この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。

特定の相続人に遺産(相続財産)を受け継がせない方法として、相続欠格、推定相続人の廃除、遺言による相続分の指定(または遺贈)が考えられます。
相続人の相続権
ある人(被相続人)が亡くなると相続が開始され、遺産(相続財産)は相続人に受け継がれます。この相続人には、相続を受ける権利(相続権)があります。
相続人が誰になるかは、民法で決められています。民法によって相続できる資格を与えられる人のことを法定相続人といいます。
この法定相続人になる人を誰にするかは、被相続人であっても変えることができません。民法で決められた人が必ず法定相続人となります。
もっとも、法定相続人であっても、必ず相続人になるとは限りません。相続権を失うこともあるからです。相続権を失えば、相続財産を受け継ぐことはできなくなります。
また、法定相続人になる人を変えることはできませんが、誰がどの程度の遺産を受け継ぐかの分配方法や割合は被相続人の遺言で変更できます。
相続人に遺産を相続させない3つの方法
被相続人が「特定の相続人に遺産を受け継がせたくない」と考えている場合、遺産を相続させない方法として、以下の3つの方法が考えられます。
- 相続欠格者であることを主張する
- 推定相続人の廃除をする
- 遺言で相続分をゼロに指定する(または遺産を他の相続人や第三者に遺贈する)
相続欠格や推定相続人の廃除が認められる場合、対象の相続人は相続権を失います。そのため、遺産を一切受け継がせないことができます。
遺言で特定の相続人の相続分をゼロにした場合や遺産を他の相続人や第三者に遺贈した場合も、その特定の相続人に遺産を受け継がせないようにできます。
ただし、これらの方法は、それぞれ要件・手続や効果に違いがあります。以下では、3つの方法について詳しく説明します。
相続欠格による相続権の剥奪
民法 第891条
- 次に掲げる者は、相続人となることができない。
- 第1号 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
- 第2号 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。
- 第3号 詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
- 第4号 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
- 第5号 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者
引用元:e-Gov法令検索
相続欠格とは、民法891条で定める事由がある場合、相続人の相続権を失わせる制度です。相続欠格事由に該当する相続人は、相続権を剥奪され、相続財産を承継できません。
相続欠格の要件(相続欠格事由)
相続欠格が適用されるのは、以下の事由(相続欠格事由)がある場合です。
- 故意に被相続人または相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、または至らせようとしたために、刑に処せられた者(第1号)
- 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、または告訴しなかった者(ただし、その者に是非の弁別がないとき、または殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときを除く)(第2号)
- 詐欺または強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、または変更することを妨げた者(第3号)
- 詐欺または強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、または変更させた者(第4号)
- 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者(第5号)
相続欠格の手続
相続欠格事由がある場合、その相続人は当然に相続権を剥奪されます。特別に何かの手続を行う必要はありません。欠格者を除いて相続の手続を進めていけばよいだけです。
ただし、欠格者が相続権を争う場合には、相続権の有無について、相続権存在または不存在確認訴訟をしなければならないケースはあります。
相続欠格の効果
前記のとおり、相続欠格事由に該当する相続人は相続権を失い、相続人になれません。また、相続欠格者には、兄弟姉妹を除く相続人に保障される最低限の取り分である遺留分も剥奪されます。
そのため、相続欠格の場合、相続欠格者は、相続財産を一切受け取れなくなります。
推定相続人の廃除による相続権の剥奪
民法 第892条
- 遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。
引用元:e-Gov法令検索
推定相続人の廃除とは、被相続人の意思に基づいて、被相続人対して虐待、重大な侮辱その他著しい非行をした推定相続人から相続権を奪う制度です。
推定相続人の廃除が認められると、対象の推定相続人は相続権を剥奪され、相続人になることができなくなります。
推定相続人の廃除の要件(廃除事由)
推定相続人の廃除が認められるためには、以下の事由(廃除事由)がなければいけません。
- 被相続人に対し虐待をした場合
- 被相続人に対し重大な侮辱を加えた場合
- その他の著しい非行があった場合
推定相続人の廃除の手続
推定相続人の廃除は、相続欠格のように法定事由があれば当然に効果を生じるわけではなく、家庭裁判所の審判で認められてはじめて効果を生じます。
具体的には、被相続人(または遺言執行者)が、家庭裁判所に推定相続人廃除の審判を申し立てて審理をしてもらい、推定相続人を廃除する旨の審判を下してもらわなければいけません。
推定相続人の廃除の効果
推定相続人を廃除する旨の家庭裁判所の審判が確定すると廃除の効果が発生し、推定相続人から相続権が剥奪されます。
廃除の場合も、相続欠格と同様に遺留分が剥奪されるので、推定相続人は相続財産を一切受け取れなくなります。
遺言による相続分の指定・遺贈
遺言を作成しておくと、被相続人の意思を相続開始後に反映させることができますが、相続人の相続権を奪うことまではできません。誰が相続人になるかは、遺言でも変更できないからです。
もっとも、相続権を奪うことはできないものの、遺言で相続人が受け継ぐ財産を減らし、資格の剥奪に近い状態にすることは可能です。
ただし、相続人が被相続人の子・直系尊属・配偶者である場合には、遺留分によって制限されるのとはあります。
遺言による相続分の指定
民法 第902条
- 第1項 被相続人は、前二条の規定にかかわらず、遺言で、共同相続人の相続分を定め、又はこれを定めることを第三者に委託することができる。
- 第2項 被相続人が、共同相続人中の一人若しくは数人の相続分のみを定め、又はこれを第三者に定めさせたときは、他の共同相続人の相続分は、前二条の規定により定める。
引用元:e-Gov法令検索
相続分とは、相続人が相続財産を受け継ぐ割合のことです。相続人が複数人いる場合(共同相続の場合)に問題となります。
被相続人は、遺言で相続人の相続分を指定できます(民法902条1項、2項)。被相続人は、誰がどの遺産をどの程度の割合で取得するのかを、遺言で決めておくことができるのです(指定相続分)。
この相続分の指定によって、特定の相続人の相続分を減らせます。相続分をゼロにすることも可能です。
遺言で相続分をゼロに指定する場合、単に「相続させない」と書くだけでなく、相続分をゼロにした理由(付言事項)を記載しておくと、相続開始後のトラブルや遺留分侵害額請求を思いとどまらせる心理的効果が生まれる可能性もあります。
遺贈(いぞう)
民法 第964条
- 遺言者は、包括又は特定の名義で、その財産の全部又は一部を処分することができる。
引用元:e-Gov法令検索
遺贈とは、遺言によって他人に無償で財産の全部または一部を与える(贈与する)行為のことです(民法964条)。
第三者に相続財産を遺贈することで、相続人への財産の承継分を減らすことができます。すべての相続財産を第三者に遺贈することも可能です。
遺留分による制限
兄弟姉妹を除く相続人(子・直系尊属・配偶者)には、最低限の取り分として遺留分が保障されています。
この遺留分は、遺言によっても侵害できません。
遺留分を侵害している場合、遺言全体が無効になるわけではないものの、遺留分を有する相続人は、他の相続人や遺贈された人(受贈者)に対して、遺留分侵害された金額を請求できます。
そのため、相続分の指定や遺贈による方法の場合には、相続財産を受け継がせないことはできるものの、子・直系尊属・配偶者には遺留分侵害額を請求できる権利は残ります。
なお、被相続人の兄弟姉妹には、遺留分が保障されていません。そのため、遺言で兄弟姉妹の相続分をゼロにしてしまえば、相続権を剥奪するのと同じ効果を得られます。
相続欠格・相続廃除・遺言による方法の違い
上記のとおり、相続人から相続権を剥奪する、またはそれに近い状態にするためには、相続欠格・推定相続人の廃除・遺言による相続分の指定または遺贈の4つの方法があります。
これらには、それぞれ異なる特徴があります。
| 比較項目 | 相続欠格 | 相続廃除 | 遺言 |
|---|---|---|---|
| 対象 | すべての相続人 | 兄弟姉妹を除く相続人 | すべての相続人 |
| 効果 | 遺留分も含めて一切の遺産を受け継がせない | 遺留分も含めて一切の遺産を受け継がせない | 遺留分は残る |
| 要件 | 民法891条の事由がある場合のみ | 民法892条の事由がある場合のみ | 自由に決められる |
| 手続 | 特になし | 家庭裁判所での審判手続が必要 | 法定の方式で遺言書を作成することは必要 |
| 代襲相続の有無 | あり(欠格者の子が代わりに遺産を受け継ぐ) | あり(廃除者の子が代わりに遺産を受け継ぐ) | なし |
効果の違い
相続欠格や推定相続人の廃除は、相続人から遺留分を含めたすべての相続権を剥奪する強力な効果を有しています。
他方、遺言による相続分の指定や遺贈の場合、遺留分までは侵害できません。
そのため、相続欠格や廃除であれば相続財産を一切受け継がせないことができますが、相続分の指定・遺贈の場合は、遺留分に相当する金銭を受け取る権利は残ることになります。
条件を満たしているのであれば、相続欠格や廃除の方が効果は大きいです。
要件の違い
相続欠格や推定相続人の廃除は、相続人から相続権を剥奪できるものの、欠格事由や廃除事由がなければ適用されません。
これらの要件は、非常に厳しく判断されるため、実際に相続欠格や廃除が認められるケースはかなり限定されます。
他方、遺言で相続分の指定や遺贈をするのは、被相続人の自由です。
利用のしやすさでみると、遺言による相続分指定や遺贈の方が、かなりハードルは低いです。
手続の違い
相続欠格の場合、特に手続は必要ありません。
相続分の指定や遺言も、民法で定められた方式で遺言を作成しなければならないものの、特別な手続が必要なわけではありません。
一方、推定相続人の廃除は、家庭裁判所での手続が必要です。
手続でみると、家庭裁判所での手続を要する推定相続人の廃除が最も手間がかかります。
代襲相続の有無
代襲相続とは、法定相続人が相続開始時に死亡または相続欠格・相続廃除により相続権を失った場合に、その法定相続人の子が代わりに相続人になる制度のことです。
相続欠格や相続廃除によって相続権が剥奪された場合、その欠格者や廃除者には遺産を受け継がせないことができますが、欠格者は廃除者に子がいると、その子に代わりに遺産が受け継がれます。
他方、遺言による相続分の指定や遺贈の場合には、代襲相続は発生しません。
代襲相続が発生するか否かも、相続欠格・相続廃除と遺言による方法の違いのひとつです。
相続人に遺産を受け継がせない方法の検討順序
もし特定の相続人には相続財産を受け継がせたくない場合、最初に考えることは、受け継がせたくない相続人が兄弟姉妹かどうかです。
相続人が兄弟姉妹の場合は、遺言で相続分をゼロにすればよいだけです。兄弟姉妹にはそもそも遺留分がないので、遺言で相続分をゼロにすれば、遺産を一切受け継がせないようにできます。
相続人が兄弟姉妹でない場合(子・直系尊属・配偶者)は、以下の順序で検討します。
相続欠格事由があるかを確認
民法891条の相続欠格事由があれば、特に手続をすることなく、遺産を受け継がせないようにできる。
相続廃除事由があるか確認する
民法892条の相続廃除事由がある場合は、家庭裁判所に廃除審判を申し立てる。家庭裁判所で廃除が認められれば、遺産を一切受け継がせないようにできる。
遺言書を作成する
相続欠格・廃除ができない場合は、相続分をゼロにする遺言書を作成しておく。遺留分は残るが、遺産を受け継がせないことはできる。
なお、3つの方法を組み合わせる(例えば、推定相続人の廃除手続をしながら、念のため遺言書で相続分をゼロにしておく)ことももちろん可能です。
相続欠格・相続廃除・遺言による方法の注意点
相続欠格・推定相続人の廃除・遺言による方法のいずれかを選ぶ際は、以下の点に注意しましょう。
- 相続欠格や相続廃除の判断はかなりシビアに行われるため、裁判になった場合、実際には認められないケースが非常に多い。
- 相続欠格や推定相続人の廃除の場合、欠格者や廃除者に遺留分も含めて一切の遺産を受け継がせないことができるものの、代襲相続により、欠格者や廃除者の子が代わりに遺産を受け継ぐことになる。
- 遺言による方法の場合、兄弟姉妹以外の相続人の遺留分までは剥奪できない。
特に忘れがちなのが、代襲相続です。相続欠格や廃除で特定の相続人に遺産を渡さずに済んでも、その子が代わりに相続してしまうと目的を達成できない可能性もあります。
欠格者や廃除者の子にも遺産を渡したくない場合は、欠格者や廃除者の相続分をゼロにする遺言書も作成しておいた方がよいでしょう(なお、子自身に欠格事由や廃除事由があれば、相続欠格や廃除が認められることもあります。)。
相続欠格・相続廃除・遺言以外の方法
相続人に遺産(相続財産)を渡さないためにとれる措置としては、前記の相続欠格・相続廃除・遺言による相続分の指定や遺贈のほかに、以下のような方法もあります。
死因贈与を締結しておく
死因贈与とは、死亡を条件として財産を贈与する契約です。内容的には前記の遺贈と同じです。
死因贈与を他の相続人や第三者と締結しておくことにより、特定の相続人に遺産が受け継がれるのを防ぐことが可能です。
ただし、遺贈の場合は遺言書に定めておけばよいだけですが、死因贈与は契約なので、財産を受け取る人との間で契約を締結しておく必要があります。
また、死因贈与も遺贈と同様に扱われるため、兄弟姉妹以外の相続人の遺留分までは侵害できません。
遺産(相続財産)を減らしておく
単純に、生前贈与をして遺産を減らしておくことにより、相続人に受け継がせない方法も考えられます。財産が少ない場合であれば、この方法もあり得るでしょう。
ただし、残った遺産は相続人に受け継がれます。また、遺留分もなくなりません。
また、生命保険金は受取人固有の財産となるため、遺産に含まれません。遺産を渡したくない相続人を外しておけば、生命保険金を渡さずに済みます。
配偶者と離婚・養子縁組を解消する
相続させたくない相手が配偶者の場合は、離婚をすれば配偶者でなくなるので、遺産を渡さないようにできます。
同様に、相続させたくない相手が養子や養親である場合も、養子縁組を解消すれば遺産を渡さないようにできます。
補則:相続放棄・遺留分の放棄について
相続放棄とは、相続人が相続しない旨の意思表示をすることです。相続放棄は、あくまで相続人が自分の意思に基づいて相続が開始した後に行う手続であるため、被相続人が強制することはできません。
そのため、相続放棄を特定の相続人に遺産を相続させないための方法として利用することはできません。
遺留分の放棄も、被相続人が自分の意思で行うものです。相続開始前に家庭裁判所の許可を得て遺留分を放棄することはできますが、被相続人が強制できるものではありません。
特定の相続人に遺産を相続させないための方法として遺留分の放棄を利用することは難しいでしょう。
この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
この記事が参考になれば幸いです。
民法と資格試験
民法は、私法の基本法です。我々の生活に最も身近な法律です。
そのため、例えば、司法試験(本試験)、司法試験予備試験、司法書士試験、行政書士試験、宅建試験、マンション管理士試験・・・など、実に多くの資格試験の試験科目になっています。
これら法律系資格の合格を目指すなら、民法を攻略することは必須条件です。
とは言え、民法は範囲も膨大です。メリハリを付けないと、いくら時間があっても合格にはたどり着けません。効率的に試験対策をするには、予備校や通信講座などを利用するのもひとつの方法でしょう。
STUDYing(スタディング)
・司法試験・予備試験も対応
・スマホ・PC・タブレットで学べるオンライン講座
・有料受講者数20万人以上・低価格を実現
参考書籍
本サイトでも民法について解説していますが、より深く知りたい方や資格試験勉強中の方のために、民法の参考書籍を紹介します。
逐条解説 改正相続法
著者:堂薗幹一郎など 出版:商事法務
民法改正に対応した逐条解説書。相続を扱う実務家向けですが、持っていると何かと便利です。立法担当者や現役裁判官による著書であるため、内容に信頼性があります。
資格試験向けの参考書籍としては、以下のものがあります。
民法(全)(第3版補訂版)
著者:潮見佳男 出版:有斐閣
1冊で民法総則から家族法まで収録されています。基本書というより入門書に近いでしょう。民法全体を把握するのにはちょうど良い本です。
民法VI 親族・相続 (LEGAL QUEST)第8版
著者:前田陽一ほか 出版:有斐閣
家族法全体の概説書。条文・判例から書かれているので、学習の早い段階から利用できます。情報量もあるので、資格試験の基本書として十分でしょう。
親族・相続(伊藤真試験対策講座12)第4版
著者:伊藤真 出版:弘文堂
いわゆる予備校本。予備校本だけあって、実際の出題傾向に沿って内容が絞られており、分かりやすくまとまっています。民法は範囲が膨大なので、学習のスタートは、予備校本から始めてもよいのではないでしょうか。


