くの運用利益を得られます。

将来利益は本来なら少しずつ得られるはずだった利益です。これをすべて損害賠償として一括で受け取ると、運用利益が過大になり、本来得られたであろう利益を超えてしまいます。

そこで、将来利益の損害額は、その利益を取得するはずだった時までの利息相当額を控除して算定することになります。これを中間利息の控除といいます(民法722条1項、417条の2)。

中間利息の額には、法定利率に基づく複利計算を反映した「ライプニッツ係数」と呼ばれる係数を使って計算するのが通常です。

過失相殺

民法 第722条

  • 第2項 被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。

不法行為制度は、当事者間の公平を図る制度です。そのため、被害者に落ち度がある場合、それも損害賠償責任や賠償額を決めるに際して考慮しなければかえって不公平を生じます。

そこで、裁判所は、被害者の過失を考慮して、損害賠償責任や賠償額を定めることができます(民法722条2項)。これを「過失相殺」といいます。

具体的には、全体を10として、被害者と加害者の過失を割合的に認定し、損害全体に加害者の過失割合を乗じて賠償額を算出します。

例えば、全体の損害額は1000万円、被害者と加害者の過失割合は「2:8」の場合、加害者が賠償すべき金額は800万円になります。

金銭賠償以外の効果

上記のとおり、不法行為責任は金銭賠償が原則です。ただし、例外的に、金銭賠償以外の方法が認められる場合もあります。

原状回復請求

民法 第723条

  • 他人の名誉を毀き損した者に対しては、裁判所は、被害者の請求により、損害賠償に代えて、又は損害賠償とともに、名誉を回復するのに適当な処分を命ずることができる。

不法行為の効果として、原状回復が認められる場合があります。原状回復とは、不法行為前の状態に戻すことです。

民法では、名誉を毀損する不法行為の場合、被害者は、損害賠償に代えてまたは損害賠償とともに、名誉を回復するのに適当な処分を請求できるとされています(民法723条)。

具体的に言うと、被害者への謝罪広告や訂正記事の掲載などを請求できます。

また、民法以外の法律では、例えば、以下のような原状回復が認められています。

特別法における原状回復
  • 特許権者等の業務上の信用を回復するのに必要な措置(特許法106条)
  • 著作者等の名誉若しくは声望を回復するために適当な措置(著作権法115条)
  • 被害者の営業上の信用を回復するのに必要な措置(不正競争防止法14条)
  • 原状回復(鉱業法111条2項、3項)

差止請求

民法では、金銭賠償以外の効果として名誉を回復するのに適当な処分しか規定されていませんが、非常に限定されたケースではあるものの、不法行為に基づく行為差止請求が認められる場合もあります。

差止請求とは、継続的な被害を被っている場合や被害を受ける可能性がある場合に、特定の行為をすることの中止を請求することです。

例えば、名誉棄損の被害者は「人格権としての名誉権に基づき、加害者に対し、現に行われている侵害行為を排除し、又は将来生ずべき侵害を予防するため、侵害行為の差止めを求めることができる」とした判例(最大判昭和61年6月11日)があります。

なお、前記の特許法(100条)、著作権法(112条)、不正競争防止法(3条)などでは、原状回復のほか、侵害行為の差止請求も認められています。

近親者固有の慰謝料請求権

民法 第711条

  • 他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者及び子に対しては、その財産権が侵害されなかった場合においても、損害の賠償をしなければならない。

不法行為責任を追求して加害者に損害賠償を請求できるのは、原則として損害を被った直接の被害者です。

ただし、生命を侵害する不法行為の場合、被害者の近親者(父母、配偶者、子)は、加害者に対して精神的損害の賠償(慰謝料)を請求できます(民法711条)。

民法711では、被害者の父母・配偶者・子だけ挙げられていますが、それ以外の者であっても「被害者との間に同条所定の者と実質的に同視しうべき身分関係が存し、被害者の死亡により甚大な精神的苦痛を受けた者は、同条の類推適用により、加害者に対し直接に固有の慰藉料を請求しうる」と解されています(最三小判昭和49年12月17日)。

また、生命侵害ではない場合には民法711条の適用はないものの、「死亡したときにも比肩しうべき精神上の苦痛を受けたと認められる」ほどの精神的損害を被った場合には、近親者も民法709条・710条に基づいて慰謝料請求できます(最三小判昭和33年8月5日)。

なお、被害者が死亡した場合、被害者自身に生じた損害賠償請求権は相続人に相続されます。

この場合、相続人は、要件を満たす限り、被害者から相続した損害賠償請求権と近親者固有の慰謝料請求権の両方を行使できます。

特殊な不法行為責任

不法行為責任を負うのは、通常、実際に不法行為をした行為者です。

もっとも、一定の場合、実際の加害者以外が不法行為責任を負うことがあります。特殊の不法行為と呼ばれています。

責任無能力者の監督義務者の責任

民法 第714条

  • 第1項 前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
  • 第2項 監督義務者に代わって責任無能力者を監督する者も、前項の責任を負う。

前記のとおり、責任能力がない加害者は、不法行為責任を負いません。

しかし、被害者保護のため、責任無能力者が不法行為をした場合、その責任無能力者について法的な監督義務を負う者が、責任無能力者に代わって不法行為責任を負うとされています(民法714条1項)。責任無能力者の監督義務者の責任と呼ばれます。

例えば、責任無能力者である未成年者が不法行為をした場合、被害者は、未成年者の親権者に損害賠償を請求できます。

また、監督義務者に代わって責任無能力者を監督する者(代理監督者)がいる場合、その代理監督者も不法行為責任を負います(714条2項)。

使用者責任

民法 第715条

  • 第1項 ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
  • 第2項 使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。
  • 第3項 前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。

事業のために他人を雇用するなどして使用している場合、その事業の執行について被用者が不法行為をしたときは、その使用者も不法行為責任を負います使用者責任と呼ばれています(民法7151項)

使用者は、被用者を使用することによって利益を得ている以上、その使用によって生じる不利益も引き受けるべきとする考え方(報奨責任)に基づく特殊な不法行為責任です。

例えば、運送会社の従業員が業務中に自動車を運転して交通事故を起こした場合、被害者は、使用者である運送会社に対しても損害賠償請求できます。

使用者に代わって事業を監督する者がいる場合は、その監督者も不法行為責任を負います(民法715条2項)。

使用者責任が成立する場合、被害者は、加害者と使用者のどちらに対してでも、全額の損害賠償を請求できます。

使用者が被害者に損害を賠償した場合、使用者は被用者に対して求償を求めることができます(民法715条3項)。

注文者の責任

民法 第716条

  • 注文者は、請負人がその仕事について第三者に加えた損害を賠償する責任を負わない。ただし、注文又は指図についてその注文者に過失があったときは、この限りでない。

請負契約においては、請負仕事によって請負人が第三者に対して損害を与えた場合でも、注文者は不法行為責任を負いません(民法716条本文)。

請負仕事については請負人に独立性が認められるため、注文者は請負人の使用者とは言えないからです。

ただし、注文や指図に過失があった場合は、注文者も不法行為責任を負います(民法716条ただし書き)。

土地工作物の占有者・使用者の責任

民法 第717条

  • 第1項 土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。
  • 第2項 前項の規定は、竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合について準用する。
  • 第3項 前二項の場合において、損害の原因について他にその責任を負う者があるときは、占有者又は所有者は、その者に対して求償権を行使することができる。

土地の工作物の設置または保存または竹木の植栽・支持に瑕疵によって第三者に損害を与えた場合、その工作物の占有者が不法行為責任を負います(民法717条1項本文、2項)。

ただし、占有者が損害発生を防止するのに必要な注意をしていた場合は、土地の工作物の所有者が不法行為責任を負います(民法717条1項ただし書、2項)。

例えば、ビルの外壁が崩れて通行人に当たり怪我をさせた場合、被害者は、ビルの占有者である賃テナントなどの賃借人に損害賠償を請求できます。ただし、賃借人が損害発生防止に必要な注意をしていた場合は、ビルオーナーに損害賠償請求することになります。

なお、占有者または所有者が第三者に損害の賠償をした場合、損害の原因についてほかに責任を負うべき者がいるときは、占有者または所有者は、その責任を負うべき者に求償できます(民法717条3項)。

動物占有者の責任

民法 第718条

  • 第1項 動物の占有者は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をしたときは、この限りでない。
  • 第2項 占有者に代わって動物を管理する者も、前項の責任を負う。

ペットの飼い主や牧場主など動物の占有者は、その動物が他人に損害を与えた場合、不法行為責任を負います(民法718条1項本文)。

例えば、飼い犬が第三者に噛みついて怪我をさせた場合、被害者は、飼い主に損害賠償を請求することになります。

この場合、占有者に代わって動物を管理する者がいる場合、その管理者も不法行為責任を負います(民法718条2項)。

ただし、占有者や管理者が、その動物の種類や性質に従って相当の注意をもって管理していた場合は、不法行為責任を免れます(民法718条1項ただし書き)。

共同不法行為

民法 第719条

  • 第1項 数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、同様とする。
  • 第2項 行為者を教唆した者及び幇ほう助した者は、共同行為者とみなして、前項の規定を適用する。

複数人がひとつの不法行為責任を負う場合もあります。共同不法行為と呼ばれる場合です。共同不法行為が成立する場合、複数人の共同不法行為者は連帯して責任を負います(民法719条1項)。

そのため、被害者は、共同不法行為の誰に対しても全額の損害賠償を請求できます。

この共同不法行為が成立するのは、以下の場合です。

共同不法行為の類型
  • 主観的関連共同
    複数人が、共謀するなど共同する意思をもって不法行為をする場合
  • 客観的関連共同
    共同意思がないものの、複数人の行為が社会通念上一体の不法行為と評価できる場合

共同不法行為が成立する場合、共同不法行為者の誰が実際に損害を与えたか不明であったとしても、全員が連帯責任を負います。

例えば、Aが運転走行中の自動車とBが運転走行中の自動車が双方の過失によって交通事故を起こし、事故に巻き込まれた歩行者Cが怪我をした場合、被害者Cは、AとBのどちらに対しても損害賠償全額を請求できます。

また、不法行為を教唆や幇助をした者も、実際の加害者とともに、共同不法行為責任を負います(民法719条2項)。

胎児の損害賠償請求権

民法 第721条

  • 胎児は、損害賠償の請求権については、既に生まれたものとみなす。

不法行為責任を追求して損害賠償を請求できるのは、法律上の「人」です。この法律上の人(自然人)の始期は、出生時です(民法3条)。

民法では、母親の胎内から身体の全部が出た時を出生と考えるため、母親の胎内にいる胎児はまだ出生しておらず、法律上の人として損害賠償請求できないのが原則です。

しかし、胎児であっても人となるべき存在です。出生時期の前後という偶然で損害賠償を受けられないとすると不公平を生じます。

そこで、不法行為に基づく損害賠償請求については、胎児は産まれたものとみなされ、損害賠償請求できるとされています(出生擬制。民法721条)。

ただし、生きて生まれてくることが条件です。死産であった場合は、生まれたものとはみなされません。

不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効

民法 第724条

  • 不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
  • 第1号 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないとき。
  • 第2号 不法行為の時から20年間行使しないとき。

民法 第724条の2

  • 人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第1号の規定の適用については、同号中「3年間」とあるのは、「5年間」とする。

不法行為に基づく損害賠償請求権も債権である以上、時効により消滅する場合があります。不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効期間は、以下のとおりです(民法724条、724条の2)。

不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効期間
  • 被害者または法定代理人が加害者および損害を知った時から3年(ただし、生命または身体を侵害する不法行為の場合は、5年)
  • 不法行為の時から20年

このいずれかの期間を経過すると、不法行為に基づく損害賠償請求できなくなってしまいます。

不法行為責任と債務不履行責任の違い

不法行為責任と同様に損害賠償請求権を発生させる法的責任として、債務不履行責任があります。

ただし、債務不履行が主に契約に基づく法的責任であるのに対し、不法行為は契約以外の原因でも成立する法的責任です。

そのため、同じ損害賠償請求権を発生させる法的責任であるとは言っても、いくつかの違いがあります。

立証責任の違い

不法行為と債務不履行の大きな違いのひとつは、立証責任です。

不法行為の場合、権利侵害行為・故意または過失・損害・因果関係といった要件の全部を被害者が主張立証しなければいけません。

これに対し、債務不履行の場合は、故意または過失なとの帰責事由を債権者(損害賠償を請求する側)が立証する必要はなく、帰責事由かないことを債務者(請求される側)が主張立証しなければならないとされています。

そのため、立証の負担の面では、債務不履行の方が不法行為よりも、損害賠償を請求する側に有利になるという違いがあります。

ただし、不法行為であっても、特別法により、被害者の立証責任が軽減される場合はあります。

消滅時効期間の違い

前記のとおり、不法行為に基づく損害賠償請求権は、「被害者が損害および加害者を知った時から3年(生命・身体を侵害する不法行為の場合は5年)」または「不法行為時から20年」で時効により消滅します。 

これに対し、債務不履行に基づく損害賠償請求権の場合は、以下の時効期間です。

債務不履行に基づく損害賠償請求権の消滅時効期間
  • 「債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間」または「権利を行使することができる時から10年間」のいずれか早い方(民法166条1項)
  • 債権者が権利を行使できる時から10年間

消滅時効や除斥期間の面でも、期間が長い債務不履行の方が不法行為よりも請求する側に有利です。

不法行為と債務不履行が競合する場合

不法行為と債務不履行は、それぞれ異なる要件で成立するため、ケースによっては、この両方が成立することもあります(請求権の競合)。

例えば、医師の手術を受けたところ医師の過失によって障害が残った場合、被害者は、医師に対して、不法行為に基づく損害賠償だけでなく、医療契約の債務不履行に基づく損害賠償の請求も可能なケースがあります。

この場合、契約に基づく債務不履行責任を優先すべきとして、債務不履行に基づく損害賠償しか請求できないとする見解があります。

もっとも、前記のとおり、不法行為と債務不履行には要件や時効期間などさまざまな違いがあります。どちらでも選べるとした方が、被害者保護の理念に沿います。

そのため、請求権が競合する場合、被害者は、債務不履行責任の法律構成と不法行為責任の法律構成のどちらでも自由に選択できると考えるのが一般的です。

ただし、債務不履行構成の方が被害者に有利な面が多いので、債務不履行構成を選択する場合が多いでしょう。

この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
この記事が参考になれば幸いです。

民法と資格試験

民法は、私法の基本法です。我々の生活に最も身近な法律です。

そのため、例えば、司法試験(本試験)、司法試験予備試験、司法書士試験、行政書士試験、宅建試験、マンション管理士試験・・・など、実に多くの資格試験の試験科目になっています。

これら法律系資格の合格を目指すなら、民法を攻略することは必須条件です。

とは言え、民法は範囲も膨大です。メリハリを付けないと、いくら時間があっても合格にはたどり着けません。効率的に試験対策をするには、予備校や通信講座などを利用するのもひとつの方法でしょう。

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参考書籍

本サイトでも民法について解説していますが、より深く知りたい方や資格試験勉強中の方のために、民法の参考書籍を紹介します。

我妻・有泉コンメンタール民法(第8版)
著書:我妻榮ほか 出版:日本評論社
財産法についての逐条解説書。現在も改訂されています。家族法がないのが残念ですが、1冊で財産法全体についてかなりカバーできます。辞書代わりに持っていると便利です。

司法試験・予備試験など資格試験向けの参考書籍としては、以下のものがあります。

民法(全)(第3版補訂版)
著者:潮見佳男 出版:有斐閣
1冊で民法総則から家族法まで収録されています。基本書というより入門書に近いでしょう。民法全体を把握するのにはちょうど良い本です。

基本講義 債権各論II(不法行為法)第4版補訂版
著者:潮見佳男ほか  出版:新世社
債権各論の基本書。初学者向けのため、基礎的なところから書かれています。どちらかと言うと入門書ですが、資格試験の基本書としても使えます。

物権法(伊藤真試験対策講座2)第4版
著者:伊藤塾 出版:弘文堂
いわゆる予備校本。予備校本だけあって、実際の出題傾向に沿って内容が絞られており、分かりやすくまとまっています。民法は範囲が膨大なので、学習のスタートは、予備校本から始めてもよいのではないでしょうか。

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