この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
- Q民法における意思表示とは何?
- A
民法上の意思表示とは、一定の法律効果の発生を望む意思(効果意思)を外部に表示する行為のことです。
このページでは、法律における意思表示とは何かについて、わかりやすく説明します。
- 民法における意思表示とは
- 意思表示と法律行為
- 意思表示の具体例・重要な要素
- 意思表示の欠缺・瑕疵
- 意思表示の方法・効力発生時期
- 意思表示の受領能力

民法・法律における意思表示とは
民法をはじめとする法律では、「意思表示」という用語がよく使われます。法律の場面で使われる意思表示は、単なる意思の表明のような意味ではありません。
法律の場面で使われる意思表示とは、一定の法律効果の発生を望む意思(効果意思)を外部に表示する行為のことです。
この法的意味での意思表示をすることによって、さまざまな法律の効果が発生するのです。
以下では、この法的意味での「意思表示」について説明していきます。
意思表示と法律行為
法律行為とは、法律上の効果の発生・変更・消滅を望む内心の意思(効果意思)に基づいてする意思表示を基礎として、法律上の効果を生じさせる行為のことです。
例えば、代表的な法律行為は、契約です。
法律行為の最も重要な要素が、意思表示です。意思表示をすることで法律行為が成立し、さまざまな法律効果が発生することになります。
法律行為の種類
法律行為には、以下の種類があります。いずれも、意思表示が最重要の要素です。
- 契約
一方当事者の申込みの意思表示に対し、他方当事者の承諾の意思表示によって成立する法律行為(民法522条)。 - 単独行為
単独の意思表示によって行う法律行為。契約と違い、当事者の一方の意思表示のみによって成立する。例えば、契約の解除や遺言など。 - 合同行為
複数人が共同して、同一の目的に向かって意思表示をすることにより成立する法律行為。例えば、会社の設立や社員総会の決議など。
意思表示と法律行為の具体例
例えば、Aが所有する不動産をBに1000万円で売却する売買契約で考えてみます。
売買契約が成立するためには、売主AがBに「所有する不動産を1000万円で売りたい」との「申込みの意思表示」をすることが必要です。
そして、買主BがAに「A所有の不動産を1000万円で買いたい」との「承諾の意思表示」をすれば、売買契約という法律行為が成立します。
当事者双方の意思表示によって、法律行為である契約が成立し、法的効果が発生するのです。
意思表示の具体例
意思表示には、いろいろなものがあります。
以下では、代表的な意思表示の具体例を説明します。
契約の申込み・承諾の意思表示
民法 第522条
- 第1項 契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。
- 第2項 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。
引用元:e-Gov法令検索
前記のとおり、契約が成立するには、当事者による申込みの意思表示と承諾の意思表示の合致が必要です(民法522条1項)。
契約の申込み・承諾の意思表示は、必ずしも書面で行う必要はないのが原則です(民法522条2項)。ただし、一定の種類の契約では、書面の作成や目的物の交付などが必要となるものがあります。
例えば、保証契約は、必ず書面でする必要があります。また、消費貸借契約では、目的物の交付がないと契約は成立しません。
契約解除の意思表示
民法 第540条
- 第1項 契約又は法律の規定により当事者の一方が解除権を有するときは、その解除は、相手方に対する意思表示によってする。
- 第2項 前項の意思表示は、撤回することができない。
引用元:e-Gov法令検索
契約の解除とは、契約を解消する法律行為です。契約の一方当事者に債務不履行や約定違反があった場合などには、他方の当事者は契約を解除できます。
契約を解除する場合、解除権者が契約の相手方に解除の意思表示をする必要があります(民法540条1項)。
また、特定商取引法や消費者契約法で定められているクーリングオフは、この契約解除の一種です。
取消し・追認の意思表示
民法 第123条
- 取り消すことができる行為の相手方が確定している場合には、その取消し又は追認は、相手方に対する意思表示によってする。
引用元:e-Gov法令検索
後述する錯誤・詐欺・強迫などによる意思表示や、未成年者・成年被後見人による単独の意思表示に基づく法律行為は、取り消すことができます。
この意思表示や法律行為を取り消す場合も、取消権者が相手方に取消しの意思表示をする必要があります(民法123条)。
他方、取消権者は、取り消しうる意思表示であっても、あえて有効なものとして追認することも可能です。追認する場合も、取消権者が相手方に追認する旨の意思表示をしなければいけません(民法123条)。
時効援用の意思表示
民法 第145条
- 時効は、当事者(消滅時効にあっては、保証人、物上保証人、第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者を含む。)が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。
引用元:e-Gov法令検索
消滅時効や取得時効は、時効期間が経過すれば当然に効果を生じるわけではありません。時効の効果を生じさせるには、時効を主張する人が、時効を援用する必要があります(民法145条)。
この時効の援用も、意思表示です。時効を援用する旨の意思表示を相手方に到達させることが必要です。
相殺の意思表示
民法 第506条
- 第1項 相殺は、当事者の一方から相手方に対する意思表示によってする。この場合において、その意思表示には、条件又は期限を付することができない。
- 第2項 前項の意思表示は、双方の債務が互いに相殺に適するようになった時にさかのぼってその効力を生ずる。
引用元:e-Gov法令検索
相殺とは、2人がお互いに弁済期にある同種の目的の債務を負担している場合に、当事者の一方の意思表示によってお互いの債務を対当額で消滅させる法律行為です(民法505条1項)。
相殺をする場合も、どちらか一方の当事者が相手方に対して、相殺する旨の意思表示をする必要があります(民法506条1項前段)。
債務免除の意思表示
民法 第519条
- 債権者が債務者に対して債務を免除する意思を表示したときは、その債権は、消滅する。
引用元:e-Gov法令検索
債権者は、債務者に対して債務の全部または一部を免除できます。免除されると、その債務の一部または全部が消滅します。
この債務免除も、債権者から債務者に対してする免除の意思表示によって行います(民法519条)。
遺言
遺言は、遺産を遺す人(遺言者・被相続人)の最後の意思表示です。被相続人は、遺言をしておくことによって、自身の意思を死後の相続において反映させることが可能です。
ただし、遺言は、意思表示をするだけでなく、法律で定められた方式に従って遺言書を作成しなければ効力を生じません(民法960条)。
意思表示の要素
意思表示は、「効果意思」と「表示行為」の2つの要素によって成り立っています。
効果意思とは
効果意思とは、権利・義務の発生・変更・消滅といった法的効果が生じることを望む内心の意思のことです。
この効果意思が存在しなければ、意思表示は有効に成立しません。効果意思を欠く場合、意思表示は無効となるのが原則です。
例えば、意思表示をする人(表意者)が意思表示の相手方と通謀して、虚偽の意思表示をした場合(虚偽表示)、効果意思がないため、その意思表示は原則無効です(民法94条1項)。
表示行為とは
表示行為とは、効果意思を外部に表示する行為です。効果意思を表示行為によって外部に示すことによりはじめて、意思表示が成立します。
例えば、契約を解除したいと内心で考えていただけでは、解除の効力は生じません。相手方に解除の意思表示を、口頭や書面で伝えることにより、はじめて解除の効力が発生します。
補足:動機と表示意思
人が意思表示をするまでには、4つの段階があります。
- 動機の形成
最初に、効果意思を持つに至ったきっかけとなる事情(動機)が形成されます。 - 効果意思
動機に基づき、一定の法律効果を発生させたいと望む効果意思が生じます。 - 表示意思
効果意思が生じると、その効果意思を外部に表示させることを望む意思が生じます。 - 表示行為
表示意思に基づき、実際に効果意思を外部に表示する行為を行うことになります。
意思表示の要素は、「効果意思」と「表示行為」と考えるのが通説です。
もっとも、上記の「効果意思」「表示行為」のほか、意思表示の要素として、「表示意思」も必要であるとする見解もあります。表示意思とは、効果意思を表示しようとする内心の意思のことです。
意思表示の欠缺・瑕疵
前記のとおり、意思表示が有効に成立するには、「効果意思」と「表示行為」が必要です。
しかし、外形的には表示行為がされているものの、効果意思が存在しない、または、効果意思が真意に基づくものではないケースもあります。
効果意思を欠く場合を「意思表示の欠缺(けんけつ)」といい、外部的影響によって真意に基づかない効果意思になってしまっている場合を「意思表示の瑕疵(かし)」と呼ぶことがあります。
これら欠缺・瑕疵がある場合、意思表示は無効または取り消しうるものとなります。民法では、意思表示の欠缺・瑕疵により無効または取り消しうる場合として、以下の5つが定められています。
- 心裡留保
- 虚偽表示
- 錯誤
- 詐欺
- 強迫
心裡留保
民法 第93条
- 第1項 意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方がその意思表示が表意者の真意ではないことを知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。
- 第2項 前項ただし書の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。
引用元:e-Gov法令検索
心裡留保とは、表意者が、真意ではないと知りつつ真意でない意思表示をすることです。要するに、嘘の意思表示をすることが心裡留保に該当します。
嘘の表示であるため、意思表示した人(表意者)に効果意思が存在しません。そのため、本来であれば意思表示は無効になるはずです。
しかし、嘘をついているより表意者よりも、意思表示を信頼した相手方を保護する必要があるため、心裡留保による意思表示は原則有効となります(民法93条1項本文)。
ただし、相手方が心裡留保であること(嘘であること)を知っている(悪意)または、知らないことに落ち度がある(有過失)場合は保護の必要がないので、意思表示は無効になります(民法93条1項ただし書)。
なお、仮に相手方の悪意または有過失で意思表示が無効になるとしても、心裡留保であることを知らない(善意の)第三者には、意思表示の無効を主張(対抗)できません(民法93条2項)。
虚偽表示
民法 第94条
- 第1項 相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。
- 第2項 前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。
引用元:e-Gov法令検索
虚偽表示とは、表意者が相手方と通謀して、真意でない虚偽の意思表示をすることです。
例えば、本当は売る気もないのに、AがBと通謀して、A所有の不動産をBに売却したように仮装するケースなどです。財産隠しのために行われることが多いです。
虚偽表示の場合、効果意思を欠くため、意思表示は無効です(民法94条1項)。
ただし、虚偽表示の当事者は、虚偽表示であることを知らない(善意の)第三者には、虚偽表示による意思表示の無効を主張(対抗)できません(民法94条2項)。
錯誤
民法 第95条
- 第1項 意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
- 第1号 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
- 第2号 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
- 第2項 前項第2号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。
- 第3項 錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、第1項の規定による意思表示の取消しをすることができない。
- 第1号 相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき。
- 第2号 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。
- 第4項 第1項の規定による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。
引用元:e-Gov法令検索
錯誤とは、表意者の真意と表示行為に齟齬があること、または、法律行為の基礎とした事情(動機)の認識が真実に反していることを指します。いわば勘違いで意思表示してしまうような場合です。
この錯誤には、以下の2種類があります。
- 表示行為の錯誤
表意者の真意と表示行為に齟齬がある場合。言い間違いや書き間違いのようなケース。 - 動機の錯誤
法律行為の基礎とした事情(動機)の認識が真実に反している場合。
錯誤がある場合でも、意思表示は当然には無効にはなりません。しかし、以下の要件を充たす場合は、意思表示を取り消すことができます。
- 法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであること(民法95条1項柱書)
- 動機の錯誤の場合は、法律行為の基礎とした事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたこと(民法95条2項)
- 錯誤が表意者の重大な過失に基づくものでないこと(民法95条3項)
なお、錯誤がある場合であっても、錯誤であることを知らず、知らないことに落ち度がない(善意無過失の)取消し前に利害関係を持った第三者には、取消しを主張(対抗)できません(民法95条4項)。
詐欺
民法 第96条
- 第1項 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
- 第2項 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
- 第3項 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。
引用元:e-Gov法令検索
詐欺とは、他人を欺いて錯誤に陥らせ、真意でない意思表示をさせることです。要するに、騙して意思表示させる行為が詐欺です。
詐欺による意思表示は、効果意思と表示行為は一応齟齬がないので、当然には無効にはなりません。しかし、真意に基づくものでないため、表意者は意思表示を取り消すことができます(民法96条1項)。
なお、詐欺の場合も、取消し前に取引関係に入った、詐欺であることを知らず、知らないことに落ち度がない(善意無過失の)第三者には、取消しを主張(対抗)できません(民法96条3項)。
強迫
強迫とは、害悪の告知や暴行によって、他人に真意でない意思表示をさせることです。要するに、脅して意思表示させるのが強迫です。
強迫による意思表示は、効果意思と表示行為は一応齟齬がないので、当然には無効にはなりません。しかし、自由意思に基づくものでないため、表意者は意思表示を取り消すことができます(民法96条1項)。
また、強迫の場合は、錯誤や詐欺と違い、取消し前に取引関係に入った善意無過失の第三者に対しても、取消しを主張(対抗)できます。
意思表示が無効・取消しになるケースまとめ
前記のとおり、意思表示に欠缺・瑕疵がある場合、その意思表示は無効または取消しができるものとなります。
| 意思表示の欠缺・瑕疵 | 意思表示の効力 | 第三者との関係 |
|---|---|---|
| 心裡留保 | 原則有効 ただし、相手方が悪意または過失があるときは無効 | 「善意」の第三者に無効を対抗できない |
| 虚偽表示 | 無効 | 「善意」の第三者に無効を対抗できない |
| 錯誤 | 取消しができる | 「善意無過失」の第三者に取消しを対抗できない |
| 詐欺 | 取消しができる | 「善意無過失」の第三者に取消しを対抗できない |
| 強迫 | 取消しができる | 第三者が善意無過失であっても取消しを対抗できる |
意思表示の方法
意思表示の方法には、原則として特に法的な制限や決まりはありません。相手方に効果意思を表示することで、効力を生じます。
一般的な意思表示の方法
意思表示は、口頭で行うことも可能です。実際、コンビニエンスストアで買い物をする時は、わざわざ契約書を作ったりせず、口頭でやり取りして売買契約を締結しているでしょう。
ただし、重要な意思表示をする場合は、書面に意思表示の内容を記載して、相手方に交付するのが通常です。典型的な意思表示の書面が、契約書です。
また、契約でない一方的な意思表示の場合は、書面を相手方に郵送してする方法もあります。実務では、配達証明をつけた内容証明郵便を相手方に送ることが多いです。
公示による方法
民法 第98条
- 第1項 意思表示は、表意者が相手方を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、公示の方法によってすることができる。
- 第2項 前項の公示は、公示送達に関する民事訴訟法(平成8年法律第109号)の規定に従い、裁判所の掲示場に掲示し、かつ、その掲示があったことを官報に少なくとも1回掲載して行う。ただし、裁判所は、相当と認めるときは、官報への掲載に代えて、市役所、区役所、町村役場又はこれらに準ずる施設の掲示場に掲示すべきことを命ずることができる。
- 第3項 公示による意思表示は、最後に官報に掲載した日又はその掲載に代わる掲示を始めた日から2週間を経過した時に、相手方に到達したものとみなす。ただし、表意者が相手方を知らないこと又はその所在を知らないことについて過失があったときは、到達の効力を生じない。
- 第4項 公示に関する手続は、相手方を知ることができない場合には表意者の住所地の、相手方の所在を知ることができない場合には相手方の最後の住所地の簡易裁判所の管轄に属する。
- 第5項 裁判所は、表意者に、公示に関する費用を予納させなければならない。
引用元:e-Gov法令検索
公示による意思表示とは、相手方や相手方の所在が不明な場合に、裁判所の手続によって公示の方法により意思表示をすることです(民法98条1項)。
具体的には、意思表示の内容を記載した書面を裁判所の掲示板に掲示し、かつ、同じ内容を官報に掲載する方法で行われます(民法98条2項本文)。
または、裁判所が相当と判断した場合は、官報掲載の代わりに、市役所、区役所、町村役場又はこれらに準ずる施設の掲示場に掲示することもあります(民法98条2項ただし書)。
公示による意思表示が行われた場合、最後に官報に掲載した日(または市区町村役場等の掲示を開始した日)から2週間が経過した時に、相手方に到達したものとみなされます(民法98条3項本文)。
ただし、公示の方法が使えるのは、意思表示をする人(表意者)が、相手方を知ることができないか、相手方の所在を知ることができず、そのことについて表意者に過失がない場合に限られます(民法98条3項ただし書)。
また、公示による方法をするには、簡易裁判所で公示による意思表示の手続をする必要があります(民法98条4項)。
意思表示の効力発生時期
民法 第97条
- 第1項 意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。
- 第2項 相手方が正当な理由なく意思表示の通知が到達することを妨げたときは、その通知は、通常到達すべきであった時に到達したものとみなす。
- 第3項 意思表示は、表意者が通知を発した後に死亡し、意思能力を喪失し、又は行為能力の制限を受けたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。
引用元:e-Gov法令検索
意思表示は、原則として、相手方に「到達」したときに効力を生じます(民法97条1項)。
到達の意味
意思表示の効力発生時となる「到達」とは、相手方にとって了知可能な状態に置かれたこと(意思表示の書面が相手方の勢力範囲・支配権に置かれること)を意味します(最一小判昭和36年4月20日など)。
相手方本人が現実に意思表示を受領した場合でなくても、相手方が意思表示の通知の内容を知り得る状態になれば、到達したものとして扱われます。
例えば、意思表示の通知を相手方の自宅に郵送し、本人ではなく同居の家族が受け取った場合でも、よほど特別な事情がない限り、到達したものとして扱われます。
最高裁判所第一小法廷昭和36年4月20日判決
「思うに、隔地者間の意思表示に準ずべき右催告は民法九七条によりB自動車に到達することによつてその効力を生ずべき筋合のものであり、ここに到達とは右会社の代表取締役であつたEないしは同人から受領の権限を付与されていた者によつて受領され或は了知されることを要するの謂ではなく、それらの者にとつて了知可能の状態におかれたことを意味するものと解すべく、換言すれば意思表示の書面がそれらの者のいわゆる勢力範囲(支配圏)内におかれることを以て足るものと解すべき」
引用元:裁判所サイト
相手方が到達を妨害した場合
相手方が意思表示による法律効果が発生するのを回避するため、意思表示が到達するのを妨害するようなケースもあるでしょう。典型的な例は、意思表示が記載された郵便物の受領を拒否したような場合です。
このように相手方が意思表示の通知の到達を妨害した場合でも、その通知は、通常到達すべきであった時に到達したものとみなされます(到達擬制。民法97条2項)。
例えば、上記の例で言えば、郵便局の配達員が相手方に郵便物の受け取りを求めた時に到達したものとして扱われます。
相手方が不在のため内容証明郵便による通知が差し戻されたケース
意思表示の通知書を内容証明郵便で郵送したところ、相手方が受領を拒絶したため、郵便局に差し戻されたようなケースでも、意思表示が到達したと扱われることがあります。
内容証明郵便の場合、ポスト投函ではないため、相手方が不在の場合は郵便局に差し戻されます。差し戻された郵便物は、郵便局において一定期間保管され、相手方は再配達依頼や郵便局へ赴くことによって、いつでも容易に受け取ることができます。
そのため、不在により差し戻された内容証明郵便は、相手方の勢力範囲内にあり、了知可能な状態に置かれていると言えます。
そこで、内容証明郵便が特定の意思表示の通知であることを相手方が推知できる場合には、不在により差し戻されたとしても、遅くとも保管期間が満了した時点で相手方に到達したものとして扱われることがあります(最一小判平成10年6月11日)。
最高裁判所第一小法廷平成10年6月11日判決
前記一の事実関係によれば被上告人は、不在配達通知書の記載により、小川弁護士から書留郵便(本件内容証明郵便)が送付されたことを知り(右(二)(2)参照)、その内容が本件遺産分割に関するものではないかと推測していたというのであり、さらに、この間弁護士を訪れて遺留分減殺について説明を受けていた等の事情が存することを考慮すると、被上告人としては、本件内容証明郵便の内容が遺留分減殺の意思表示又は少なくともこれを含む遺産分割協議の申入れであることを十分に推知することができたというべきである。また、被上告人は、本件当時、長期間の不在、その他郵便物を受領し得ない客観的状況にあったものではなく、その主張するように仕事で多忙であったとしても、受領の意思があれば、郵便物の受取方法を指定することによって(右(二)(3)参照)、さしたる労力、困難を伴うことなく本件内容証明郵便を受領することができたものということができる。そうすると、本件内容証明郵便の内容である遺留分減殺の意思表示は、社会通念上、被上告人の了知可能な状態に置かれ、遅くとも留置期間が満了した時点で被上告人に到達したものと認めるのが相当である。
引用元:裁判所サイト
公示送達による意思表示の到達
前記のとおり、表意者が相手方または相手方の所在を知ることができない場合、簡易裁判所に申し立てることで公示により意思表示することが可能です。
公示による意思表示は、最後の官報掲載日(官報掲載に代わる掲示の場合は掲示を開始せた日)から2週間経過した時に、相手方に到達したものとして扱われます(民法98条3項本文)。
ただし、表意者に、相手方を知らないこと、または相手方の所在を知らないことに過失がある場合には、到達した扱いになりません(民法98条3項ただし書)。
到達主義と発信主義
意思表示の効力発生時期については、相手方への到達時とする考え方(到達主義)と、通知を発信した時点とする考え方(発信主義)の2つがあります。
かつては、民法でも発信主義を採用しているものがありましたが、民法改正により、到達主義で統一されました。現行の民法で発信主義が採用されるものは、ありません。
ただし、民法以外の法律では、発信主義が適用される意思表示もあります。
例えば、特定商取引法で定められたクーリングオフは、消費者が通知を発信した時に解約等の効力が発生します。
意思表示の受領能力
民法 第98条の2
- 意思表示の相手方がその意思表示を受けた時に意思能力を有しなかったとき又は未成年者若しくは成年被後見人であったときは、その意思表示をもってその相手方に対抗することができない。ただし、次に掲げる者がその意思表示を知った後は、この限りでない。
- 第1号 相手方の法定代理人
- 第2号 意思能力を回復し、又は行為能力者となった相手方
引用元:e-Gov法令検索
これまでは、意思表示をする側の問題を中心に説明してきましたが、意思表示を受け取る側の受領能力が問題となることもあります。
意思表示の受領能力とは、意思表示の相手方が意思表示を有効に受け取ることができる能力のことです。
意思表示の受領能力がない人
意思表示の受領能力がないのは、以下の人です。
- 意思無能力者
- 未成年者
- 成年被後見人
制限行為能力者であっても、被保佐人や被補助人には意思表示の受領能力が認められます。
受領能力がない人への意思表示の効力
受領能力がない人に意思表示を到達させても、意思表示の効力を受領者に主張(対抗)できません(民法98条の2本文)。
例えば、売買契約の買主が、意思表示の受領能力がない売主に契約解除の意思表示をしても、契約を解除したので支払ったお金を返せとは言えません。
ただし、受領能力がない人に意思表示した場合でも、相手方の法定代理人が意思表示を知った場合は、意思表示の効力を対抗できます(民法98条の2第1号)。
また、意思表示を受け取った相手方が意思無能力者から回復して、意思能力を有するようになった後に意思表示を知った場合、意思表示は有効となります(民法98条の2第2号)。
また、未成年者が成人した後、成年被後見人が行為能力者に戻った後に意思表示を知った場合も、意思表示は有効となります(民法98条の2第2号)。
この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
この記事が参考になれば幸いです。
民法と資格試験
民法は、私法の基本法です。我々の生活に最も身近な法律です。
そのため、例えば、司法試験(本試験)、司法試験予備試験、司法書士試験、行政書士試験、宅建試験、マンション管理士試験・・・など、実に多くの資格試験の試験科目になっています。
これら法律系資格の合格を目指すなら、民法を攻略することは必須条件です。
とは言え、民法は範囲も膨大です。メリハリを付けないと、いくら時間があっても合格にはたどり着けません。効率的に試験対策をするには、予備校や通信講座などを利用するのもひとつの方法でしょう。
STUDYing(スタディング)
・司法試験・予備試験も対応
・スマホ・PC・タブレットで学べるオンライン講座
・有料受講者数20万人以上・低価格を実現
参考書籍
本サイトでも民法について解説していますが、より深く知りたい方や資格試験勉強中の方のために、民法の参考書籍を紹介します。
新訂民法総則(民法講義Ⅰ)
著者:我妻榮 出版:岩波書店
民法の神様が書いた古典的名著。古い本なので、実務や受験にすぐ使えるわけではありませんが、民法を勉強するのであれば、いつかは必ず読んでおいた方がよい本です。ちなみに、我妻先生の著書として、入門書である「民法案内1(第二版)」や「ダットサン民法総則・物権法(第4版)」などもありますが、いずれも良著です。
我妻・有泉コンメンタール民法(第8版)
著者:我妻榮ほか 出版:日本評論社
財産法についての逐条解説書。現在も改訂されています。家族法がないのが残念ですが、1冊で財産法全体についてかなりカバーできます。辞書代わりに持っていると便利です。
司法試験・予備試験など資格試験向けの参考書籍としては、以下のものがあります。
民法(全)(第3版補訂版)
著者:潮見佳男 出版:有斐閣
1冊で民法総則から家族法まで収録されています。基本書というより入門書に近いでしょう。民法全体を把握するのにはちょうど良い本です。
民法の基礎1(総則)第5版
著者:佐久間毅 出版:有斐閣
民法総則の基本書。基礎的なところから書かれており、読みやすく情報量も多いので、資格試験の基本書として使うには十分でしょう。
スタートアップ民法・民法総則(伊藤真試験対策講座1)
著者:伊藤塾 出版:弘文堂
いわゆる予備校本。予備校本だけあって、実際の出題傾向に沿って内容が絞られており、分かりやすくまとまっています。民法は範囲が膨大なので、学習のスタートは、予備校本から始めてもよいのではないでしょうか。
関連する資格試験の過去問
「法律行為」に関連する資格試験の過去問を解いてみましょう。
- 宅建試験令和元年問2
論点:詐欺取消し前の第三者・詐欺取消し後の第三者・錯誤取消し - 宅建試験令和2年度(10月)問6
動機の錯誤・錯誤取消しの要件 - 宅建試験令和6年度問1
意思能力と行為能力・公序良俗違反の追認・詐欺・錯誤の効力・他人物売買の効力 - 宅建試験令和7年度問1
論点:民法177条の第三者・契約解除と第三者・強迫取消しと第三者など - 宅建試験令和7年度問3
心裡留保の効力・虚偽表示と第三者・錯誤の効力・詐欺取消し前の第三者 - 行政書士試験令和3年度問27
意思表示の効力発生時期・公示による意思表示・意思表示の受領能力 - 行政書士試験令和4年度問27
民法94条2項の第三者の該当性



