
自己破産をしたからといって、その後の人生・生活が困難になるようなことはありません。借金に追われる生活から解放され、自己破産後の方がむしろ安定した生活を送れるようになるのが通常です。
とはいえ、何らのデメリットもない手続というわけでもありません。自己破産後の人生や生活にある程度の影響を及ぼす場合もあります。
自己破産した後の人生・生活への影響
「自己破産をすると、その後の人生は終わり」と勘違いしている人もいるかもしれませんが、そのようなはずがありません。
そもそも自己破産・免責の制度は、債務者の経済的な更生を図るための制度ですから、自己破産をした後も人生・生活を送っていけるような制度設計になっています。
実際、年間7万件近く、自己破産をする人がいますが、その後も普通の生活を送っている人が大半です。
自己破産をして裁判所から免責許可を受けることによって、借金の支払義務を免れることができます。借金に追われる生活から解放され、自己破産後の方がむしろ安定した生活を送れるようになるからです。
とはいえ、何らのデメリットもない手続というわけでもありません。自己破産後の人生や生活にある程度の影響を及ぼす場合もあります。
以下では、自己破産後の人生・生活について説明していきます。
自己破産前の借金・債務
自己破産をして裁判所から免責を許可してもらうと、自己破産前にあった借金・債務の支払義務を免れることができます。
つまり、自己破産・免責許可の後は、自己破産前にあった借金・債務を支払わなくてもよいことになっているのです。
これによって、平穏な生活を取り戻すことができ、生活の再建に向けて行動することができるようになります。
自己破産前の借金・債務はどうなるのか?
上記のとおり、自己破産をして免責許可の決定を受けることにより、自己破産前にあった借金・債務の支払義務を免れることができます。
自己破産・免責後に、自己破産前にあった借金・債務を支払う必要はなくなります。
債権者から督促や嫌がらせを受けることはないか?
自己破産・免責をした後、債権者から督促されたり、嫌がらせなどを受けるのではないか、というご質問を受けることはありますが、そのような心配はまず無いと思っておいていただいて問題ないでしょう。
特に、債権者が金融機関・貸金業者・債権回収会社の場合には、連絡が来ることさえ無くなるでしょう。
ただし、金融関係でない債権者や闇金の場合には、何らかの連絡が来る可能性がゼロではありません。しかし、免責を許可されている以上、そのような督促に応じる必要はありません。
滞納していた税金や国民健康保険料はどうなるのか?
税金・国民健康保険料・国民年金保険料・罰金などは、非免責債権とされており、免責の対象外となっています。
そのため、自己破産をして免責を許可されたとしても、滞納していた税金などは支払わなければならないとされています。
一括での納付が難しい場合には、所管の税務署等に連絡して、分納等にしてもらうよう話をしておく必要があります。
保証人・連帯保証人の支払いは続くのか?
自己破産・免責によって債務の支払義務を免れることができるのは、自己破産をした債務者本人のみです。保証人や連帯保証人の支払義務はそのまま残っています。
したがって、債務者が自己破産・免責許可された後も、保証人・連帯保証人等は、債務者の代わりに保証債務を支払っていかなければなりません。
自己破産後の新たな借入れ等
自己破産した後に借入れをしてはいけないという決まりがあるわけではありません。借入れをすることは可能です。
もっとも、自己破産をすると、信用情報に事故情報(いわゆるブラックリスト)として登録されますので、新たに借入れ等をすることはかなり難しくなるでしょう。
また、借金をしたことで自己破産をしているのですから、自己破産した後にまで、安易に借金をすることは望ましくありません。
新たに借入れやクレジットカードを作れるか?
前記のとおり、借入れをしたり、クレジットカードを作ることが禁止されているわけではありません。
しかし、信用情報に事故情報(いわゆるブラックリスト)として登録されますから、自己破産後に、新たに借入れをしたり、クレジットカードを作ることはかなり難しくなるでしょう。
このブラックリストに登録される期間は、破産手続開始決定から7年間または免責許可決定を受けてから5年間ほどと言われています。
なお、借入れ等が難しくなるからと言って、闇金等から借金をしてしまうと、厳しい取り立てなどを受け自己破産どころではなくなってしまいますので、絶対に借りないようにしてください。
新たにローンを組んで不動産や自動車等を購入できるか?
前記のとおり、ローンを組むことが禁止されているわけではありません。また、自己破産後に財産を取得することも禁止されていません。
しかし、ブラックリストに登録されるため、登録されている期間中に、新たにローンを組んで不動産や自動車等の物品を購入することは非常に難しくなるでしょう。
このブラックリストに登録される期間は、破産手続開始決定から7年間または免責許可決定を受けてから5年間ほどと言われています。
なお、ブラックリストに登録さている期間中でも、ローンではなく、現金で購入する分には差し支えありません。
自己破産後に誰かの保証人になることはできるか?
自己破産をしたからといって、保証人等になることが禁止されているわけではありません。
しかし、ブラックリストに登録されますから、信用情報を確認できる金融機関等の借金の保証人等になることは難しいでしょう。
自己破産後の財産・資産
自己破産をすると、破産手続開始の時に持っている財産・資産は、裁判所が選任した破産管財人によって換価処分されます。
ただし、すべての財産が処分されるわけではなく、生活に最低限度必要となる財産は処分されません。自己破産をしても処分しなくてよい財産のことを「自由財産」と言います。
自己破産をした後でも、自由財産は持っておけます。それ以外の財産は処分されるため、処分された財産によっては、自己破産後の生活に影響を及ぼすことがあるでしょう。
持ち家などの財産はどうなるのか?
上記のとおり、自己破産をすると、自由財産を除く財産は破産管財人によって換価処分されます(自由財産については後述)。
持ち家は自由財産に該当しませんから、処分されることになります。住宅ローン等の担保になっている場合には、競売によって売却処分されることもあります。
自己破産前に持ち家に住んでいたという場合には、引っ越しをしなければなりません。
自己破産した後も持っておける財産はあるのか?
前記のとおり、自己破産をしても、自由財産に該当するもの自己破産した後も持っておくことができます。
自由財産に該当するのは、以下のものです。
- 新得財産(破産法34条1項)
- 差押禁止財産(破産法34条3項2号)
- 99万円以下の現金(破産法34条3項1号)
- 裁判所によって自由財産の拡張が認められた財産(破産法34条3項4号)
- 破産管財人によって破産財団から放棄された財産(破産法78条2項12号)
また、東京地方裁判所や大阪地方裁判所など多くの裁判所では、自由財産として扱われる財産の範囲を拡大する基準(換価基準・自由財産拡張基準)を設けています。
例えば、東京地裁では、以下の財産も自由財産として扱われています。
これらのもの以外でも、裁判所が自由財産の範囲の拡張を認めたものは、自由財産として自己破産後も持っておくことが可能な場合があります。
自己破産後に新たに財産を取得してもよいのか?
自己破産によって処分されるのは、破産手続開始時に所有している財産です。開始後に取得した財産(新得財産)は、自由財産として、処分しなくてもよいものとされています。
したがって、自己破産した後に新たに財産を取得することは、当然、許されますし、処分の必要もありません。
新たに預金口座を開設することはできるか?
自己破産したからと言って、預金口座を開設できなくなることはありません。当然、自己破産後も預金口座を開設できます。
自己破産後の仕事や就職
自己破産をしたからといって、仕事や就職をしてはいけないというような決まりはもちろんありません。むしろ、生活再建のため、仕事をして収入を得ていた方がよいに決まっています。
ただし、破産手続が開始されると、一定の資格の利用が制限されます。例えば、警備員、保険外交員、宅建資格などです。もっとも、この資格制限も、裁判所によって免責が許可されれば解除されます。
したがって、資格制限によって仕事や就職に支障が生じるのは、破産手続の間だけで、自己破産後には何も影響は生じません。
仕事を続けていけるのか?
前記のとおり、自己破産したからと言って、仕事を辞めなければならないようなことはありません。自己破産後も仕事を続けていくことは、当然できます。
資格制限も、免責が許可されれば解除されますから、自己破産後は、資格を使った仕事も再開できます。
また、自己破産をしたことは、勤務先から借入をしている場合など以外に通知されることはありませんから、自己破産をしたことが知られてしまって、勤務先から解雇されるということもないでしょう。
ただし、自己破産したことは官報に掲載されます。金融機関や保険会社など官報をチェックする仕事の場合には、自己破産をしたことが知られてしまうことはあり得ます。
退職金をもらうことはできるのか?
自己破産をした後でも、会社を退職する際に、退職金規程があれば、退職金をもらうことができます。
ただし、実際に退職していない場合でも、破産手続開始の時点で、退職金をもらう権利を持っているときは、その退職金をもらう権利も、財産として扱われます。
そのため、実際に退職する必要はありませんが、破産手続開始の時点で退職したと仮定して、その時点でもらえる退職金見込額の4分の1(東京地裁では8分の1)の額を裁判所に納めなければならないものとされています。
資格の制限はいつまで続くのか?
自己破産をすると、手続の開始後、一定の資格を使うことができなくなります。ただし、免責が許可されると、資格の制限は解除されます。
したがって、自己破産の後は、資格を使って仕事を再開できます。
なお、万が一、免責が不許可になった場合でも、返済を終わらせれば復権の手続をとることによって、資格を使えるようになります。
新たに個人事業を始めることはできるか?
自己破産をすると、事業設備の処分や従業員を解雇しなければならないので、個人事業を廃業しなければならなくなるのが通常です(常に事業廃止となるわけではありません。)。
もっとも、自己破産をした後、再び、個人事業を始めることは可能です。
ただし、事業設備などは処分され、従業員もいなくなっていることがありますので、新たに事業設備をそろえたり、従業員を雇ったりしなくてはなりません。
また、自己破産により信用を失っている場合もあります。その場合には、新たな取引先や顧客を探さなければならないでしょう。
会社の取締役・役員になることはできるか?
自己破産をすると、役員と法人・会社との委任関係は終了します。そのため、いったんは役員を退任する必要があります。
もっとも、破産手続き開始後に取締役など役員になることは禁止されていません。
したがって、自己破産後、株主総会で選任されて役員になることは可能です。自身で会社を設立し、その役員になることも可能です。
自己破産後の住居・住まい
自己破産をすると、財産の処分がされます。住居が持ち家であった場合、その持ち家は処分されますので、自己破産する前または申立て後に、転居しなければなりません。
住居が賃借しているものである場合は、自己破産をしたからといって賃貸借契約を解除されることはありません。家賃を支払っている限り、従前どおり、その住居に住んでいることができます。
借りていた家・部屋を追い出されることはあるのか?
前記のとおり、自己破産をしたとしても、借りている家・部屋の賃貸借契約を解約されることはありません。自己破産後も、家賃を支払っていれば済み続けることが可能です。
ただし、数か月分(一般的には3か月分以上)の家賃滞納がある場合、その滞納家賃は自己破産・免責により支払わなくてもよくなりますが、賃貸人(貸主)によって、債務不履行を理由に、契約を解約されることがあります。
借りている家・部屋の賃貸借契約を更新できないのか?
自己破産をすると、信用情報に事故情報(いわゆるブラックリスト)に登録されます。
そのため、住み続けられる場合でも、賃貸保証会社が信販系の会社であるときは、ブラックリストを確認できるため、契約更新の際などに賃貸保証の更新を拒絶される可能性があります。
その場合には、信販系でない賃貸保証会社に変更するか、保証会社利用ではなく連帯保証人に変更してもらうなどの措置が必要となるでしょう。
新たに引っ越しをして家を借りることはできるか?
自己破産をすると、裁判所の許可なく転居をしたり、海外旅行に行くことはできなくなります。ただし、この居住の制限は、破産手続の間だけの制限です。
したがって、自己破産後に新たに引っ越しをして家を借りることは、もちろん可能です。
ただし、上記のとおり、賃貸保証会社が信販系の会社であるときは、ブラックリストを確認できるため、新居の賃貸借契約の賃貸保証を拒絶される場合があります。
その場合には、信販系でない賃貸保証会社に変更するか、保証会社利用ではなく連帯保証人に変更してもらうなどの措置が必要となるでしょう。
新たに引っ越しをする場合、裁判所の許可はいつまで必要か?
上記のとおり、転居をしたり、海外旅行に行くことについて裁判所の許可を必要とするのは、破産手続の間だけの制限です。破産手続が終了すれば、居住制限は解除されます。
したがって、自己破産後は、新たに引っ越しをする場合に裁判所の許可を得る必要はありません。
海外に旅行や出張に行ってもよいのか?
前記のとおり、転居をしたり、海外旅行に行くことについて裁判所の許可を必要とするのは、破産手続の間だけの制限です。破産手続が終了すれば、居住制限は解除されます。
したがって、自己破産が終わった後に、海外に旅行や出張に行っても問題はありません。また、裁判所の許可も不要です。
再度の債務整理
自己破産をして免責を許可してもらった後に、借金等が増えてしまい、再度、債務整理をする場合があり得ます。
ただし、一度自己破産をしている以上、再度、債務整理をすることは簡単ではありません。
もう一度自己破産をすることはできるのか?
自己破産をして免責を許可してもらった場合、免責許可決定が確定した日から7年間は、そのこと自体が、再度、自己破産した場合の免責不許可事由になります。
つまり、免責許可決定を得て、それが確定した日から7年間は、再度の自己破産をしても、免責が不許可になる可能性があるということです(ただし、裁判官の裁量によって免責が許可されることもあります。)。
なお、最初の自己破産のとき免責が不許可であった場合には、上記の制限はありません。
自己破産した後に個人再生をすることはできるのか?
個人再生には、小規模個人再生と給与所得者等再生の2種類の手続があります。
このうち、小規模個人再生の場合は、自己破産をした後でも、特に制限はなく申立てをすることができます。ただし、自己破産をした時と同じ債権者は、不同意回答をする可能性はあります。
他方、給与所得者等再生の場合には、前記再度の自己破産の場合と同様の制限があります。
すなわち、自己破産をして免責を許可してもらった場合、免責許可決定が確定した日から7年間は、給与所得者等再生を申し立てることができなくなります(申立てをしても却下されます。)。
自己破産した後に任意整理をすることはできるのか?
任意整理には、前記の再度の自己破産や給与所得者等再生のような制限はありません。したがって、自己破産した後に任意整理をすることは可能です。
ただし、自己破産したときと同じ債権者である場合、話し合いができない可能性はあります。
免責不許可になった場合はどうなるのか?
自己破産をしたものの免責が不許可になった場合、借金・債務の支払義務は免除されません。
したがって、従前のとおり返済をしなければなりません(配当がされている場合は、配当額を除いた金額の返済になります。)。期限の利益も失われていますので、一括での返済が求められます。
返済が困難である場合には、自己破産以外の債務整理(個人再生や任意整理)などを検討する必要があるでしょう。
なお、自己破産手続において換価処分された財産は、戻ってくることはありません。
また、免責不許可の場合、資格の制限は解除されません。資格制限を解除するためには、全額の返済をするなどして債務を解消した上で裁判所に復権の申立てをする必要があります。