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破産管財人の否認権とは?種類・効果・手続・期限をわかりやすく解説

この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。

Q
破産管財人の否認権とは?
A

否認権とは、破産手続開始前になされた破産者の行為またはこれと同視できる第三者の行為の効力を否定して破産財団の回復を図る形成権たる破産管財人の権能のことです。

このページでは、破産管財人の否認権について詳しく説明します。

このページで説明していること
  • 破産管財人の否認権の類型・種類(詐害行為否認・偏頗行為否認など)
  • 否認権行使の効果・相手方や転得者の反対給付の取扱い
  • 否認権行使の手続
  • 否認権行使の期限
  1. 破産管財人の否認権とは
  2. 否認権行使の対象(否認権の類型・種類)
    1. 詐害行為否認(詐害否認)
      1. 破産者が破産債権者を害することを知ってした詐害行為の否認
      2. 破産者が支払停止または破産手続開始の申立て後にした詐害行為の否認
      3. 破産者による詐害的債務消滅行為の否認
      4. 破産者による無償行為の否認
      5. 破産者が相当対価を得てした処分行為の否認
    2. 偏頗行為否認(偏頗否認)
      1. 破産者が支払不能または破産手続開始の申立て後にした偏頗行為の否認
      2. 支払不能になる前30日前以内にされた非義務的偏頗行為の否認
      3. 偏頗行為否認が適用されない場合
    3. 権利変動の対抗要件の否認
  3. 債務名義がある行為や執行行為に基づく行為の否認:執行行為の否認
  4. 否認権行使の効果
    1. 詐害行為否認の場合
      1. 詐害行為の相手方が破産者に反対給付をしていた場合
    2. 偏頗行為否認の場合
    3. 対抗要件の否認の場合
  5. 転得者に対する否認権行使
    1. 転得者に対して否認権を行使できる場合
    2. 転得者が反対給付をしていた場合
    3. 転得者が給付の返還・価額の償還をした場合
  6. 否認権のための保全処分
    1. 保全処分後に破産手続が開始された場合
  7. 否認権行使の手続
    1. 裁判外での任意交渉
    2. 否認の請求
      1. 否認請求の認容決定に対する異議の訴え
    3. 否認の訴え
  8. 否認権行使の期限
  9. 個人消費者の自己破産の場合
  10. 破産管財人の否認権と民法上の詐害行為取消権
  11. 破産法と資格試験
  12. 参考書籍

破産管財人の否認権とは

破産手続が開始されると、破産した債務者(破産者)が破産手続開始時に有していた一切の財産が、破産財団として破産管財人の管理下に置かれ、最終的に換価処分されます。

もっとも、本来であれば破産財団に組み入れられるはずだったにもかかわらず、不正・不公平は行為によって、破産手続開始時には破産財団から流出してしまっているケースがあります。

例えば、破産手続開始前に破産者が第三者に贈与してしまっていたり、特定の債権者に弁済(偏頗弁済)してしまっていたりするようなケースです。

このような財産移転を許すと、容易に財産隠しできるようになり債権者の利益を害します。また、債権者間の平等・公平を害し、破産手続への信頼も損なわれるでしょう。

そこで、破産法では、破産管財人に「否認権」が与えられています(破産法173条1項)。

否認権とは、破産手続開始前になされた破産者の行為またはこれと同視できる第三者の行為の効力を否定して破産財団の回復を図る形成権たる破産管財人の権能のことです。

破産管財人は否認権を行使することにより、本来であれば破産財団に組み入れられるべきであったにもかかわらず破産者のもとから流出してしまった財産を再び破産財団に組み入れて、換価処分できるようになります。

否認権行使の対象(否認権の類型・種類)

破産管財人の否認権の対象となるのは、「詐害行為」「偏頗行為」です。そのため、破産管財人の否認権には、大きく分けると「詐害行為否認(詐害否認)」と「偏頗行為否認(偏頗否認)」の2つの類型があります

また、上記基本2類型のほか、「対抗要件を備える行為(対抗要件充足行為)」が否認権の対象になる場合もあります。

以下、それぞれの類型について説明します。

詐害行為否認(詐害否認)

破産法 第160条

  • 第1項 次に掲げる行為(担保の供与又は債務の消滅に関する行為を除く。)は、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。
  • 第1号 破産者が破産債権者を害することを知ってした行為。ただし、これによって利益を受けた者が、その行為の当時、破産債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。
  • 第2号 破産者が支払の停止又は破産手続開始の申立て(以下この節において「支払の停止等」という。)があった後にした破産債権者を害する行為。ただし、これによって利益を受けた者が、その行為の当時、支払の停止等があったこと及び破産債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。
  • 第2項 破産者がした債務の消滅に関する行為であって、債権者の受けた給付の価額が当該行為によって消滅した債務の額より過大であるものは、前項各号に掲げる要件のいずれかに該当するときは、破産手続開始後、その消滅した債務の額に相当する部分以外の部分に限り、破産財団のために否認することができる。
  • 第3項 破産者が支払の停止等があった後又はその前6月以内にした無償行為及びこれと同視すべき有償行為は、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。

引用元:e-Gov法令検索

詐害行為とは、破産債権者を害する破産者(または破産者と同視できる第三者)による財産減少等の行為です。この詐害行為は、破産管財人による否認権行使の対象になります。

詐害行為を否認することを「詐害行為否認(詐害否認)」といいます。

例えば、財産を不当に安い値段で売却したり、贈与してしまったりしたような行為を否認するのが、詐害行為否認です。

この詐害行為否認には、以下の種類があります。

詐害行為否認の種類
  • 破産者が破産債権者を害することを知ってした破産債権者を害する行為の否認(破産法160条1項1号)
  • 破産者が支払の停止または破産手続開始の申立てがあった後にした破産債権者を害する行為の否認(破産法160条1項2号)
  • 詐害的債務消滅行為の否認(破産法160条2項)
  • 無償行為の否認(破産法160条3項)
  • 破産者が相当対価を得てした処分行為の否認(破産法161条)

破産者が破産債権者を害することを知ってした詐害行為の否認

破産者が破産債権者を害することを知りながらした詐害行為」は、破産管財人による否認権行使の対象です(破産法160条1項1号本文)。

意図的に行われる詐害行為であり不当性が大きいため、行為をした時期は問われません。支払停止の前に行われたものであっても、否認権行使の対象になります。

ただし、破産債権者を害するものと知らずに取引をした相手方を保護するため、詐害行為によって利益を受けた相手方が、詐害行為の当時、破産債権者を害することを知らなかった場合には、否認権を行使できません(破産法160条1項1号ただし書き)。

破産者が支払停止または破産手続開始の申立て後にした詐害行為の否認

破産者が支払停止または破産手続開始の申立て後にした詐害行為」も、破産管財人によって否認されます(破産法160条1項2号)。

支払停止または破産手続開始の申立てがされると、破産債権者は簡単には債権を回収できません。それにもかかわらず、詐害行為を許すと、不当な財産隠しなどが容易になり、破産債権者に大きな不利益を被らせるおそれがあります。

そのため、意図的な詐害行為ではなかったとしても、すでに支払停止や破産手続開始の申立てをした後に行われた詐害行為は否認権行使の対象になるとされているのです。

なお、詐害行為によって利益を受けた相手方が、詐害行為の当時、支払停止または破産手続開始の申立てがあったことおよび破産債権者を害することをいずれも知らなかった場合には、否認権を行使できません(破産法160条1項1号ただし書き)。

破産者による詐害的債務消滅行為の否認

債務消滅行為の典型は、弁済です。例えば、借金を返済すれば、その借金債務はなくなります。

このような債務消滅行為は、本来偏頗行為として否認の対象になりますが、債権者の受けた給付の価額が債務消滅行為によって消滅した債務の額より過大である場合(詐害的債務消滅行為)は不当性が大きいため、詐害行為として否認権行使の対象になります(破産法160条2項)。

ただし、詐害的債務消滅行為として否認できるのは、消滅した債務の額に相当する部分以外の部分に限られます(なお、消滅した債務の額に相当する部分は、偏頗行為として否認されることはあります。)。

破産者による無償行為の否認

無償行為とは、破産者が対価を得ずに財産を減少させ、または債務を負担する行為のことです。

無償である以上、配当が減るだけで破産債権者には何の利益も生じません。そのため、不当性が大きいことから、無償行為は否認の対象となります(破産法160条3項)。

また、不当性が大きいため、支払停止や破産手続開始の申立てをした後だけでなく、支払停止または破産手続開始の申立て前6か月以内にされた無償行為も否認の対象となります。

ただし、財産を譲り受けた相手方は、無償行為の当時、支払停止または破産手続開始の申立てがあったことおよび破産債権者を害することをいずれも知らなかった場合には、現に受けている利益(現存利益)だけを破産管財人に返還すれば足ります(破産法167条2項)。

破産者が相当対価を得てした処分行為の否認

破産法 第161条

  • 第1項 破産者が、その有する財産を処分する行為をした場合において、その行為の相手方から相当の対価を取得しているときは、その行為は、次に掲げる要件のいずれにも該当する場合に限り、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。
  • 第1号 当該行為が、不動産の金銭への換価その他の当該処分による財産の種類の変更により、破産者において隠匿、無償の供与その他の破産債権者を害することとなる処分(以下「隠匿等の処分」という。)をするおそれを現に生じさせるものであること。
  • 第2号 破産者が、当該行為の当時、対価として取得した金銭その他の財産について、隠匿等の処分をする意思を有していたこと。
  • 第3号 相手方が、当該行為の当時、破産者が前号の隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたこと。
  • 第2項 前項の規定の適用については、当該行為の相手方が次に掲げる者のいずれかであるときは、その相手方は、当該行為の当時、破産者が同項第二号の隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたものと推定する。
  • 第1号 破産者が法人である場合のその理事、取締役、執行役、監事、監査役、清算人又はこれらに準ずる者
  • 第2号 破産者が法人である場合にその破産者について次のイからハまでに掲げる者のいずれかに該当する者
     破産者である株式会社の総株主の議決権の過半数を有する者
     破産者である株式会社の総株主の議決権の過半数を子株式会社又は親法人及び子株式会社が有する場合における当該親法人
     株式会社以外の法人が破産者である場合におけるイ又はロに掲げる者に準ずる者
  • 第3号 破産者の親族又は同居者

引用元:e-Gov法令検索

破産者が処分行為をしても、相当な対価を得ているのであれば不当とは言えず、詐害行為否認の対象にならないはずです。

とは言え、費消・移転しやすい財産に変えて、財産を隠匿するなど破産債権者を害する目的で処分行為をする可能性はあります。例えば、不動産を売却して現金に換えてしまう場合などです。

そのため、相当対価を得てした処分行為であっても、一定の場合には否認権行使の対象になります(破産法161条)。

偏頗行為否認(偏頗否認)

破産法 第162条

  • 第1項 次に掲げる行為(既存の債務についてされた担保の供与又は債務の消滅に関する行為に限る。)は、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。
  • 第1号 破産者が支払不能になった後又は破産手続開始の申立てがあった後にした行為。ただし、債権者が、その行為の当時、次のイ又はロに掲げる区分に応じ、それぞれ当該イ又はロに定める事実を知っていた場合に限る。
     当該行為が支払不能になった後にされたものである場合 支払不能であったこと又は支払の停止があったこと。
     当該行為が破産手続開始の申立てがあった後にされたものである場合 破産手続開始の申立てがあったこと。
  • 第2号 破産者の義務に属せず、又はその時期が破産者の義務に属しない行為であって、支払不能になる前30日以内にされたもの。ただし、債権者がその行為の当時他の破産債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。
  • 第2項 前項第1号の規定の適用については、次に掲げる場合には、債権者は、同号に掲げる行為の当時、同号イ又はロに掲げる場合の区分に応じ、それぞれ当該イ又はロに定める事実(同号イに掲げる場合にあっては、支払不能であったこと及び支払の停止があったこと)を知っていたものと推定する。
  • 第1号 債権者が前条第2項各号に掲げる者のいずれかである場合
  • 第2号 前項第1号に掲げる行為が破産者の義務に属せず、又はその方法若しくは時期が破産者の義務に属しないものである場合
  • 第3項 第1項各号の規定の適用については、支払の停止(破産手続開始の申立て前1年以内のものに限る。)があった後は、支払不能であったものと推定する。

引用元:e-Gov法令検索

偏頗行為(へんぱこうい)とは、破産者(または破産者と同視できる第三者)が、債権者平等に反して特定の債権者にのみ利益を与える行為のうち、既存の債務についてされた担保の供与または債務の消滅に関するもののことです。

この偏頗行為は、破産管財人による否認権行使の対象になります。

偏頗行為を否認することを「偏頗行為否認(偏頗否認)」といいます。

偏頗行為(へんぱこうい)として最も典型的なものは「偏頗弁済」です。例えば、他の債権者への支払いは停止しているにもかかわらず、親しい取引先にだけ支払いをしたり、家族・親族からの借金だけ返済をしたりするようなケースです。

この偏頗行為否認には、以下の種類があります。

偏頗行為否認の種類
  • 破産者が支払不能になった後または破産手続開始の申立てがあった後にした偏頗行為の否認(破産法162条1項1号)
  • 破産者が支払不能になる前30日以内にした非義務的偏頗行為の否認(破産法162条1項2号)

破産者が支払不能または破産手続開始の申立て後にした偏頗行為の否認

特定の債権者にだけに対する偏頗行為が常に否認権行使の対象になるわけではありません。否認の対象になるのは、破産者が支払不能になった後または破産手続開始の申立て後にした偏頗行為に限られます(破産法162条1項1号本文)。

支払不能になった後や破産手続開始の申立てをした後は、他の債権者は弁済などを受けることが事実上できません。それにもかかわらず特定の債権者だけ利益を得られるとすると、債権者平等を害します。

そのため、支払不能や破産手続開始申立て後の偏頗行為が否認の対象となるのです。

ただし、偏頗行為によって利益を受けた債権者が、債務者(破産者)が支払不能であったこと(または支払停止していたこと)や破産手続開始の申立てをしたことを知らなかった場合には、否認権を行使できません(破産法162条1項1号ただし書き)。

支払不能になる前30日前以内にされた非義務的偏頗行為の否認

上記のとおり、否認の対象になるのは、原則として、破産者が支払不能または破産手続開始申立て後にした偏頗行為です。ただし、非義務的偏頗行為は、支払不能になる前30日以内のものであっても偏頗行為否認の対象になります(破産法162条1項2号)。

非義務的偏頗弁済とは、破産者の義務に属せずまたはその時期が破産者の義務に属しない偏頗行為のことです。例えば、返済期日前に返済をする場合が典型的なケースです。

何らの義務がないのに特定の債権者にだけ弁済などをすることは、債権者平等を害する度合いが通常の偏頗行為よりも大きいです。

そのため、非義務的偏頗弁済の場合は、否認の対象となる時期的範囲が通常の偏頗弁済の場合よりも拡大されているのです。

偏頗行為否認が適用されない場合

破産法 第163条

  • 第1項 前条第1項第1号の規定は、破産者から手形の支払を受けた者がその支払を受けなければ手形上の債務者の一人又は数人に対する手形上の権利を失う場合には、適用しない。
  • 第2項 前項の場合において、最終の償還義務者又は手形の振出しを委託した者が振出しの当時支払の停止等があったことを知り、又は過失によって知らなかったときは、破産管財人は、これらの者に破産者が支払った金額を償還させることができる。
  • 第3項 前条第1項の規定は、破産者が租税等の請求権(共助対象外国租税の請求権を除く。)又は罰金等の請求権につき、その徴収の権限を有する者に対してした担保の供与又は債務の消滅に関する行為には、適用しない。

引用元:e-Gov法令検索

形式上偏頗行為に該当するものであっても、以下の場合には否認の対象になりません(破産法163条)。

手形債務支払の場合等の例外
  • 破産者から手形の支払を受けた者がその支払を受けなければ手形上の債務者の一人または数人に対する手形上の権利を失う場合(破産法163条1項)
  • 破産者が租税等の請求権(共助対象外国租税の請求権を除く。)または罰金等の請求権につき、その徴収の権限を有する者に対してした担保の供与または債務の消滅に関する行為(破産法163条3項)

なお、破産法163条1項によって偏頗行為否認ができない場合、破産管財人は、手形の最終償還義務者や振出の委託者に対して破産者が支払った金額を償還させることができることがあります(破産法163条2項)。

権利変動の対抗要件の否認

破産法 第164条

  • 第1項 支払の停止等があった後権利の設定、移転又は変更をもって第三者に対抗するために必要な行為(仮登記又は仮登録を含む。)をした場合において、その行為が権利の設定、移転又は変更があった日から15日を経過した後支払の停止等のあったことを知ってしたものであるときは、破産手続開始後、破産財団のためにこれを否認することができる。ただし、当該仮登記又は仮登録以外の仮登記又は仮登録があった後にこれらに基づいて本登記又は本登録をした場合は、この限りでない。
  • 第2項 前項の規定は、権利取得の効力を生ずる登録について準用する。

引用元:e-Gov法令検索

権利の変動を第三者に対抗するために対抗要件を備えなければならない場合があります。例えば、不動産の登記、自動車の登録などです。

これら対抗要件を備える行為(対抗要件充足行為)が支払停止や破産手続開始の申立て後にされたものである場合は、原因となる行為自体が詐害行為や偏頗行為に該当しない場合であっても、否認権行使の対象になります(破産法164条1項本文、2項)。

対抗要件を備えていなければ破産財団に権利を主張できず、本来であれば破産債権者に配当されるはずです。対抗要件が備えなられていない財産は配当の対象になると考えている破産債権者の利益を保護する必要があります。

とはいえ、対抗要件を備える行為は、権利変動行為を完成させるだけの行為であるので、原因行為に詐害性や偏頗性がなければ否認できないのが原則です。

そこで、支払停止・破産手続開始の申立て後の対抗要件充足行為に限り、一定の要件を充たす場合にだけ否認できるものとしているのです(最一小判昭和45年8月20日)。

具体的には、権利変動日から15日を経過した後、支払停止や破産手続開始の申立てがあったことを知った上でされた対抗要件充足行為に限られます。

債務名義がある行為や執行行為に基づく行為の否認:執行行為の否認

破産法 第165条

  • 否認権は、否認しようとする行為について執行力のある債務名義があるとき、又はその行為が執行行為に基づくものであるときでも、行使することを妨げない。

引用元:e-Gov法令検索

詐害行為・偏頗行為・対抗要件充足行為に執行力のある債務名義がある場合や執行行為に基づくものである場合でも、否認権行使は可能です(破産法165条)。

債務名義とは、債権の存在を証明する公的文書です。債務名義があると、強制執行などの民事執行手続ができるようになります。代表的な債務名義は、確定判決・調停調書などがあります。

例えば、第三者が判決に基づいて破産者の財産を差し押さえた場合であっても、要件を充たしていれば、否認権を行使できます。

否認権行使の効果

破産法 第167条

  • 第1項 否認権の行使は、破産財団を原状に復させる。
  • 第2項 第160条第3項に規定する行為が否認された場合において、相手方は、当該行為の当時、支払の停止等があったこと及び破産債権者を害することを知らなかったときは、その現に受けている利益を償還すれば足りる。

引用元:e-Gov法令検索

破産管財人によって否認権が行使されると、対象となった破産者(またはそれと同視できる第三者)の行為の効果が破産財団との関係で否定され、流出した財産が原状に復します(破産法167条1項)。

流出していた財産は破産者の財産として扱われることになり、破産財団に組み入れられます。その上で、破産管財人によって換価処分され、債権者に弁済または配当されます。

詐害行為否認の場合

詐害行為が否認されると、当該詐害行為の効力は否定され、相手方は破産管財人に詐害行為によって取得した財産を引き渡さなければならなくなります

例えば、債務者(破産者)が破産手続開始前に第三者に財産を贈与した場合、贈与行為が詐害行為として否認されると、贈与による債務者から第三者への目的物の所有権移転の効果が否定されます。

そのため、第三者は破産管財人に対して破産者から贈与されたと主張することができなくなり、破産財団に財産を戻さなければならなくなります。

詐害行為の相手方が破産者に反対給付をしていた場合

破産法 第168条

  • 第1項 第160条第1項若しくは第3項又は第161条第1項に規定する行為が否認されたときは、相手方は、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める権利を行使することができる。
  • 第1号 破産者の受けた反対給付が破産財団中に現存する場合 当該反対給付の返還を請求する権利
  • 第2号 破産者の受けた反対給付が破産財団中に現存しない場合 財団債権者として反対給付の価額の償還を請求する権利
  • 第2項 前項第二号の規定にかかわらず、同号に掲げる場合において、当該行為の当時、破産者が対価として取得した財産について隠匿等の処分をする意思を有し、かつ、相手方が破産者がその意思を有していたことを知っていたときは、相手方は、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める権利を行使することができる。
  • 第1号 破産者の受けた反対給付によって生じた利益の全部が破産財団中に現存する場合 財団債権者としてその現存利益の返還を請求する権利
  • 第2号 破産者の受けた反対給付によって生じた利益が破産財団中に現存しない場合 破産債権者として反対給付の価額の償還を請求する権利
  • 第3号 破産者の受けた反対給付によって生じた利益の一部が破産財団中に現存する場合 財団債権者としてその現存利益の返還を請求する権利及び破産債権者として反対給付と現存利益との差額の償還を請求する権利
  • 第3項 前項の規定の適用については、当該行為の相手方が第161条第2項各号に掲げる者のいずれかであるときは、その相手方は、当該行為の当時、破産者が前項の隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたものと推定する。
  • 第4項 破産管財人は、第160条第1項若しくは第3項又は第161条第1項に規定する行為を否認しようとするときは、前条第一項の規定により破産財団に復すべき財産の返還に代えて、相手方に対し、当該財産の価額から前三項の規定により財団債権となる額(第1項第1号に掲げる場合にあっては、破産者の受けた反対給付の価額)を控除した額の償還を請求することができる。

引用元:e-Gov法令検索

詐害行為否認(詐害的債務消滅行為の否認を除く)において、相手方が破産者に対して反対給付をしていた場合、相手方は以下の権利を取得します(破産法168条1項)。

相手方の権利
  • 反対給付が破産財団に残っている場合
    相手方は反対給付の返還を請求する権利を取得し、破産債権者として配当に加わることができる(破産法168条1項1号)
  • 反対給付が破産財団に残っていない場合
    相手方は、財団債権者として反対給付の価額の償還を請求する権利を取得する(破産法168条1項2号)
  • 反対給付が破産財団に残っていない場合に、詐害行為の当時、破産者が対価として取得した財産について隠匿等の処分をする意思を有し、かつ、相手方が破産者の意思をを知っていたとき(破産法168条2項)
    • 反対給付によって生じた利益の全部が破産財団に残っている場合
      相手方は、財団債権者として現存利益の返還を請求できる権利を取得する
    • 反対給付によって生じた利益が破産財団に残っていない場合
      相手方は、反対給付の価額の償還を請求する権利を取得し、破産債権者として配当に加わることができる
    • 反対給付によって生じた利益の全部が破産財団に残っている場合
      相手方は、財団債権者として現存利益の返還を請求できる権利・破産債権者として反対給付と現存利益の差額を請求して配当に加われる権利を取得する

なお、相手方に反対給付の返還等の権利が認められる場合、破産管財人は、財産そのものではなく、財産から財団債権となる相手方の請求権の額を差し引いた額を支払うよう求めることもできます(破産法168条4項)。

偏頗行為否認の場合

偏頗行為が否認されると、当該債務消滅行為や担保の供与の効力は否定され、相手方は破産管財人に偏頗行為によって取得した財産を返還しなければならなくなります

例えば、債務者(破産者)が破産手続開始前に特定の債権者にだけ偏頗弁済した場合、弁済が偏頗行為として否認されると、弁済による債務消滅の効力が否定されます。

その結果、弁済を受けた債権者は弁済として金銭や物を受け取ったことを破産管財人に主張できなくなり、破産財団に戻さなければならなくなります。

なお、相手方が破産財団に受け取った給付を返還した場合、相手方の破産者に対する債権が復活します(破産法169条)。そのため、給付を返還した相手方は、破産債権者として配当に加わることができます。

対抗要件の否認の場合

例えば、債務者(破産者)から売買で不動産を購入した第三者が、債務者が支払停止になった後に所有権移転登記手続を行った場合、所有権移転登記手続を否認されると、その登記移転の効力は否定されます。

登記が否定されるので、第三者は破産管財人で対抗できなくなり、権利を取得できなくなります。破産管財人は、移転される前の登記(債務者の名義の登記)に基づいて不動産を換価処分することになります。

なお、対抗要件が否認されても売買契約自体が否認されるわけではないので、破産管財人は破産者と第三者との売買契約を清算する必要があります。

転得者に対する否認権行使

破産法 第170条

  • 第1項 次の各号に掲げる場合において、否認しようとする行為の相手方に対して否認の原因があるときは、否認権は、当該各号に規定する転得者に対しても、行使することができる。ただし、当該転得者が他の転得者から転得した者である場合においては、当該転得者の前に転得した全ての転得者に対しても否認の原因があるときに限る。
  • 第1号 転得者が転得の当時、破産者がした行為が破産債権者を害することを知っていたとき。
  • 第2号 転得者が第161条第2項各号に掲げる者のいずれかであるとき。ただし、転得の当時、破産者がした行為が破産債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。
  • 第3号 転得者が無償行為又はこれと同視すべき有償行為によって転得した者であるとき。
  • 第2項 第167条第2項の規定は、前項第3号の規定により否認権の行使があった場合について準用する。

引用元:e-Gov法令検索

破産管財人が否認権を行使する相手方は、破産者が詐害行為・偏頗行為をした相手方(または対抗要件充足行為をした者)です。

もっとも、詐害行為等により財産を取得した相手方が、さらに第三者に財産を移転する場合もあります。この場合に相手方からの譲受人(転得者)に何もできないとすると、簡単に否認権行使から逃れることができてしまいます。

そのため、一定の要件を充たす場合、破産管財人は転得者に否認権を行使できるとされています。

転得者に対して否認権を行使できる場合

以下の場合、その詐害行為等の相手方から破産者の財産を譲り受けた転得者に対しても否認権を行使できます(破産法170条1項本文)。

転得者に対する否認権の要件
  • 詐害行為等の相手方に否認の原因があること
  • 以下のいずれかに該当する場合であること
    • 転得者が、転得の当時、破産者がした行為が破産債権者を害することを知っていた場合
    • 破産者が法人である場合の理事・取締役等の役員が、転得の当時、破産者がした行為が破産債権者を害することを知って転得した場合
    • 破産者が法人である場合の親会社等が、転得の当時、破産者がした行為が破産債権者を害することを知って転得した場合
    • 破産者の親族または同居人が、転得の当時、破産者がした行為が破産債権者を害することを知って転得した場合
    • 転得者が、無償行為またはこれと同視すべき有償行為によって転得した者である場合

なお、他の転得者から財産を譲り受けた転得者である場合には、その転得者の前に転得した全ての転得者に否認の原因があるときに限り、否認権を行使できます(破産法170条1項ただし書き)。

転得者が反対給付をしていた場合

破産法 第170条の2

  • 第1項 破産者がした第160条第1項若しくは第3項又は161条第1項に規定する行為が転得者に対する否認権の行使によって否認されたときは、転得者は、第168条第1項各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める権利を行使することができる。ただし、同項第1号に掲げる場合において、破産者の受けた反対給付の価額が、第4項に規定する転得者がした反対給付又は消滅した転得者の債権の価額を超えるときは、転得者は、財団債権者として破産者の受けた反対給付の価額の償還を請求する権利を行使することができる。
  • 第2項 前項の規定にかかわらず、第168条第1項第2号に掲げる場合において、当該行為の当時、破産者が対価として取得した財産について隠匿等の処分をする意思を有し、かつ、当該行為の相手方が破産者がその意思を有していたことを知っていたときは、転得者は、同条第2項各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める権利を行使することができる。
  • 第3項 前項の規定の適用については、当該行為の相手方が第161条第2項各号に掲げる者のいずれかであるときは、その相手方は、当該行為の当時、破産者が前項の隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたものと推定する。
  • 第4項 第1項及び第2項の規定による権利の行使は、転得者がその前者から財産を取得するためにした反対給付又はその前者から財産を取得することによって消滅した債権の価額を限度とする。
  • 第5項 破産管財人は、第1項に規定する行為を転得者に対する否認権の行使によって否認しようとするときは、第167条第1項の規定により破産財団に復すべき財産の返還に代えて、転得者に対し、当該財産の価額から前各項の規定により財団債権となる額(第168条第1項第1号に掲げる場合(第1項ただし書に該当するときを除く。)にあっては、破産者の受けた反対給付の価額)を控除した額の償還を請求することができる。

引用元:e-Gov法令検索

破産者の詐害行為によって転得者が否認権を行使された場合(詐害的債務消滅行為の否認を除く)、転得者が相手方や自分の前者に対して反対給付をしていたとき、転得者は以下の権利を取得します(破産法170条の2第1項)。

相手方の権利
  • 反対給付が破産財団に残っている場合
    転得者は反対給付の返還を請求する権利を取得し、破産債権者として配当に加わることができる。ただし、破産者の受けた給付の価額が転得者の反対給付または転得者の債権の価額を超える場合は、財団債権者として反対給付の価額の償還を請求する権利を取得する(破産法170条の2第1項、168条1項1号)
  • 反対給付が破産財団に残っていない場合
    転得者は、財団債権者として反対給付の価額の償還を請求する権利を取得する(破産法170条の2第1項、破産法168条1項2号)
  • 反対給付が破産財団に残っていない場合に、詐害行為の当時、破産者が対価として取得した財産について隠匿等の処分をする意思を有し、かつ、転得者が破産者がその意思を有していたことを知っていたとき(破産法170条の2第2項、破産法168条2項)
    • 反対給付によって生じた利益の全部が破産財団に残っている場合
      転得者は、財団債権者として現存利益の返還を請求できる権利を取得する
    • 反対給付によって生じた利益が破産財団に残っていない場合
      転得者は、反対給付の価額の償還を請求する権利を取得し、破産債権者として配当に加わることができる
    • 反対給付によって生じた利益の全部が破産財団に残っている場合
      転得者は、財団債権者として現存利益の返還を請求できる権利・破産債権者として反対給付と現存利益の差額を請求して配当に加われる権利を取得する

なお、転得者が権利行使できるのは、前者にした反対給付または前者から財産を取得することによって消滅した債権の価額が限度です(破産法170条の2第4項)。

転得者が給付の返還・価額の償還をした場合

破産法 第170条の3

  • 破産者がした第162条第1項に規定する行為が転得者に対する否認権の行使によって否認された場合において、転得者がその受けた給付を返還し、又はその価額を償還したときは、転得者は、当該行為がその相手方に対する否認権の行使によって否認されたとすれば169条の規定により原状に復すべき相手方の債権を行使することができる。この場合には、前条第4項の規定を準用する。

引用元:e-Gov法令検索

破産者の偏頗行為によって転得者が否認権を行使された場合、転得者が受けた給付を返還または給付の価額を償還することになります。

転得者が給付の返還または価額の償還をした場合、前者にした反対給付または前者から財産を取得することによって消滅した債権の価額を限度として、偏頗行為の相手方が有していた債権を行使できます(破産法170条の3)。

例えば、破産者AがBに代物弁済した物をBがCに譲り渡し、Cが転得者として破産管財人から否認権を行使されたケースで、Cが破産管財人に物を返還したときは、Cは、Bの破産者に対する債権を行使できます。

この場合、Bの破産者に対する債権は代物弁済によって消滅しているはずですが、Cが給付物を返還したことによって復活したものとして扱われ、Cが権利行使できるようになります。

具体的に言うと、転得者(C)は、相手方有していた債権(Bの破産者に対する債権)をもって破産債権者として配当に加わることができます。

否認権のための保全処分

破産法 第171条

  • 第1項 裁判所は、破産手続開始の申立てがあった時から当該申立てについての決定があるまでの間において、否認権を保全するため必要があると認めるときは、利害関係人(保全管理人が選任されている場合にあっては、保全管理人)の申立てにより又は職権で、仮差押え、仮処分その他の必要な保全処分を命ずることができる。
  • 第2項 前項の規定による保全処分は、担保を立てさせて、又は立てさせないで命ずることができる。
  • 第3項 裁判所は、申立てにより又は職権で、第1項の規定による保全処分を変更し、又は取り消すことができる。
  • 第4項 第1項の規定による保全処分及び前項の申立てについての裁判に対しては、即時抗告をすることができる。
  • 第5項 前項の即時抗告は、執行停止の効力を有しない。
  • 第6項 第4項に規定する裁判及び同項の即時抗告についての裁判があった場合には、その裁判書を当事者に送達しなければならない。この場合においては、第10条第3項本文の規定は、適用しない。
  • 第7項 前各項の規定は、破産手続開始の申立てを棄却する決定に対して第33条第1項の即時抗告があった場合について準用する。

引用元:e-Gov法令検索

否認権は、破産手続が開始された後、破産管財人によって行使されます。とは言え、破産手続が開始された後では、財産が隠匿されたり散逸したりして、すでに取り戻すことができない状態になっているかもしれません。

そこで、破産法では、破産管財人による否認権行使の実効性を確保するため、否認権のための保全処分を設けています。

具体的に言うと、裁判所は、破産手続開始の申立てから破産手続開始決定までの間に保全の必要性がある場合、利害関係人(保全管理人が選任されている場合は保全管理人)の申立てまたは裁判所の職権で、仮差押えや仮処分その他必要な保全処分を命じることができます(破産法171条1項)。

保全処分によって、将来否認権を行使して取り戻すべき財産が移転されないように取り計らうことができるのです。

保全処分後に破産手続が開始された場合

破産法 第172条

  • 第1項 前条第1項(同条第7項において準用する場合を含む。)の規定による保全処分が命じられた場合において、破産手続開始の決定があったときは、破産管財人は、当該保全処分に係る手続を続行することができる。
  • 第2項 破産管財人が破産手続開始の決定後1月以内に前項の規定により同項の保全処分に係る手続を続行しないときは、当該保全処分は、その効力を失う。
  • 第3項 破産管財人は、第1項の規定により同項の保全処分に係る手続を続行しようとする場合において、前条第2項(同条第7項において準用する場合を含む。)に規定する担保の全部又は一部が破産財団に属する財産でないときは、その担保の全部又は一部を破産財団に属する財産による担保に変換しなければならない。
  • 第4項 民事保全法(平成元年法律第91号)第18条並びに第2章第4節(第37条第5項から第7項までを除く。)及び第5節の規定は、第1項の規定により破産管財人が続行する手続に係る保全処分について準用する。

引用元:e-Gov法令検索

破産手続開始前に否認権のための保全処分が実施されていた場合、破産手続開始決定後、破産管財人が保全処分の手続を引き継ぐことができます(破産法172条1項)。

なお、破産管財人は保全処分を引き継がないことも可能です。破産管財人が破産手続開始決定後1か月以内に手続を引き継がなかった場合、保全処分は失効します(破産法172条2項)。

また、破産管財人は、保全処分を取り下げることも可能です(破産法172条4項、民事保全法18条)。

否認権行使の手続

破産法 第173条

  • 第1項 否認権は、訴え、否認の請求又は抗弁によって、破産管財人が行使する。
  • 第2項 前項の訴え及び否認の請求事件は、破産裁判所が管轄する。

引用元:e-Gov法令検索

破産管財人の否認権は形成権であると考えられています。形成権とは、一方的な意思表示によって権利を変動させる権利です。

そのため、破産管財人が否認権行使の意思表示をするだけで、対象の詐害行為や偏頗行為等の効力が失われ、流出した財産が破産財団に組み入れられる効果が発生します。

この否認権は、破産管財人が「否認の訴え」「否認の請求」または「否認の抗弁」によって行使します(破産法173条1項)。ただし、実務では、任意の交渉で財産の引渡しや支払いを実現するケースが多いでしょう。

裁判外での任意交渉

前記のとおり、否認権は訴え・請求・抗弁によって行使されます。

もっとも、破産法の条文では交渉による否認権行使は規定されていませんが、破産管財人と相手方の間で和解契約を締結した場合にも、否認権行使と同様の扱いになると考えられています。

破産管財人が否認権を行使する場合、いきなり訴えや否認請求をするのではなく、まずは相手方等と交渉して財産の返還を求めるのが通常です。

そのため、実際には、破産管財人と否認権行使の相手方との裁判外での任意交渉によって解決するケースが多いです。

否認の請求

破産法 第174条

  • 第1項 否認の請求をするときは、その原因となる事実を疎明しなければならない。
  • 第2項 否認の請求を認容し、又はこれを棄却する裁判は、理由を付した決定でしなければならない。
  • 第3項 裁判所は、前項の決定をする場合には、相手方又は転得者を審尋しなければならない。
  • 第4項 否認の請求を認容する決定があった場合には、その裁判書を当事者に送達しなければならない。この場合においては、第10条第3項本文の規定は、適用しない。
  • 第5項 否認の請求の手続は、破産手続が終了したときは、終了する。

引用元:e-Gov法令検索

後述する否認の訴えは、非常に時間がかかるケースがあります。そこで、破産法では、簡易迅速な否認権行使を図るため、「否認の請求」制度が設けられています。

否認の請求とは、通常の訴訟手続によらずに、破産手続を行っている裁判所(破産裁判所)において否認権行使の可否や行使できる範囲等を決定する破産手続中での簡易迅速な裁定手続です。

否認請求では、訴えと異なり、否認の原因となる事実の「証明」までは必要なく、即時に取り調べられる書証による「疎明」で足ります(破産法174条1項)。ただし、否認の相手方や転得者の審尋は必要です(破産法174条3項)。

否認請求を認める決定(認容決定)は、当事者から異議が出されないまま、当事者に決定書が送達された日から1か月が経過すると確定します。確定した認容決定は、確定判決と同一の効力を持ちます(破産法175条4項)。

否認請求の認容決定に対する異議の訴え

破産法 第175条

  • 第1項 否認の請求を認容する決定に不服がある者は、その送達を受けた日から1月の不変期間内に、異議の訴えを提起することができる。
  • 第2項 前項の訴えは、破産裁判所が管轄する。
  • 第3項 第1項の訴えについての判決においては、訴えを不適法として却下する場合を除き、同項の決定を認可し、変更し、又は取り消す。
  • 第4項 第1項の決定を認可する判決が確定したときは、その決定は、確定判決と同一の効力を有する。同項の訴えが、同項に規定する期間内に提起されなかったとき、又は却下されたときも、同様とする。
  • 第5項 第1項の決定を認可し、又は変更する判決については、受訴裁判所は、民事訴訟法第259条第1項の定めるところにより、仮執行の宣言をすることができる。
  • 第6項 第1項の訴えに係る訴訟手続は、破産手続が終了したときは、第44条第4項の規定にかかわらず、終了する。

引用元:e-Gov法令検索

否認請求を認容する決定に対して不服がある当事者は、決定書が送達された日から1か月以内であれば、異議の訴えを提起できます(破産法175条1項)。

異議の訴えは、破産手続を行っている裁判所(破産裁判所)に提起します(破産法175条2項)。

異議の訴えは訴訟手続であるため、破産管財人や相手方・転得者がそれぞれ主張・立証し、それに基づいて破産裁判所が認容決定を認可・変更・取り消す旨の判決を下します(破産法175条3項)。

なお、この異議の訴えによる判決についても、当事者は不服申立てできます。

否認の訴え

破産管財人は、否認の訴えによって否認権を行使することも可能です。否認の訴えとは、通常の民事訴訟を提起することを意味します。

この否認の訴えも、管轄裁判所は破産手続を行っている裁判所(破産裁判所)です(破産法173条2項)。そのため、破産手続を行っているのと同じ地方裁判所に訴えを提起することになります。

ただし、破産管財人が否認の訴えを提起する場合は、破産裁判所の許可が必要です(破産法78条2項10号)。

前記の否認請求の場合、相手方や転得者は認容決定に異議を出せます。異議が出されると、異議訴訟をすることになり、かえって時間がかかってしまうケースも少なくありません。

そのため、実務では、交渉が上手くいかなかった場合、否認請求よりも否認の訴えを選択することが多いでしょう。

否認権行使の期限

破産法 第166条

  • 破産手続開始の申立ての日から1年以上前にした行為(第160条第3項に規定する行為を除く。)は、支払の停止があった後にされたものであること又は支払の停止の事実を知っていたことを理由として否認することができない。

破産法 第176条

  • 否認権は、破産手続開始の日から2年を経過したときは、行使することができない。否認しようとする行為の日から10年を経過したときも、同様とする。

引用元:e-Gov法令検索

破産管財人の否認権といっても、無制限にできるわけではありません。行使できる期限(除斥期間)が決まっています。具体的には、以下のような期限があります。

否認権行使の除斥期間
  • 破産手続開始日から2年(破産法176条前段)
  • 否認しようとする行為の日から10年(破産法176条後段)

また、破産手続開始の申立ての日から1年以上前にした詐害行為(無償行為を除く)・偏頗行為・対抗要件充足行為は、支払停止後にされたものであることまたは支払停止の事実を知っていたことを理由として否認することができません(破産法166条)。

そのため、破産法160条1項2号、2項、162条1項1号イ、164条については、支払停止後であることや支払停止の事実を知っていたことを理由とする場合、破産手続開始の申立てから1年以上前であると否認できないことがあります。

個人消費者の自己破産の場合

否認権行使が問題となるのは、法人や個人事業者の破産の場合に限られません。個人消費者の自己破産でも、否認権が問題となることは多いです。

例えば、以下のようなケースでは、否認権行使が問題となります。

個人消費者の自己破産で否認権行使が問題となるケースの具体例
  • 債務者が自分の財産の名義を、家族や親族などに移した
  • 債務者が自分の財産を、家族や知人にただであげてしまった
  • 離婚の際の財産分与や慰謝料の名目で、配偶者に多額の財産を譲り渡した
  • 家族や親族からの借金だけ返済した
  • 家族が保証人になっている借金だけ返済した

なお、個人消費者の自己破産における否認権については、下記リンク先ページを参照してください。

破産管財人の否認権と民法上の詐害行為取消権

民法では、債権者に詐害行為取消権が認められています。詐害行為取消権とは、債務者が債権者を害することを知りながらした行為(詐害行為)を取り消すことができる債権者の権利です(民法424条1項)。

破産管財人の否認権(詐害行為否認)は、破産手続においてすべての債権者のために認められる権限であり、破産手続以外の場面において個別の債権者のために認められる詐害行為取消権とは、そもそも異なる制度です。

とは言え、いずれも債務者の詐害行為の効力を否定することで、債権の引き当てとなる債務者の責任財産を確保する点で共通しています。

そのため、民法改正に伴い、否認権と詐害行為取消権に大きな齟齬が生じないように、バランスが調整されています。

比較項目否認権詐害行為取消権
行使できる主体破産管財人債権者
行使される場面破産手続限定なし(ただし、破産手続中は行使できない)
行使の目的破産財団の確保(総債権者の利益の確保)取消しを求める債権者の利益の確保
行使の手続否認の訴え、否認請求または抗弁(交渉も可能)通常訴訟(詐害行為取消訴訟)

この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
この記事が参考になれば幸いです。

破産法と資格試験

倒産法の基本法が破産法です。破産以外の民事再生法などの倒産法を理解するためにも、破産法を理解しておく必要があります。

この破産法は、司法試験(本試験)や司法試験予備試験の試験科目になっています。分量が多い上に、かなり実務的な科目であるため、イメージも持ちにくい部分があります。

ただし、出題範囲は限られています。そのため、出題範囲に絞って効率的に勉強することが必要です。そのために、予備校や通信講座などを利用するのもひとつの方法でしょう。

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・司法試験・予備試験も対応
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参考書籍

破産法を深く知りたい方やもっと詳しく勉強したい方のために、破産法の参考書籍を紹介します。

破産法・民事再生法(第6版)
著者:伊藤 眞 出版:有斐閣
倒産法研究の第一人者による定番の体系書。民事再生法と一体になっているので分量は多めですが、読みやすいです。難易度は高めですが、第一人者の著書であるため、信頼性は保証されています。

条解破産法(第3版)
著者:伊藤 眞ほか 出版:弘文堂
条文ごとに詳細な解説を掲載する逐条の注釈書。破産法の辞書と言ってよいでしょう。破産法の条文解釈に関して知りたいことは、ほとんどカバーできます。持っていて損はありません。金額面を除けば、誰にでもおすすめです。

破産・民事再生の実務(第4版)民事再生・個人再生編
編集:永谷典雄ほか 出版:きんざい
東京地裁民事20部(倒産部)の現役裁判官による破産実務の解説書。東京地裁の破産事件を扱う実務家必携の本。実務家でなくても、実際の手続運用を知っておくと、破産法をイメージしやすくなるでしょう。

破産管財人の財産換価(第2版)
編集:岡伸浩ほか 出版:商事法務
破産手続における破産管財人の財産換価処分について、財産の種類ごとなどに具体的な手続や方法を解説する実務解説書。実務家向けの本ですが、破産手続における財産処分のイメージをつかめるかもしれません。

司法試験・予備試験など資格試験向けの参考書籍としては、以下のものがあります。

倒産法(LEGAL QUEST)
著者:杉本和士ほか 出版:有斐閣
法科大学院生や司法試験・予備試験受験生向けに書かれた基本書・概説書。破産法だけでなく、倒産法全般について分かりやすくまとめられています。

倒産法講義
著者:野村剛司ほか 出版:日本加除出版
こちらも法学大学院生や司法試験・予備試験受験生向けに書かれた教科書。著者が実務家であるため、実務的な観点が多く含まれていて、手続をイメージしやすいメリットがあります。

倒産法(第3版)伊藤真試験対策講座15
著者:伊藤塾 出版:弘文堂
いわゆる予備校本。予備校本だけあって、実際の出題傾向に沿って内容が絞られており、分かりやすくまとまっています。学習のスタートは、予備校本から始めてもよいのではないでしょうか。

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