この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
- Q偏頗行為否認(へんぱこういひにん)とは?
- A
偏頗行為否認とは、破産者による特定の債権者にのみ利益を与える行為の効力を否定して、破産財団から流出した財産を破産財団に回復させる破産管財人の権能のことです。
このページでは、偏頗行為否認とは何かについてわかりやすく説明します。
- 偏頗行為否認・偏頗行為とは何か?
- 偏頗行為の具体例
- 偏頗行為否認の2つのタイプとそれぞれの要件
- 偏頗行為が否認された場合の効果
- 偏頗行為を否認できる期限

破産管財人の否認権とは
破産手続が開始されると、破産者の財産は、破産財団として裁判所が選任した破産管財人の管理下に置かれ、最終的に換価処分されて債権者に弁済または配当されます。
もっとも、破産手続開始前に、債務者(破産者)が不当または不公平な行為をして財産を手元から流出させてしまうことがあります。
このような不当・不公平な行為を放置すると、債権者の利益を害し、破産手続に対する信頼も失われます。そこで、破産管財人には「否認権」が与えられています。
否認権とは、破産手続開始前に行われた破産者の行為(または破産者と同視できる第三者の行為)の効力を否定して、破産財団の回復を図る形成権たる破産管財人の権能のことです。
破産管財人は、否認権を行使することによって、流出した財産を破産財団に取り戻すことができます。取り戻された財産は、破産財団に属する財産として換価処分されます。
偏頗行為否認とは
破産管財人の否認権の対象となるのは、主として破産者の「詐害行為」と「偏頗行為」です。詐害行為に対する否認権行使を「詐害行為否認」、偏頗行為に対する否認権行為を「偏頗行為否認」といいます。
このうち偏頗行為否認(偏頗否認)とは、破産者による特定の債権者にのみ利益を与える行為の効力を否定して、破産財団から流出した財産を破産財団に回復させる破産管財人の権能のことです。
破産手続においては、債権者間の平等・公平性を最大限確保しなければなりません(債権者平等の原則)。
破産者が特定の債権者にのみ利益を与えるような行為をした場合でも債権者間の平等を回復させる措置をとることができないとすると、破産法の目的を達成できず、破産手続への信頼を失わせることにもなりかねません。
そのため、債権者の平等を害する行為の効力を否定して、破産財団の回復を図ることができる偏頗行為否認の権能が破産管財人に認められているのです。
なお、詐害行為否認については下記リンク先ページを参照してください。
否認対象となる「偏頗行為」とは
偏頗行為否認の対象になる偏頗行為とは、「既存の債務についてされた担保の供与又は債務の消滅に関する行為」です(破産法162条)。
担保の供与に関する行為
「担保の供与に関する行為」とは、抵当権、質権、譲渡担保、仮登記担保、所有権留保などの担保を財産に設定する行為のことです。
例えば、債務者(破産者)が、特定の債権者からの借金を担保するために自分の所有する不動産に抵当権を設定したような場合は、偏頗行為になることがあります。
債務の消滅に関する行為
「債務の消滅に関する行為」として最も典型的なものは弁済をすることです。偏頗行為否認に該当する弁済を「偏頗弁済(へんぱべんさい)」と呼ぶことがあります。
例えば、借金を返済することも弁済です。そのため、特定の債権者に対してだけ借金を返済すると、偏頗行為となる場合があります。
この弁済は、金銭の支払いに限りません。物で弁済する代物弁済も含まれます。また、弁済の他、相殺や更改契約をすることも債務消滅行為に該当します。
「既存の債務」の意味
偏頗行為となるのは、「既存の債務」について担保供与や債務消滅行為をした場合です。そのため、同時交換的に行われた担保供与などは、偏頗行為に該当しないと解されています。
例えば、新たな借入れをするのと同時交換的に抵当権を設定した場合は、既存の債務についての担保供与とは言えないため、偏頗行為否認の対象になりません。
このような同時交換的な担保供与まで否認の対象になるとしてしまうと、債務者が新規融資を受けて再建を図る可能性がすべて閉ざされてしまうからです。
ただし、新規融資を受けても支払不能を解消できずに破産に至った場合、この新規融資に対する返済は偏頗行為として否認の対象になります。
偏頗行為否認が問題となるよくあるケース
偏頗行為否認は、法人・事業者の破産だけでなく、個人消費者の破産事件でもよく問題となります。
法人・事業者の破産における偏頗行為否認の具体例
法人・事業者の破産の場合に偏頗行為否認が問題となるケースとしては、例えば、以下のようなものがあります。
- 役員の家族・親族からの借金だけ返済した
- 家族・親族が連帯保証人となっている債務だけ弁済した
- 懇意の取引先・仕入先にだけ支払いをした
- 役員報酬だけ支払いをした
- 代表者による法人への貸付金だけ返済した
なお、役員報酬の支払いは偏頗行為否認の対象になりますが、従業員の給料の支払いは対象にはなりません(または、問題となりません。)。
個人消費者の破産における偏頗行為否認の具体例
個人消費者の破産の場合に偏頗行為否認が問題となるケースとしては、例えば、以下のようなものがあります。
- 家族・親族からの借金だけ返済した
- 家族・親族が連帯保証人となっている借金だけ返済した
なお、個人破産の場合、否認権行使の対象になるだけでなく、免責不許可事由に該当することもあります。個人の自己破産の場合については、以下のリンク先ページを参照してください。
偏頗行為否認の対象(偏頗行為否認の類型)
偏頗行為否認では、以下の行為が対象になります。
- 破産者が支払不能になった後または破産手続開始の申立てがあった後にした偏頗行為の否認(破産法162条1項1号)
- 破産者が支払不能になる前30日以内にした非義務的偏頗行為の否認(破産法162条1項2号)
これらは、それぞれ否認の要件が異なります。以下、それぞれの類型ごとに詳しく説明します。
タイプ1:支払不能または破産手続開始の申立て後にした偏頗行為の否認(破産法162条1項1号)
破産法 第162条
- 第1項 次に掲げる行為(既存の債務についてされた担保の供与又は債務の消滅に関する行為に限る。)は、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。
- 第1号 破産者が支払不能になった後又は破産手続開始の申立てがあった後にした行為。ただし、債権者が、その行為の当時、次のイ又はロに掲げる区分に応じ、それぞれ当該イ又はロに定める事実を知っていた場合に限る。
イ 当該行為が支払不能になった後にされたものである場合 支払不能であったこと又は支払の停止があったこと。
ロ 当該行為が破産手続開始の申立てがあった後にされたものである場合 破産手続開始の申立てがあったこと。引用元:e-Gov法令検索
「破産者が支払不能になった後又は破産手続開始の申立てがあった後にした偏頗行為」は、否認の対象となります(破産法162条1項1号本文)。
破産手続においては、支払不能に陥った以降は「危機時期」と呼ばれます。危機時期は破産手続の準備段階として扱われ、債権者間の平等が特に強く求められるようになります。
すでに破産手続開始の申立てをした後であれば、破産手続が開始されることは目前ですから、支払不能の場合以上に債権者間の平等が強く求められます。
そのため、支払不能または破産手続開始の申立て後の偏頗行為は、否認権行使の対象とされているのです。
支払不能または破産手続開始の申立て後にした偏頗行為否認の要件
支払不能または破産手続開始の申立て後にした偏頗行為を否認するための要件は、以下のとおりです。
- 既存の債務について担保供与または債務消滅行為(偏頗行為)をしたこと
- 偏頗行為をしたのが、支払不能になった後または破産手続開始の申立て後であること
- 偏頗行為の相手方(債権者)が、偏頗行為の当時、以下の事実を知っていたこと
- 支払不能後の偏頗行為の場合:支払不能または支払停止があったこと
- 破産手続開始の申立て後の偏頗行為の場合:破産手続開始の申立てがあったこと
否認の対象になるのは、支払不能または破産手続開始の申立て後にした偏頗行為です。
ただし、破産手続開始の申立て前1年以内に支払停止があった場合は、支払不能であると推定されるので、支払停止後の偏頗行為も否認の対象となります(破産法162条3項)。
また、支払不能または破産手続開始の申立て後に偏頗行為があったとしても、偏頗行為の相手方(債権者)が、債務者について支払不能(または支払停止があったこと)や破産手続開始の申立てがあったことを知らなければ、否認権を行使できません(破産法162条1項1号ただし書き)。
債権者の悪意の推定
破産法 第162条
- 第2項 前項第1号の規定の適用については、次に掲げる場合には、債権者は、同号に掲げる行為の当時、同号イ又はロに掲げる場合の区分に応じ、それぞれ当該イ又はロに定める事実(同号イに掲げる場合にあっては、支払不能であったこと及び支払の停止があったこと)を知っていたものと推定する。
- 第1号 債権者が前条第2項各号に掲げる者のいずれかである場合
- 第2号 前項第1号に掲げる行為が破産者の義務に属せず、又はその方法若しくは時期が破産者の義務に属しないものである場合
破産法 第161条
- 第2項 前項の規定の適用については、当該行為の相手方が次に掲げる者のいずれかであるときは、その相手方は、当該行為の当時、破産者が同項第2号の隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたものと推定する。
- 第1号 破産者が法人である場合のその理事、取締役、執行役、監事、監査役、清算人又はこれらに準ずる者
- 第2号 破産者が法人である場合にその破産者について次のイからハまでに掲げる者のいずれかに該当する者
イ 破産者である株式会社の総株主の議決権の過半数を有する者
ロ 破産者である株式会社の総株主の議決権の過半数を子株式会社又は親法人及び子株式会社が有する場合における当該親法人
ハ 株式会社以外の法人が破産者である場合におけるイ又はロに掲げる者に準ずる者- 第3号 破産者の親族又は同居者
引用元:e-Gov法令検索
前記のとおり、偏頗行為を否認できるのは、相手方債権者が、支払不能(または支払停止)や破産手続開始の申立てがあったことを知っていた場合(悪意)に限られます。この債権者の悪意は、破産管財人が主張立証しなければいけません。
これら債権者の悪意を主張立証するのは簡単ではありません。そこで、破産管財人による主張立証を容易にするため、一定の場合には悪意が推定されます(破産法162条2項、161条2項)。
- 債権者が破産者と一定の関係にある場合(破産法162条2項1号、161条2項)
- 法人破産の場合
- その法人の理事、取締役、執行役、監事、監査役、清算人またはこれらに準ずる者
- 破産者が株式会社である場合
- 総株主の議決権の過半数を有する者
- 総株主の議決権の過半数を子株式会社または親法人および子株式会社が有する場合における当該親法人
- 破産者が株式会社以外の法人である場合
- 総社員の議決権の過半数を有する者
- 総社員の議決権の過半数を子法人または親法人および子法人が有する場合における当該親法人
- 個人破産の場合
- 破産者の親族または同居人
- 法人破産の場合
- 詐害行為が、破産者の義務に属せず、またはその方法若しくは時期が破産者の義務に属しないものである場合(非義務的偏頗行為)
上記の場合、債権者は、支払不能・支払停止があったことまたは破産手続開始の申立てがあったことを知っていたものと推定されます。そのため、破産管財人が立証する必要はありません。
この悪意の推定を覆すには、債権者が「支払不能等があったことを知らなかったこと」を主張立証しなければいけません。
タイプ2:支払不能前30日以内にした非義務的偏頗行為の否認(破産法162条1項2号)
破産法 第162条
- 第1項 次に掲げる行為(既存の債務についてされた担保の供与又は債務の消滅に関する行為に限る。)は、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。
- 第2号 破産者の義務に属せず、又はその時期が破産者の義務に属しない行為であって、支払不能になる前30日以内にされたもの。ただし、債権者がその行為の当時他の破産債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。
引用元:e-Gov法令検索
「破産者の義務に属せず、又はその時期が破産者の義務に属しない行為であって、支払不能になる前30日以内にされたもの」も、否認権行使の対象になります(破産法162条1項2号本文)。
「破産者の義務に属せず、又はその時期が破産者の義務に属しない」偏頗行為のことを「非義務的偏頗行為といいます。例えば、支払期限前に返済をするような場合です。
法的な義務があるため弁済などをするのはやむを得ないとしても、何らの義務もないのに偏頗行為をするのは、特定の債権者にのみ過大な利益を与え、債権者の平等を害する度合いが大きいと言えます。
そのため、非義務的偏頗行為は、支払不能になった後だけでなく、支払不能のなる前30日以内であっても否認の対象になるとして、規制の範囲を拡大しているのです。
支払不能前30日以内の非義務的偏頗行為の否認の要件
支払不能前30日以内の非義務的偏頗行為を否認するためには、以下の要件が必要です。
- 破産者の義務に属せず、又はその時期が破産者の義務に属しない偏頗行為(非義務的偏頗行為)をしたこと
- 非義務的偏頗行為をしたのが、支払不能前30日以内であること
- 非義務的偏頗行為の相手方(債権者)が、偏頗行為の当時、破産債権者を害することを知っていたこと
破産法162条1項2号によって非義務的偏頗行為が否認されるのは、支払不能前30日以内です。支払不能後は、162条1項1号によって否認されます。支払停止があった場合は支払不能と推定されます(破産法162条3項)。
ただし、非義務的偏頗行為の相手方債権者が、偏頗行為の当時、破産債権者を害することを知らなかった場合には、否認できません。
債権者が破産債権者を知っていたこと(悪意)は、破産管財人が立証する必要があります。破産法162条1項2号の場合は、1号の場合と異なり、債権者の悪意の推定は適用されません。
偏頗行為が否認対象となる時期
偏頗行為が否認の対象となるのは、債権者の平等を害するからです。そのため、特定の債権者に対する債務消滅行為等であっても、債権者の平等を害しない時期にされたものは否認の対象になりません。
- 支払不能になる前:否認の対象にならない
- 支払不能前30日以内:非義務的偏頗行為だけは否認の対象になる
- 支払不能になった後(または破産手続開始の申立て後):すべての偏頗行為が否認の対象になる
支払不能と支払停止
否認の対象になるか否かの基準となるのは、支払不能です。
支払不能とは、債務者が支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものについて、一般的かつ継続的に弁済をすることができない客観的状態にあることをいいます(破産法2条11項)。
一時的に支払いができないだけではなく、すべての債務を一般的かつ継続的に返済できないことが必要です。支払不能かどうかは、債務者の財産・労力・信用・技能なども含めて客観的に判断されます。
もっとも、支払不能か否かを外部から判断するのは簡単ではありません。外部から確認できる行為を基準とした方が、判断が容易となり否認権行使をしやすくなります。
そこで、支払停止があった場合には、支払不能であると推定されます(破産法162条3項)。支払不能が推定されると、破産管財人は支払不能を立証する必要がなくなります。
支払停止の具体例
破産法 第162条
- 第3項 第1項各号の規定の適用については、支払の停止(破産手続開始の申立て前一年以内のものに限る。)があった後は、支払不能であったものと推定する。
引用元:e-Gov法令検索
前記のとおり、支払停止があると、支払不能が推定されます。
支払停止とは、債務者が資力欠乏のため一般的かつ継続的に債務の支払をすることができないと考えてその旨を明示的又は黙示的に外部に表示する行為のことです(最一小判昭和60年2月14日・集民144号109頁)。
例えば、以下のような場合は支払停止と判断されます。
- 2回目の手形不渡りによる銀行取引停止処分を受けた場合
- 弁護士による各債権者への受任通知の送付による支払いの停止(最二小判平成24年10月19日)
- 閉店など営業の停止
支払不能になる前の偏頗行為
支払不能になる前にした偏頗行為は、原則として否認の対象にはなりません。危機時期になる前の通常の返済まで否認の対象とすると、かえって債権者の利益を害するからです。
ただし、非義務的偏頗行為の場合に限り、支払不能前であっても、支払不能になる前30日以内の行為は否認の対象になります(162条1項2号)。
なお、非義務的偏頗行為が支払不能後にされた場合は、破産法162条1項2号ではなく、1号によって否認の対象になります。
破産手続開始の申立てが偏頗行為の基準となる場合
支払不能を認定できない(または支払停止がない)場合でも、破産手続開始の申立て後にした偏頗行為は、否認の対象となります。
破産手続開始の申立てをしている以上、破産手続が開始される可能性が高く、すでに破産の準備期間であることが明白だからです。
否認権行使の対象にならない例外的な偏頗行為
既存の債務についての担保供与や債務消滅行為であっても、例外的に偏頗行為否認の対象にならない債務があります(破産法163条)。
- 破産者から手形の支払を受けた者がその支払を受けなければ手形上の債務者の一人または数人に対する手形上の権利を失う場合(破産法163条1項)
- 破産者が租税等の請求権(共助対象外国租税の請求権を除く。)または罰金等の請求権につき、その徴収の権限を有する者に対してした担保の供与または債務の消滅に関する行為(破産法163条3項)
手形債務支払いの場合の例外
破産法 第163条
- 第1項 前条第1項第1号の規定は、破産者から手形の支払を受けた者がその支払を受けなければ手形上の債務者の一人又は数人に対する手形上の権利を失う場合には、適用しない。
- 第2項 前項の場合において、最終の償還義務者又は手形の振出しを委託した者が振出しの当時支払の停止等があったことを知り、又は過失によって知らなかったときは、破産管財人は、これらの者に破産者が支払った金額を償還させることができる。
引用元:e-Gov法令検索
「破産者から手形の支払を受けた者がその支払を受けなければ手形上の債務者の一人又は数人に対する手形上の権利を失う場合」は、破産法162条1項1号による偏頗行為否認の対象になりません(破産法163条1項)。
破産者が降り出した手形が裏書譲渡された場合、振出人である破産者の手形所持人への支払いが否認されると、手形所持人は裏書人に対して請求する権利(遡及権)を失います。そのため、否認権行使が制限されているのです。
ただし、最終の償還義務者(第1裏書人)や手形振出しの委託者が、振出当時、支払停止があったことを知っていたか、過失によって知らなかった場合、破産管財人はこれら最終の償還義務者や手形振出しの委託者に破産者が支払った金額を支払うよう請求できます(破産法163条2項)。
なお、制限されるのは、破産法162条1項1号による偏頗行為否認です。破産者の支払いが非義務的偏頗行為に該当し、破産法162条1項2号によって否認される場合は制限されません。
租税等の請求権の支払いの例外
破産法 第163条
- 第3項 前条第1項の規定は、破産者が租税等の請求権(共助対象外国租税の請求権を除く。)又は罰金等の請求権につき、その徴収の権限を有する者に対してした担保の供与又は債務の消滅に関する行為には、適用しない。
引用元:e-Gov法令検索
「租税等の請求権」や「罰金等の請求権」について担保供与または債務消滅行為がされた場合も、偏頗行為否認の対象になりません。
租税等の請求権とは、国税徴収法または国税徴収の例によって徴収することのできる請求権のことです(破産法97条参照)。具体的には、税金、国民健康保険料、国民年金保険料などです。
また、罰金等の請求権とは、罰金・科料・刑事訴訟費用・追徴金・過料の請求権です。
これらの請求権を地方自治体や税務署、検察庁などに支払ったとしても、否認の対象にはなりません。
偏頗行為否認の効果
破産管財人が偏頗行為を否認すると、その偏頗行為の効果が否定され「破産財団を原状に復させる」ことになります(破産法167条1項)。
担保供与行為の場合であれば担保はないものとして扱われ、債権者は別除権を行使できなくなります。その結果、破産管財人は、別除権の制限なく、財産を換価処分できるようになります。
債務消滅行為の場合であれば、債務消滅行為はなかったものとして扱われます。破産管財人は、債権者に対して債務消滅行為によって得た利益を返還するよう請求し、取り戻した財産を全債権者への弁済・配当に回すことになります。
例えば、破産者が、親族からの借金だけ返済(偏頗弁済)した場合
- 破産管財人が返済(弁済)を偏頗行為として否認
- 弁済の法的効果は否定され、親族は破産管財人に「借金の返済としてお金を受け取ったこと」を対抗(主張)できない
- 弁済がなかったものとして扱われるので、親族の金銭保有に根拠がなくなり、返済金は破産財団に属する金銭として扱われる
- 破産財団に属する財産として扱われるので、破産管財人が返済金の管理処分権を有することになる
- 破産管財人は親族に金銭の返還を求めることができる
- 破産管財人が金銭を管理し、最終的に債権者へ弁済・配当する
債権の復活
破産法 第169条
- 第162条第1項に規定する行為が否認された場合において、相手方がその受けた給付を返還し、又はその価額を償還したときは、相手方の債権は、これによって原状に復する。
引用元:e-Gov法令検索
否認権行使によって、偏頗行為の相手方が受けた給付を返還または価額を支払った場合、相手方の債権は原状に復します(破産法169条)。
原状に復するとは、弁済などを受けていない状態の債権に戻ることを意味します。そのため、相手方は、弁済などを受ける前の債権額で、破産債権者として配当に加わることができます。
転得者に対する否認権行使
破産法 第170条
- 第1項 次の各号に掲げる場合において、否認しようとする行為の相手方に対して否認の原因があるときは、否認権は、当該各号に規定する転得者に対しても、行使することができる。ただし、当該転得者が他の転得者から転得した者である場合においては、当該転得者の前に転得した全ての転得者に対しても否認の原因があるときに限る。
- 第1号 転得者が転得の当時、破産者がした行為が破産債権者を害することを知っていたとき。
- 第2号 転得者が第161条第2項各号に掲げる者のいずれかであるとき。ただし、転得の当時、破産者がした行為が破産債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。
- 第3号 転得者が無償行為又はこれと同視すべき有償行為によって転得した者であるとき。
- 第2項 第167条第2項の規定は、前項第3号の規定により否認権の行使があった場合について準用する。
引用元:e-Gov法令検索
偏頗行為否認が代物弁済であった場合、偏頗行為の相手方だけでなく、相手方または他の転得者から破産者の財産を取得した転得者に対しても行使できることがあります(破産法170条1項)。
転得者に対する偏頗行為否認の要件は、以下のとおりです。
- 偏頗行為の相手方に否認の原因があること
なお、他の転得者から財産を譲り受けた転得者である場合には、その転得者の前に転得した全ての転得者に否認の原因があること(破産法170条1項ただし書き) - 以下のいずれかに該当する場合であること
- 転得者が、転得の当時、破産者がした行為が破産債権者を害することを知っていた場合
- 破産者が法人である場合の理事・取締役等の役員が、転得の当時、破産者がした行為が破産債権者を害することを知って転得した場合
- 破産者が法人である場合の親会社等が、転得の当時、破産者がした行為が破産債権者を害することを知って転得した場合
- 破産者の親族または同居人が、転得の当時、破産者がした行為が破産債権者を害することを知って転得した場合
- 転得者が、無償行為またはこれと同視すべき有償行為によって転得した者である場合
転得者が給付の返還・価額償還をした場合
破産法 第170条の3
- 破産者がした第162条第1項に規定する行為が転得者に対する否認権の行使によって否認された場合において、転得者がその受けた給付を返還し、又はその価額を償還したときは、転得者は、当該行為がその相手方に対する否認権の行使によって否認されたとすれば169条の規定により原状に復すべき相手方の債権を行使することができる。この場合には、前条第4項の規定を準用する。
引用元:e-Gov法令検索
偏頗行為否認の行使を受けた転得者が財産を返還しまたは価額を償還した場合、転得者は、一定範囲で、偏頗行為の相手方が有する債権を行使する権利を取得します(破産法170条の3前段)。
具体的に言うと、仮に相手方が偏頗行為否認を行使されたとすれば、相手方が財産を返還または価額を償還したことにより、破産法169条によって復活したであろう相手方の破産者に対する債権を転得者が代わりに行使できるようになります。
そのため、転得者は、相手方の破産者に対する債権をもって、破産手続の配当に加わることができます。
ただし、行使できる債権は、転得者がその前者から財産を取得するためにした反対給付またはその前者から財産を取得することによって消滅した債権の価額が限度です(破産法170条の3後段、170条の2第4項)。
偏頗行為否認を行使できる期限
破産管財人は、いつまででも偏頗行為を否認できるわけではありません。否認権の行使には一定の期限が決められています。具体的には、否認権行使の制限と除斥期間によって、一定の期限が設けられています。
支払停止があったこと等を理由とする否認権行使の時期的制限
破産法 第166条
- 破産手続開始の申立ての日から1年以上前にした行為(第160条第3項に規定する行為を除く。)は、支払の停止があった後にされたものであること又は支払の停止の事実を知っていたことを理由として否認することができない。
引用元:e-Gov法令検索
破産手続開始の申立日から1年以上前にした偏頗行為は、「支払停止があった後にされたものであること」または「支払停止の事実を知っていたこと」を理由として否認することができません(破産法166条)。
そのため、破産手続開始の申立日から1年以上前にした偏頗行為を、破産法162条1項1号に基づき、債権者が支払停止の事実を知っていたことを理由として否認することできなくなります。
なお、債権者が支払不能または破産手続開始の申立てがあったことを知っていたことを理由に否認する場合には、破産法166条の制限はありません。
否認権の除斥期間
破産法 第176条
- 否認権は、破産手続開始の日から2年を経過したときは、行使することができない。否認しようとする行為の日から10年を経過したときも、同様とする。
引用元:e-Gov法令検索
前記支払停止があったことなどを理由とする場合だけでなく、以下のいずれかの期間を経過すると、すべての偏頗行為の否認権が行使できなくなります。
- 破産手続開始日から2年(破産法176条前段)
- 否認しようとする行為の日から10年(破産法176条後段)
この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
この記事が参考になれば幸いです。
破産法と資格試験
倒産法の基本法が破産法です。破産以外の民事再生法などの倒産法を理解するためにも、破産法を理解しておく必要があります。
この破産法は、司法試験(本試験)や司法試験予備試験の試験科目になっています。分量が多い上に、かなり実務的な科目であるため、イメージも持ちにくい部分があります。
ただし、出題範囲は限られています。そのため、出題範囲に絞って効率的に勉強することが必要です。そのために、予備校や通信講座などを利用するのもひとつの方法でしょう。
STUDYing(スタディング)
・司法試験・予備試験も対応
・スマホ・PC・タブレットで学べるオンライン講座
・有料受講者数20万人以上・低価格を実現
参考書籍
破産法を深く知りたい方やもっと詳しく勉強したい方のために、破産法の参考書籍を紹介します。
破産法・民事再生法(第6版)
著者:伊藤 眞 出版:有斐閣
倒産法研究の第一人者による定番の体系書。民事再生法と一体になっているので分量は多めですが、読みやすいです。難易度は高めですが、第一人者の著書であるため、信頼性は保証されています。
条解破産法(第3版)
著者:伊藤 眞ほか 出版:弘文堂
条文ごとに詳細な解説を掲載する逐条の注釈書。破産法の辞書と言ってよいでしょう。破産法の条文解釈に関して知りたいことは、ほとんどカバーできます。持っていて損はありません。金額面を除けば、誰にでもおすすめです。
破産・民事再生の実務(第4版)民事再生・個人再生編
編集:永谷典雄ほか 出版:きんざい
東京地裁民事20部(倒産部)の現役裁判官による破産実務の解説書。東京地裁の破産事件を扱う実務家必携の本。実務家でなくても、実際の手続運用を知っておくと、破産法をイメージしやすくなるでしょう。
破産管財人の財産換価(第2版)
編集:岡伸浩ほか 出版:商事法務
破産手続における破産管財人の財産換価処分について、財産の種類ごとなどに具体的な手続や方法を解説する実務解説書。実務家向けの本ですが、破産手続における財産処分のイメージをつかめるかもしれません。
司法試験・予備試験など資格試験向けの参考書籍としては、以下のものがあります。
倒産法(LEGAL QUEST)
著者:杉本和士ほか 出版:有斐閣
法科大学院生や司法試験・予備試験受験生向けに書かれた基本書・概説書。破産法だけでなく、倒産法全般について分かりやすくまとめられています。
倒産法講義
著者:野村剛司ほか 出版:日本加除出版
こちらも法学大学院生や司法試験・予備試験受験生向けに書かれた教科書。著者が実務家であるため、実務的な観点が多く含まれていて、手続をイメージしやすいメリットがあります。
倒産法(第3版)伊藤真試験対策講座15
著者:伊藤塾 出版:弘文堂
いわゆる予備校本。予備校本だけあって、実際の出題傾向に沿って内容が絞られており、分かりやすくまとまっています。学習のスタートは、予備校本から始めてもよいのではないでしょうか。



