この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。

債務整理を行う場合には,自己破産・個人再生・任意整理のいずれでも,まずは債権調査を行います。債権調査とは,債権者は誰であるのか,債務額はいくらであるのか,債務の内容や担保・保証人の有無等を調査する手続のことです。
具体的には,受任通知を送付して,貸金業者等からの取立てを停止させ,取引履歴の開示を請求し,開示された取引履歴をもとに引き直し計算をして正確な債務額を調査し,過払金がある場合にはそれを回収するという手続です。
これを行った上で,またはこれと並行して,各手続きごとの準備等を進めていくことになります。
債務整理に共通する手続:債権調査とは
債務整理には、任意整理、自己破産、個人再生、過払金返還請求などさまざまな方法があります。それぞれによって具体的な手続は異なるところもありますが、共通する手続もあります。
この債権調査とはどのような手続かというと,誰が債権者であるのか,その債権者に対する債権が正確にはどのくらいあるのかなどを調べる手続のことをいいます。
自己破産や個人再生などの裁判手続の場合にも,裁判所・破産管財人などによって債権調査手続が行われますが,ここでは,それら裁判手続とは別個に,債務者からの依頼を受けた弁護士や司法書士が行う債権調査について説明します。
債権者の調査
まず誰が債権者なのかを調べるところから債権調査は開始されます。
はじめは、債務者からの聴き取りによって調査します。聴き取りで発覚した債権者には,すぐに受任通知を送付します。
場合によっては,債権者からの方から債権は存在しない旨の回答が来る場合もありますし,すでに消滅時効にかかっていることもあります。
さらに,発覚している以外にも債権者がいないかどうかを調べます。クレジットカードや,送られてきた請求書,あるいは銀行口座等の履歴から判明することもあります。
しかし,詳細に聴き取りを行ってもなお,記憶がはっきりしないことは当然あります。そういう場合には,信用情報機関から信用情報を取り寄せてもらうことになります。
信用情報機関には,ある人が,どこから,いくらぐらい借入れをしているのかなどの信用情報が集積されています。
この信用情報は,本人であればすぐに取り寄せることができます。これによって,自分が誰から借入れをしているのかが,ある程度分かります。
これらの調査の結果,債務者が把握している他にも債権者がいることが発覚した場合には,その債権者にも受任通知を送付します。
その他にも,借金を相続していないか、誰かの保証人になっていないかなどの調査も必要となります。売買代金や税金の未払がないかなども調べる必要があるでしょう。
取引履歴の開示と引き直し計算
通常は,受任通知と同時に取引履歴の開示を求めます。そして,債権者が貸金業者等であれば,その開示された取引履歴に基づいて「引き直し計算」を行います。
引き直し計算とは,今までの取引のすべてについて,利息制限法に従った利率に直して債務残高を計算し直すことをいいます。
利息制限法で定められた利率を超える利息は違法です。したがって,違法な利息をもとにした債権額は,正確な金額ではありません。
そこで,引き直し計算によって,正確な金額を調べる必要があるのです。この段階で過払い金があるのか否かも発覚することになります。
債権調査手続の流れ
以下では、債務整理に共通する手続のおおまかな流れを説明します。なお、以下の説明は、弁護士や司法書士に債務整理を依頼する場合の流れを想定しています。
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弁護士や司法書士との相談・依頼
借金返済・クレサラ問題を解決するためには、法律の専門家に相談・依頼することが必要となってきます。
現在では,ほとんどの法律事務所等で債務整理や過払い金に関する無料相談を行っていますので、まずは相談をしてみて、良い弁護士・司法書士が見つかれば依頼をします。
なお、相談や依頼の具体的な予約方法や相談の仕方は、事務所によって手続が異なります。
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受任通知の送付・支払いおよび取立ての停止
債務整理を行うことになった場合、弁護士等が、まずは各債権者に対して受任通知(介入通知・債務整理開始通知)を送付します。つまり,弁護士等が債務整理手続の代理人を受任したことの通知です。
もっとも,それだけではなく,今後は支払いを停止することを伝え、さらに、債務者に対して直接取立て行為をするのを停止するように求めます。
貸金業者や債権回収会社などの場合には,受任通知を受領したら直接の取立てを停止しなければならないことが,貸金業法やサービサー法等の法律によって規定されています。
通常,この受任通知は,委任契約締結の日に送付します。また,受任通知の送付と同時に,取引履歴の開示も請求します。
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取引履歴の開示請求
クレサラ業者の場合には,かつて利息制限法に違反する利率の利息を収受していたことが多いので,引き直し計算が必要となってきます。
その引き直し計算をするために取引の履歴が必要となってくるのですが,弁護士等が各貸金業者に対し、この取引履歴を開示するように請求します。
通常は,受任通知の送付と同時に開示請求をします。なお,貸金業者には取引履歴の開示義務があると解されています。
取引履歴の開示までの時間は,業者によって異なります。早いところですと1週間以内程度で送付されてきますが,遅いところだと2か月近くかかる場合もあります。
特に,クレジットカード会社・信販会社は開示が遅れることが多いようです。開示が遅い業者の場合,2か月近くかかる場合もあります。
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引き直し計算
貸金業者から取引履歴の開示を受けたならば,それをもとにして弁護士等が引き直し計算をし,正確な借金の総額を確認します。場合によっては,過払いとなっていることもあるでしょう。
なお,現在では,大半の貸金業者は取引履歴開示に応じてきます。しかし,一部はすでに廃棄してしまったなどといって,途中からの取引履歴しか開示しないという場合は少なくありません。
そこで,開示がなされなかった場合や一部開示の場合には,弁護士等が、再度開示を請求するか,または,その他の資料に基づいて推定計算を行います。
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過払い金の返還請求
引き直し計算によって、過払い金が発生していることが判明した場合には、当該債権者に対して過払い金の返還請求をすることになります。交渉によって回収できない場合には、訴訟によって過払い金の回収を図ることになるでしょう。
回収した過払い金は、弁護士等の費用等を差し引いて、債務者に返還されます。ただし、他の債権者の債務整理が必要な場合には、他の各債権者に対する任意整理の弁済の頭金にしたり、または、自己破産・個人再生の手続費用などに使われることもあります。
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各債務整理の手続
前記までの手続が債務整理共通の手続です。これらの各手続を経て,あるいはそれらと並行して,自己破産・個人再生・任意整理などの各債務整理手続の準備をすすめていくことになります。
債権調査の必要性
債権調査は,債務整理に必須の作業です。正確な債権額がわからなければ,正確な債務整理はできないからです。
債務整理が終了した後になって,実は調査しきれていなかった借金があることが判明してしまうと,それまでの債務整理計画がまったく無になってしまうおそれがあります。
任意整理であれば,毎月支払えるぎりぎりの金額で交渉をして分割払いを始めたところ,他にも債権者がいるということになれば,もう一度交渉をやり直さなければなりません。
自己破産や個人再生であれば,せっかく借金の全部または一部を支払わなくてよいことにしてもらったのに,後から判明した債権者には支払いを続けなくてはならないことにもなってしまいます。
さらに,自己破産や個人再生では,すべての債権者を申告することが手続の前提となります。
しかも,これらの手続においては,債権者漏れは免責不許可事由となったり,再生計画が認可されない理由になるなど,手続上大きな不利益を被る危険性があるのです。
一部の借金だけ整理しても,他に借金があるのでは意味がありません。正確な金額が分かってこそ,生活を立て直すのに万全な債務整理の計画を立てることが可能になるのです。
どうせ債務整理するならば,すべての債務を整理してしまったほうが良いに決まっています。正確な債権額を調査することは,生活を立て直すことにつながるのです。



