この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
- Q遺産分割の対象となる財産の価値はどのように評価すればよい?
- A
遺産分割の対象となる財産は、遺産分割時を基準時として評価するのが一般的です。どのように評価するのかは、それぞれの財産ごとに違いがあります。
このページでは、遺産分割対象財産の評価について詳しく説明します。
- 遺産分割の対象となる財産の評価の基準時
- 個々の財産ごとの評価の方法
- 遺産の評価で揉めないための準備事項
- 遺産の評価でトラブルになった場合の対処法

遺産分割とは
相続人が複数人いる共同相続の場合、遺産(相続財産)は、共同相続人全員の共有または準共有になるのが原則です(遺産共有。民法898条1項)。
遺産共有のままでは、共同相続人は各自単独で相続財産の権利を行使できません。遺産共有を解消するには、遺産分割をして、個々の相続財産の帰属を確定させる必要があります。
遺産分割とは、個々の遺産が誰にどの程度受け継がれるのかを決める手続です。この遺産分割の対象になる財産は、「遺産分割時に存在する遺産共有になった相続財産」です。
公平に分割をするには、遺産の価値を適切に評価する必要があります。しかし、この財産評価方法で「争族」になってしまうことも少なくありません。
遺産分割で対象財産の評価が争われやすいケース
遺産分割では、対象となる財産を誰のものとするかだけでなく、財産をどのように評価するのかでトラブルに発展するケースも多いです。
具体的には、以下の2点でトラブルになりやすいです。
- 遺産分割対象財産の評価基準時で争いになる
どの時点での評価額を基準に遺産分割をするのかでトラブルになるパターン。相続開始時から遺産分割時までの間に評価額が変動している場合に問題となります。 - 遺産分割対象財産の評価方法で争いになる
具体的な財産の評価額をどのような方法で算定するかがトラブルになるパターン。決まった評価額がなく、複数の評価方法がある不動産や未上場の株式などの財産がある場合に問題となりやすいです。
また、評価が争われやすい財産としては、以下のようなものがあります。
- 不動産
- 美術品や骨とう品などの動産
- 未上場株式
遺産分割対象財産の評価の基準時
不動産や金融資産など価額の変動がある財産は、いつの時点の評価額で遺産分割すべきかがトラブルになるケースもあります。
遺産の評価に争いがあるケースでは、どの時点を遺産分割対象財産の評価を確定する基準時とするのかが、重大な争点になります。
実務における遺産分割対象財産の評価の基準時
実務では、「遺産分割時」を財産評価の基準時とするのが一般的です。
ただし、共同相続人間での話し合いで、遺産分割時でない時(例えば、相続開始時)を基準時として財産評価することを合意することもできます。
特別受益や寄与分を算定する場合の基準時は相続開始時
上記のとおり、実際に遺産分割の対象となる財産を評価する場合は、遺産分割時を基準時とするのが一般的です。
ただし、特別受益や寄与分を算定する場合の財産評価は、相続開始時を基準時としなければいけません。
具体的には、特別受益や寄与分を算定する場合、まずは計算の基礎となる「みなし相続遺産」を算出しなければいけません。このみなし相続財産は、相続開始時の財産評価額を基準として算出することになります。
相続税を算定する場合の基準時も相続開始時
遺産分割時を基準時として財産評価した場合でも、相続税の計算では、相続開始時を基準時として算出した額に課税されます。
遺産分割対象財産の評価の方法
現金や預金・郵便貯金などは、金額を数えればよいだけなので、評価は簡単です。しかし、決まった金額のない財産は、どのように評価するのかが問題です。
遺産の評価方法は、法律で決められているわけではありません。そのため、この遺産の評価方法で揉め事になるケースも多いです。
以下では、遺産分割の対象となることが多い財産の評価について説明します。
現金の評価
現金(現物の紙幣やコイン)も遺産分割の対象です。評価も金額を数えるだけなので簡単です。
よほど価値のある骨董品のようなものでもない限り、現金については、評価でトラブルになることはないでしょう。
預金・郵便貯金の評価
預貯金も、銀行から基準時における残高証明を取り寄せて金額を数えるだけであるため、評価方法で揉めることはありません。
遺産分割の対象になるのは、相続財産(相続開始時に被相続人が有していた財産)です。そのため、遺産分割の対象になるのは、相続開始時の残高です。
もっとも、預貯金額は、相続開始から遺産分割までの間に増減することがあります。そのため、増減した金額をどのように取り扱うかでトラブルになるケースがあります。
預金利息や入金により金額が増えた場合
預金利息や何らかの入金によって、相続開始時よりも遺産分割時の方が残高が増えているケースがあります。
これら相続開始後の預金利息や入金は、遺産分割の対象にならないのが原則です。共同相続人に各自の相続分に応じて分割承継されます。
ただし、共同相続人全員の合意があれば、これらの入金を含めてすべての遺産分割時における残高を、遺産分割の対象にすることも可能です。
遺産分割前の仮払い制度の利用があった場合
本来、預貯金は、遺産分割するまで、共同相続人全員の同意がなければ払い戻しできません。ただし、預貯金仮払い制度を使うと、一定の範囲内であれば、共同相続人が各自単独で払い戻しできます(民法909条の2)。
この預貯金仮払いによって払い戻された金額は、遺産の一部分割したものとして扱われます。
共同相続人が勝手に払い戻した場合
上記の預貯金仮払いを使わず、共同相続人のひとりが勝手に払い戻しをしてしまったケースは、トラブルになりやすいです。
一般的には、勝手に払い戻した分を相続分から差し引いて、遺産分割で調整することになるでしょう。
払い戻した金額が相続分より大きい場合は、他の遺産で調整するか、相続分を超える部分を他の共同相続人に支払うことにより調整します。
不動産(所有権)の評価
財産評価でトラブルになりやすい財産の代表格と言えば、やはり不動産(の所有権)でしょう。
不動産の評価方法
不動産の評価方法には、以下のようなものがあります。
- 固定資産評価額
- 路線価
- 倍率方式によって算定される相続税評価額
- 公示価格
- 実勢価格
実務での用いられることが多い評価方法
不動産には、さまざまな評価方法があります。どれを選ぶかによって価額に大きな差が生まれることも多いです。ケースによっては、数百万以上の差が生じることもあります。
そのため、不動産が遺産に含まれている場合、評価方法自体で紛争になるケースもあります。
最終的にどの方法を選択するかは、共同相続人間で決めることになりますが、実務では、実勢価格で評価することが多いでしょう。
不動産評価の基準時
不動産評価の基準時は、遺産分割時とするのが基本です。ただし、不動産は値動きが大きいため、評価方法だけでなく、いつを評価の基準時とするのかで揉めることもあります。
共同相続人間でよく話し合って基準時を決めなければいけません。ただし、最も公平で明確な基準時は、やはり遺産分割時でしょう。
借地権の評価
不動産の所有権だけではなく、不動産を賃借している権利(借地権や借家権)も価値があれば遺産分割の対象になります。
借地権の評価方法は、土地の評価方法をどうするかとも関連します。土地評価額の6割〜8割ほどの評価額となるのが一般的です。
この借地権評価も、不動産鑑定士や専門業者の査定による実勢価格を用いることが多いです。
借家権の評価
借家権の場合は、財産評価基本通達において定められた基準に従って算定する評価方法がありますが、不動産鑑定士等に価額を算定してもらうのが一般的かと思います。
ただし、現実には、借家権には価値がない場合も多く、被相続人が亡くなった後は借家契約を解約することが多いため、遺産分割で問題となるケースは多くはないでしょう。
動産の評価
動産は、種類によって評価方法はさまざまです。減価償却価値などから算定する方法もありますが、必ずしも現実の価値を算定できるとは限りません。
動産も、動産の種類に応じて、その価額を査定できる専門家に依頼して査定・鑑定してもらう方がよいでしょう。
例えば、自動車であれば、自動車査定協会や中古車販売店などに査定してもらって評価額を決めることが多いです。
特に、骨とう品や美術品などは、専門の鑑定士や専門業者等に依頼して評価額を出してもらうことになります。
株式など金融資産の評価
株式、社債、国債、投資信託、FX、仮想通貨などの金融資産も、値動きが激しいため、いつの時点を基準時とするかはトラブルになりがちです。
上場株式は株価で評価できます。社債や国債は時価額が公表されているため、評価は可能です。ただし、時価から源泉徴収税額の控除や利息計算など複雑な計算が必要となるため、公認会計士や税理士に計算してもらうのが無難です。
非上場株式や他の金融資産は、時価公表がないので、公認会計士や税理士などの専門家によって、時価を算定してもらうことになります。
遺産分割対象財産の評価で揉めないために準備すること
遺産分割対象財産の評価で共同相続人間でトラブルになることは少なくありません。特に、遺産に不動産が含まれている場合は、評価で争いになることが多いです。
共同相続人間で争いになったり、または争いが大きくなってしまったりするのを避けるには、感情的になるのを避け、客観的な資料や第三者の意見を参考にすることが大切です。
以下では、具体的に準備しておくべきことを説明します。
複数の評価・査定をとる
不動産などの財産の査定がひとつしかないと、特定の相続人にだけ有利となり、不信感が生まれてしまうかもしれません。
例えば、不動産を売りたい人は金額が高い査定を提出し、「自分が住み続けたい(または自分が取得したい)人」は低い査定を提出する可能性があるため、1社の査定だけでは話し合いが上手くいかないことがあります。
財産の評価について意見のある共同相続人各自が、それぞれ査定をとって比較検討しておいた方がよいでしょう。複数の評価・査定をつきあわせて、妥協点を見つけるために話し合うことにより、紛争を回避できる可能性があります。
また、有料にはなりますが、不動産であれば不動産鑑定士、株式などであれば税理士や公認会計士など、鑑定の専門家に依頼して鑑定をしてもらい、客観的な評価をしてもらうのも有効です。
基準時は遺産分割時に設定する
前記のとおり、遺産分割ではどの時点を財産評価の基準時とするかで揉め事になることもあります。
遺産分割対象財産の評価基準時は、共同相続人の話し合いで相続開始時などにすることも可能ですが、最も公平に分配できるのは、基準時を「遺産分割時」にする場合です。
不動産や株式など価額に変動がある財産が遺産に含まれている場合は、基本的に遺産分割時を基準時として財産評価するよう、共同相続人間であらかじめ取り決めておいた方が公平かつスムーズに話し合いが進むでしょう。
遺産分割前に共同相続人の合意で換価しておく方法もある
価額に変動のある遺産は、本格的に遺産分割をする前に、共同相続人で合意して先に換金し、そのお金を遺産分割で分配するケースも多いです。
例えば、株価がそれなりの金額に上昇したときを狙って、株式を共同相続人の合意で事前に換金してお金を保管しておき、遺産分割でお金を分けるような場合です。
事前に売却しておくことで、後の価格変動によって話し合いが終わらなくなるようなことがなくなります。また、株式など自体を分割するよりも金銭を分割する方がはるかに簡便です。
遺産分割対象財産の評価でトラブルになった場合の対処法
遺産分割対象財産の評価で共同相続人間で争いが発生した場合、話し合い(遺産分割協議)だけでは解決できないこともあるでしょう。
その場合は、裁判手続を利用して遺産分割を行うことになります。
話がつかない場合は遺産分割調停を申し立てる
共同相続人間での協議だけでは話がつかない見込みの場合は、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てましょう。
遺産分割調停では、法律の専門家である家庭裁判所の裁判官や調停委員が間に入って、話し合いを取りまとめてくれます。
客観的で法的な意見をまじえて話し合いを主導してもらえるため、相続人だけで話し合うよりも、冷静に話し合いができます。そのため、遺産分割対象財産の評価について争いがある場合でも、話がまとまりやすくなります。
最終的には遺産分割審判で決着をつける
遺産分割調停でも話がつかなかった場合は、最終的に家庭裁判所の遺産分割審判によって決着をつけることになります。
遺産分割審判では、話し合いではなく、家庭裁判所が共同相続人の主張や立証をもとに、遺産分割の内容を決定します(なお、遺産分割審判でも、手続の途中で話し合いが行われることはあります。)。
遺産分割審判の場合、財産評価は裁判所が、法律に則って最も適切と判断した基準時・評価方法を採用します。
遺産分割審判では、「遺産分割時」を基準時とするのが通常です。評価方法は、ケースによりますが、専門家の鑑定による時価(実勢価格)を採用することが多いでしょう。
この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
この記事が参考になれば幸いです。
民法と資格試験
民法は、私法の基本法です。我々の生活に最も身近な法律です。
そのため、例えば、司法試験(本試験)、司法試験予備試験、司法書士試験、行政書士試験、宅建試験、マンション管理士試験・・・など、実に多くの資格試験の試験科目になっています。
これら法律系資格の合格を目指すなら、民法を攻略することは必須条件です。
とは言え、民法は範囲も膨大です。メリハリを付けないと、いくら時間があっても合格にはたどり着けません。効率的に試験対策をするには、予備校や通信講座などを利用するのもひとつの方法でしょう。
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逐条解説 改正相続法
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資格試験向けの参考書籍としては、以下のものがあります。
民法(全)(第3版補訂版)
著者:潮見佳男 出版:有斐閣
1冊で民法総則から家族法まで収録されています。基本書というより入門書に近いでしょう。民法全体を把握するのにはちょうど良い本です。
民法VI 親族・相続 (LEGAL QUEST)第8版
著者:前田陽一ほか 出版:有斐閣
家族法全体の概説書。条文・判例から書かれているので、学習の早い段階から利用できます。情報量もあるので、資格試験の基本書として十分でしょう。
親族・相続(伊藤真試験対策講座12)第4版
著者:伊藤真 出版:弘文堂
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