
民法第五編は「相続」について定めています。「相続」とは,亡くなった方の財産をその親族等に承継させるという制度です。
相続とは?
民法第五編は「相続」について定めています。この相続(遺産相続)という言葉は,すでに一般的となっていますから,ことさらに説明するまでもないかもしれません。
法的にいえば,相続とは,被相続人が死亡した場合に,その被相続人の権利義務(相続財産)を相続人に包括的に承継させる法制度ということになります。
つまり,相続によって,被相続人の財産や地位がすべて相続人に引き継がれるということです。これは,プラスの財産(資産)だけでなく,マイナスの財産(負債)も含まれます。
相続とは「ある人の死をきっかけとして,その人が有していた財産や負債等が特定の親族へと移転する」ということです。
相続制度の根拠
なぜ,前記のような相続制度が認められているのか,というのは難しい問題です。
法理論というよりも,むしろ生物学的な血縁関係や社会的な人間関係を尊重しているという方がしっくりくるかもしれませんが,あえて法理論として考えるならば,一般的には,以下のような根拠・理由があるものといわれています。
私有財産制・社会の安定
まず,1つは,現行法が私有財産制をとっていることに根拠が求められます。私有財産制とは,人が生きている間は,財産の私有を認めるという制度のことです。
この私有財産制の下では,個人の財産は,財産を有する人が亡くなっても,別の個人に承継されることが望ましいといえます。
また,仮に相続制度が無かったとすると,ある人の財産は,その人が亡くなった時に主を失い無主物となります。無主物が動産であれば,その動産は最初に取得した人のものとなり,無主物が不動産であれば,国庫に帰属することになります(民法239条)。
もっとも,個人の財産であったものが,その人の死亡によって国庫に帰属することになるというのは,私有財産制を害する可能性があります。極端な話,すべての財産が国のものになってしまい,私有財産制が無意味になることもあるということです。
そこで,私有財産制を維持するという点にも,相続制度の意義・根拠があるといえるでしょう。
さらに,動産の場合には,上記のとおり,無主物先占,つまり,早い者勝ちになります。そうすると,財産を狙って人の死を待ち構えるということになりかねません。
相続制度には,上記のような無主物となることによる不都合を回避し,社会の安定を確保するという根拠があるといえます。
取引の安全の確保
第2の根拠としては,取引の安全が挙げられます。
ある人の死亡によって,その財産に関する権利がなくなってしまったり,逆に債務もなくなってしまったりすると,それを信頼して取引をしていた人や債権者が大きな損失を受ける可能性があります。
そこで,相続人らに被相続人の権利義務を承継させることによって,財産や債務がなくなってしまわないようにして,第三者に損失が生じるのを防止し,取引の安全を図るという点にも,相続制度の根拠・理由があるといえます。
相続人の生活の補償
遺族のうちには,被相続人に依存して生活しているという人もいるでしょう。
そういう遺族が被相続人の死亡によって路頭に迷うようなことがないように,相続という制度を認めて,その生活権を保障する必要性があるということも,相続制度の1つの根拠といえるかもしれません。
相続人の潜在的持分の顕在化
上記生活保障とは逆に,相続人のうちに被相続人の財産形成に貢献した人がいた場合,被相続人の財産の中には,その財産形成に貢献した人の潜在的な持分が含まれていると考えることもできます。
相続という制度は,そういう,被相続人を援けてきた相続人の潜在的持分を現実化させるという点に根拠があると考えることもできるでしょう。