この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
- Q破産者の財産はどのように換価処分される?
- A
破産手続が開始されると、破産者の財産は、破産管財人によって換価処分されます。具体的には、任意売却の方法によって換価処分されるのが通常です。
このページでは、破産者の財産の換価処分について詳しく説明します。
- 破産者の財産の管理処分権:破産管財人への専属
- 破産管財人によって換価処分される財産の範囲
- 破産管財人による換価処分の方法
- 担保権が設定されている財産の換価処分
- 法人破産と個人破産ごとの破産財団の換価処分の具体例

破産財団の換価とは
破産手続が開始されると、破産した人(破産者)が有していた一切の財産が、「破産財団」として破産管財人によって管理され、最終的に換価処分されます。
換価処分とは、財産を売却・回収するなどしてお金に換えることです。換価された金銭は、破産手続の費用に充てられ、債権者に弁済または配当されることになります。
破産手続の目的は、破産者の財産を換価処分して債権者に分配することであるため、この換価業務は破産手続も特に重要な業務となります。
破産者の財産の管理処分権
破産法 第2条
- 第14項 この法律において「破産財団」とは、破産者の財産又は相続財産若しくは信託財産であって、破産手続において破産管財人にその管理及び処分をする権利が専属するものをいう。
破産法 第78条
- 第1項 破産手続開始の決定があった場合には、破産財団に属する財産の管理及び処分をする権利は、裁判所が選任した破産管財人に専属する。
引用元:e-Gov法令検索
裁判所により破産手続が開始されると、破産者の財産は、原則としてすべて「破産財団」として、破産管財人が管理処分権を専属することになります(破産法34条1項、78条1項)。
破産財団とは、「破産者の財産又は相続財産若しくは信託財産であって、破産手続において破産管財人にその管理及び処分をする権利が専属するもの」のことをいいます(破産法2条14号)。
管理処分権が破産管財人に専属されるため、破産者は、自分の財産であっても、勝手に利用したり処分したりすることはできなくなります。
そして、この破産財団に属する破産者の財産は、破産管財人によって管理され、最終的に換価処分されます。換価処分によって集められたお金は、手続費用に充てられ、残余は債権者に分配されます。
破産管財人によって換価処分される財産の範囲
破産法 第34条
- 第1項 破産者が破産手続開始の時において有する一切の財産(日本国内にあるかどうかを問わない。)は、破産財団とする。
- 第2項 破産者が破産手続開始前に生じた原因に基づいて行うことがある将来の請求権は、破産財団に属する。
<第3項以下省略>引用元:e-Gov法令検索
前記のとおり、破産者の財産は、破産財団に属するものとして扱われ、破産管財人によって最終的に換価処分されます。
ただし、どの程度の財産が換価の対象となるかは、法人が破産者となる破産(法人破産)であるか、個人(自然人)が破産者となる破産(個人破産)であるかによって異なります。
法人破産:破産手続開始時に有していた一切の財産
破産財団として換価処分の対象になる財産は、日本国内か国外であるかを問わず、破産した法人が破産手続開始時に有していた一切の財産です(破産法34条1項)。
「一切の財産」には、物や債権・知的財産権などの権利に限らず、およそ財産的価値があり、換価が可能なものであれば、すべて破産財団に属します。
また、破産手続開始前に生じた原因に基づいて行うことがある将来の請求権も、破産財団に属します(破産法34条2項)。
そのため、会社など法人破産の場合は、法人名義の財産はすべて換価処分されます。
個人破産:自由財産を除く一切の財産
個人破産の場合も、原則は破産者が破産手続開始時に有していた一切の財産が換価処分の対象になるのが原則です。
ただし、個人破産では、破産法で定められた一定の財産(自由財産)は、破産財団に含まれず、換価処分されません。自由財産としては、以下のものがあります。
- 破産手続開始後に取得した財産(新得財産。破産法34条1項)
- 99万円以下の現金(破産法34条3項1号)
- 差押禁止財産(破産法34条3項2号)
- 裁判所が自由財産の範囲の拡張を認めた財産(破産法34条4項)
- 破産管財人が破産財団から放棄した財産(破産法78条2項12号)
裁判所による換価基準(自由財産拡張基準)
上記の破産法における本来的自由財産以外の財産であっても、裁判所ごとに、換価しなくてもよい自由財産として扱う基準が設けられているのが一般的です。
例えば、東京地方裁判所の場合、以下の財産が換価不要とされています。
- 残高(複数ある場合は合計額)が20万円以下の預貯金
- 見込額(数口ある場合は合計額)が20万円以下の生命保険解約返戻金
- 処分見込額が20万円以下の自動車
- 居住用家屋の敷金債権
- 電話加入権
- 支給見込額の8分の1相当額が20万円以下の退職金債権
- 支給見込額の8分の1相当額が20万円を超える退職金債権の8分の7相当額
- 家財道具
また、大阪地方裁判所であれば、以下の財産が換価不要とされています。
- 20万円以下の預貯金・積立金
- 20万円以下の保険解約返戻金
- 20万円以下の自動車
- 20万円以下の敷金・保証金返還請求権
- 支給見込額の8分の1が20万円以下の退職金債権
- 20万円以下の電話加入権
- 上記1~6の財産は、20万円を超える場合でも、これらを自由財産としなくとも経済的再生の機会を十分確保できると見込まれる場合を除いて、拡張相当とする。
- 上記1~6の財産であっても、破産手続開始後に発見されたものは原則として拡張不相当とする。
- 自由財産合計額が99万円を超える場合は、99万円を超えないように配慮して、拡張相当とする財産を選択する。
裁判所によって違いがあるので、事前に確認しておきましょう。
破産手続開始前に流出した財産
上記のとおり、破産者が破産手続開始時に有していた財産(個人破産の場合の自由財産を除く)は、破産管財人によって換価処分されます。
破産手続開始前に破産者が有していたとしても、破産手続開始時に流出してすでに有していない財産は、換価処分されないのが原則です。
ただし、詐害行為(債権者を害する行為)や偏頗行為(特定の債権者にだけ利益を与える行為)によって流出した財産は、破産管財人が否認権を行使して取り戻し、破産財団に組み入れられます。
破産管財人による換価処分の方法
破産管財人は、基本的に「任意売却」によって財産を換価処分します。
ただし、不動産の物権や知的財産権など破産法78条2項1号・2号に定める財産は、強制執行手続によって換価処分することもできます(破産法184条1項)。
任意売却による換価
前記のとおり、破産管財人の財産換価は、任意売却によって行われるのが通常です。任意売却とは、裁判手続を経ずに市場売却することです。
競売などの裁判手続をとるよりも、任意売却の方が高額で換価できることが多い上、かなり迅速に処理できます。
そのため、破産実務では、裁判手続によって換価できる場合でも、任意売却の方法によって財産換価する場合がほとんどです。
ただし、高額財産の売却には、裁判所の許可が必要とされています(破産法78条2項、3項1号、破産規則25条)。
- 100万円を超える不動産(の物権)、登記すべき日本船舶・外国船舶(1号)
- 100万円を超える鉱業権、漁業権、公共施設等運営権、樹木採取権、漁港水面施設運営権、貯留権、二酸化炭素の貯留事業に関する法律第2条第8項に規定する試掘権、特許権、実用新案権、意匠権、商標権、回路配置利用権、育成者権、著作権、著作隣接権(2号)
- 100万円を超える営業譲渡・事業譲渡(3号)
- 商品を一括売却する場合の合計額が100万円を超えるとき(4号)
- 100万円を超える動産
- 100万円を超える債権・有価証券
強制執行の方法による換価
破産法 第184条
- 第1項 第78条第2項第1号及び第2号に掲げる財産の換価は、これらの規定により任意売却をする場合を除き、民事執行法その他強制執行の手続に関する法令の規定によってする。
引用元:e-Gov法令検索
不動産の物権や知的財産権など破産法78条2項1号・2号に定める財産については、強制執行手続の方法によって換価することも可能です(破産法184条1項)。
例えば、破産者の財産を強制的に差し押さえて競売にかけて換価することができます。
ただし、前記のとおり、任意売却によって換価するのが通常です。そのため、強制執行の方法で換価するのは、破産者が財産の換価を拒絶し、任意売却に協力しないような場合に限られるでしょう。
任意売却・強制執行以外の換価方法
財産の種類によっては、任意売却や強制執行ではない方法で換価されるものもあります。具体的には、債権です。
破産者が有していた債権も破産財団に属します。この債権の換価は、基本的にその債権を回収することで行います。
例えば、破産者が貸金請求権を有していたとすれば、破産管財人が借主に対して返済を請求して金銭を回収し換価します。預金債権であれば、預金口座を解約して預金を金銭として回収・換価します。
なお、債権であっても、回収に時間がかかる場合などは、債権自体を任意売却(債権譲渡)して換価することもあります。
破産財団の換価までの流れ
破産手続が開始されると、破産管財人はすぐに破産者の財産の調査・管理を開始し、換価処分を進めていくことになります(破産法79条)。
具体的には、破産財団の換価は以下のような流れで進みます。
- ステップ1破産手続開始決定・破産管財人の選任
申立てに不備がなければ、裁判所は破産手続の開始を決定し、同時に破産管財人を選任します。
- ステップ2破産管財人による財産の調査・管理の開始
破産手続が開始すると、すぐに破産管財人は破産者の財産の調査・管理を開始します。
- ステップ3破産財団の管理・回収
破産管財人は、調査結果をもとに破産財団に属する財産を回収して、散逸しないように管理下に置きます。
- ステップ4破産財団の換価
破産管財人は、任意売却・債権回収によって破産財団に属する財産を換価していきます。強制執行の方法を用いる場合もあります。
- ステップ5換価した金銭の管理
破産財団の換価によって得られた金銭は、破産管財人名義の預金口座(管財人口座)に預け入れる方法で管理します。
- ステップ6手続費用への充当・債権者への弁済・配当
集められた金銭は、まず破産手続の費用に充てられ、余剰は財団債権者に弁済されます。さらに余剰があれば、破産債権者に配当されることになります。
担保権者がいる場合の財産換価
特定の財産について担保権を有する債権者は、破産手続においても優先権のある別除権者として扱われます(破産法2条9項、10項)。
別除権者は、破産手続中であっても、別除権を行使して担保を設定している財産から優先的に弁済を受けられます(破産法65条1項)。
例えば、破産者が所有する不動産に抵当権を設定している抵当権者は、破産手続中であっても別除権者として抵当権を実行して、不動産を競売にかけて売却代金から優先的に弁済を受けることができます。
このような別除権が設定されている財産も、破産管財人は清算しなければいけません。
別除権の目的物の任意売却による換価
破産財団の中に別除権の目的となっている財産がある場合、破産管財人は、まずは別除権者と交渉して任意売却を試みるのが通常です。
任意売却によって得られた金銭は、まず別除権者に優先的に弁済されます。売却代金に余剰がある場合は、破産財団に組み入れられます。
前記のとおり、任意売却の方が競売手続よりも、高額かつ迅速に債権回収できることが多いです。そのため、別除権者としても、任意売却によって債権回収することを望むのが一般的です。
そこで、売却代金に余剰が見込まれない場合でも、別除権の任意売却による回収に協力する代わりに、売却代金の中から一定額を破産財団に組み入れてもらうよう別除権者と交渉することになります。
別除権の目的物の強制執行の方法による換価
破産法 第184条
- 第2項 破産管財人は、民事執行法その他強制執行の手続に関する法令の規定により、別除権の目的である財産の換価をすることができる。この場合においては、別除権者は、その換価を拒むことができない。
- 第3項 前二項の場合には、民事執行法第63条及び第129条(これらの規定を同法その他強制執行の手続に関する法令において準用する場合を含む。)の規定は、適用しない。
- 第4項 第2項の場合において、別除権者が受けるべき金額がまだ確定していないときは、破産管財人は、代金を別に寄託しなければならない。この場合においては、別除権は、寄託された代金につき存する。
引用元:e-Gov法令検索
任意売却による換価が難しい場合でも、破産管財人は、強制執行手続の方法で別除権の目的物を換価できます。この場合、別除権者は、破産管財人による換価を拒めません(破産法184条2項)。
ただし、強制執行の方法によって換価する場合、別除権者が受けられる金額がまだ確定しないときは、破産管財人は代金を寄託しなければいけません。別除権者は、寄託された代金から優先弁済を受けることができます(破産法184条3項)。
交渉で任意売却が上手くいかず、別除権者がいつまでも担保権を実行しないような場合には、破産管財人自ら強制執行の方法によって別除権の目的物を換価することはあり得ます。
別除権者による換価の期間指定
破産法 第185条
- 第1項 別除権者が法律に定められた方法によらないで別除権の目的である財産の処分をする権利を有するときは、裁判所は、破産管財人の申立てにより、別除権者がその処分をすべき期間を定めることができる。
- 第2項 別除権者は、前項の期間内に処分をしないときは、同項の権利を失う。
- 第3項 第1項の申立てについての裁判に対しては、即時抗告をすることができる。
- 第4項 第1項の申立てについての裁判及び前項の即時抗告についての裁判があった場合には、その裁判書を当事者に送達しなければならない。この場合においては、第10条第3項本文の規定は、適用しない。
引用元:e-Gov法令検索
別除権者に法律に定められた方法によらずに別除権の目的財産を処分する権利がある場合、裁判所は、破産管財人の申立てによって、別除権者がその処分をすべき期間を定めることができます(破産法185条1項)。
法律に定められた方法によらずに別除権の目的財産を処分する権利とは、例えば、破産財団に属する債権について質権を設定している場合に、債権質権者が自ら債権回収して弁済に充当するような場合です。
この場合、いつまでも別除権者が権利行使しないでいると管財業務を進められないため、破産管財人は裁判所に、処分期限を定めるよう申し立てることができます。
そして、この裁判所が定めた期間内に別除権者が権利行使しなかった場合、別除権者は法律に定められた方法によらずに別除権の目的財産を処分する権利を失います(破産法185条2項。ただし、別除権そのものを失うわけではありません。)。
なお、別除権者は、裁判所による期間制限の決定に対して不服を申し立てることができます(即時抗告。破産法185条3項)。
担保権消滅制度
破産法 第186条
- 第1項 破産手続開始の時において破産財団に属する財産につき担保権(特別の先取特権、質権、抵当権又は商法若しくは会社法の規定による留置権をいう。以下この節において同じ。)が存する場合において、当該財産を任意に売却して当該担保権を消滅させることが破産債権者の一般の利益に適合するときは、破産管財人は、裁判所に対し、当該財産を任意に売却し、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める額に相当する金銭が裁判所に納付されることにより当該財産につき存するすべての担保権を消滅させることについての許可の申立てをすることができる。ただし、当該担保権を有する者の利益を不当に害することとなると認められるときは、この限りでない。
- 第1号 破産管財人が、売却によってその相手方から取得することができる金銭(売買契約の締結及び履行のために要する費用のうち破産財団から現に支出し又は将来支出すべき実費の額並びに当該財産の譲渡に課されるべき消費税額等(当該消費税額及びこれを課税標準として課されるべき地方消費税額をいう。以下この節において同じ。)に相当する額であって、当該売買契約において相手方の負担とされるものに相当する金銭を除く。以下この節において「売得金」という。)の一部を破産財団に組み入れようとする場合 売得金の額から破産財団に組み入れようとする金銭(以下この節において「組入金」という。)の額を控除した額
- 第2号 前号に掲げる場合以外の場合 売得金の額
引用元:e-Gov法令検索
別除権者との交渉が上手くいかず任意売却が進められない場合の最終的な手段として、破産法では「担保権消滅制度」が設けられています。
担保権消滅制度とは、破産管財人の担保権消滅許可の申立てによって、裁判所が別除権者が有する担保権を消滅させる制度です(破産法186条1項)。
この申立てによって担保権が消滅した場合、破産管財人は、対象の財産を通常どおり任意売却などによって換価処分することができるようになります。
ただし、担保権消滅制度は、優先弁済権をもっている別除権者からその権利を奪う強力な制度です。
そのため、要件は厳格であり、また、実務では、できる限り使わずに処理するのが望ましいとされています。実際、ほとんど利用されていません。
担保権消滅許可の申立ての要件
担保権消滅許可の申立てには、以下の要件が必要です(破産法186条1項)。
担保権者(別除権者)の対抗措置
担保権者(別除権者)は、裁判所から担保権消滅許可の申立書などの送達を受けた日から1か月以内に、担保権を実行することによって担保権消滅を免れることができます(破産法187条1項)。
ただし、すでに破産管財人との間で売得金や組入金について合意している場合や、1か月を経過している場合には、担保権実行を申し立てることができません(破産法187条3項、4項)。
また、担保権者は、裁判所から担保権消滅許可の申立書などの送達を受けた日から1か月以内であれば、担保権者自らまたは第三者が、売得金の予定額よりも5パーセント以上多い金額で買い受けることを申し出ることも可能です(破産法188条1項)。
なお、買受申出人が複数人いる場合は、最高額の申出人が選択されます。最高額の申出人が複数人いる場合は、最も先に申し出た申出人が選択されます(破産法188条8項)。
担保権消滅許可の決定・配当
担保権者が担保権を実行して担保権消滅を免れた場合、裁判所は、担保権消滅許可の申立てを不許可とする決定をします(破産法189条1項)。
申立てを許可する場合は、破産管財人が売買契約を締結した相手方に対象の財産を売却することとして、担保権消滅許可を決定します(破産法189条1項1号)。
適切な担保権者による買受申し出があった場合は、破産管財人が選択した申出人に対象の財産を売却することとして、担保権消滅許可を決定します(破産法189条1項2号)。
決定後、実際に買主や申出人から代金が(破産管財人から保証金を受け取っている場合はその保証額も)裁判所に納付されます(破産法190条1項)。これらの納付があった時に、対象の担保権が消滅します(破産法190条4項)。
金銭納付後は、裁判所が、担保権者・破産管財人に対する配当を実施します(破産法191条1項)。
商事留置権消滅請求
破産法 第192条
- 第1項 破産手続開始の時において破産財団に属する財産につき商法又は会社法の規定による留置権がある場合において、当該財産が第36条の規定により継続されている事業に必要なものであるとき、その他当該財産の回復が破産財団の価値の維持又は増加に資するときは、破産管財人は、留置権者に対して、当該留置権の消滅を請求することができる。
破産法 第36条
- 破産手続開始の決定がされた後であっても、破産管財人は、裁判所の許可を得て、破産者の事業を継続することができる。
引用元:e-Gov法令検索
前記の担保権消滅制度のほか、商事留置権については、破産管財人は、裁判所の許可を得て、留置権者に消滅を請求できます(破産法192条1項、4項)。
ただし、商事留置権の消滅請求ができるのは、裁判所の許可に基づいて破産者の事業が継続されている場合に限られます。また、対象財産の価額を留置権者に弁済することも必要です(破産法192条2項)。
これら商事留置権消滅請求・価額の弁済があった場合、いずれか遅い時に商事留置権は消滅し(破産法192条3項)、破産管財人は留置権者に対象財産の引き渡しを求めることができます。
なお、破産管財人が商事留置権の消滅を主張して留置権者に対象財産の引き渡しを求める訴訟が提起された場合、破産管財人が弁済した金額が対象財産の価額に達していないときでも、請求棄却の判決にはなりません。
訴訟を行っている受訴裁判所は、相当期間内に不足額を弁済することを条件として、留置権者に対象財産の引き渡しを命じる認容判決をすることができます(破産法192条5項)。
法人破産における財産換価の具体例
前記のとおり、会社など法人破産の場合は、換価しないでよい自由財産はなく、すべての財産が換価対象です。
以下、法人破産でよくある財産の換価について説明します。
現金・預金
現金があれば、破産管財人が現物を回収するだけです。回収した現金は、破産管財人名義の口座に預け入れられて管理されます。
預金の場合は、破産管財人が預金口座をすべて解約して換価します。
不動産
法人所有の不動産がある場合、破産管財人は任意売却による換価を行います。抵当権が設定されている場合は、抵当権者と交渉して任意売却を進めます。
前記のとおり、不動産の所有権は、強制執行手続の方法によって換価することも可能ですが、実務ではほとんどの場合、任意売却によって換価されています。
具体的には、不動産仲介業者を通じて広く買受希望者を募って、任意売却するのが一般的です。ただし、法人の関係者や同業他社などがより高額で買い取る希望を出した場合には、個別に売却するケースもあります。
在庫品・什器備品
法人の在庫品や什器・備品などの動産も、すべて換価の対象です。価値のある在庫品や什器備品は、同業他社や買取業者に任意売却して換価します。
なお、法人破産では、換価できないような無価値な財産も清算しなければいけません。そのため、廃棄処分費用の支出を抑えるため、価値のある物と無価値な物をまとめて売却することもあります。
自動車・車両
自動車や事業用の車両も換価対象です。法人破産では自由財産制度がないので、すべての自動車・車両が換価処分されます。
これら自動車や車両も、任意売却によって換価します。一般的には中古自動車の買取業者に売却することが多いですが、法人関係者や同業他社に売却することも多いです。
保険・積立金
法人が加入している保険や積立金も、破産管財人よってすべて換価されます。具体的には、破産管財人が保険や積立金を解約して、保険会社などから支払いをうけて換価します。
売掛金・貸付金などの債権
破産法人が有する債権も、換価の対象です。破産財団に属する債権は、破産管財人が債務者に対して履行を請求して回収することになります。
交渉だけで回収できるように話し合いで解決するのが望ましいですが、債務者が支払いに応じない場合は、訴訟・強制執行により回収するケースもあります。
また、債務者に資力がないため早期の回収が難しい場合には、債権を債権回収会社に譲渡して換価するケースもあります。
個人破産における財産換価
個人破産では、自由財産を除く財産が換価の対象です。
個人事業者の破産の場合は、法人破産と同様、事業資産も換価の対象になります。一方、消費者破産の場合は、生活に必要となるものの多くが自由財産になるため、換価が行われないケースも多いです。
以下では、個人破産でよくある財産の換価について説明します。
現金
個人破産では、現金のうち99万円を超える部分だけが換価の対象になります。
破産管財人が金額を計算して、その金額を破産者が破産管財人名義の口座に振り込む方法によって回収するのが一般的でしょう。
預金
預金は、残高20万円を超える場合のみ換価対象となるのが通常です。預金を換価する場合も、預金口座を解約するのではなく、破産者が、預金残高全額を破産管財人名義の口座に振り込む方法によって回収するのが一般的でしょう。
なお、定期預金や当座預金のように破産者が自由に引き出したり解約したりできないものは、破産管財人が解約して残高を回収します。
不動産
個人破産の場合も、所有不動産がある場合は、まず任意売却を試みるのが通常です。住宅ローンなどが設定されている場合は、破産管財人がローン会社と交渉して、任意売却を進めます。
自動車
自動車は、本来的自由財産には含まれていません。ただし、東京地裁や大阪地裁をはじめとする多くの裁判所では、売却見込み額が20万円以下の自動車は自由財産として扱われています。
自動車を換価する場合も、買取業者に任意売却するのが一般的です。
生命保険・学資保険など
個人破産で換価が問題となるものとしては、生命保険や学資保険などの民間保険があります。
東京地裁や大阪地裁をはじめとする多くの裁判所では、解約返戻金(解約したときに戻ってくるお金)が20万円を超える保険のみ換価対象となる取扱いになっています。
保険を換価する場合は、破産管財人が解約して保険会社から解約返戻金を受け取る方法で換価します。
換価できない財産等の処分
前記のとおり、破産手続が開始されると、破産者の財産は、破産管財人によって換価処分され、集められたお金が手続費用や債権者への弁済・配当に充てられます。
しかし、中には、価値がなく換価できない財産もあるでしょう。かえって廃棄費用がかかってしまう財産もあります。
このような換価価値のない財産をどのように扱うかも、破産手続の重要な課題です。
法人破産の場合
会社などの法人は、破産すると解散となり、最終的には法人自体が消滅します。価値がないからといって清算しないわけにはいきません。
そのため、法人破産の場合は、換価価値がない財産も、破産管財人が清算処分します。処分に費用がかかる場合は、破産財団から支出します。
ただし、支出できるほどの破産財団がない場合は、以下のような対処をとるケースもあります。
- 法人の関係者や取引先などに廉価(または無償)で譲り渡す
- 破産申立人や役員などに予納金の追納を求める
- 裁判所の許可を得て破産財団から放棄し、法人代表者などに引き渡す
ただし、上記のとおり、破産すると法人が消滅するため、破産財団から放棄されるのは、極めて例外的なケースに限られます。
個人破産の場合
個人破産の場合は、換価価値がない、または処分するのに費用がかかる財産は、破産財団から放棄されます。
個人破産の場合は、法人のように破産したら消滅するわけではないので、放棄された財産は自由財産として破産者に戻されます。
この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
この記事が参考になれば幸いです。
破産法と資格試験
倒産法の基本法が破産法です。破産以外の民事再生法などの倒産法を理解するためにも、破産法を理解しておく必要があります。
この破産法は、司法試験(本試験)や司法試験予備試験の試験科目になっています。分量が多い上に、かなり実務的な科目であるため、イメージも持ちにくい部分があります。
ただし、出題範囲は限られています。そのため、出題範囲に絞って効率的に勉強することが必要です。そのために、予備校や通信講座などを利用するのもひとつの方法でしょう。
STUDYing(スタディング)
・司法試験・予備試験も対応
・スマホ・PC・タブレットで学べるオンライン講座
・有料受講者数20万人以上・低価格を実現
参考書籍
破産法を深く知りたい方やもっと詳しく勉強したい方のために、破産法の参考書籍を紹介します。
破産法・民事再生法(第6版)
著者:伊藤 眞 出版:有斐閣
倒産法研究の第一人者による定番の体系書。民事再生法と一体になっているので分量は多めですが、読みやすいです。難易度は高めですが、第一人者の著書であるため、信頼性は保証されています。
条解破産法(第3版)
著者:伊藤 眞ほか 出版:弘文堂
条文ごとに詳細な解説を掲載する逐条の注釈書。破産法の辞書と言ってよいでしょう。破産法の条文解釈に関して知りたいことは、ほとんどカバーできます。持っていて損はありません。金額面を除けば、誰にでもおすすめです。
破産・民事再生の実務(第4版)民事再生・個人再生編
編集:永谷典雄ほか 出版:きんざい
東京地裁民事20部(倒産部)の現役裁判官による破産実務の解説書。東京地裁の破産事件を扱う実務家必携の本。実務家でなくても、実際の手続運用を知っておくと、破産法をイメージしやすくなるでしょう。
破産管財人の財産換価(第2版)
編集:岡伸浩ほか 出版:商事法務
破産手続における破産管財人の財産換価処分について、財産の種類ごとなどに具体的な手続や方法を解説する実務解説書。実務家向けの本ですが、破産手続における財産処分のイメージをつかめるかもしれません。
司法試験・予備試験など資格試験向けの参考書籍としては、以下のものがあります。
倒産法(LEGAL QUEST)
著者:杉本和士ほか 出版:有斐閣
法科大学院生や司法試験・予備試験受験生向けに書かれた基本書・概説書。破産法だけでなく、倒産法全般について分かりやすくまとめられています。
倒産法講義
著者:野村剛司ほか 出版:日本加除出版
こちらも法学大学院生や司法試験・予備試験受験生向けに書かれた教科書。著者が実務家であるため、実務的な観点が多く含まれていて、手続をイメージしやすいメリットがあります。
倒産法(第3版)伊藤真試験対策講座15
著者:伊藤塾 出版:弘文堂
いわゆる予備校本。予備校本だけあって、実際の出題傾向に沿って内容が絞られており、分かりやすくまとまっています。学習のスタートは、予備校本から始めてもよいのではないでしょうか。



