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遺産分割のやり直しは可能?無効・取消し・解除になるケースを解説

この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。

Q
遺産分割はやり直せる?
A

いったん成立した遺産分割はやり直せないのが原則です。ただし、共同相続人全員で合意すれば、遺産分割協議の解除や調停・審判後の再協議により、やり直すことが可能です。また、遺産分割が無効・取消しにより効力を失った場合も、やり直すことになります。

このページでは、遺産分割をやり直せるか否かや、遺産分割の無効・取消し・解除についてわかりやすく説明します。

このページで説明していること
  • 遺産分割の手続がやり直しになるケース
  • 遺産分割が無効・取消し・解除となった場合のやり直し
  • 調停・審判後の再協議
  • 遺産分割のやり直しの期限・新たに遺産が発見された場合
  • 遺産分割をやり直す場合のリスク
  • 遺産分割後に失踪宣告が取り消された場合

遺産分割はやり直せるか?

相続人が複数人いる場合(共同相続)、相続財産(遺産)は共同相続人全員で共有または準共有することになるのが原則です(遺産共有。民法898条1項)。

この遺産共有を解消するには、共同相続人全員で遺産分割して、相続財産の具体的な帰属を確定させなければいけません。

遺産分割がいったん成立すれば、原則としてやり直すことはできません

ただし、共同相続人(および包括受遺者・相続分の譲受人)全員が合意すれば、遺産分割協議を解除してやり直すことが可能です。また、遺産分割協議が無効な場合や取り消された場合も、やり直しが必要になります。

一方、協議ではなく、遺産分割調停や審判の場合は、解除はできません。裁判手続に則って無効や取消を主張しなければならず、やり直しのハードルは高いです。

以下、遺産分割のやり直しについて詳しく説明します。

遺産分割の手続

上記のとおり、遺産分割をやり直せるか否かは手続の種類によって難易度や手続に違いがあります。具体的には、遺産分割には、以下の手続があります。

遺産分割の3つの手続
  • 遺産分割協議
    共同相続人全員が、裁判外で話し合って遺産分割する手続
  • 遺産分割調停
    家庭裁判所の裁判官・調停委員が間に入って、共同相続人全員で話し合う手続
  • 遺産分割審判
    共同相続人の主張・立証や裁判官による審問の結果をもとに、裁判所が遺産分割の内容を決定(審判)する手続

遺産分割のやり直しが必要な3つのケース

前記のとおり、遺産分割の協議・調停・審判が成立した場合、基本的にやり直すことはできません。

ただし、遺産分割と言えど絶対ではありません。以下の場合には、遺産分割が効力を失い、やり直しになることがあります

遺産分割がやり直しになるケース
  • 遺産分割が無効な場合
  • 遺産分割協議・調停が取り消された場合
  • 遺産分割協議が解除された場合

以下、それぞれについて詳しく解説します。

ケース1:無効な遺産分割の場合

遺産分割と言えど法律行為です。そもそも無効である場合は、効力が生じません。そのため、遺産分割が無効である場合は、やり直さなければいけません

例えば、無効な遺産分割は、以下のケースです。

遺産分割が無効になる具体例
  • 共同相続人(または包括受遺者や相続分の譲受人)の一部が参加していない遺産分割
  • 共同相続人(または包括受遺者や相続分の譲受人)でない者が参加した遺産分割
  • 強行法規や公序良俗に反する遺産分割

遺産分割協議の無効

無効な遺産分割協議は、やり直しです。再度、全員で遺産分割を協議し直す必要があります。

例えば、参加すべき人が参加していないために協議が無効である場合は、あらためて共同相続人・包括受遺者(遺言包括遺贈を受けた人)・相続分の譲受人を洗い出して、遺産分割をし直さなければいけません。

共同相続人等の合意を得られない場合は、別途、遺産分割協議の無効確認を求めて、地方裁判所に訴えを提起して判断してもらうことになるでしょう。

遺産分割調停の無効

遺産分割調停が成立すると家庭裁判所によって調停調書が作成されます。この調停調書は確定判決と同じ効力を持っているため、たとえ無効原因があっても当然に無効にはできません。

無効な遺産分割調停がすでに成立している場合でも、無効確認の訴えをすることはできず、遺産分割の無効を主張して、調停を再び続けてもらうよう、調停をした家庭裁判所に期日指定の申し立てをするのが原則とされています(東京高裁平成29年5月31日判決)。

ただし、いったん成立した調停を再開してくれるかどうかは、家庭裁判所次第です。実際に認めてもらえるとは限りません。むしろ認めてくれない場合の方が多いと思われます。

この期日指定の申立てが却下された場合には、不服を申し立て(即時抗告)、その抗告審で調停の無効を主張し、調停を再開してもらう必要があります。

遺産分割審判の無効

遺産分割審判は裁判所による裁判です。いったん審判が確定してしまうと、仮に無効原因があったとしても、当然に効力を失うわけではありません。

遺産分割審判が無効である場合は、以下の方法をとるほかありません

遺産分割の無効を争う方法
  • 遺産分割審判が確定する前に不服を申し立てて(即時抗告)、高等裁判所の抗告審で取り消してもらう
  • 遺産分割審判が確定している場合は、再審を行う

なお、再審はかなりハードルが高いです。再審が認められることはほとんどないのが実際です。

ケース2:遺産分割を取り消せる場合

遺産分割も法律行為であるため、法律で定める取消事由があれば取り消すことが可能です。遺産分割が取り消されるとはじめからなかったことになる(遡及的無効)ため、やり直しになります

例えば、以下のケースでは、遺産分割を取り消せます。

遺産分割を取り消せるケースの具体例
  • 騙されて遺産分割をした場合(詐欺)
  • 暴行や脅迫されて遺産分割した場合(強迫)
  • 重要事項について内心の意思と実際に遺産分割した内容に齟齬があった場合(錯誤)
  • 未成年者や成年後見人が自分だけで遺産分割に参加した場合

遺産分割協議の取消し

遺産分割協議に取消事由がある場合、共同相続人(または包括受遺者・相続分譲受人)は遺産分割協議を取り消せます。

取り消されると遺産分割協議はなかったことになるので、あらためて共同相続人等全員で協議をやり直す必要があります

取消しの場合も、共同相続人等の合意を得られない場合は、別途、遺産分割協議の無効確認を求めて、地方裁判所に訴えを提起して判断してもらうことになるでしょう。

遺産分割調停の取消し

遺産分割調停が成立すると家庭裁判所によって調停調書が作成されます。この調停調書は確定判決と同じ効力を持っているため、たとえ取消事由があっても簡単には取り消せません。

前記調停の場合と同様、遺産分割調停がすでに成立している場合は、遺産分割の取消しを主張して、調停を再び続けてもらうよう、調停をした家庭裁判所に期日指定の申し立てをするのが原則とされています(東京高裁平成29年5月31日判決)。

ただし、いったん成立した調停を再開してくれるかどうかは、家庭裁判所次第です。実際に認めてもらえるとは限りません。むしろ認めてくれない場合の方が多いと思われます。

この期日指定の申立てが却下された場合には、不服を申し立て(即時抗告)、その抗告審で調停の無効を主張し、調停を再開してもらう必要があります。

遺産分割審判の取消し

前記のとおり、遺産分割審判は裁判所による裁判です。いったん審判が確定してしまうと、仮に取消事由があったとしても、当然に効力を失うわけではありません。

遺産分割審判を取り消すには、以下の方法をとるほかありません

遺産分割の無効を争う方法
  • 遺産分割審判が確定する前に不服を申し立てて(即時抗告)、高等裁判所の抗告審で取り消してもらう
  • 遺産分割審判が確定している場合は、再審を行う

なお、再審はかなりハードルが高いです。再審が認められることはほとんどないのが実際です。

ケース3:遺産分割協議を解除できる場合

遺産分割協議は当事者間での合意です。そのため、無効・取消しの原因がない場合でも、遺産分割協議を解除することが可能です。

遺産分割が解除されると、はじめからなかったことになる(遡及的無効)ため、やり直しになります

ただし、契約のように相続人等に債務不履行があっただけでは解除できません。遺産分割協議を解除するためには、共同相続人(および包括受遺者や相続分の譲受人)全員の合意が必要です(最一小判平成元年2月9日)。

なお、遺産分割調停で合意に至り調停調書が作成されている場合や遺産分割審判は、解除することはできません(ただし、後述のとおり、再協議は可能と考えられています。)。

調停・審判後の再協議

遺産分割協議は、無効・取消しのほか、共同相続人等全員の合意で解除できます。

他方、遺産分割調停は、解除できません。審判は、解除できない上、無効・取消し事由があっても当然にやり直しになるわけではありません。

とは言え、共同相続人など当事者の全員が真意に合意するのであれば、その合意を妨げる理由はないはずです。

そのため、遺産分割調停・審判が成立した後に、共同相続人等の全員で再協議し 、調停・審判と異なる内容の合意をして遺産分割をすることは許されると考えられています。

なお、再協議による分割は共同相続人等の間では有効な合意ですが、もとの遺産分割調停や審判が効力を失っているわけではないので、もとの調停や審判をもとに法律関係に入った第三者には再協議を主張できないことがあります。

遺産分割をやり直せる期限

遺産分割自体には期限がありません。そのため、遺産分割をやり直すことにも期限はありません。ただし、遺産分割を取り消す場合、取消権自体に、期限(消滅時効)があります

具体的には、取消権は「追認をすることをできる時から5年間」または「行為(遺産分割)の時から20年間」で時効により消滅します。追認をすることができる時とは、取消しの原因となっていた状況が消滅した時です。

例えば、詐欺や強迫の場合であれば、騙されていたことを知った時、強迫行為が止んだ時から5年間が経過すると、消滅時効により遺産分割を取り消すことができなくなります。

また、遺産分割自体に期限はなくても、個々の相続財産が時効消滅することはあり得ます。例えば、貸金請求権が相続財産に含まれている場合、貸金請求権そのものが時効消滅してしまうことがあるのです。

そのため、遺産分割自体には期限がないとしても、いつまでも放置しておいてはいけません。

遺産分割後に新たな遺産が発見された場合

遺産分割した後に新たな遺産が発見されるケースはよくあります。

新たな財産が見つかったからといって、遺産分割全部が無効になるわけではなく、全部を一からやり直す必要もありません新たな財産についてのみ遺産分割すれば足ります

なお、前記のとおり、共同相続人等全員の合意があれば、遺産分割全部をやり直すことは可能です。

遺産分割をやり直した場合のリスク

無効や取消し事由があるような場合はともかく、むやみに遺産分割をやり直すことはお勧めできません。遺産分割をやり直した場合、以下のようなリスクが生じる可能性があるからです。

リスク1:完全にはやり直せないケースがある

遺産分割をやり直すとしても、すでに最初の遺産分割に基づいて遺産を費消・処分していたり、消失していたりすることもあります

そうなると、もはや最初のときと同じ条件で遺産分割することはできません。かえって損失を受けてしまう可能性もあります。

リスク2:第三者にはやり直しを主張できない場合がある

遺産分割協議や調停が無効である場合は、第三者にも無効だったことを主張できます。

しかし、取消しや解除の場合、遺産分割を取り消したり解除したりする前に遺産について権利を取得した第三者にはやり直しを主張できないことがあります

例えば、遺産分割によって相続財産を取得した相続人からその相続財産を購入した第三者がいた場合、後から遺産分割のやり直しによって別の相続人に権利が移ったことを主張できないことがあります。

そのため、やり直しをすることでさらに紛争が新たに発生する可能性があるのです。

リスク3:支払う税金が増えるケースがある

いったん成立した遺産分割協議や調停に基づいて相続税を支払っていたとしても、やり直しをした場合、新たに税金が発生してしまうケースがあります

例えば、やり直しによる財産の取得は、最初の遺産分割による財産の取得者からの贈与または譲渡として扱われ、贈与税や譲渡税が課されることがあります。

また、再協議でいったん登記した不動産を別の人が取得して登記し直す場合、登録免許税や不動産取得税があらためて必要になります。

安易にやり直すとかえって支払いが増えてしまうこともあります。税金も考えてやり直すかどうか考えることが大切です。あらかじめ税理士などに相談することをお勧めします。

遺産分割と失踪宣告

前記のとおり、遺産分割には、共同相続人(および包括受遺者・相続分譲受人)全員が参加しなければ、無効です。相続人のひとりが行方不明である場合、遺産分割できません。

そのような場合には、行方不明者について家庭裁判所に失踪宣告を申し立てる必要があります。家庭裁判所で失踪宣告が決定されると、対象の人(失踪者)は死亡したものとみなされます(民法31条)。

死亡したものとみなされた人は相続人から外れます。そのため、行方不明者について失踪宣告を申し立てることによって、他の相続人等だけで遺産分割することが可能になります。

ただし、失踪者が生きており、失踪宣告が取り消された場合は、すでにした遺産分割の効力に影響を及ぼします

失踪者の生前を共同相続人等が知らなかった(善意)場合

遺産分割をした共同相続人等が失踪者が生存していることを知らなかった場合(善意の場合)、遺産分割は有効なままであり、やり直しは必要ありません(民法32条1項後段)。

ただし、失踪者は、本来失踪者が受け取れるはずだった相続財産を他の共同相続人等に返還するよう請求できます。

とは言え、全額の返還を請求できるわけではなく、他の共同相続人等は請求された時点現在で残っている分(現存利益)だけ返還すれば足ります(民法32条2項ただし書き)。

失踪者の生存を共同相続人等が知っていた(悪意)場合

遺産分割をした共同相続人等が失踪者が生存していることを知っていた場合(悪意の場合)は、遺産分割は、参加すべき相続人を除外して行われたことになるので無効になります。そのため、遺産分割のやり直しが必要です。

この場合、共同相続人等のうちのひとりでも悪意者がいれば、遺産分割は無効になると考えられています。

この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
この記事が参考になれば幸いです。

民法と資格試験

民法は、私法の基本法です。我々の生活に最も身近な法律です。

そのため、例えば、司法試験(本試験)、司法試験予備試験、司法書士試験、行政書士試験、宅建試験、マンション管理士試験・・・など、実に多くの資格試験の試験科目になっています。

これら法律系資格の合格を目指すなら、民法を攻略することは必須条件です。

とは言え、民法は範囲も膨大です。メリハリを付けないと、いくら時間があっても合格にはたどり着けません。効率的に試験対策をするには、予備校や通信講座などを利用するのもひとつの方法でしょう。

STUDYing(スタディング)
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参考書籍

本サイトでも民法について解説していますが、より深く知りたい方や資格試験勉強中の方のために、民法の参考書籍を紹介します。

逐条解説 改正相続法
著者:堂薗幹一郎など 出版:商事法務
民法改正に対応した逐条解説書。相続を扱う実務家向けですが、持っていると何かと便利です。立法担当者や現役裁判官による著書であるため、内容に信頼性があります。

資格試験向けの参考書籍としては、以下のものがあります。

民法(全)(第3版補訂版)
著者:潮見佳男 出版:有斐閣
1冊で民法総則から家族法まで収録されています。基本書というより入門書に近いでしょう。民法全体を把握するのにはちょうど良い本です。

民法VI 親族・相続 (LEGAL QUEST)第8版
著者:前田陽一ほか  出版:有斐閣
家族法全体の概説書。条文・判例から書かれているので、学習の早い段階から利用できます。情報量もあるので、資格試験の基本書として十分でしょう。

親族・相続(伊藤真試験対策講座12)第4版
著者:伊藤真 出版:弘文堂
いわゆる予備校本。予備校本だけあって、実際の出題傾向に沿って内容が絞られており、分かりやすくまとまっています。民法は範囲が膨大なので、学習のスタートは、予備校本から始めてもよいのではないでしょうか。

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