この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
- Q生命保険金は相続されるか?
- A
いいえ。生命保険金は、相続財産(遺産)ではなく、受取人固有の財産として扱われます。そのため、相続されないのが原則です。
このページでは、生命保険金が相続されるのかについて詳しく説明します。
- 生命保険金が相続財産に含まれるか(ケースごとに説明)
- 遺産分割で生命保険金が問題となる場合(特別受益)
- 生命保険金と相続手続に関する注意点

生命保険金の相続財産該当性が問題となる理由
被相続人が亡くなった場合、その被相続人が加入していた生命保険会社から、保険契約で決められた保険金受取人に生命保険金が支払われます。
この生命保険金はかなり高額なケースがあります。場合によっては、他の相続財産よりも生命保険金の方が大きいケースも少なくありません。
生命保険金を受け取った人が相続人のひとりであった場合、他の相続人との間で不均衡が生じ、紛争になることもあるでしょう。
もし生命保険金が相続財産(遺産)に含まれるのであれば、相続人全員で分配されることになります。そこで、生命保険金が相続財産に含まれるのか否かは、実務上、重要な論点になっています。
生命保険金の相続財産該当性
生命保険金が相続財産に含まれるかどうかは、実務上問題となる場合があります。先に結論から言うと、生命保険金は相続財産(遺産)に含まれないと考えるのが一般的です。
生命保険金を受け取る権利は、亡くなった人(被相続人)の権利ではなく、受取人固有の権利と考えられているからです。
以下、ケースごとに詳しく説明します。
ケース1:受取人に特定の人が指定されている場合
被相続人が締結していた生命保険契約において明確に特定の人が受取人として指定されていた場合、生命保険金を受け取る権利はその特定の人に固有の権利となります。
そのため、受取人として特定の人が明確に指定されている場合、生命保険金(請求権)は、相続財産に含まれません。
指定された受取人が、すべて受け取れます。
例えば、受取人として「◯◯」と氏名で指定されていたり、「配偶者」や「子」など特定できる身分で指定されている場合です。
ケース2:被相続人が自分を被保険者とした場合
生命保険契約においては、自分以外の特定人を被保険者とせず、保険契約者自身を被保険者とすることも可能です。むしろ、その方が多いでしょう。
被保険者とは、保険の対象となる人(保険が掛かられている人)です。被保険者が死亡すると、生命保険金が受取人に支払われます。
被相続人が、自ら保険契約を締結し、自らその被保険者となっていた場合は、さらに以下のケースが考えられます。
特定の相続人を受取人とした場合
被相続人が自ら被保険者となり、受取人を相続人のうちの特定の人に指定した場合、生命保険金はその相続人の固有財産となります。
したがって、この場合は、生命保険金は相続財産(遺産)に含まれません。
例えば、相続人にABCの3人がいる場合に、被相続人が自らを被保険者としつつ受取人をAに指定した場合、生命保険金を受け取れるのはAだけです。BCに分配されません。
被保険者(またはその相続人)を受取人に指定した場合
被相続人が自ら被保険者となり、受取人を「被保険者(つまり被相続人自身)または相続人」とした場合、「相続人」としていることから、相続財産に含まれるようにも思えます。
しかし、被相続人が自ら被保険者となり、受取人を「被保険者または相続人」とした場合も、生命保険金(請求権)は相続人の固有財産となり、相続財産(遺産)には含まれないと解されています(最三小判昭和40年2月2日等)。
このケースで相続人が複数人いる場合、民法427条の「別段の意思表示」があるものとして、共同相続人はそれぞれ、各自の相続分に応じて、それぞれの固有財産として生命保険金請求権を取得するものと解されています(最二小判平成6年7月18日等)。
例えば、生命保険金が3000万円、相続人が3人(それぞれの相続分は3分の1ずつ)の場合、各共同相続人はそれぞれ、1000万円ずつの保険金請求権を取得することになります。
受取人を指定しなかった場合
被相続人自らが被保険者となり、しかも受取人を指定しなかった場合には、保険契約約款に従って受取人が決められます。
例えば、約款において、配偶者を第一順位の受取人とする旨の規定があれば、生命保険金は配偶者に支払われることになります。
保険契約・約款によって受取人が決められる場合、生命保険金(請求権)は、約款に基づき決められた受取人固有の権利となり、相続財産(遺産)に含まれません。
約款において受取人が特定されず、約款には「被保険者の相続人に支払う」とだけ規定されていた場合は、その生命保険金(請求権)は、その相続人の固有財産となり、相続財産に含まれないと解されています(最二小判昭和48年6月29日等)。
このケースで相続人が複数いる場合には、各自の相続分に応じて生命保険金(請求権)が分割され、各共同相続人がそれぞれ分割された生命保険金を受け取ることができます。
【例外】受取人を被相続人自身に指定した場合
実際にはほとんどないでしょうが、被相続人が、自らを被保険者にするだけでなく、受取人も自分にする場合も考えられなくはありません。
被相続人が自らを被保険者としつつ受取人も自分としたケースでは、生命保険金(請求権)は、相続財産に含まれます。
受取人を被相続人自身にしている以上、生命保険金(請求権)は、被相続人自身の権利と考えられるからです。
相続人が複数人いる場合(共同相続)、この相続財産となる生命保険金(請求権)は、相続が開始すると、各自の相続分に応じて、相続財産として共同相続人に分割承継されます。
ケース3:第三者が被相続人を被保険者とした場合
第三者が、被相続人を被保険者や受取人に指定している場合もあります。
親が子どものために生命保険を契約して、生命保険金の被保険者や受取人を子どもにしておいたところ、その子どもの方が先に亡くなったような場合です。
この場合、被相続人は亡くなっている以上、被保険者も受取人もいない状態になります。
しかし、保険契約者の黙示の意思表示として、被相続人の相続人を受取人に指定したものと推定できるので、生命保険金(請求権)は相続人の固有財産となり、相続財産に含まれないと解されています。
共同相続人がいる場合には、各自の相続分に応じて生命保険金(請求権)が分割され、各共同相続人がそれぞれ分割された生命保険金を受け取ることができます。
なお、第三者が被相続人を受取人に指定していた場合、相続人が実際に生命保険金を受け取れるのは、保険契約者が亡くなってからです。
生命保険金の遺産分割トラブル:特別受益
これまで説明してきたように、生命保険金(請求権)は相続財産に当たりません。そのため、遺産分割も不要となるのが原則です。
ただし、生命保険金については、特別受益に該当するのか否かが争われるケースがあります。
生命保険金は遺産分割不要が原則
相続人が複数人いる場合、可分債権でない相続財産は共同相続人間での共有または準共有となり(遺産共有)、遺産分割をして具体的な財産の配分を決めなければなりません。
しかし、生命保険金(請求権)は、ごく一部の例外を除いて、そもそも相続財産ではないので、遺産分割する必要はないのが原則です。
生命保険金が遺産分割で問題となるケース
共同相続人のひとりが生命保険金の受取人である場合、生命保険金を受け取れる相続人とそうでない相続人とでは、受け取る財産・金額がまったく異なるケースがあります。
そのため、相続人間での不公平を是正する方法として、生命保険金を特別受益として扱うべきか否かが争われることがあります。
特別受益とは、被相続人が生前に、共同相続人の一部に対して婚姻・養子縁組や生計の資本として与えた生前贈与・遺贈・死因贈与のことです(民法903条1項)。
生命保険金が特別受益に該当すると判断される場合、生命保険金を考慮した上で相続分を計算することになります。
生命保険金は特別受益に該当するか
生命保険金が特別受益に該当する場合があるのか否かについて、最高裁判所は、生命保険金は特別受益の対象にならないのが原則であるとしつつも、「保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合」には、民法903条を類推適用し、生命保険金も特別受益に該当することがあると判断しています(最二小判平成16年10月29日)。
そして、特別受益に該当するかどうかの判断基準として、「保険金の額、この額の遺産の総額に対する比率のほか、同居の有無、被相続人の介護等に対する貢献の度合いなどの保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係、各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して判断すべき」であると判示しています。
そのため、生命保険金も特別受益に該当するケースはあり得ます。
ただし、あくまでも生命保険金は受取人固有の財産です。特別受益とみなされるのは、保険金額が遺産総額と比べて著しく高額な場合などに限られるでしょう。
生命保険金が特別受益に該当する場合の相続分
間違えてはいけないのは、生命保険金(請求権)が特別受益に該当すると判断されたとしても、受取人である相続人は、生命保険金を全額受け取れます。
ただ、相続で受け取れる遺産が減る可能性があるのです。
具体的には、生命保険人を相続財産額に加算した上でみなし相続財産とし、そのみなし相続財産をもとに各共同相続人の一応の相続分を決め、生命保険金の受取人となった相続人の相続分から生命保険金額を控除して具体的な相続分を決めることになります。
そのため、生命保険金を受け取った相続人の相続分は減少し、他の相続人の相続分は増えることになります。
生命保険金が特別受益に該当する場合の遺留分
また、特別受益は、遺留分にも影響します。遺留分とは、相続人に保障されている最低限の取り分のことです。
生命保険金が特別受益に該当する場合、個別的遺留分に基礎財産の額を乗じた遺留分額から生命保険金の額を差し引いて遺留分侵害額を計算することになります。
そのため、生命保険金を受け取った相続人の遺留分は減少することになります。
生命保険金と相続で注意するポイント
前記のとおり、生命保険金(請求権)は相続財産に含まれません。他の相続財産と同じように考えると手続を間違えかねません。
以下では、勘違いしやすいポイントについて説明します
相続放棄しても生命保険金は受け取れる
家庭裁判所で正式に相続放棄すると、相続開始時から相続人でなかったとみなされ、相続財産を受け取ることはできなくなります。
しかし、生命保険金(請求権)は、相続財産ではありません。受取人固有の権利です。
受取人が相続したものではない自分の権利を行使するだけなので、相続放棄した後でも、生命保険金を受け取れます(名古屋地判平成4年8月17日等)。
相続欠格や廃除されていても生命保険金を受け取れる
相続欠格事由がある場合や推定相続人から廃除されている場合、相続人になれません。
しかし、前記の相続放棄と同じく、受取人が自分の権利を行使するだけなので、相続欠格や廃除によって相続資格を失ったとしても、生命保険金を受け取ることは可能です。
ただし、相続欠格や廃除された原因となった行為の内容によっては、保険契約違反となり、生命保険金を受け取れないケースはあるでしょう。
例えば、被相続人を殺害した(ため相続欠格とされた)場合は、保険契約違反により、生命保険金を受け取れません。


相続税の申告・納付は必要
生命保険金(請求権)は相続財産に含まれないので、相続人が複数人いる場合でも生命保険金を遺産分割する必要はありません。
もっとも、生命保険金も税法上のみなし相続財産に該当するので、相続税の申告や納付は必要です。税金の計算は複雑であるため、税理士や税務署に相談しながら進めることをお勧めします。
この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
この記事が参考になれば幸いです。
民法と資格試験
民法は、私法の基本法です。我々の生活に最も身近な法律です。
そのため、例えば、司法試験(本試験)、司法試験予備試験、司法書士試験、行政書士試験、宅建試験、マンション管理士試験・・・など、実に多くの資格試験の試験科目になっています。
これら法律系資格の合格を目指すなら、民法を攻略することは必須条件です。
とは言え、民法は範囲も膨大です。メリハリを付けないと、いくら時間があっても合格にはたどり着けません。効率的に試験対策をするには、予備校や通信講座などを利用するのもひとつの方法でしょう。
STUDYing(スタディング)
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参考書籍
本サイトでも民法について解説していますが、より深く知りたい方や資格試験勉強中の方のために、民法の参考書籍を紹介します。
逐条解説 改正相続法
著者:堂薗幹一郎など 出版:商事法務
民法改正に対応した逐条解説書。相続を扱う実務家向けですが、持っていると何かと便利です。立法担当者や現役裁判官による著書であるため、内容に信頼性があります。
資格試験向けの参考書籍としては、以下のものがあります。
民法(全)(第3版補訂版)
著者:潮見佳男 出版:有斐閣
1冊で民法総則から家族法まで収録されています。基本書というより入門書に近いでしょう。民法全体を把握するのにはちょうど良い本です。
民法VI 親族・相続 (LEGAL QUEST)第8版
著者:前田陽一ほか 出版:有斐閣
家族法全体の概説書。条文・判例から書かれているので、学習の早い段階から利用できます。情報量もあるので、資格試験の基本書として十分でしょう。
親族・相続(伊藤真試験対策講座12)第4版
著者:伊藤真 出版:弘文堂
いわゆる予備校本。予備校本だけあって、実際の出題傾向に沿って内容が絞られており、分かりやすくまとまっています。民法は範囲が膨大なので、学習のスタートは、予備校本から始めてもよいのではないでしょうか。

