この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。

不法行為に基づく損害賠償請求権も、相続人に相続されます。
ただし、被害者(被相続人)が不法行為によって死亡(即死)した場合でも相続されるのかについては、否定説・民法711条説・肯定説などの争いがあります。判例・通説は肯定説です。
債権の相続
相続において相続人に承継されるの相続財産(遺産)は、物に限られません。死亡した人(被相続人)が有していた債権も相続財産に含まれ、相続人に承継されます。
例えば、預金債権や貸金債権などは、相続財産として相続人が受け継ぎます。
ただし、債権のうちでも、不法行為に基づく損害賠償請求権が相続人に相続されるのかについては、議論があります。
不法行為に基づく損害賠償請求権とは
民法 709条
- 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
故意または過失によって他人の権利や法律上保護される利益を侵害した人(加害者)には、不法行為責任が成立します。
不法行為責任が成立した場合、被害者は、加害者に対して損害賠償を請求できる権利を取得します。この権利のことを「不法行為に基づく損害賠償請求権」と呼んでいます(民法709条、710条)。
不法行為に基づく損害賠償請求権は、金銭債権であるとはいえ、被害者と加害者との間での示談・和解や判決確定するまで、具体的な権利の内容が確定しない債権です。
また、被害者にのみ発生する権利であるため、相続されない「被相続人の一身に専属する権利」とみることもできます。
そのため、他の債権と異なり、相続財産性が問題になる場合があるのです。特に問題となるのは、不法行為によって被害者が死亡するケース(例えば、交通死亡事故など)です。
なお、結論から先に言ってしまうと、実務では、不法行為に基づく損害賠償請求権が相続の対象となることに争いはありません。あくまで講学上の論点です。
損害賠償請求権の相続財産性
被害者と加害者との示談・和解や損害賠償請求訴訟における判決の確定などによって、すでに権利内容が確定している不法行為に基づく損害賠償請求権は、単純な金銭債権であり、誰が行使しても変わりのないものであるため、一身専属性もありません。
そのため、確定した損害賠償請求権が、相続財産に含まれることについて争いはありません。
他方、確定していない損害賠償請求権の場合は、一身専属的な債権であり、相続されないとする考え方もあります。
しかし、確定していないとはいえ、金銭債権であることに違いはありません。被害者に発生しているものであっても、誰が行使しても変わりない以上、一身専属性があるとはいえません。
確定していない損害賠償請求権も、金銭債権として相続財産に含まれると考えるべきでしょう。実際、相続財産性を認めるのが、判例・通説・実務です。
このように、確定しているか否かにかかわらず、不法行為に基づく損害賠償請求権も相続されると考えられています。
ただし、不法行為によって被害者(被相続人)が死亡した場合は、別の考慮が必要となるため、さらに議論があります。
不法行為によって被害者が死亡(即死)した場合
前記のとおり、不法行為に基づく損害賠償請求権も相続されると考えられます。
しかし、被害者(被相続人)が不法行為によって死亡(即死)した場合は、通常のケースと異なり、不法行為を受けるのと同時に権利主体である被害者が死亡するため、損害賠償請求権も発生しないとも考えられます。
そのため、被害者が不法行為によって即死した場合も損害賠償請求権が相続されるのかについては、講学上、いくつかの考え方があります。
否定説
否定説は、被害者が亡くなると権利の主体が消滅するので、即死の場合は損害賠償請求権が発生せず、相続されることはないとする考え方です。
ところが、否定説の考え方を採用しても、不法行為によって重傷を負った後に死亡した場合は、損害賠償請求権が発生した後に死亡しているので、権利は消滅せずに相続されます。
否定説に対しては、重傷後死亡よりも即死の方が違法性は大きいにもかかわらず、即死の場合の方が被害者や遺族への保護が薄くなり、結論として不均衡・不合理であるとの批判があります。
民法711条説
民法711条説は、否定説と同じく死亡によって権利は発生しないので相続は発生しないものの、遺族は、相続財産としてではなく、遺族固有の損害賠償請求権を取得すると考える見解です。
民法 第711条
- 他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者及び子に対しては、その財産権が侵害されなかった場合においても、損害の賠償をしなければならない。
民法は711条で近親者固有の慰謝料請求を認めています。この民法711条を財産的損害にまで近親者固有の損害賠償請求権を拡大しようとするのが、民法711条説です。
この考え方は,遺族等の保護を厚くしようとしている点で評価できます。
しかし、民法711条説によると、遺族は、被害者が死亡したことによって自分がどのくらいの損害を受けたのか(例えば、被害者が生きていれば毎月一定額の仕送りをもらえたことなど)を立証しなければならないことになります。
現実的に言って,このような間接的損害の立証はかなり困難です。仮に立証したとしても損害賠償額は被害者から相続した場合に比べてかなり減額されます。
そのため、やはり重傷後死亡の場合の方が損害賠償の金額の方が大きくなり、即死の場合との不均衡・不合理は残ってしまいます。
肯定説(判例・通説)
現在では、即死の場合であっても、受傷の時から死亡の時までの間には(現実にはコンマ何秒という単位だったとしても)時間的間隔を観念できるので、受傷時点で損害賠償請求権が発生し死亡の時点でそれが相続されると考える肯定説が通説となっています。
最高裁判所の判例も、肯定説を採用しています。実務ではもはや定説です。
慰謝料請求権の相続
民法 第710条
- 他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。
前記のとおり、不法行為に基づく損害賠償請求権は相続されると考えるのが、通説・判例です。
もっとも,精神的損害についての損害賠償請求権(慰謝料請求権)については、財産的損害とは異なる考慮が必要であると考える見解もあります。
この見解には、財産的損害は客観的に判定できるので、財産的損害の賠償請求誰は誰が有することになっても違いはないが、精神的苦痛は被害者にしか分からないため、慰謝料請求権は被害者の一身に専属する権利であるとの考えが根底にあります。
学説上、財産的損害賠償請求権については相続を認めるものの、慰謝料請求権については相続は認められないとする見解も有力です。
しかし,被害者遺族の保護の観点から、慰謝料請求権についても相続性を認めるべきでしょう。
判例は、慰謝料請求権についても相続されるとしています(最大判昭和42年11月1日)。実務上、慰謝料請求権の相続を認める点に争いはないといってよいでしょう。
相続された損害賠償請求権と近親者固有の慰謝料請求権の関係
これまで述べてきたとおり、慰謝料も含め、被害者の不法行為に基づく損害賠償請求権は相続され、相続人は、加害者に対して、損害賠償を請求できます。
他方、相続人が「父母」「配偶者」「子」であった場合、これら近親者は、民法711条により、近親者固有の慰謝料請求権を取得します。
この民法711条に基づく慰謝料請求権は近親者自身の権利であり、亡くなった被害者から相続した権利とは別の権利です。
そのため、近親者相続人は、加害者に対し、被害者から相続した損害賠償と自身に固有の慰謝料の両方を請求できます。
この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
この記事が参考になれば幸いです。
民法と資格試験
民法は、私法の基本法です。我々の生活に最も身近な法律です。
そのため、例えば、司法試験(本試験)、司法試験予備試験、司法書士試験、行政書士試験、宅建試験、マンション管理士試験・・・など、実に多くの資格試験の試験科目になっています。
これら法律系資格の合格を目指すなら、民法を攻略することは必須条件です。
とは言え、民法は範囲も膨大です。メリハリを付けないと、いくら時間があっても合格にはたどり着けません。効率的に試験対策をするには、予備校や通信講座などを利用するのもひとつの方法でしょう。
STUDYing(スタディング)
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参考書籍
本サイトでも民法について解説していますが、より深く知りたい方や資格試験勉強中の方のために、民法の参考書籍を紹介します。
民法3(親族法・相続法)第5版
著者:我妻榮ほか 出版:勁草書房
いわゆる「ダットサン」シリーズの復刻版。読みやすいので、初学者でも利用できます。意外と情報量もあるので、資格試験の基本書として利用することも可能でしょう。
資格試験向けの参考書籍としては、以下のものがあります。
民法(全)(第3版補訂版)
著者:潮見佳男 出版:有斐閣
1冊で民法総則から家族法まで収録されています。基本書というより入門書に近いでしょう。民法全体を把握するのにはちょうど良い本です。
民法VI 親族・相続 (LEGAL QUEST)第8版
著者:前田陽一ほか 出版:有斐閣
家族法全体の概説書。条文・判例から書かれているので、学習の早い段階から利用できます。情報量もあるので、資格試験の基本書として十分でしょう。
親族・相続(伊藤真試験対策講座12)第4版
著者:伊藤真 出版:弘文堂
いわゆる予備校本。予備校本だけあって、実際の出題傾向に沿って内容が絞られており、分かりやすくまとまっています。民法は範囲が膨大なので、学習のスタートは、予備校本から始めてもよいのではないでしょうか。



