この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
- Q交通事故の損害賠償請求や貸金の請求など、遺産(相続財産)に金銭債権その他の可分債権がある場合、遺産分割する必要がある?
- A
いいえ。可分債権は、相続分に応じて共同相続人に分割承継されるので、遺産分割する必要はありません。ただし、銀行預金や郵便貯金(の払戻請求権)は、遺産分割が必要です。
このページでは、可分債権の遺産分割をわかりやすく説明します。
- 可分債権とは
- 預貯金以外の金銭その他の可分債権の遺産分割の要否
- 銀行預金・郵便貯金(払戻請求権)の遺産分割の要否
- 最大判平成28年12月19日の預貯金債権以外への適用の是非
- 可分債務の遺産分割の要否

遺産分割が必要となる財産
民法 第898条
- 第1項 相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。
- 第2項 相続財産について共有に関する規定を適用するときは、第900条から第902条までの規定により算定した相続分をもって各相続人の共有持分とする。
引用元:e-Gov法令検索
相続人が複数人いる場合(共同相続)、相続財産(遺産)は、共同相続人全員で共有または準共有することになるのが原則です(遺産共有。民法898条1項)。
この遺産共有を解消して個々の相続財産の具体的な帰属を確定させるための手続が「遺産分割」です(民法906条)。遺産分割を完了して遺産共有を解消すれば、個々の相続財産の帰属が確定します。
そのため、遺産分割が必要となるのは、原則として「遺産共有になっている相続財産」です。遺産共有にならない相続財産は、遺産分割する必要はありません。
この遺産共有にならない相続財産の代表例が、「可分債権」です。
可分債権とは
可分債権とは、権利の性質として分割が可能な債権のことです。
可分債権の典型は、金銭債権です。金銭債権とは、金銭の給付を目的とする債権です。要するに、お金の支払いを目的とするものが金銭債権と呼ばれます。
金銭債権に該当するものの具体例
例えば、以下のような請求権が、金銭債権に該当します。
- 貸金
- 売買代金
- 売掛金
- 損害賠償請求
- 相続財産である不動産から生じた賃料・家賃
金銭支払いにかかわるが可分債権として扱われない債権
以下のものは、金銭の支払いを受ける権利も含むものの、純然たる金銭債権とは言えないため、遺産分割において可分債権のように当然に分割承継されるものとしては扱われません。
- 預金・郵便貯金
- 株式
- 国債
- 社債
- 投資信託
預貯金以外の金銭その他の可分債権
民法 第899条
- 各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する。
引用元:e-Gov法令検索
前記のとおり、共同相続の場合、相続財産は共同相続人等全員の共有または準共有になるのが原則です。ただし、例外があります。それは、金銭債権などの可分債権です。
前記のとおり、可分債権とは、権利の性質として分割が可能な債権のことです。代表的な可分債権が、金銭債権です。
金銭その他の可分債権は、遺産分割をしないでも、相続が開始されると、共同相続人にそれぞれの相続分に応じて分割承継されます。
原則として遺産分割は不要
金銭債権に代表される可分債権は、相続開始によって、当然に、各共同相続人の相続分に応じて分割承継されると考えられています(最一小判昭和29年4月8日、最三小判昭和30年5月31日、最三小判平成16年4月20日等)。
例えば、相続財産として1000万円の金銭債権があり、相続人として、相続分4分の3のAと、相続分4分の1のBがいた場合、遺産分割を経ずに、相続開始によって、Aに750万円、Bに250万円の金銭債権が相続されます。
このように、金銭その他の可分債権は遺産共有にならずに分割承継されるので、遺産分割する必要はありません。
可分債権は相続分に応じて分割承継される
可分債権は、相続が開始すると、それぞれの相続分に応じて各共同相続人に分割承継されます(民法899条)。
遺言で相続分が指定されている場合は、その指定相続分に応じて分割されます。相続分の指定がない場合は、民法で決められている法定相続分に応じて分割されます。
法定相続分は、同順位の相続人であれば頭数に応じて按分です。配偶者と血族相続人がいる場合は、以下のとおりです(民法900条)。
| 相続人の構成 | 相続分 |
|---|---|
| 配偶者と子 | 配偶者が2分の1 子が2分の1 |
| 配偶者と直系尊属 | 配偶者が3分の2 直系尊属が3分の1 |
| 配偶者と兄弟姉妹 | 配偶者が4分の3 兄弟姉妹が4分の1 |
共同相続人全員の合意があれば遺産分割の対象にできる
前記のとおり、預貯金を除く金銭その他の可分債権は遺産分割する必要がありません。とは言え、共同相続人等全員が遺産分割で分けたいと希望しているなら否定する理由がありません。
そのため、金銭その他の可分債権であっても、共同相続人等全員の合意によって遺産分割の対象にすることは可能です。
遺産分割時に現存しているものだけではなく、遺産分割前に処分された可分債権であっても、共同相続人全員(処分した相続人を除く)の合意によって遺産分割の対象にできます(民法906条の2)。
法定相続分を超える可分債権を取得した場合の第三者に対する権利主張
民法 第899条の2
- 第1項 相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第901条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。
引用元:e-Gov法令検索
金銭その他の可分債権であっても、共同相続人等全員の合意で遺産分割の対象にできます。
ただし、相続分の指定や遺産分割によって法定相続分を超える可分債権を取得した場合、その超える部分については、対抗要件を備えなければ第三者に対抗できません(民法899条の2第1項)。
具体的には、可分債権の場合であれば、債権譲渡の対抗要件(債務者に対して確定日付のある証書で通知をしたか、確定日付のある証書で債務者が承諾したこと)を備えることが必要です。
外部からは遺産分割の内容や遺言の内容を知ることができません。第三者が知ることができるのは法定相続分のみです。そのため、第三者を保護するため、法定相続分を超える部分は対抗要件が必要とされているのです。
一方、法定相続分の範囲内の部分については、対抗要件を備えなくても、第三者に債権取得を対抗できます。
債務者に対する単独通知の特則
民法 第899条の2
- 第2項 前項の権利が債権である場合において、次条及び第901条の規定により算定した相続分を超えて当該債権を承継した共同相続人が当該債権に係る遺言の内容(遺産の分割により当該債権を承継した場合にあっては、当該債権に係る遺産の分割の内容)を明らかにして債務者にその承継の通知をしたときは、共同相続人の全員が債務者に通知をしたものとみなして、同項の規定を適用する。
引用元:e-Gov法令検索
前記のとおり、相続分の指定や遺産分割によって法定相続分を超える可分債権を承継した場合、法定相続分を超える部分については債権譲渡の対抗要件を備える必要があります。
対抗要件を備えるためには共同相続人全員で債務者に通知をしなければならないとすると、非協力的な相続人がいる場合、いつまでも対抗要件を備えることができなくなりかねません。
そこで、相続分を超える債権を取得した相続人が遺言や遺産分割の内容を明らかにして債務者に通知をすれば、共同相続人全員で債務者に通知をしたものとみなされます(民法899条の2第2項)。
これにより、共同相続人全員で通知をしなくても、相続分を超える債権を取得した相続人が単独で債務者に通知をするだけで、対抗要件を備えることが可能になるのです。
銀行預金・郵便貯金(払戻請求権)
可分債権のうちで、特に問題となることが多いものは、預金・貯金払戻請求権(預貯金債権)でしょう。預貯金債権とは、被相続人名義の銀行などの預貯金口座からお金を引き出す権利(債権)です。
この預貯金債権は、金銭債権ではあるものの、他の可分債権とは異なる扱いになります。
預貯金債権は遺産分割が必要
預貯金債権も、かつては、他の可分債権と同様、遺産分割の対象にならないと解されていました(前掲最三小判平成16年4月20日等)。
しかし、預貯金は、決済機能が重視され、現金とそれほど異ならないものとして扱われているのが通常です。
そのため、現在では、預貯金払戻請求権は、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることなく、他の可分債権と異なり、遺産分割の対象になると解されるようになっています(普通預金・通常貯金・定期貯金につき最大判平成28年12月19日、定期預金・定期積金につき最一小判平成29年4月6日)。
そのため、可分債権は遺産分割の対象にならないのが原則ですが、例外的に、可分債権の内でも預貯金債権については遺産分割の対象になります。
遺産分割前に預貯金を払い戻す方法
民法 第909条の2
- 各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の3分の1に第900条及び第901条の規定により算定した当該共同相続人の相続分を乗じた額(標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする。)については、単独でその権利を行使することができる。この場合において、当該権利の行使をした預貯金債権については、当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす。
引用元:e-Gov法令検索
民法第九百九条の二に規定する法務省令で定める額を定める省令
- 民法(明治29年法律第89号)第909条の2の規定に基づき、同条に規定する法務省令で定める額を定める省令を次のように定める。
- 民法第909条の2に規定する法務省令で定める額は、150万円とする。
引用元:e-Gov法令検索
上記のとおり、預金・貯金は遺産分割が必要です。そのため、遺産分割するか、共同相続人等全員の合意を得なければ、各共同相続人は単独で預金・貯金を払い戻すことはできないのが原則です。
とは言え、被相続人の葬儀費用などのために、遺産分割前に急いで預貯金を引き出さなければならない場合もあります。
そこで、改正民法(2019年7月1日から施行)では、新たに、遺産の分割前における預貯金債権の行使(仮払い)の制度が設けられました。
具体的には、各共同相続人は、150万円を上限として、相続開始時における預貯金債権額の3分の1に自身の法定相続分を乗じた金額までなら、それぞれ単独で預金・貯金の払戻しができるようになりました(民法909条の2前段、民法第九百九条の二に規定する法務省令で定める額を定める省令)。
150万円を超える金額を払い戻すためには、上記の仮払いではなく、家庭裁判所における遺産分割前の預貯金債権仮分割の仮処分(家事事件手続法200条3項)などを利用することになります。
最大判平成28年12月19日の預貯金債権以外への適用の是非
前記のとおり、最大判平成28年12月19日により、預貯金債権については、他の可分債権と異なり、遺産分割の対象になるものと判断されました。
この最大判平成28年12月19日では、預貯金債権以外の可分債権についての判断はされていません。
ただし、上記最大判平成28年12月19日においては、預貯金以外の可分債権を遺産分割の対象とすべきとの意見も補足意見も付されており、現在では、預貯金以外の可分債権を遺産分割においてどのように扱うべきかが議論の対象となっています。
例えば、以下のような相続財産は、可分債権の要素があるものの純然たる金銭債権とは言えないため、権利の内容や性質に応じて遺産分割が必要であるか否かを検討する必要があります。
補足:可分債務の分割承継
預貯金を除く可分債権は、それぞれの相続分に応じて各共同相続人に分割承継されます。
これは、借金などの「可分債務」も同じです。亡くなった人(被相続人)が借金をしていた場合、相続が開始すると、各共同相続人は相続分に応じて相続債務を負担することになります。
例えば、被相続人が1000万円の借金を背負っており、相続人として、相続分4分の3のAと、相続分4分の1のBがいた場合、遺産分割を経ずに、相続開始によって、Aが750万円、Bが250万円の借金債務を引き継ぐことになります。
なお、遺言で相続分が指定されている場合でも、債権者は各共同相続人に対して法定相続分に応じた金額を請求できます(民法902条の2本文)。
債権者が相続分の指定による債務を承認しない限り、遺言で法定相続分よりも少ない相続分しか借金を受け継いでいないとは主張できません(民法902条の2ただし書)。
この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
この記事が参考になれば幸いです。
民法と資格試験
民法は、私法の基本法です。我々の生活に最も身近な法律です。
そのため、例えば、司法試験(本試験)、司法試験予備試験、司法書士試験、行政書士試験、宅建試験、マンション管理士試験・・・など、実に多くの資格試験の試験科目になっています。
これら法律系資格の合格を目指すなら、民法を攻略することは必須条件です。
とは言え、民法は範囲も膨大です。メリハリを付けないと、いくら時間があっても合格にはたどり着けません。効率的に試験対策をするには、予備校や通信講座などを利用するのもひとつの方法でしょう。
STUDYing(スタディング)
・司法試験・予備試験も対応
・スマホ・PC・タブレットで学べるオンライン講座
・有料受講者数20万人以上・低価格を実現
参考書籍
本サイトでも民法について解説していますが、より深く知りたい方や資格試験勉強中の方のために、民法の参考書籍を紹介します。
逐条解説 改正相続法
著者:堂薗幹一郎など 出版:商事法務
民法改正に対応した逐条解説書。相続を扱う実務家向けですが、持っていると何かと便利です。立法担当者や現役裁判官による著書であるため、内容に信頼性があります。
資格試験向けの参考書籍としては、以下のものがあります。
民法(全)(第3版補訂版)
著者:潮見佳男 出版:有斐閣
1冊で民法総則から家族法まで収録されています。基本書というより入門書に近いでしょう。民法全体を把握するのにはちょうど良い本です。
民法VI 親族・相続 (LEGAL QUEST)第8版
著者:前田陽一ほか 出版:有斐閣
家族法全体の概説書。条文・判例から書かれているので、学習の早い段階から利用できます。情報量もあるので、資格試験の基本書として十分でしょう。
親族・相続(伊藤真試験対策講座12)第4版
著者:伊藤真 出版:弘文堂
いわゆる予備校本。予備校本だけあって、実際の出題傾向に沿って内容が絞られており、分かりやすくまとまっています。民法は範囲が膨大なので、学習のスタートは、予備校本から始めてもよいのではないでしょうか。



