この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
- Q交通事故の損害賠償を請求できる人は誰?
- A
交通事故の損害賠償を請求できるのは、被害者本人です。被害者が亡くなった場合は、被害者の相続人が代わりに損害賠償を請求できます。また、死亡事故の場合には、近親者には、固有の慰謝料請求が認められることもあります。
このページでは、交通事故の損害賠償を請求できるのは誰なのかについて詳しく説明します。
- 被害者本人の損害賠償請求
- 被害者が未成年者や成年被後見人の場合
- 被害者の相続人による損害賠償請求
- 被害者の近親者による固有の慰謝料請求
- 被害者が役員・従業員として勤めていた会社・法人の損害賠償請求(企業損害)
- その他損害賠償請求できる人・よくある質問
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交通事故の損害賠償請求
交通事故が発生した場合、被害者が被った損害を補填するためには、加害者に損害賠償を請求する必要があります。
この交通事故による損害賠償を請求できるのは、当然「被害者本人」ですが、ケースによっては、被害者以外の人が損害賠償を請求できる場合もあります。
- 被害者本人
- 被害者が亡くなった場合:相続人
- 人身事故で特定の場合:近親者
以下、それぞれについて説明します。
被害者本人
交通事故で被害が生じた場合、加害者等に対して損害賠償を請求できるのは誰かといえば、もちろん現実に事故に遭った「被害者」本人です。
被害者とは、交通事故によって権利・利益を直接に侵害されて損害を被った人のことです。
人身事故であれば、身体・生命を侵害された人です。また、物損事故であれば、事故によって損傷を受けた財産の所有者や権利を有する人が被害者です。
被害者が未成年者や成年被後見人の場合
被害者が18歳未満の未成年者や成年被後見人である場合、被害者が自分で損害賠償を請求すると、判断能力に乏しいため、不利益を被ってしまうおそれがあります。
そのため、被害者が未成年者や成年被後見人である場合は、被害者自ら損害賠償を請求することはできず、法定代理人が代わりに加害者等に損害賠償を請求することになります。
- 未成年者の場合:被害者の親権者(父母・未成年後見人)
- 成年被後見人の場合:成年後見人
なお、あくまで「代理」ですので、損害賠償を請求して得たお金は被害者に帰属します。法定代理人が取得できるわけではありません。
被害者の相続人
被害者が損害賠償請求する前に亡くなった場合、被害者が加害者等に対して損害賠償請求できる権利は、遺産(相続財産)として被害者の相続人に承継されます。
そのため、被害者が亡くなっている場合は、その被害者に代わって、被害者の相続人が損害賠償を請求することになります。
交通事故による損賠償請求権の相続
交通事故による損害賠償請求権は、お金を請求する権利です。お金を請求するだけであるため、被害者でなければ行使できない性質の権利(一身専属権)ではありません。
交通事故によって被害者が即死した場合でも、事故で負傷した瞬間と死亡した瞬間の間には観念的な間隔があると言えるので、負傷により損害賠償請求権が発生し、死亡により相続されると考えることができます。
そのため、交通事故による損害賠償請求権は、相続人に相続されると考えられています。実務では、相続人が損害賠償請求できることについて争いはありません。
また、財産的な損害だけでなく、精神的な損害の賠償請求権(慰謝料請求権)も、相続人に受け継がれます(最大判昭和42年11月1日)。
相続人になる人
上記のとおり、交通事故による損害賠償請求権を受け継ぐのは「被害者の相続人」です。被害者の親族であっても、相続人でなければ損害賠償請求権を受け継ぐことはできません。
相続人になれる人は、亡くなった人(被相続人)の「子」「直系尊属(父母や祖父母など直系の先祖に当たる人)」「兄弟姉妹」「配偶者」と決められています(民法887条、889条、890条)。
ただし、全員が相続人となるわけではなく、優先順位が決められています。具体的には、以下の人が相続人になります。
| ケース | 相続人になる人 |
|---|---|
| 配偶者はいないが「子」がいる | 「子」 |
| 子・配偶者はいないが「直系尊属」がいる | 「直系尊属」 |
| 子・直系尊属・配偶者がいないが「兄弟姉妹」がいる | 「兄弟姉妹」 |
| 「子」と「配偶者」がいる | 「子」と「配偶者」 |
| 子はいないが「直系尊属」と「配偶者」がいる | 「直系尊属」と「配偶者」 |
| 子・直系尊属はいないが「兄弟姉妹」と「配偶者」がいる | 「兄弟姉妹」と「配偶者」 |
相続人が複数人いる場合(共同相続)
相続人が複数人いる共同相続の場合、共同相続人は、それぞれの「相続分」に応じて損害賠償請求権を取得します。
相続分は、被相続人が遺言で相続分を指定していた場合には、その指定相続分に従います。遺言がない場合は、民法で決められた法定相続分になります。
法定相続分は、同順位の相続人間では、人数に応じた按分です。一方、血族相続人と配偶者がともに相続人になる場合は、以下の相続分になります。
| 相続人 | 法定相続分 |
|---|---|
| 「子」と「配偶者」が相続人 | 「子」が2分の1 「配偶者」が2分の1 |
| 「直系尊属」と「配偶者」が相続人 | 「直系尊属」が3分の1 「配偶者」が3分の2 |
| 「兄弟姉妹」と「配偶者」が相続人 | 「兄弟姉妹」が4分の1 「配偶者」が4分の3 |
なお、遺産分割をする必要はありません。交通事故による損害賠償請求権は、相続が開始すると当然に共同相続人に相続分に応じて分割承継されます。
共同相続の場合の具体例
<具体例>
被害者Aは交通事故により死亡
Aには、妻B・子CとD・母E・弟Fがいる
損害賠償総額は、1億2000万円
子と配偶者がいる場合、相続人になるのは子と配偶者
相続人になるのは、妻Bと子C・D(E・Fは相続人にならない)
子と配偶者がいる場合の相続分は、子が2分の1、配偶者が2分の1
同じ順位の相続人は人数で按分するので、C・Dは2人で按分
相続分は、Bが2分の1、C・Dは【2分の1÷2=4分の1】ずつ
Bが請求できる金額は【1億2000万円×2分の1=6000万円】
Cが請求できる金額は【1億2000万円×4分の1=3000万円】
Dが請求できる金額は【1億2000万円×4分の1=3000万円】
なお、実際には、BCDバラバラに請求するのではなく、まとめて全額を請求して金額を確定させて支払いのみ個別にしてもらうのが通常です。
被害者の近親者(人身事故の慰謝料請求)
民法 第711条
- 他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者及び子に対しては、その財産権が侵害されなかった場合においても、損害の賠償をしなければならない。
引用元:e-Gov法令検索
交通事故の被害が生じた場合、加害者等に損害賠償を請求できるのは、「被害者本人」または「被害者の相続人」です。
ただし、人身事故(死亡事故)の場合には、近親者に固有の(相続されたものでない)慰謝料請求が認められることがあります(民法711条)。
この近親者固有の慰謝料請求は、相続したものではなくあくまで近親者の権利として認められるものです。そのため、相続した損害賠償請求とは別に請求することができ、また、相続人でなかったとしても請求可能です。
民法711条の慰謝料を請求できる近親者
条文上、民法711条による慰謝料請求権が認められるのは、被害者の「父母」「配偶者」「子」とされています。
もっとも、父母・配偶者・子でなくても、被害者と親密な関係にあった親族が、被害者の死亡によって精神的苦痛を被ることはあります。
そのため、父母・配偶者・子はあくまで例示であり、「被害者との間に父母・配偶者・子と実質的に同視できる身分関係にある人」には民法711条により固有の慰謝料請求が認められると考えられています(最三小判昭和49年12月17日)。
例えば、民法711条による慰謝料請求できる近親者として認められたケースとして、以下のものがあります。
- 認知していない子の父(東京高判昭和36年7月5日)
- 祖父母(大阪地判平成22年2月9日)
- 兄弟姉妹(名古屋地判平成24年11月27日、大阪地判平成24年12月26日)
- 内縁の配偶者(東京地判平成12年9月13日、大阪地判平成27年10月14日)
- 事実上の養子(大阪地判平成19年3月29日)
- 被害者の夫の妹(前掲最三小判昭和49年12月17日):ただし、夫の妹は身体障害者であり、長年同居していた被害者の庇護を受けていたという特別な事情があった事例です。
死亡事故以外の場合
民法711条の近親者固有の慰謝料請求が認められるのは、「生命侵害」がある場合です。交通事故で言えば、死亡事故の場合に限られることになります。
ただし、「死亡したときにも比肩しうべき精神上の苦痛を受けたと認められる」場合には、民法709条・710条によって、近親者固有の慰謝料請求が可能と考えられています(最三小判昭和33年8月5日)。
相当重度の後遺障害を負った場合などであれば、生命侵害でない場合でも、近親者固有の慰謝料請求が認められる可能性はあります。
近親者が相続人でもある場合の損害賠償請求
被害者が亡くなった場合、相続人が被害者に代わって損害賠償を請求することになります。
相続人が被害者の「父母」「配偶者」または「子」などであった場合、民法711条による近親者固有の慰謝料請求も可能です。
そのため、相続人である「父母」「配偶者」または「子」などは、相続した損害賠償のほかに、民法711条に基づいて固有の慰謝料もあわせて請求できることになります。
被害者が役員や従業員として勤める会社・法人(企業損害)
被害者が交通事故によって負傷・死亡したため営業活動に支障が生じた場合、被害者が役員や従業員として勤めていた会社や法人も、営業上の損失を加害者に損害賠償請求できるかが問題となるケースがあります(企業損害・間接損害)。
原則的には、企業損害・間接損害の賠償は認められません。
ただし、実質的には個人会社であるような、すべての実権が被害者に集中し、被害者以外の人で代替できるものではなく、被害者と会社が経済的に一体と言える場合には、法人・会社が営業上の損害賠償を請求できるケースがあります(最二小判昭和43年11月15日)。
例えば、被害者が会社のオーナー代表者であったような場合には、会社による損害賠償請求が認められる可能性があるでしょう。
その他交通事故で損失を被った人
交通事故による損害賠償を請求できるのは、基本的に被害者本人または相続人です。人身事故の場合は、被害者の近親者に固有の慰謝料請求が認められるケースもあります。
もっとも、例えば、被害者の治療費や葬儀費用を立て替えた人、被害者の財産の修理費などを立て替えた人などは、加害者等に対して損害賠償を請求できます。
交通事故の損害賠償請求権者に関するよくある質問
以下では「交通事故の損害賠償請求できる人は誰か」に関するよくある質問をQ&A形式で説明します。
交通事故の時に胎児だった子も損害賠償請求できる?
- Q交通事故の時に胎児だった子も損害賠償請求できる?
- A
はい。交通事故の時に胎児だったとしても、生きて生まれてくれば、損害賠償を請求できます。
被害者が亡くなった場合、被害者の「子」(または「兄弟姉妹」)が相続人となって、代わりに損害賠償を請求できます。
この「子」(または「兄弟姉妹」)には、胎児も含まれます(民法886条1項)。そのため、被害者が交通事故に遭った時に母親のお腹にいる胎児であったとしても、相続人である「子」として損害賠償を請求できます。
ただし、生きて生まれてくることが条件です。死産の場合には、相続人になれません(民法886条2項)。
なお、前記のとおり、生きて生まれてきたときは、母親が法定代理人として胎児の分の損害賠償を請求することになります。
内縁(事実婚)の配偶者も損害賠償請求できる?
- Q内縁(事実婚)の配偶者も損害賠償請求できる?
- A
相続人となることはできませんが、民法711条に基づいて固有の慰謝料請求をすることは可能です。
相続人となれる「配偶者」とは、法律婚をしている配偶者です。法律婚をしていない事実婚状態の配偶者(いわゆる内縁の配偶者)は、相続人になることはできません。
そのため、被害者が死亡した場合であっても、被害者の相続人として損害賠償を請求することはできません。
もっとも、内縁の配偶者であっても、民法711条の近親者として、固有の慰謝料を請求できることはあります(東京地判平成12年9月13日、大阪地判平成27年10月14日)。
ローン返済中の自動車の使用者も修理費などを請求できる?
- Qローン返済中の交通事故で自動車が損傷した場合、自動車の使用者でも修理費などの損害賠償を請求できる?
- A
はい。使用者であっても修理費の請求は可能です。ただし、修理できないほどの全損の場合は、使用者では損害賠償請求できないと考えられています。
自動車ローンを組んで自動車を購入した場合、担保として所有権留保が付けられるのが通常です。所有権留保が設定されていると、ローンを完済するまで、自動車の所有者名義はローン会社や販売会社のままになっています。
この所有権留保の状態で交通事故に遭って自動車が損傷した場合、使用者が自ら修理したときは、その修理費を加害者等に損害賠償請求することができます。
ただし、もはや修理不可能なほどに損壊してしまった場合(物理的全損)、自動車の時価相当額を損害賠償請求できるのは、使用者ではなく、所有者です。
そのため、全損事故の場合には、ローン返済中の使用者が損害賠償を請求することはできません。
ただし、修理費が自動車の時価を超える場合(経済的全損)の場合には、実際に修理をして使用を継続することを主張立証すれば、時価相当額までの損害賠償請求はできると考える見解もあります。
この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
この記事が参考になれば幸いです。
弁護士に依頼するメリット
「交通事故の損害賠償請求は弁護士に頼んだ方がいいの?」
とお悩みの方は少なくないでしょう。
実は、交通事故の損害賠償額には、保険会社の基準と裁判基準(弁護士基準とも呼ばれます。)があります。保険会社の基準は、裁判基準よりもかなり低額に抑えられています。
そのため、自分で保険会社と示談交渉する場合よりも、弁護士に依頼して裁判基準で示談交渉または訴訟をしてもらう方が、損害賠償額が高額になる可能性が高いのです。弁護士に依頼する一番のメリットは、その点にあります。
特に、自動車保険に弁護士特約を付けてある場合には、弁護士費用を保険金で支払うことが可能です。そのため、自己負担がほとんどないまま、弁護士に依頼することができます。弁護士特約がある場合には、間違いなく弁護士に依頼すべきです。
- 被害者の相談無料
- メール相談可・土日祝日対応可
- 着手金無料(完全成功報酬・費用の後払い可能)
- 損害賠償額が増額しない場合は弁護士報酬0円
- 弁護士特約の利用可能
- 所在地:東京都足立区
- 相談無料
- 全国対応・メール相談可
- 着手金無料(完全成功報酬型)
- 増額できなければ弁護士費用は無料
- 弁護士特約の利用可能
- 所在地:東京都港区
参考書籍
本サイトでも交通事故損害賠償について解説していますが、より深く知りたい方のために、交通事故損害賠償の参考書籍を紹介します。
民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準
出版:日弁連交通事故相談センター東京支部
通称「赤い本」。交通事故損害賠償請求を扱う弁護士は、ほとんどが持っている必携書。東京地裁の実務を中心に、損害賠償額の算定基準(裁判基準)を解説しています。この本の基準が実務の基準と言ってよいほどに影響力があります。毎年改定されています。
交通事故損害額算定基準 -実務運用と解説-
出版:日弁連交通事故相談センター
通称「青本」。こちらは、赤い本と違って、東京地裁だけでなく、全国の裁判所における裁判例を紹介しています。2年に1回改訂されています。
民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準(全訂5版)別冊判例タイムズ38号
編集:東京地裁民事交通訴訟研究会 出版:判例タイムズ社
こちらも実務必携と言われる書籍。交通事故では過失相殺がよく問題となりますが、その過失相殺率の認定基準を解説する実務書です。東京地裁の裁判官が中心となって執筆されている本ですが、この本の認定基準が全国的な実務の基本的な認定基準となっています。
大阪地裁における交通損害賠償の算定基準(第4版)
編集:大阪民事交通訴訟研究会 出版:判例タイムズ社
大阪地裁交通部(第15民事部)の裁判官による大阪地裁における交通事故損害賠償額算定基準を解説する実務書。大阪地裁で交通事故訴訟をする場合には必携です。(※なお、大阪弁護士会交通事故委員会による「交通事故損害賠償算定のしおり(通称、緑の本)」とは異なります。こちらは、裁判官執筆の本です。)
新版注解交通損害賠償算定基準
著者:高野真人ほか 出版:ぎょうせい
赤い本や青本の解説書。実務書の解説書という珍しい本ですが、赤い本や青本はどちらかと言うと資料集的な実務書であるため、詳細な理由付けなどが説明されていない部分もあります。本書は、そこを解説しています。赤い本や青本とセットで持っていると便利です。
交通事故損害賠償法(第3版)
編集:北河隆之 出版:弘文堂
交通事故損害賠償に関する法律の体系書。実務マニュアル的なものではなく、理論的な面の解説も体系的にまとめられており、交通事故損害賠償の基本書といった感じの本です。



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