この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。

契約を解消する方法の1つに契約解除があります。契約解除には,法定解除・約定解除・手付解除・合意解除の4類型があります。
契約を解除できる場合
契約は、法的な拘束力をもった約束です。契約がいったん有効に成立すると、容易に解消できなくなります。ただし、契約の解除ができる場合は、契約の解消が可能です。
契約の解除とは、契約を解消させる旨の意思表示です。契約が解除されると、契約のはじめから(または将来に向かって)契約は効力を失います。なかったことになるのです。
もっとも、契約は自由に解除できるわけではありません。契約を解除できる場合は限られています。
具体的に言うと、契約解除できるのは、「法定解除」「約定解除」「合意解除」のいずれかの場合に限られます。
契約の解除を考える場合,上記の4つのうちのどれを利用できるかを検討することになります。
合意解除
合意解除とは、当事者間で契約の解除を合意することです。
契約を締結するのは当事者の自由ですが、締結した契約を解除するのも当事者の自由です。そのため、明文規定はないものの、当事者の合意で契約を解除することが認められています。
当事者の話し合いでお互いが納得して契約を解除することを決めるため、最も穏便に契約を解除できる方法と言えます。
この合意解除の場合、当事者双方ともに契約解除に合意している以上、制限する理由はありません。そのため、合意さえあれば、特に制限なく認められます(違約金の支払いなどの解除の条件を合意で決めることは可能です。)。
法定解除、約定解除、手付解除ができない場合でも、合意解除は可能です。
約定解除
約定解除とは,契約において,当事者間で一定の事由がある場合に解除できると定めていた場合に認められる解除です。
約定解除の場合、あらかじめ約定で決められていた解除事由が発生すると、約定に従って当事者の一方に解除権が発生し、その当事者は契約を解除できるようになります。
例えば、当事者の一方について破産手続が開始した場合、他方の当事者は契約を解除できるなどの解除条項を定めてあるケースです。
この場合、実際に当事者の一方について破産手続が開始されると、他方の当事者は契約を解除することができます。
約定解除は、契約締結の際に約定解除の事由を定めておいた場合にだけ認められます。したがって,契約を締結する際に,この約定解除の条項を定めておくことは非常に重要です。
ただし、約定解除を定めていたとしても,その約定の内容が当事者間の公平を損なうものであるような場合には、約定解除の効力が認められなくなる場合もありますので注意が必要です。
手付解除
民法 第557条
- 第1項 買主が売主に手付を交付したときは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を現実に提供して、契約の解除をすることができる。ただし、その相手方が契約の履行に着手した後は、この限りでない。
- 第2項 第545条第4項の規定は、前項の場合には、適用しない。
民法 第559条
- この節の規定は、売買以外の有償契約について準用する。ただし、その有償契約の性質がこれを許さないときは、この限りでない。
約定解除の一種として、手付解除があります。売買などの有償契約において手付金を差し入れている場合、手付解除が認められることがあります(民法557条1項、559条)。
手付解除とは、買主が手付を放棄し、または、売主が手付の倍額を払うことによって契約を解除することです。
例えば、売買契約において、買主が売主に対して手付金を交付している場合が典型例です。
手付を交付している場合には,売主は手付金+それと同額の金銭(手付倍返し)を相手方に交付し,買主は手付金を放棄して,契約を解除することができます。
- 買主が手付解除する場合:交付した手付金を放棄する(売主に手付金の返還を求めない)
- 売主が手付解除する場合:手付金の倍額を買主に支払う(手付倍返し)
手付解除をするためには,差し入れた手付金が解約手付でなければなりません。もっとも,特に何らの定めもせずに手付を差し入れた場合には,解約手付の趣旨で差し入れたものと解釈されます(最一小判昭和29年1月21日)。
手付解除は手付の放棄や倍返しなどの負担を伴うものですから,法定解除も約定解除も認められないという場合に,最終的な解除の手段として用いるものであるといえます。
買戻し特約による解除
民法 第579条
- 不動産の売主は、売買契約と同時にした買戻しの特約により、買主が支払った代金(別段の合意をした場合にあっては、その合意により定めた金額。第583条第1項において同じ。)及び契約の費用を返還して、売買の解除をすることができる。この場合において、当事者が別段の意思を表示しなかったときは、不動産の果実と代金の利息とは相殺したものとみなす。
不動産の買い戻し特約による解除も、約定解除の一種です。
不動産の売買では、将来、売主が不動産を買い戻せることを特約として定めておく場合があります。この買戻し特約に基づいて売主が不動産を買い戻す場合、当初の売買契約は解除されます(民法579条前段)。
買戻しをする場合、売主は買主に対して、買主が支払った売買代金や契約費用をすべて返還する必要があります(特約で売買代金と異なる金額を決めておくことも可能です。)。
売買契約が解除されると契約のはじめに遡って契約が消滅するので、本来であれば、買主は解除時までに発生した不動産の果実を売主に返還し、他方、売主は受け取った代金の利息を買主に支払わなければならないはずです。
しかし、買戻し特約による解除の場合は、この不動産の果実と代金の利息は相殺され、いずれも返還不要とされています(民法579条後段。ただし、相殺せず、返還を要すると特約と定めることは可能です。)
法定解除
合意解除や約定解除ができない場合、または、できるものの違約金などの条件が厳しすぎる場合などには、法定解除を検討することになります。
法定解除とは、法律で定められた要件を充たす場合に認められる契約の解除です。
法定解除にはさまざまなものがありますが、基本となるのは、民法541条・542条に基づく債務不履行による解除です。
債務不履行による催告解除(民法541条)
民法 第541条
- 当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。
債務不履行とは、当事者の一方が債務の本旨に従った履行をしないことです。債務不履行があった場合、他方の当事者は契約を解除できます。
例えば,相手方が期限までに約束の金銭を支払ってこないとか,約束の物を引き渡してこないなどの場合です。
ただし、いきなり契約解除できるのではなく、まず相当の期間を定めて履行を催告し、その期間内に履行がなかった場合にはじめて契約を解除できるものとされています。これを「催告解除」といいます。
催告解除するには、以下の要件が必要です。
- 債務者が債務の本旨に従った履行をしないこと(債務不履行)
- 債権者が債務者に対して相当の期間を定めて催告をしたこと
- 催告期間を経過しても履行しないこと
- 債務不履行が契約および取引上の社会通念に照らして軽微でないこと
- 債務不履行が債権者の責めに帰すべき事由によるものでないこと(民法543条)
ただし,賃貸借契約など,当事者間の信頼関係を基礎とする継続的な契約の場合には,信頼関係破壊の法理が適用され、ただ債務不履行があっただけでは契約を解除できない場合があるので,注意が必要です。
債務不履行による無催告解除(民法542条)
民法 第542条
- 第1項 次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができる。
- 第1号 債務の全部の履行が不能であるとき。
- 第2号 債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
- 第3号 債務の一部の履行が不能である場合又は債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき。
- 第4号 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、債務者が履行をしないでその時期を経過したとき。
- 第5号 前各号に掲げる場合のほか、債務者がその債務の履行をせず、債権者が前条の催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき。
債務不履行解除は催告解除が基本ですが、催告することが無意味である場合には、例外的に催告なしで契約解除できることがあります。催告なしで契約解除することを「無催告解除」といいます。
債務不履行による無催告解除については、民法542条に規定されています。
- 以下の場合であること
- 履行不能の場合
- 債務者が債務の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合
- 一部履行不能または一部履行拒絶意思の明確表示の場合において、残存部分のみでは契約をした目的を達することができないとき
- 契約の性質または当事者の意思表示により、特定の日時または一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、債務者が履行をしないでその時期を経過したとき
- 上記のほか、債務者が債務の履行をせず、債権者が催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかである場合
- 債務不履行が契約および取引上の社会通念に照らして軽微でないこと
- 債務不履行が債権者の責めに帰すべき事由によるものでないこと(民法543条)
契約不適合責任による解除
契約不適合責任は,基本的に売買契約において問題となってくる法的な責任です。
契約不適合責任とは、契約に基づいて引き渡された目的物が種類・品質・数量に関して契約の内容に適合しないものであるときに発生する契約責任です(民法562条以下)。
契約に基づいて引き渡された目的物が種類・品質・数量に関して契約の内容に適合しないものである場合、引渡しを受けた当事者は、契約を解除できます(民法564条、541条、542条)。
その他の法定解除
上記の債務不履行解除や契約不適合解除のほかにも、さまざまな法定解除が定められています。
民法だけでなく、特別法に特殊な法定解除が定められていることもあります。例えば、特定商取引法におけるクーリング・オフも、法定解除の一種です。
この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
この記事が参考になれば幸いです。
民法と資格試験
民法は、私法の基本法です。我々の生活に最も身近な法律です。
そのため、例えば、司法試験(本試験)、司法試験予備試験、司法書士試験、行政書士試験、宅建試験、マンション管理士試験・・・など、実に多くの資格試験の試験科目になっています。
これら法律系資格の合格を目指すなら、民法を攻略することは必須条件です。
とは言え、民法は範囲も膨大です。メリハリを付けないと、いくら時間があっても合格にはたどり着けません。効率的に試験対策をするには、予備校や通信講座などを利用するのもひとつの方法でしょう。
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参考書籍
本サイトでも民法について解説していますが、より深く知りたい方や資格試験勉強中の方のために、民法の参考書籍を紹介します。
新訂債権各論上巻(民法講義Ⅴ1)
著者:我妻榮 出版:岩波書店
民法の神様が書いた古典的名著。古い本なので、実務や受験にすぐ使えるわけではありませんが、民法を勉強するのであれば、いつかは必ず読んでおいた方がよい本です。ちなみに、我妻先生の著書として、入門書である「民法案内10(契約総論)」や「ダットサン民法2 債権法(第4版)」などもありますが、いずれも良著です。
我妻・有泉コンメンタール民法(第8版)
著書:我妻榮ほか 出版:日本評論社
財産法についての逐条解説書。現在も改訂されています。家族法がないのが残念ですが、1冊で財産法全体についてかなりカバーできます。辞書代わりに持っていると便利です。
契約法(新版)
著者:中田裕康 出版:有斐閣
契約法の概説書です。債権法の改正にも対応しています。説明は分かりやすく、情報量も十分ですので、基本書として使えます。
司法試験・予備試験など資格試験向けの参考書籍としては、以下のものがあります。
民法(全)(第3版補訂版)
著者:潮見佳男 出版:有斐閣
1冊で民法総則から家族法まで収録されています。基本書というより入門書に近いでしょう。民法全体を把握するのにはちょうど良い本です。
基本講義 債権各論Ⅰ(契約法・事務管理・不当利得)第4版補訂版
著者:潮見佳男ほか 出版:新世社
債権各論全般に関する概説書。どちらかと言えば初学者向けなので、読みやすい。情報量が多いわけではないので、他でカバーする必要はあるかもしれません。
債権各論(第4版)伊藤真試験対策講座4
著者:伊藤塾 出版:弘文堂
いわゆる予備校本。予備校本だけあって、実際の出題傾向に沿って内容が絞られており、分かりやすくまとまっています。民法は範囲が膨大なので、学習のスタートは、予備校本から始めてもよいのではないでしょうか。


