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遺産分割を解除できるか?協議・調停・審判の違いを解説

この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。

Q
遺産分割は解除できる?
A

遺産分割協議であれば、共同相続人全員の合意により解除することができます。一方、遺産分割調停や審判は、解除できません。

このページでは、遺産分割を解除できるのかについて、わかりやすく説明します。

このページで説明していること
  • 遺産分割協議の解除の可否・効力・注意点
  • 遺産分割調停・審判の解除の可否
  • 解除以外に遺産分割がやり直しになる場合

遺産分割とは

相続人が複数人いる場合(共同相続)、相続財産(遺産)は、共同相続人全員の共有または準共有になるのが原則です(遺産共有。民法898条1項)。

この遺産共有を解消して、相続財産の帰属を確定させるためには、「遺産分割」をする必要があります。遺産分割するには、以下の手続をする必要があります。

遺産分割の手続
  • 遺産分割協議
    共同相続人全員が、裁判外で話し合って遺産分割する手続
  • 遺産分割調停
    家庭裁判所の裁判官・調停委員が間に入って、共同相続人全員で話し合う手続
  • 遺産分割審判
    共同相続人の主張・立証や裁判官による審問の結果をもとに、裁判所が遺産分割の内容を決定(審判)する手続

遺産分割を解除できるか?

契約であれば、契約違反(債務不履行や契約不適合)や当事者間での約定・合意がある場合、解除できます。解除されると、契約ははじめから無かったことになるのが原則です(遡及効)。

遺産分割も、契約と同じく法律行為です。そのため、一定の場合には、遺産分割を解除できると考えられています。

以下、遺産分割協議・調停・審判に分けて、遺産分割の解除について説明します。

遺産分割協議の解除

遺産分割協議とは、共同相続人全員で裁判外で話し合って遺産分割をすることです(民法907条1項)。

遺産分割協議は、契約とは異なるものの、当事者間の合意によって法律効果を生じる点では共通しています。そのため、遺産分割協議は、一定の場合解除できると考えられています。

以下、どのような場合に遺産分割協議を解除できるのかについて説明します。

法定解除(債務不履行解除)の可否

契約の場合、当事者に債務不履行があれば解除(法定解除)できます(民法541条、542条)。そこで、遺産分割協議でも、共同相続人等の一部に債務不履行があった場合に解除できるのかが問題になります。

例えば、遺産分割で、共同相続人の一部が特定の遺産を承継する代わりに、代償金を他の共同相続人に支払わなければならない義務が決められていたにもかかわらず、その代償金を支払わなかったようなケースです。

法定解除はできない

この点については、債務不履行解除できるとする見解(肯定説)とできないとする見解(否定説)の両方あります。

もっとも、遺産分割は協議が成立すれば終了し、その後は債務を負担した相続人と他の相続人との間に債権債務関係が残るだけです。

それにもかかわらず、債務不履行解除ができるとすると、再度遺産分割をしなければならず、法的安定性を害するおそれがあります。

そこで、学説では肯定説もありますが、判例は否定説を採用しています(最一小判平成元年2月9日)。

そのため、実務では、相続人の一部が遺産分割協議で定められた債務を履行しない場合であっても、他の相続人は、その遺産分割協議を法定解除することはできないものとされています。

最一小判平成元年2月9日

共同相続人間において遺産分割協議が成立した場合に、相続人の一人が他の相続人に対して右協議において負担した債務を履行しないときであつても、他の相続人は民法541条によつて右遺産分割協議を解除することができないと解するのが相当である。けだし、遺産分割はその性質上協議の成立とともに終了し、その後は右協議において右債務を負担した相続人とその債権を取得した相続人間の債権債務関係が残るだけと解すべきであり、しかも、このように解さなければ民法909条本文により遡及効を有する遺産の再分割を余儀なくされ、法的安定性が著しく害されることになるからである。

引用元:裁判所サイト

債権者である共同相続人が債務の履行を求める方法

上記のとおり、遺産分割で決められた債務が履行されない場合であっても、遺産分割協議を債務不履行解除することはできません。

一部の共同相続人等が債務を履行しない場合は、訴訟や強制執行などによって、債務の履行請求をするほかありません。または、後述する遺産分割を合意解除する方法もあります。

合意解除の可否

遺産分割協議は、当事者間の合意に基づくものです。その当事者全員が解除に合意している以上、解除を否定する理由がありません。

そのため、遺産分割の当事者(共同相続人・包括受遺者・相続分譲受人)の全員が解除に合意した場合は、遺産分割協議を解除できます。

判例も、債務不履行解除はできないとしつつも、共同相続人等の当事者全員の合意によって遺産分割協議を解除することは妨げられないと判示しています(最一小判平成2年9月27日)。

当事者全員の合意で協議を解除した場合は、あらためて遺産分割をやり直す必要があります。

最一小判平成2年9月27日

共同相続人の全員が、既に成立している遺産分割協議の全部又は一部を合意により解除した上、改めて遺産分割協議をすることは、法律上、当然には妨げられるものではなく、上告人が主張する遺産分割協議の修正も、右のような共同相続人全員による遺産分割協議の合意解除と再分割協議を指すものと解されるから、原判決がこれを許されないものとして右主張自体を失当とした点は、法令の解釈を誤ったものといわざるを得ない。

引用元:裁判所サイト

遺産分割協議を合意解除した場合の効力

前記のとおり、遺産分割協議は、債務不履行解除することはできないものの、共同相続人など当事者全員の合意によって解除することが可能です。

ただし、あくまで合意解除であるため、遺産分割協議をした時に遡って遺産分割がなかったことになる(遡及効が生じる)わけではありません。解除の効力が生じるのは、解除した時以降だけです。

遺産分割協議を解除する場合の注意点

上記のとおり、共同相続人など当事者全員の合意によって遺産分割を解除することができますが、以下の点には注意しておく必要があります。

注意点1:第三者の権利を害することはできない

民法 第909条

  • 遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。

引用元:e-Gov法令検索

遺産分割協議を合意解除できるといっても、契約解除のように最初の遺産分割が遡及的に無効になるわけではありません。新たに、再協議できるようになることを意味します。

そして、再協議が成立した場合、その再協議には遡及効が生じます(民法909条本文)。しかし、再協議前に利害関係を持った第三者の権利を害することはできません(民法909条ただし書)。

そのため、最初の協議前に利害関係をもった第三者も含めて、再協議成立前に利害関係をもった第三者の権利を害することはできないことになります。

たとえば、最初の遺産分割協議で相続不動産を取得した相続人から、その不動産を譲り受けた第三者がいた場合、その後に協議が解除されたとしても、第三者に不動産を返還するよう求めることはできません。

注意点2:税金が増える可能性がある

遺産分割協議を解除した後に再協議をした場合、遺産の譲渡や贈与などとして扱われることがあります。そのため、遺産分割を解除した後の再協議では、贈与税や譲渡所得税などが課される可能性があります。

また、最初の遺産分割協議で特定の相続人が不動産を取得して登記した後、再協議で別の相続人がその不動産を取得して登記し直す場合、再度登録免許税や不動産取得税がかかります。

遺産分割協議を解除する場合、税金の支払いが増える可能性がある点には注意しておきましょう。

遺産分割調停の解除の可否

遺産分割調停は、家庭裁判所の裁判官や調停委員を間に入れて、共同相続人全員で話し合って遺産分割をする手続です。

この遺産分割調停で話がつくと、裁判所によって、遺産分割の内容を定めた調停調書が作成されます。この調停調書には確定判決と同一の効力があり、原則として覆すことができません。

そのため、共同相続人全員の合意があったとしても、いったん成立した遺産分割調停を合意解除することはできません。

ただし、遺産分割調停成立後に、共同相続人など当事者全員で再協議することは可能と考えられています。

遺産分割審判の解除の可否

遺産分割審判とは、話し合いではなく、当事者の主張と立証に基づいて家庭裁判所が遺産分割の内容を決定(審判)する手続です。

この遺産分割審判は裁判であるため、裁判によってしか変更したり取り消したりすることはできません。そのため、共同相続人全員の合意があっても、遺産分割審判を解除することはできません。

ただし、遺産分割審判を解除することはできませんが、共同相続人など当事者全員で再協議することは可能と考えられています。

遺産分割の解除以外にやり直しになるケース

前記のとおり、遺産分割協議は、共同相続人など当事者全員の合意があれば解除できます。しかし、遺産分割調停や審判は、解除できません。

もっとも、遺産分割がやり直しになるのは、解除された場合だけではありません。遺産分割が無効または取り消された場合も、やり直すことになります。

遺産分割協議が無効・取り消された場合、解除された場合と同じく、再び遺産分割協議をやり直すことになります。

一方、遺産分割調停や審判の場合は、無効・取消しの原因がある場合でも、当然に無効・取り消されるわけではありません。裁判手続によって無効や取り消しを主張する必要があります。

詳しくは、下記リンク先ページを参照してください。

この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
この記事が参考になれば幸いです。

民法と資格試験

民法は、私法の基本法です。我々の生活に最も身近な法律です。

そのため、例えば、司法試験(本試験)、司法試験予備試験、司法書士試験、行政書士試験、宅建試験、マンション管理士試験・・・など、実に多くの資格試験の試験科目になっています。

これら法律系資格の合格を目指すなら、民法を攻略することは必須条件です。

とは言え、民法は範囲も膨大です。メリハリを付けないと、いくら時間があっても合格にはたどり着けません。効率的に試験対策をするには、予備校や通信講座などを利用するのもひとつの方法でしょう。

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参考書籍

本サイトでも民法について解説していますが、より深く知りたい方や資格試験勉強中の方のために、民法の参考書籍を紹介します。

逐条解説 改正相続法
著者:堂薗幹一郎など 出版:商事法務
民法改正に対応した逐条解説書。相続を扱う実務家向けですが、持っていると何かと便利です。立法担当者や現役裁判官による著書であるため、内容に信頼性があります。

資格試験向けの参考書籍としては、以下のものがあります。

民法(全)(第3版補訂版)
著者:潮見佳男 出版:有斐閣
1冊で民法総則から家族法まで収録されています。基本書というより入門書に近いでしょう。民法全体を把握するのにはちょうど良い本です。

民法VI 親族・相続 (LEGAL QUEST)第8版
著者:前田陽一ほか  出版:有斐閣
家族法全体の概説書。条文・判例から書かれているので、学習の早い段階から利用できます。情報量もあるので、資格試験の基本書として十分でしょう。

親族・相続(伊藤真試験対策講座12)第4版
著者:伊藤真 出版:弘文堂
いわゆる予備校本。予備校本だけあって、実際の出題傾向に沿って内容が絞られており、分かりやすくまとまっています。民法は範囲が膨大なので、学習のスタートは、予備校本から始めてもよいのではないでしょうか。

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