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遺産分割が無効・取消しになる場合とは?協議・調停・審判の違いも解説

この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。

Q
遺産分割が無効や取消しになる場合はある?
A

はい。遺産分割が無効・取消しになるケースはあります。ただし、遺産分割調停や審判の場合は、無効・取消事由があっても当然に無効・取り消されるわけではありません。

このページでは、遺産分割が無効・取消しになる場合について、わかりやすく説明します。

このページで説明していること
  • 遺産分割の手続と無効・取消しになるケース
  • 遺産分割が無効となる5つのケース
  • 遺産分割を取消しできる4つのケース
  • 協議・調停・審判における無効・取消しの主張方法

遺産分割の手続

相続人が複数人いる場合(共同相続)、亡くなった人(被相続人)が有していた財産に関する権利義務(相続財産)は、共同相続人全員で共有または準共有することになるのが原則です(遺産共有。民法898条1項)。

この遺産共有状態を解消するには、共同相続人全員(包括受遺者や相続分譲受人がいる場合はそれらの人も含む。以下まとめて「共同相続人等」といいます。)で「遺産分割」をしなければいけません。

この遺産分割の手続には以下の3つがあります。

遺産分割の手続
  • 遺産分割協議
    裁判外で、共同相続人等全員で話し合って決める手続
  • 遺産分割調停
    家庭裁判所の裁判官または調停委員が間に入って、共同相続人等全員で話し合って決める手続
  • 遺産分割審判
    話し合いで解決できない場合に、家庭裁判所が遺産分割の内容を決定(審判)する手続

遺産分割が無効・取消しになる場合はあるか?

遺産分割がいったん有効に成立した場合、原則として覆すことはできません。とは言え、遺産分割も法律行為です。絶対のものではありません。

遺産分割が無効なものと評価されたり、取り消されたりすることはあります。

無効とは

法律行為をしたからといって、常に有効とは限りません。「無効」と評価されることもあります。

法律上の無効とは、法律上の有効要件を満たしていないために、その法律行為等が、はじめから何らの効力も有していないことを意味します。

無効な法律行為等の場合には、特別な意思表示をすることなく、当然に無効となります。

遺産分割も法律行為である以上、無効と評価されることがあります。

取消しとは

法律行為は、取り消されることもあります。

取消しとは、有効要件を満たしているために有効な法律行為等であると見えるものの、実際には法律で定められた取消し得る行為であり、取消権者の取消しの意思表示によって、遡及的に無効にすることです。

取消し得る法律行為等の場合には、取消権者が取消しの意思表示をするまでの間は、一応有効な法律行為等として扱われる点で、無効とは違います。

もっとも、最終的な効果としては、取消しの場合もはじめから無効な法律行為であったことになるので、無効と効力において大きな違いはありません。

遺産分割も法律行為である以上、取り消されることがあります。

無効と取消しの違い【比較表】

無効と取消しには、以下のような違いがあります。

比較項目無効取消し
無効になる時期はじめから効力なし取り消されるまでは一応有効
取り消されると法律行為をした時に遡って無効になる
主張できる人誰でも主張できる取消権者のみ
主張できる期間制限なし消滅時効がある
・追認できる時から5年
・遺産分割時から20年
追認の可否追認できない取消権者は追認できる

遺産分割の無効

遺産分割であっても、無効と評価されることはあり得ます。無効と評価された場合、遺産分割はそもそも効力を生じません。そのため、遺産分割のやり直しが必要です。

遺産分割が無効となるのは、以下のようなケースです。

遺産分割が無効になるケース
  • 共同相続人(または包括受遺者や相続分の譲受人)の一部が参加していない遺産分割
  • 共同相続人(または包括受遺者や相続分の譲受人)でない者が参加した遺産分割
  • 強行法規や公序良俗に反する遺産分割
  • 意思能力のない人が参加していた遺産分割
  • 心裡留保や虚偽表示によって成立した遺産分割

以下、それぞれについて説明します。

ケース1:共同相続人等が欠けていた場合

遺産分割を有効に成立させるためには、共同相続人全員が参加していることが必要です。

また、遺言で包括遺贈(特定財産ではなく、相続財産全体に対する割合的な取り分が遺言で与えられている遺贈)が定められている場合は、包括受遺者も遺産分割に参加していなければなりません。

共同相続人が自分の相続分を第三者に譲渡した場合は、その相続分の譲受人の参加も必要となります。

これら遺産分割に参加しなければならない人が1人でも欠けていた場合、遺産分割は無効になります。

相続開始後に認知された者がいる場合

遺言による認知(死後認知)によって、認可された人が共同相続人になる場合があります。

認知の発覚が遺産分割前であれば、認知された人を加えて遺産分割すればよいだけですが、遺産分割が完了した後に認知が成立するケースもあるでしょう。

この場合、本来なら共同相続人全員が参加していないので、遺産分割は無効になるはずです。

しかし、いったん成立した遺産分割を後から覆してやり直しにするのは、相続人の負担が大きく、法的な安定性を害するおそれもあります。

そこで、相続開始後に認知された人が相続人になる場合は、遺産分割は無効にならず、金銭的に調整することが可能とされています(民法910条)。

ケース2:共同相続人等でない者が参加していた場合

前記とは逆に、共同相続人(または包括受遺者や相続分譲受人)以外の第三者が参加している遺産分割も無効です。

例えば、遺産分割した後に、共同相続人のひとりが実は相続欠格や推定相続人の廃除によって相続権を失っていたことが判明したような場合です。

ケース3:遺産分割に強行法規・公序良俗違反がある場合

遺産分割も法律行為である以上、法律の規定によって無効となる場合があります。具体的には、遺産分割の内容が強行法規や公序良俗に違反する場合、遺産分割は無効です(民法90条)。

例えば、遺産を引き渡す代わりに、犯罪行為をすることを条件とするような遺産分割をした場合などです。

ケース4:意思能力がない人が遺産分割に参加していた場合

意思能力とは、自己の行為の結果を認識して判断できる精神的な能力のことです。意思能力を欠く人がした法律行為は無効です(民法3条の2)。

そのため、共同相続人等の一部の人が意思無能力者であった場合、当事者を欠くことになるので、遺産分割は無効です。

例えば、重度の認知症で意思能力を欠く共同相続人が、自ら単独で遺産分割に参加していた場合は、無効になります。

ケース5:遺産分割が心裡留保や通謀虚偽表示により成立した場合

遺産分割が心裡留保や虚偽表示によって成立した場合も、無効となることがあります。

心裡留保とは、真意でない意思表示をすることです(民法93条1項)。一方、虚偽表示とは、相手方と通じて虚偽の意思表示をすることを指します(民法94条1項)。

心裡留保の場合、表意思以外の相続人等も真意でないことを知っていたときは、遺産分割は無効になります。

なお、共同相続人等が通謀して虚偽の遺産分割をしたとしても、虚偽表示であることを知らない善意の第三者には、無効であることを主張できません。

遺産分割が取り消されるケース

遺産分割も法律行為である以上、法律で定められた取消事由がある場合には取り消すことができます。

遺産分割が取り消されるケース
  • 未成年者や成年被後見人が単独で参加した遺産分割
  • 騙されて遺産分割をした場合(詐欺)
  • 暴行や脅迫されて遺産分割した場合(強迫)
  • 遺産分割の重要事項について錯誤があった場合(錯誤)

ケース1:未成年者や成年被後見人が自分だけで遺産分割に参加した場合

18歳未満の未成年者や成年被後見人は、単独で法律行為ができません。法定代理人が同意を与えるか、代わりに法律行為をしない限り、原則として取消しうるものとされます(民法5条1項、2項、9条本文)。

そのため、法定代理人ではなく、未成年者や成年被後見人本人が自分だけで遺産分割に参加していた場合、遺産分割を取り消すことができます。

本人と法定代理人に利益相反がある場合

例えば、未成年者と法定代理人である父母がともに共同相続人である場合、未成年者と父母とで利益が相反することがあります。

この場合、法定代理人は、家庭裁判所に特別代理人の選任を申し立て、その特別代理人が未成年者や成年被後見人の代わりに遺産分割しなければなりません。

利益相反があるのに特別代理人を選任せず、法定代理人が代わりに遺産分割した場合、その代理行為は無効です。

代理行為が無効な以上、共同相続人である未成年者や成年被後見人が参加していないことになるため、遺産分割も無効になります。

ケース2:騙されて遺産分割した場合(詐欺)

共同相続人等の一部または全員が騙されて遺産分割した場合も、取消しが可能です(民法96条1項)。

例えば、共同相続人のひとりが一部の相続財産を隠していたにもかかわらず「これで全部」と言ったのを信じて遺産分割をした場合、他の共同相続人は、遺産分割を取り消せることがあります。

ケース3:暴行や脅迫で遺産分割させられた場合(強迫)

共同相続人等の一部または全員が、暴行や脅迫を受けて望まない遺産分割をさせられた場合も、取り消せます(民法96条1項)。

ケース4:重要事項について錯誤があった場合

法律行為の目的や取引上の社会通念に照らして重要なものに錯誤があった場合、取り消し得るものとなります(民法95条1項)。

錯誤は、内心の意思と表示行為に齟齬があること(表示上の錯誤)です。また、法律行為の基礎とした事情についての認識が真実に反する場合も、基礎事情が表示されているときは錯誤取消しが可能です(動機の錯誤。民法95条1項2号、2項)。

遺産分割においても、共同相続人等の一部または全員に錯誤があれば、取消しが可能です。

例えば、相続分や遺産分割方法を指定する遺言書の存在を知らされなかったため、本来であれば受け取れた相続財産よりもはるかに少額の財産しか取得できなかったようなケースでは、錯誤取消しが認められる可能性があります。

取消権の期限

遺産分割をやり直すこと自体に期限はありませんが、取消しを求める権利には、以下の期限(消滅時効)があります(民法126条)。

取消権の期限
  • 追認できる時から5年
  • 遺産分割の時から20年

例えば、詐欺のケースであれば騙されたことに気づいた時から5年経過すると、遺産分割の取消しができなくなります。

遺産分割協議の無効・取消し

遺産分割協議に前記の無効・取消事由があった場合、共同相続人等の当事者は無効または取消しを主張して、やり直しを求めることができます。

無効・取消しに応じない当事者がいる場合

遺産分割の無効・取消しを認めない共同相続人等の当事者がいる場合、遺産分割をやり直すことができません。

この場合、遺産分割協議の無効を確定させるため、地方裁判所に遺産分割協議の無効確認を訴えて、訴訟で決することになります。

補足:遺産分割協議の解除

遺産分割協議の場合、無効・取消事由がなくても、共同相続人等の当事者全員が合意すれば、協議を解除してやり直すことも可能です。

解除されると、取消しの場合と同様、遺産分割協議ははじめからなかったことになり、やり直すことになります。

遺産分割調停の無効・取消し

遺産分割調停では、家庭裁判所の裁判官や調停委員が関与しているため、無効・取消事由があるケースはあまりないでしょう。

とは言え、裁判官や調停委員が関知していない事情がある場合もあります。そのため、遺産分割調停と言えど、無効・取消しになることはあり得ます。

ただし、調停では遺産分割が成立すると裁判所によって調停調書が作成されます。この調停調書には、確定判決と同一の効力があります。そのため、簡単には無効にすることはできません。

やり直しに応じない当事者がいる場合

遺産分割調停に無効・取消事由がある場合でも、地方裁判所に遺産分割調停の無効確認を訴えることはできないと解されています(東京高判平成29年5月31日)。

そのため、調停をした家庭裁判所に「無効・取消事由があるので、調停を再開して欲しい」と申し出るほかありません。

遺産分割調停に無効原因があった場合には、調停をした家庭裁判所に調停期日指定を申し立てて、調停を再開してもらうことになります。

期日指定の申立てが却下された場合は、不服を申し立てます(即時抗告)。この抗告審で無効・取消しについて判断してもらうことになります。

ただし、いずれの場合も、必ずしも認められるわけではありません。

共同相続人等の当事者全員で再協議する

前記のとおり、遺産分割調停の無効や取消しを主張するのは、なかなかハードルが高いです。ただし、遺産分割調停が成立した後でも、共同相続人等の当事者全員で合意すれば、再協議できると考えられています。

そのため、まずは当事者全員で話し合って、再協議するかどうかを決めるのが最も早い方法でしょう。

なお、再協議したからといって、すでに作成された調停調書が無効になるわけではありません。調停調書に基づいて第三者が取引関係などに入った場合、その第三者には再協議したことを主張できないでしょう。

遺産分割審判の無効・取消し

遺産分割審判は、家庭裁判所による決定です。そのため、無効・取消事由があっても、容易には覆せません。

審判に対する不服申立て(即時抗告)

遺産分割審判書が届いてから2週間以内であれば、不服を申し立てることができます(即時抗告。家事事件手続法85条)

即時抗告すると、審判をした家庭裁判所を管轄する高等裁判所で審理が行われます。高等裁判所で審判の無効が認められれば、審判は取り消されます。

審判確定後の再審

遺産分割審判書が届いてから2週間以内に不服を申し立てなかった場合、審判は確定します。以降は不服申立てができません。

確定した審判を覆す方法は、再審しかありません。ただし、再審が認められることは、実際にはほとんどないでしょう。

遺産分割審判確定後の再協議

遺産分割審判が確定した後でも、共同相続人等の当事者全員で合意すれば、再協議できると考えられています。

不服申立てができなかった場合は、再審が認められる可能性はほとんどない以上、当事者全員で話し合って再協議するかどうかを決めるのが現実的な対処法です。

なお、調停の場合と同様、確定した遺産分割審判が効力を失うわけではないので、審判に基づいて取引関係に入った第三者には、再協議したことを主張できないでしょう。

まとめ

遺産分割であっても、無効になったり、取り消されたりすることはあります。

遺産分割協議の場合は、当事者間での話し合いや地方裁判所への遺産分割協議の無効確認訴訟などによって、無効・取消しが認められることがあります。

他方、遺産分割調停や審判の場合は、無効・取消しにするのは、困難なケースが多いです。

いずれにしても、遺産分割の無効・取消しには、専門的な法的知識を要するので、弁護士に相談・依頼することをお勧めします。

この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
この記事が参考になれば幸いです。

民法と資格試験

民法は、私法の基本法です。我々の生活に最も身近な法律です。

そのため、例えば、司法試験(本試験)、司法試験予備試験、司法書士試験、行政書士試験、宅建試験、マンション管理士試験・・・など、実に多くの資格試験の試験科目になっています。

これら法律系資格の合格を目指すなら、民法を攻略することは必須条件です。

とは言え、民法は範囲も膨大です。メリハリを付けないと、いくら時間があっても合格にはたどり着けません。効率的に試験対策をするには、予備校や通信講座などを利用するのもひとつの方法でしょう。

STUDYing(スタディング)
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参考書籍

本サイトでも民法について解説していますが、より深く知りたい方や資格試験勉強中の方のために、民法の参考書籍を紹介します。

逐条解説 改正相続法
著者:堂薗幹一郎など 出版:商事法務
民法改正に対応した逐条解説書。相続を扱う実務家向けですが、持っていると何かと便利です。立法担当者や現役裁判官による著書であるため、内容に信頼性があります。

資格試験向けの参考書籍としては、以下のものがあります。

民法(全)(第3版補訂版)
著者:潮見佳男 出版:有斐閣
1冊で民法総則から家族法まで収録されています。基本書というより入門書に近いでしょう。民法全体を把握するのにはちょうど良い本です。

民法VI 親族・相続 (LEGAL QUEST)第8版
著者:前田陽一ほか  出版:有斐閣
家族法全体の概説書。条文・判例から書かれているので、学習の早い段階から利用できます。情報量もあるので、資格試験の基本書として十分でしょう。

親族・相続(伊藤真試験対策講座12)第4版
著者:伊藤真 出版:弘文堂
いわゆる予備校本。予備校本だけあって、実際の出題傾向に沿って内容が絞られており、分かりやすくまとまっています。民法は範囲が膨大なので、学習のスタートは、予備校本から始めてもよいのではないでしょうか。

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