
破産手続とは、破産法に定めるところにより、債務者の財産または相続財産もしくは信託財産を清算する手続です(破産法2条1項)。
より具体的に言うと、破産手続とは、破産法に基づき、裁判所によって選任された破産管財人が、支払不能または債務超過に陥った破産者(債務者)等の財産を管理・換価処分し、それによって得た金銭を各債権者に弁済または配当するという清算型の倒産(法的整理)手続です。
破産手続とは
破産法 第2条
- 第1項 この法律において「破産手続」とは、次章以下(第12章を除く。)に定めるところにより、債務者の財産又は相続財産若しくは信託財産を清算する手続をいう。
破産手続とは,破産法に基づく倒産手続です。破産法2条1項では、「破産手続とは、次章以下(第12章を除く。)に定めるところにより、債務者の財産又は相続財産若しくは信託財産を清算する手続をいう。」と定義されています。
具体的にいうと,破産手続とは,裁判所によって選任された破産管財人が,支払不能または債務超過の状態に陥った債務者(破産者)の財産または相続財産もしくは信託財産を管理・換価処分して,それによって得た金銭を債権者に弁済または配当するという裁判(法的整理)手続です。
破産手続によって、破産者の財産は清算されます。そのため,清算型の倒産手続に分類されます。財産も債務もすべて清算されることになるので、最も基本的な倒産手続といえます。
ただし,破産手続においても,裁判所の許可の下で破産管財人によって事業等の譲渡が行われる場合には,当該事業が継続され,再建型に近い効果を生じるということもあり得ます。
この破産手続は,個人でも,また,どのような法人でも利用が可能ですが,利用するためには,債務者が支払不能または債務超過の状態にあることが必要となります(個人の場合には支払不能に陥っている場合のみ。)。
他の倒産手続との異同
破産手続には,以下のように,他の倒産手続と異なる特徴があります。
特別清算手続との違い
特別清算手続とは,会社法に基づく倒産手続です。
債務超過の疑いがある清算中の株式会社について,裁判所の関与のもとに,清算人が清算事務を行いつつ協定案を策定し,債権者の同意を得た場合にその協定に基づいて会社清算がなされるという裁判手続です。
特別清算も,破産手続と同じく最終的には会社が清算される裁判手続ですから,清算型法的整理手続です。
もっとも,特別清算は(清算中の)株式会社しか利用できませんが,破産手続はどのような法人でも個人でも利用できるという違いがあります。
また,特別清算は,清算人が清算事務を行い,清算人が策定した協定案に債権者が同意した場合には,その協定に基づいて弁済がなされますが,破産手続の場合には,裁判所が選任した破産管財人が管財事務を行い,法律の規定に基づいて弁済または配当が行われます。
債権者との協定によって清算を行えるため,特別清算の方が,破産手続よりも柔軟で費用も定額で済む場合があります(ただし,中小の株式会社の場合には,少額管財の運用により,破産手続の方が少額の費用で済むことが多いでしょう。)。
破産手続を清算型の基本類型とするならば,特別清算手続は,株式会社だけに認められた清算型倒産の特別類型であるといえます。
再建型法的整理手続との違い
前記のとおり,破産手続は清算型の法的整理手続です。破産手続によって,会社などの法人の財産は清算され,その法人自体も消滅します。
他方,民事再生手続や会社更生手続などの再建型の法的整理手続も,裁判手続であるという点では同様です。
しかし,再建型の場合には,会社が存続することが前提とされていますから,同じ倒産手続とはいっても,清算型である破産手続とは,最終的なゴールは大きく違ってきます。
私的整理・任意整理手続との違い
私的整理手続とは、裁判外で行われる倒産手続のことです。具体的にいえば、債権者との協議によって清算方法または弁済方法などを決めるということです。個人の債務整理の場合には、任意整理と呼ばれることもあります。
私的整理は裁判外手続ですから,裁判手続である破産手続とは根本的に異なります。そのため,私的整理の場合には,破産手続などの法的整理と異なり決まった手続というものはありません。そのため柔軟な解決が可能です。
ただし,私的整理・任意整理は裁判外手続ですから,破産手続のような強制力もないため,債権者の意向に左右されやすいという点でも,破産手続との違いがあります。
破産手続の機関・利害関係人
破産手続は裁判手続ですから,裁判所によって主宰されます。破産事件の管轄は地方裁判所にあります。個別の具体的な破産手続が係属している地方裁判所は破産裁判所と呼ばれます(破産法2条3項)。
ただし,実際に破産管財業務を行う機関は,裁判所によって選任される破産管財人です。そのほか,破産手続における機関としては,保全管理人や債権者集会・債権者委員会などが挙げられます。
また,特に法人が破産すると多くの利害関係人に影響を与えます。そのため、さまざまな利害関係人が破産手続に関与してくることになります。
最大の利害関係人は,破産する債務者とその債務者に対して債権を有する債権者ですが、法人の破産緒場合には、債務者である会社などの代表者や役員、従業員、取引先なども利害関係人となります。
自己破産と債権者破産
破産手続は,裁判所に破産手続の開始を申し立てることによってスタートすることになります。この破産手続開始の申立てを誰がするのかによって,自己破産・準自己破産・債権者破産という区別されます。
まず,「自己破産」とは,支払不能等に陥った債務者自身が破産手続開始を申し立てることをいいます。債務者が自己の破産を申し立てるということで,自己破産と呼ばれているのです。
法人破産の場合であれば、会社の取締役会の決議等に基づいて、その法人自体が申し立てる場合を自己破産ということになります。
もっとも,例えば,取締役の一部が行方不明で連絡がつかず,取締役会を開催できない場合や,取締役の一部が反対しているため決議ができないというような場合もあり得ます。
そのような場合には、会社の取締役など法人役員が、個人名義で法人・会社の破産手続き開始を申し立てることが可能です。これを「準自己破産」といいます。
法人破産であるけれども,法人自体が申立てをしているわけではないので自己破産ではありませんが,法人・会社の内部者である役員が申立てをしているので、自己破産に準ずるという意味で、準自己破産と呼ばれるのです。
また,破産手続の開始は,支払不能等にある債務者だけではなく,その債権者も申し立てることができます。債権者が破産手続開始を申し立てることを「債権者破産申立て」と呼んでいます。
管財事件と同時廃止事件
破産手続には,「管財事件」と「同時廃止事件」という種類があります。
破産手続は,裁判所が選任した破産管財人が,破産者の財産を調査・管理・換価処分して,それによって得た金銭を債権者に弁済または配当するというのが原則的な形態です。
この原則的形態のことを,破産管財人による破産管財業務が遂行される事件類型ということで「管財事件」と呼んでいます。
もっとも,破産手続開始の時点で,債権者に配当できるような財産がまったくないことが明らかな場合もあり得ます。
そのような場合には,破産管財人は選任されず,破産手続開始と同時に手続が廃止されるという例外的に簡易な形態がとられることがことになります。この例外的形態のことを「同時廃止事件」と呼んでいます。
個人の自己破産であれば、同時廃止となることも少なくありません。しかし、会社など法人の破産手続の場合には、基本的に管財事件として扱われ、同時廃止事件となることはほとんどありません。
もっとも,中小企業であれば,予納金金額が少額で済む少額管財事件となるのが通常でしょう。
破産手続の基本的な流れ
前記のとおり,法人・会社の破産手続の場合には,管財手続となるのが通常です。
破産管財手続の基本的な流れとして,まずは,管轄の地方裁判所に破産手続開始の申立書を提出する方式で破産手続開始の申立てを行います。
破産手続開始の申立てを受理した裁判所は,内容を審査し,破産手続開始原因があり,その他要件を充たしていると判断すれば,破産手続開始の決定をします。それと同時に,破産管財人が選任されます。
破産手続きが開始されると,破産者である法人・会社が有していた財産はすべて破産財団に属するものとなり,その管理処分権はすべて破産管財人に専属することになります。破産管財人は,破産財団に属する財産を管理し,最終的にはそれを換価処分していきます。
換価処分によって得た金銭は,破産管財人報酬を含む破産手続遂行費用に充てられ,残余は,各債権者に弁済または配当されることになります。すべての配当が終了すれば,破産手続も終結となります。
この破産手続の間,破産者である法人の代表者は,破産管財人の調査や換価処分に協力する義務を負います。
破産手続と倒産手続の関係
破産手続と似た概念として,倒産手続という概念があります。一般的に,破産手続と倒産手続は同じものと考えられている場合がありますが,厳密には違う概念です。
前記のとおり,破産手続は,破産法に基づく実際に存在する法的手続です。他方,倒産手続は,あくまで講学上の概念です。実際には,倒産手続という名称の法的手続きはありません。
支払不能や債務超過またはそのおそれがある債務者がとる手続を総じて,講学上,倒産手続と呼んでいるのです。この倒産手続というカテゴリーのうちの1つに,破産手続があると捉えられています。
法人破産と個人破産
前記のとおり,破産手続は,会社などの法人でも個人(自然人)でも利用できます。いずれの場合でも,基本的な手続の設計は同じです。
ただし,個人破産の場合には,法人破産の手続にはない,免責の制度や自由財産の制度などが設けられています。
また、手続自体に違いはないとしても、実際の運用では、個人破産がかなり簡易化されているため、法人破産の手続の方がかなり厳格かつ複雑になっています。