この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。

契約は,法的拘束力を伴う約束です。したがって,容易には契約関係を解消することができないのが原則です。そのため,契約書を作成する際にも,契約の解消に関する条件は注意深く定めておく必要があります。
契約を解消できる場合は、契約が無効である場合、契約を取消し得る場合、契約を解除できる場合などに限られます。
契約を解消できる場合
契約は,法的な拘束力を持った約束です。したがって,契約がいったん有効に成立した場合,簡単には解消できないのが原則です。
そのため,契約の目的が達せられて終了する場合を除いて,契約を解消できる場合は非常に限られてきます。
具体的に言うと、契約を解消できるのは、以下の場合に限られます。
- 契約が無効である場合
- 契約を取消し得る場合
- 契約を解除できる場合
契約が無効である場合
契約が無効である場合は、契約を解消できます。
契約が「無効」であるとは、契約が有効に成立していないことです。契約が無効である場合、その契約ははじめから存在しなかったことになります。
そのため、契約が無効であることが判明すれば、(厳密に言うと、はじめから存在していないので、解消とは異なりますが)その契約を解消することができます。
ただし,契約が無効となる場合は限られています。例えば、以下の場合に契約は無効になります。
- 強行法規に違反している場合
- 公序良俗に違反している場合(民法90条)
- 心裡留保があった場合に、心裡留保の相手方が、真意でないことを知りまたは知ることができたとき(民法93条ただし書き)
- 通謀虚偽表示があった場合(民法94条)
契約を取消し得る場合
契約が無効とまでいえない場合であっても、契約をするに際して意思表示に瑕疵があったような場合には、契約を取り消すことができます。取消しができる法律行為のことを「取消し得る法律行為」といいます。
契約を取り消した場合,その契約は遡及的に無効となります。遡及的に無効とは、はじめから効力がなかったものとして扱われるという意味です。
したがって、契約を取り消すと、契約を解消できます。
ただし,契約を取り消すことができる場合も,限られています。例えば、以下の場合です。
- 未成年者が親権者または未成年後見人の同意を得ずに契約した場合(民法5条2項)
- 成年被後見人が契約した場合(民法9条本文)
- 被保佐人が同意を得なければならない契約について、被保佐人が保佐人の同意または同意に代わる家庭裁判所の許可を得ずに契約した場合(民法13条4項)
- 被補助人が同意を得なければならない契約について、被補助人が補助人の同意または同意に代わる家庭裁判所の許可を得ずに契約した場合(民法17条4項)
- 契約の目的および取引上の社会通念に照らして重要なものについて錯誤があった場合(民法95条)
- 騙されて(詐欺をされて)契約した場合(民法96条)
- 強迫されて契約をした場合(民法96条)
契約を解除できる場合
契約について解除の事由がある場合も、契約を解除して、契約を解消することができます。
契約が解除されると、契約は遡及的に無効になると解されています(ただし、将来に向かってのみ効力を失う解除もあります。)。これにより契約を解消することが可能です。
この契約の解除をする権利のことを解除権といいます。契約解除権には,法律で定められた法定解除権と,当事者間の約定で取り決める約定解除権とがあります。
法定解除権は、債務不履行があった場合など法律で定められた一定の事由があるときに、当事者間での約定なしに当然に発生する解除権です。
他方、約定解除権は,当事者間で決めることができます。したがって,当事者間でどのような事由が発生したら解除できるかを定めておき、その事由が発生したら解除できるということになります。
また、売買契約において解約手付を交付している場合、買主は手付を放棄して、他方、売主は手付を倍返しして、手付解除をすることができます。
その他、当事者間で合意によって契約を解除することも可能です。これは合意解除と呼ばれています。
契約の無効・取消し・解除の違い
前記のとおり、契約の無効である場合、取消し得る場合、解除できる場合には、契約を解消できます。いずれも、契約の効力がはじめからない、または、なくなるという点で共通しています。
ただし、三者には以下のような違いもあります。
主張できる人の制限の有無
契約の無効は、当事者でなくても、誰でも主張できます。その無効な契約の取引の利害関係人も、契約の無効を主張できます。極端に言うと、(実際は考えられませんが)まったくの第三者でも主張が可能です。
これに対して、契約の取消しや解除は、意思表示できる人が限られます。取消しの場合には、法律で決められた取消権者しか取消しの意思表示はできません。解除の場合も、法律の定めまたは当事者間の合意で決められた解除権者しか意思表示はできません。
当事者による要件設定の可否
契約が無効となる場合や取消し得るものとなる場合は、法律によって決められています。当事者間の合意で、契約が無効となる場合や取消し得る場合を設定することはできません。
これに対して、契約の解除の場合、当事者間で約定解除事由を定めたり、合意によって解除したりすることが可能です。
当事者の意思表示の要否
契約の無効は、はじめから効力がない場合です。当事者が無効の意思表示をしなかったとしても、その契約ははじめから存在していません(ただし、現実的には、契約の無効を主張しなけばいけません。)。
これに対して、契約の取消しや解除の場合には、当事者が取消しや解除の意思表示をするまでは、一応、その契約は有効なものとして存在します。もし、当事者が何の意思表示もしなければ、契約は有効なものとして存続します。
なお、取消しの場合は、取消権者は取消し得る契約を追認して有効なものにすることができます。
つまり、無効の場合には、当事者の意思にかかわらず契約は存在しませんが、取消しや解除の場合には、当事者が契約をなかったことにするかまたは存続させるかを選択できるという違いがあるのです。
主張できる期限の有無
無効ははじめから契約が存在していないことですから、無効主張に期限はありません。いつでも契約の無効を主張できます。
これに対して、契約の取消しや解除には、消滅時効や除斥期間などの期限が設けられています。
これは、取消しや解除の場合には、一応有効に存在している法律関係を期間が経過してからすべて覆せるとすると取引の安全を害するおそれがあるため、法律関係を早期に安定させる必要があるからです。
第三者・取引安全の保護の有無
無効な契約の場合、無効な契約を信じて取引に関わった第三者がいたとしても、契約は無効なままです。第三者や取引の安全を保護するための特別な制度がありません(ただし、不法行為に基づく損害賠償などは可能です。)。
これに対して、取消しや解除の場合には、当事者の意思によって契約を有効なものとして存続させることもできます。そのため、契約が有効であると信じて取引に関与した第三者を保護するための措置が設けらています。
具体的に言うと、取消しや解除の意思表示がされる前に取引をした第三者は、取消権者や解除権者よりも先に対抗要件を備えれば権利を取得できるなどの措置が設けられています。
三者の違いのまとめ
こうしてみると、契約の無効の場合には、当事者の意思が介在する余地はほとんどなく、あくまで「無効なものは無効」として扱われています。
他方、契約の解除の場合は、当事者が契約を有効なものとして存続させるか無効なものとするかを選択でき、解除の条件なども設定できるなど当事者の意思が尊重されます。
契約の取消しの場合は、その中間といった感じです。契約の有効・無効を選択できる点では解除と同じように当事者の意思が尊重されていますが、取消しの要件や取消権者は法律によって制限されるなど、当事者の意思が制限される点では無効に近い面もあります。
また、契約の無効の場合は、無効なものは無効として扱われるので、期限の制限など取引の安全を図る措置がありませんが、契約の有効・無効を選択できる取消しや解除の場合には、一権有効な契約の外観があるため、取引安全を図るための措置が設けられています。
この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
この記事が参考になれば幸いです。
民法と資格試験
民法は、私法の基本法です。我々の生活に最も身近な法律です。
そのため、例えば、司法試験(本試験)、司法試験予備試験、司法書士試験、行政書士試験、宅建試験、マンション管理士試験・・・など、実に多くの資格試験の試験科目になっています。
これら法律系資格の合格を目指すなら、民法を攻略することは必須条件です。
とは言え、民法は範囲も膨大です。メリハリを付けないと、いくら時間があっても合格にはたどり着けません。効率的に試験対策をするには、予備校や通信講座などを利用するのもひとつの方法でしょう。
STUDYing(スタディング)
・司法試験・予備試験も対応
・スマホ・PC・タブレットで学べるオンライン講座
・有料受講者数20万人以上・低価格を実現
参考書籍
本サイトでも民法について解説していますが、より深く知りたい方や資格試験勉強中の方のために、民法の参考書籍を紹介します。
本サイトでも民法について解説していますが、より深く知りたい方や資格試験勉強中の方のために、民法の参考書籍を紹介します。
新訂債権総論(民法講義Ⅳ)
著者:我妻榮 出版:岩波書店
民法の神様が書いた古典的名著。古い本なので、実務や受験にすぐ使えるわけではありませんが、民法を勉強するのであれば、いつかは必ず読んでおいた方がよい本です。ちなみに、我妻先生の著書として、入門書である「民法案内7 債権総論(上)」や「ダットサン民法2 債権法(第4版)」などもありますが、いずれも良著です。
我妻・有泉コンメンタール民法(第8版)
著書:我妻榮ほか 出版:日本評論社
財産法についての逐条解説書。現在も改訂されています。家族法がないのが残念ですが、1冊で財産法全体についてかなりカバーできます。辞書代わりに持っていると便利です。
契約法(新版)
著者:中田裕康 出版:有斐閣
契約法の概説書です。債権法の改正にも対応しています。説明は分かりやすく、情報量も十分ですので、基本書として使えます。
司法試験・予備試験など資格試験向けの参考書籍としては、以下のものがあります。
民法(全)(第3版補訂版)
著者:潮見佳男 出版:有斐閣
1冊で民法総則から家族法まで収録されています。基本書というより入門書に近いでしょう。民法全体を把握するのにはちょうど良い本です。
基本講義 債権各論Ⅰ(契約法・事務管理・不当利得)第4版補訂版
著者:潮見佳男ほか 出版:新世社
債権各論全般に関する概説書。どちらかと言えば初学者向けなので、読みやすい。情報量が多いわけではないので、他でカバーする必要はあるかもしれません。
債権各論(第4版)伊藤真試験対策講座4
著者:伊藤塾 出版:弘文堂
いわゆる予備校本。予備校本だけあって、実際の出題傾向に沿って内容が絞られており、分かりやすくまとまっています。民法は範囲が膨大なので、学習のスタートは、予備校本から始めてもよいのではないでしょうか。


