この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
- Q詐害行為否認とは?
- A
詐害行為否認とは、破産者による破産債権者を害する行為(詐害行為)の効力を否定して、破産財団から流出した財産を破産財団に回復させる破産管財人の権能のことをいいます。
このページでは、詐害行為否認について詳しく説明します。
- 詐害行為否認とは何か
- 詐害行為否認の5つのタイプとそれぞれの要件
- 詐害行為が否認された場合の効果
- 詐害行為を否認できる期限
- 詐害行為否認と民法上の詐害行為取消権の違い

破産管財人の否認権とは
破産手続では、破産者の財産は破産財団として破産管財人の管理下に置かれ、最終的に換価処分されて、債権者に弁済または配当されます。
もっとも、本来であれば破産財団に組み入れられるはずの財産が、破産手続開始前に、不当または不公平な行為によって破産者の手元から流出していることがあります。
この不当・不公平な行為を是正して、流出した財産を破産財団に取り戻すため、破産管財人には「否認権」と呼ばれる権限が与えられています。
否認権とは、破産手続開始前に行われた破産者の行為(または破産者と同視できる第三者の行為)の効力を否定して、破産財団の回復を図る形成権たる破産管財人の権能のことです。
否認権が行使されると、破産者が行った行為の効力が否定され、流出した財産が第三者から破産財団に取り戻されます。破産管財人は、取り戻した財産を破産財団に属する財産として換価処分することになります。
詐害行為否認とは
破産管財人の否認権には、主として「詐害行為否認(詐害否認)」と「偏頗行為否認(偏頗否認)」の2つの種類があります。
詐害行為否認とは、破産債権者を害する行為(詐害行為)を対象として否認権を行使することです。
法人・事業者の破産における詐害行為否認の具体例
法人・事業者の破産の場合に詐害行為否認が問題となるケースとしては、例えば、以下のようなものがあります。
- 法人の在庫や機械などを代表者や役員、その家族などの個人名義に変更した
- 取引先に、法人の財産を無償または市場価格よりも安い値段で売却した(廉価売却)
- 関連会社に、事業を無償または市場価格よりも安い値段で譲渡した
- 退職金規程がないのに、退職金の名目で代表者や役員に金銭を支払った
個人(消費者)の破産における詐害行為否認の具体例
個人(消費者)の破産の場合に詐害行為否認が問題となるケースとしては、例えば、以下のようなものがあります。
なお、個人の自己破産における詐害行為否認については、下記リンク先を参照してください。
詐害行為否認の対象(詐害行為否認の類型)
詐害行為否認では、以下の破産者(または破産者と同視できる第三者)の行為が対象となります。
- 破産者が破産債権者を害することを知ってした破産債権者を害する行為(破産法160条1項1号)
- 破産者が支払停止または破産手続開始の申立てがあった後にした破産債権者を害する行為(破産法160条1項2号)
- 詐害的債務消滅行為(破産法160条2項)
- 無償行為(破産法160条3項)
- 破産者が相当対価を得てした処分行為(破産法161条)
これらは、対象となる行為ごとに否認の要件が異なります。以下、それぞれの類型ごとに詳しく説明します。
タイプ1:破産者が破産債権者を害することを知ってした破産債権者を害する行為の否認(破産法160条1項1号)
破産法 第160条
- 第1項 次に掲げる行為(担保の供与又は債務の消滅に関する行為を除く。)は、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。
- 第1号 破産者が破産債権者を害することを知ってした行為。ただし、これによって利益を受けた者が、その行為の当時、破産債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。
引用元:e-Gov法令検索
「破産者が破産債権者を害することを知ってした詐害行為」は、否認権行使の対象になります(破産法160条1項1号本文)。
破産債権者を害することを知りつつ詐害行為している以上、悪質性が大きいため、特に期間の制限もなく、否認権行使の対象とされます。
詐害行為否認の最も基本的な類型です。
破産債権者を害することを知ってした詐害行為の否認の要件
破産債権者を害することを知ってした詐害行為を否認するための要件は、以下のとおりです。
- 破産者が破産債権者を害する行為をしたこと(詐害行為)
- 破産者が、詐害行為の当時、破産債権者を害することを知っていたこと(詐害意思)
- 詐害行為によって利益を受けた者が、詐害行為の当時、破産債権者を害することを知っていたこと(受益者の悪意)
破産法160条1項1号によって否認権を行使するには、詐害行為の当時、破産者が破産債権者を害することを知っていただけでなく、詐害行為の受益者も破産債権者を害することを知っていたこと(悪意)が必要です(破産法160条1項1号ただし書き)。
破産者は破産債権者を害することを知っていたとしても、受益者は何も知らなかった場合には、否認権を行使できません。
なお、「破産債権者と受益者がともに破産債権者を害することを知っていたこと」は、破産管財人が主張立証しなければいけません。
詐害行為の意味
破産法160条1項1号(後述の2号も含む)で否認の対象となるのは、「破産債権者を害する行為(詐害行為)」です。
「破産債権者を害する」とは、債権者の共同担保が減少して債権者が満足を得られなくなることを意味します(最一小判昭和40年7月8日)。
より具体的に言うと、詐害行為とは、実質的危機時期に債務者の責任財産を絶対的に減少させる行為です。
相対的減少ではなく、絶対的減少です。そのため、相当な対価を得て財産を処分した場合は、詐害行為にはなりません(ただし、後述する破産法161条による否認の対象になることはあります。)。
また、本来自分の財産を処分することは自由です。そのため、否認の対象となるのは、破産の準備段階として、債権者のために責任財産を確保しておかなければならなくなった時期(実質的危機時期)における行為に限られます。
具体的には、支払不能または債務超過に陥った後(または陥ることが確実に予測される時期)は、実質的危機時期として扱われると解されています。
タイプ2:破産者が支払停止または破産手続開始の申立てがあった後にした破産債権者を害する行為の否認(破産法160条1項2号)
破産法 第160条
- 第1項 次に掲げる行為(担保の供与又は債務の消滅に関する行為を除く。)は、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。
- 第2号 破産者が支払の停止又は破産手続開始の申立て(以下この節において「支払の停止等」という。)があった後にした破産債権者を害する行為。ただし、これによって利益を受けた者が、その行為の当時、支払の停止等があったこと及び破産債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。
引用元:e-Gov法令検索
「破産者が支払停止または破産手続開始の申立てがあった後にした破産債権者を害する行為(詐害行為)」も、否認権行使の対象になります(破産法160条1項2号本文)。
支払停止または破産手続開始の申立て後にされた詐害行為については、破産者が破産債権者を害することを知らなかった場合でも、否認権行使の対象になります。
支払停止・破産手続開始の申立て後にした詐害行為の否認の要件
破産者が支払停止または破産手続開始の申立て後にした詐害行為を否認するための要件は、以下のとおりです。
- 破産者が破産債権者を害する行為をしたこと(詐害行為)
- 詐害行為をしたのが、支払停止または破産手続開始の申立ての後であること
- 詐害行為によって利益を受けた者が、詐害行為の当時、支払停止または破産手続開始の申立てがあったこと、および破産債権者を害することを知っていたこと(受益者の悪意)
破産法160条1項2号によって否認権を行使する場合、破産者が破産債権者を害することを知っていること(詐害意思)は必要はありません。
破産者が破産債権者を害することを知らなかったとしても、支払停止または破産手続開始の申立て後の詐害行為であれば、否認権行使の対象になります。
ただし、破産法160条1項2号によって否認権を行使するには、詐害行為の受益者が、「支払停止または破産手続開始の申立てがあったこと」と「破産債権者を害すること」を両方知っていた場合に限られます(破産法160条1項2号ただし書き)。
破産者の詐害意思が不要とされる理由
前記のとおり、支払停止または破産手続開始の申立て後にされた詐害行為については、破産者が破産債権者を害することを知らなかった場合でも、否認権行使の対象になります。
破産者が支払停止をすると支払不能とみなされ、以降は「危機時期」として扱われます。この危機時期はすでに破産の準備期間であり、むやみに財産の処分をせずに債権者に配当されるべき責任財産を確保しておくべき期間であると考えられています。
破産手続開始の申立てをした場合は、破産手続が始まることが明らかであるため、支払停止があった場合以上に財産の処分をすべきではありません。
そのため、支払停止や破産手続開始の申立て以降に詐害行為をすることは、破産債権者を害することを知ってした場合と同視できるほどに悪質な行為であるといえます。
そこで、支払停止や破産手続開始の申立て以降の破産債権者を害する行為については、破産債権者を害することを知っていたかどうかを問わず、否認権行使の対象となるとされているのです。
支払停止の具体例
支払停止とは、債務者が資力欠乏のため一般的かつ継続的に債務の支払をすることができないと考えてその旨を明示的又は黙示的に外部に表示する行為のことです(最一小判昭和60年2月14日・集民144号109頁)。
例えば、以下のような行為が支払停止に該当すると判断されるケースがあります。
- 店舗の閉鎖や事業の廃止(廃業)
- 事業所から夜間に什器等を持ち出す行為(いわゆる夜逃げ行為)
- 2回目の手形不渡りによって銀行取引停止処分になった場合
- 債務者の代理人弁護士が、債権者に支払いを停止する旨の受任通知(介入通知)を一斉に送付した場合(最二小判平成24年10月19日)
これらの支払停止行為をした後に詐害行為をすると、否認権行使の対象となります。
タイプ3:詐害的債務消滅行為の否認(破産法160条2項)
破産法 第160条
- 第2項 破産者がした債務の消滅に関する行為であって、債権者の受けた給付の価額が当該行為によって消滅した債務の額より過大であるものは、前項各号に掲げる要件のいずれかに該当するときは、破産手続開始後、その消滅した債務の額に相当する部分以外の部分に限り、破産財団のために否認することができる。
引用元:e-Gov法令検索
債務を消滅させる行為は、偏頗行為として否認権行使の対象になるのが通常です。そのため、基本的に詐害行為に含まれません(破産法160条1項括弧書き)。
債務を消滅させる行為として代表的なものは弁済です。例えば、借金を物で返済(代物弁済)する行為も、債務を消滅させる行為です。
ただし、債務消滅行為であっても、特に破産債権者を害する程度が大きいもの(詐害的債務消滅行為)については、破産法160条2項によって詐害行為否認の対象になる場合があります。
詐害的債務消滅行為の否認の要件
詐害的債務消滅行為を否認するための要件は、以下のとおりです。
- 破産者が債務消滅行為をしたこと
- 債務消滅行為によって消滅した債務の額より債権者の受けた給付の価額が過大であること
- 破産法160条1項1号または2号の要件を充たしていること
破産法160条2項によって否認できるのは、債務消滅行為によって消滅した債務よりも債権者の受けた給付の方が過大な場合だけです。消滅した債務の方が債権者の受けた給付よりも小さい場合は否認できません。
例えば、100万円の借金を返済するために、破産者が50万円の物を債権者に交付して代物弁済したことにより借金がなくなった場合、債権者の受けた給付の方が小さいため、否認権行使はできません。
また、前記の破産法160条1項1号(破産債権者を害することを知ってした詐害行為の否認)または2号(支払停止または破産手続開始の申立て後にした詐害行為の否認)のいずれかの要件を充たしていることも必要となります。
なお、破産法160条2項によって否認できない場合でも、偏頗行為として否認されることはあります。
詐害的債務消滅行為の否認の効果
破産法160条2項によって否認されるのは、詐害的消滅行為のうち消滅した債務よりも過大な部分だけです。
例えば、80万円の借金を返済するために、破産者が100万円の物を債権者に交付して代物弁済したことにより借金がなくなった場合、否認できるのは20万円だけです。
タイプ4:無償行為の否認(破産法160条3項)
破産法 第160条
- 第3項 破産者が支払の停止等があった後又はその前6月以内にした無償行為及びこれと同視すべき有償行為は、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。
引用元:e-Gov法令検索
「支払停止または破産手続開始の申立て後またはその前6か月以内にした無償行為」も、否認の対象になります(破産法160条3項)。
無償行為とは、何らの対価も得ずに財産処分や債務負担をする行為です。例えば、最も典型的な無償行為は、財産の贈与(ただであげる)です。
何らの対価も得ない以上、債務者の責任財産がただ減少するだけです。破産債権者に与える不利益は、他の詐害行為と比べても最も大きいと言えます。
そのため、無償行為(またはこれと同視できる有償行為)は、破産者に破産債権者を害する意思(詐害意思)がない場合も、否認の対象となるとされています。
無償行為否認の要件
無償行為を否認するためには、以下の要件が必要です。
- 破産者が無償行為(またはこれと同視できる有償行為)をしたこと
- 無償行為(またはこれと同視できる有償行為)が、支払停止または破産手続開始の申立て後、ないしはその前6か月以内にされたものであること
破産法160条3項の対象となるのは、無償行為です。ほとんどただ同然に近い金額で財産を売却した場合のような、無償行為と同視できる有償行為も否認の対象となります。
ただし、無償行為(またはこれと同視できる有償行為)が、支払停止または破産手続開始の申立て後ないしはその前6か月以内にされたものに限られます。
対象となる期間が区切られているのは、事情を知らない無償行為の受益者の利益を保護するためです。
無償行為の具体例
否認の対象となる無償行為としては、例えば以下のものがあります。
- 持っている財産を他人に贈与した
- 持っている財産を他人に、ただ同然の金額で売り渡した
- 何の対価ももらわずに、他人の借金を肩代わりして支払った
- 何の対価ももらわずに、他人の借金の連帯保証人になった(最二小判昭和62年7月3日)
- 何の対価ももらわずに、自分が経営する会社の借金の連帯保証人になった(上記最二小判昭和62年7月3日)
無償行為否認の効果
無償行為が否認された場合、無償行為の相手方は、受け取った財産を破産管財人に引き渡さなければいけません。
ただし、無償行為の相手方が、無償行為の当時、「支払停止または破産手続開始の申立てがあったこと」および「破産債権者を害すること」をいずれも知らなかった場合は、現に受けている利益だけ返還すれば足ります(破産法167条2項)。
また、無償行為の相手方等から財産を譲り受けた転得者に否認権を行使できる場合も同様です。
転得者が、無償行為の当時、「支払停止または破産手続開始の申立てがあったこと」および「破産債権者を害すること」をいずれも知らなかった場合は、現に受けている利益だけ返還すれば足ります(破産法170条2項、167条2項)。
タイプ5:相当対価を得てした処分行為の否認(破産法161条)
破産法 第161条
- 第1項 破産者が、その有する財産を処分する行為をした場合において、その行為の相手方から相当の対価を取得しているときは、その行為は、次に掲げる要件のいずれにも該当する場合に限り、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。
- 第1号 当該行為が、不動産の金銭への換価その他の当該処分による財産の種類の変更により、破産者において隠匿、無償の供与その他の破産債権者を害することとなる処分(以下「隠匿等の処分」という。)をするおそれを現に生じさせるものであること。
- 第2号 破産者が、当該行為の当時、対価として取得した金銭その他の財産について、隠匿等の処分をする意思を有していたこと。
- 第3号 相手方が、当該行為の当時、破産者が前号の隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたこと。
引用元:e-Gov法令検索
詐害行為とは、債務者の責任財産を絶対的に減少させる行為です。
相当な対価を得て財産を処分した場合、処分した財産は失われるものの、代わりに相当な対価を得て財産が増えているため、財産全体でみれば増減がありません。
そのため、債務者の責任財産は絶対的に減少するわけではないので、詐害行為とはいえず、詐害行為否認の対象とならないはずです。
もっとも、隠匿・費消しにくい財産(不動産など)を隠匿・費消しやすい性質の財産(金銭)に換えてしまうと、簡単に隠匿・費消できるようになってしまい、破産債権者に不利益を与えるおそれがあります。
そこで、相当対価を得てした処分行為であっても、財産の変更によって破産債権者を害するおそれを生じさせる場合には、否認の対象になるとされています(破産法161条1項)。
相当対価を得てした処分行為の否認の要件
破産法161条1項によって相当対価を得てした処分行為を否認するには、以下の要件が必要です。
- 破産者が相当な対価を得て自分の財産を処分したこと
- 処分行為によって、不動産の金銭への換価その他の財産の種類の変更があったこと
- 財産の種類の変更によって、隠匿、無償の供与その他の破産債権者を害することとなる処分(隠匿等の処分)をするおそれを現に生じさせたこと
- 破産者が、処分行為の当時、対価として取得した金銭その他の財産について、隠匿等の処分をする意思を有していたこと
- 処分行為の相手方が、処分行為の当時、破産者が隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたこと
破産法161条1項によって否認できるのは、ただの処分行為ではなく、財産の種類の変更によって財産隠しなど破産債権者を害することになる処分をするおそれが生じるものに限られます。
また、破産者に、対価として取得した金銭などを隠匿したり他人にあげてしまったりしようとする意志があり、相手方もその破産者の意思を知っていたことが必要です。
これら「破産者に隠匿等をする意思があること」や「相手方が破産者の意図を知っていたこと」は、破産管財人が主張立証しなければいけません。
処分行為の相手方の悪意の推定
破産法 第161条
- 第2項 前項の規定の適用については、当該行為の相手方が次に掲げる者のいずれかであるときは、その相手方は、当該行為の当時、破産者が同項第2号の隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたものと推定する。
- 第1号 破産者が法人である場合のその理事、取締役、執行役、監事、監査役、清算人又はこれらに準ずる者
- 第2号 破産者が法人である場合にその破産者について次のイからハまでに掲げる者のいずれかに該当する者
イ 破産者である株式会社の総株主の議決権の過半数を有する者
ロ 破産者である株式会社の総株主の議決権の過半数を子株式会社又は親法人及び子株式会社が有する場合における当該親法人
ハ 株式会社以外の法人が破産者である場合におけるイ又はロに掲げる者に準ずる者- 第3号 破産者の親族又は同居者
引用元:e-Gov法令検索
前記のとおり、破産法160条1項によって相当対価を得てした処分行為を否認するには、相手方が破産者の隠匿等の処分をする意思を知っていたことが必要です。
この「相手方が破産者の隠匿等の意思を知っていたこと」は、否認権を行使する破産管財人が主張立証しなければいけませんが、相手方の内心を主張立証するのは簡単ではありません。
そこで、破産管財人の主張立証責任の負担を軽減するため、相手方が破産者と一定の関係にある者である場合は、「相手方が破産者の隠匿等の意思を知っていた」ものと推定されます(破産法161条2項)。具体的には、以下の者に推定が生じます。
- 法人破産の場合
- その法人の理事、取締役、執行役、監事、監査役、清算人またはこれらに準ずる者
- 破産者が株式会社である場合
- 総株主の議決権の過半数を有する者
- 総株主の議決権の過半数を子株式会社または親法人および子株式会社が有する場合における当該親法人
- 破産者が株式会社以外の法人である場合
- 総社員の議決権の過半数を有する者
- 総社員の議決権の過半数を子法人または親法人および子法人が有する場合における当該親法人
- 個人破産の場合
- 破産者の親族または同居人
なお、あくまで推定であるため、相手方が「破産者の隠匿等の意思を知らなかったこと」を主張立証できれば、推定は覆ります。
詐害行為否認の効果
破産管財人が詐害行為等を否認すると、その行為の効力は否定され「破産財団を原状に復させる」ことになります(破産法167条1項)。流出した財産を破産財団に組み入れさせることができるのです。
詐害行為否認により流出した財産が破産財団に戻るため、破産管財人は取り戻した財産を換価処分できるようになります。
例えば、破産者が所有する不動産を親族に贈与した場合
- 破産管財人が贈与を詐害行為として否認
- 贈与契約の法的効果は否定され、親族は破産管財人に「贈与によって不動産の所有権を取得したこと」を対抗(主張)できない
- 贈与がなかったものとして扱われるので、不動産はいまだ破産者の所有物であるとして扱うことができる
- 破産者の財産であるため破産財団に属する財産として扱われ、破産管財人が不動産の管理処分権を有することになる
- 親族が不動産を占有している場合、破産管財人は親族に明渡しを求めることができる
- 破産管財人が不動産を管理し、最終的に換価処分できる
詐害行為の相手方が破産者に反対給付をしていた場合
破産法 第168条
- 第1項 第160条第1項若しくは第3項又は第161条第1項に規定する行為が否認されたときは、相手方は、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める権利を行使することができる。
- 第1号 破産者の受けた反対給付が破産財団中に現存する場合 当該反対給付の返還を請求する権利
- 第2号 破産者の受けた反対給付が破産財団中に現存しない場合 財団債権者として反対給付の価額の償還を請求する権利
- 第2項 前項第二号の規定にかかわらず、同号に掲げる場合において、当該行為の当時、破産者が対価として取得した財産について隠匿等の処分をする意思を有し、かつ、相手方が破産者がその意思を有していたことを知っていたときは、相手方は、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める権利を行使することができる。
- 第1号 破産者の受けた反対給付によって生じた利益の全部が破産財団中に現存する場合 財団債権者としてその現存利益の返還を請求する権利
- 第2号 破産者の受けた反対給付によって生じた利益が破産財団中に現存しない場合 破産債権者として反対給付の価額の償還を請求する権利
- 第3号 破産者の受けた反対給付によって生じた利益の一部が破産財団中に現存する場合 財団債権者としてその現存利益の返還を請求する権利及び破産債権者として反対給付と現存利益との差額の償還を請求する権利
- 第3項 前項の規定の適用については、当該行為の相手方が第161条第2項各号に掲げる者のいずれかであるときは、その相手方は、当該行為の当時、破産者が前項の隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたものと推定する。
- 第4項 破産管財人は、第160条第1項若しくは第3項又は第161条第1項に規定する行為を否認しようとするときは、前条第一項の規定により破産財団に復すべき財産の返還に代えて、相手方に対し、当該財産の価額から前三項の規定により財団債権となる額(第1項第1号に掲げる場合にあっては、破産者の受けた反対給付の価額)を控除した額の償還を請求することができる。
引用元:e-Gov法令検索
上記のとおり、破産管財人は否認権を行使して、詐害行為の相手方に対して破産者から受け取った財産を破産財団に戻すよう請求します。
ただし、詐害行為の相手方が、財産を受け取る代わりに破産者に反対給付(売買代金の支払いなど)をしている場合もあります。
詐害行為(詐害的債務消滅行為の否認を除く)の相手方が破産者に反対給付をしていた場合、相手方は財産を返還する代わりに、以下の権利を取得します。
- 反対給付が破産財団に残っている場合
相手方は反対給付の返還を請求する権利を取得し、破産債権者として配当に加わることができる(破産法168条1項1号) - 反対給付が破産財団に残っていない場合
相手方は、財団債権者として反対給付の価額の償還を請求する権利を取得する(破産法168条1項2号) - 反対給付が破産財団に残っていない場合に、詐害行為の当時、破産者が対価として取得した財産について隠匿等の処分をする意思を有し、かつ、相手方が破産者の意思をを知っていたとき(破産法168条2項)
- 反対給付によって生じた利益の全部が破産財団に残っている場合
相手方は、財団債権者として現存利益の返還を請求できる権利を取得する - 反対給付によって生じた利益が破産財団に残っていない場合
相手方は、反対給付の価額の償還を請求する権利を取得し、破産債権者として配当に加わることができる - 反対給付によって生じた利益の全部が破産財団に残っている場合
相手方は、財団債権者として現存利益の返還を請求できる権利・破産債権者として反対給付と現存利益の差額を請求して配当に加われる権利を取得する
- 反対給付によって生じた利益の全部が破産財団に残っている場合
なお、相手方に反対給付の返還等の権利が認められる場合、破産管財人は、財産そのものではなく、財産から財団債権となる相手方の請求権の額を差し引いた額を支払うよう求めることもできます(破産法168条4項)。
転得者に対する否認権の行使
破産法 第170条
- 第1項 次の各号に掲げる場合において、否認しようとする行為の相手方に対して否認の原因があるときは、否認権は、当該各号に規定する転得者に対しても、行使することができる。ただし、当該転得者が他の転得者から転得した者である場合においては、当該転得者の前に転得した全ての転得者に対しても否認の原因があるときに限る。
- 第1号 転得者が転得の当時、破産者がした行為が破産債権者を害することを知っていたとき。
- 第2号 転得者が第161条第2項各号に掲げる者のいずれかであるとき。ただし、転得の当時、破産者がした行為が破産債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。
- 第3号 転得者が無償行為又はこれと同視すべき有償行為によって転得した者であるとき。
- 第2項 第167条第2項の規定は、前項第3号の規定により否認権の行使があった場合について準用する。
引用元:e-Gov法令検索
破産管財人が否認権を行使できるのは、詐害行為の相手方だけではありません。一定の場合には、相手方等から財産を譲り受けた転得者に対しても否認権を行使して財産の返還を求めることができます。
具体的には、以下の場合に、転得者に対しても否認権を行使できます。
- 詐害行為等の相手方に否認の原因があること
- 以下のいずれかに該当する場合であること
- 転得者が、転得の当時、破産者がした行為が破産債権者を害することを知っていた場合
- 破産者が法人である場合の理事・取締役等の役員が、転得の当時、破産者がした行為が破産債権者を害することを知って転得した場合
- 破産者が法人である場合の親会社等が、転得の当時、破産者がした行為が破産債権者を害することを知って転得した場合
- 破産者の親族または同居人が、転得の当時、破産者がした行為が破産債権者を害することを知って転得した場合
- 転得者が、無償行為またはこれと同視すべき有償行為によって転得した者である場合
ただし、転得者からの転得者に対して否認権を行使できるのは、その転得者の前に転得した全ての転得者に否認の原因があるときに限られます(破産法170条1項ただし書き)。
転得者が相手方等に反対給付をしていた場合
破産法 第170条の2
- 第1項 破産者がした第160条第1項若しくは第3項又は161条第1項に規定する行為が転得者に対する否認権の行使によって否認されたときは、転得者は、第168条第1項各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める権利を行使することができる。ただし、同項第1号に掲げる場合において、破産者の受けた反対給付の価額が、第4項に規定する転得者がした反対給付又は消滅した転得者の債権の価額を超えるときは、転得者は、財団債権者として破産者の受けた反対給付の価額の償還を請求する権利を行使することができる。
- 第2項 前項の規定にかかわらず、第168条第1項第2号に掲げる場合において、当該行為の当時、破産者が対価として取得した財産について隠匿等の処分をする意思を有し、かつ、当該行為の相手方が破産者がその意思を有していたことを知っていたときは、転得者は、同条第2項各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める権利を行使することができる。
- 第3項 前項の規定の適用については、当該行為の相手方が第161条第2項各号に掲げる者のいずれかであるときは、その相手方は、当該行為の当時、破産者が前項の隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたものと推定する。
- 第4項 第1項及び第2項の規定による権利の行使は、転得者がその前者から財産を取得するためにした反対給付又はその前者から財産を取得することによって消滅した債権の価額を限度とする。
- 第5項 破産管財人は、第1項に規定する行為を転得者に対する否認権の行使によって否認しようとするときは、第167条第1項の規定により破産財団に復すべき財産の返還に代えて、転得者に対し、当該財産の価額から前各項の規定により財団債権となる額(第168条第1項第1号に掲げる場合(第1項ただし書に該当するときを除く。)にあっては、破産者の受けた反対給付の価額)を控除した額の償還を請求することができる。
引用元:e-Gov法令検索
転得者が詐害行為の相手方や他の転得者に対して反対給付をしていた場合は、財産を破産管財人に引き渡す代わりに、以下の権利を取得します(破産法170条の2第1項)。
- 反対給付が破産財団に残っている場合
転得者は反対給付の返還を請求する権利を取得し、破産債権者として配当に加わることができる。ただし、破産者の受けた給付の価額が転得者の反対給付または転得者の債権の価額を超える場合は、財団債権者として反対給付の価額の償還を請求する権利を取得する(破産法170条の2第1項、168条1項1号) - 反対給付が破産財団に残っていない場合
転得者は、財団債権者として反対給付の価額の償還を請求する権利を取得する(破産法170条の2第1項、破産法168条1項2号) - 反対給付が破産財団に残っていない場合に、詐害行為の当時、破産者が対価として取得した財産について隠匿等の処分をする意思を有し、かつ、転得者が破産者がその意思を有していたことを知っていたとき(破産法170条の2第2項、破産法168条2項)
- 反対給付によって生じた利益の全部が破産財団に残っている場合
転得者は、財団債権者として現存利益の返還を請求できる権利を取得する - 反対給付によって生じた利益が破産財団に残っていない場合
転得者は、反対給付の価額の償還を請求する権利を取得し、破産債権者として配当に加わることができる - 反対給付によって生じた利益の全部が破産財団に残っている場合
転得者は、財団債権者として現存利益の返還を請求できる権利・破産債権者として反対給付と現存利益の差額を請求して配当に加われる権利を取得する
- 反対給付によって生じた利益の全部が破産財団に残っている場合
なお、転得者が権利行使できるのは、前者にした反対給付または前者から財産を取得することによって消滅した債権の価額が限度です(破産法170条の2第4項)。
詐害行為否認の期限
破産管財人に詐害行為否認の権限があるといっても、無期限に行使できるわけではありません。一定の期限があります。具体的には、否認権行使の制限と除斥期間によって、一定の期限が設けられています。
支払停止があったこと等を理由とする否認権行使の時期的制限
破産法 第166条
- 破産手続開始の申立ての日から1年以上前にした行為(第160条第3項に規定する行為を除く。)は、支払の停止があった後にされたものであること又は支払の停止の事実を知っていたことを理由として否認することができない。
引用元:e-Gov法令検索
破産手続開始の申立日から1年以上前にした詐害行為(無償行為を除く)は、「支払停止があった後にされたものであること」または「支払停止の事実を知っていたこと」を理由として否認することができません(破産法166条)。
そのため、以下の詐害行為が、破産手続開始の申立日から1年以上にしたものである場合は、否認できなくなります。
- 破産法160条1項2号に基づく支払停止後にした詐害行為
- 破産法160条2項に基づく支払停止後にした詐害的債務消滅行為
否認権の除斥期間
破産法 第176条
- 否認権は、破産手続開始の日から2年を経過したときは、行使することができない。否認しようとする行為の日から10年を経過したときも、同様とする。
引用元:e-Gov法令検索
前記支払停止があったことなどを理由とする場合だけでなく、以下のいずれかの期間を経過すると、すべての詐害行為の否認権が行使できなくなります。
- 破産手続開始日から2年(破産法176条前段)
- 否認しようとする行為の日から10年(破産法176条後段)
詐害行為否認と民法上の詐害行為取消権の違い
破産管財人の否認権と類似する法制度として、民法に詐害行為取消権が定められています。
詐害行為取消権とは、債務者が債権者を害することを知りながらした行為(詐害行為)を取り消すことができる債権者の権利です(民法424条1項)。
いずれも債務者の詐害行為の効力を否定することで、債権の引き当てとなる債務者の責任財産を確保する制度である点で共通しています。
ただし、詐害行為取消権が債権者一般に認められる権限であるのに対し、詐害行為否認は、破産手続という特殊な場面において破産管財人にのみ認められる権限である点で、似て非なる制度です。
| 比較項目 | 否認権 | 詐害行為取消権 |
|---|---|---|
| 根拠法 | 破産法160条、161条 | 民法424条 |
| 行使できる主体 | 破産管財人 | 債権者 |
| 行使される場面 | 破産手続 | 限定なし(ただし、破産手続中は行使できない) |
| 行使の目的 | 破産財団の確保(総債権者の利益の確保) | 取消しを求める債権者の利益の確保 |
| 行使の手続 | 否認の訴え、否認請求または抗弁(交渉も可能) | 通常訴訟(詐害行為取消訴訟) |
もっとも、民法改正に伴い、否認権と詐害行為取消権に大きな齟齬が生じないように、バランスが調整されています。
この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
この記事が参考になれば幸いです。
破産法と資格試験
倒産法の基本法が破産法です。破産以外の民事再生法などの倒産法を理解するためにも、破産法を理解しておく必要があります。
この破産法は、司法試験(本試験)や司法試験予備試験の試験科目になっています。分量が多い上に、かなり実務的な科目であるため、イメージも持ちにくい部分があります。
ただし、出題範囲は限られています。そのため、出題範囲に絞って効率的に勉強することが必要です。そのために、予備校や通信講座などを利用するのもひとつの方法でしょう。
STUDYing(スタディング)
・司法試験・予備試験も対応
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参考書籍
破産法を深く知りたい方やもっと詳しく勉強したい方のために、破産法の参考書籍を紹介します。
破産法・民事再生法(第6版)
著者:伊藤 眞 出版:有斐閣
倒産法研究の第一人者による定番の体系書。民事再生法と一体になっているので分量は多めですが、読みやすいです。難易度は高めですが、第一人者の著書であるため、信頼性は保証されています。
条解破産法(第3版)
著者:伊藤 眞ほか 出版:弘文堂
条文ごとに詳細な解説を掲載する逐条の注釈書。破産法の辞書と言ってよいでしょう。破産法の条文解釈に関して知りたいことは、ほとんどカバーできます。持っていて損はありません。金額面を除けば、誰にでもおすすめです。
破産・民事再生の実務(第4版)民事再生・個人再生編
編集:永谷典雄ほか 出版:きんざい
東京地裁民事20部(倒産部)の現役裁判官による破産実務の解説書。東京地裁の破産事件を扱う実務家必携の本。実務家でなくても、実際の手続運用を知っておくと、破産法をイメージしやすくなるでしょう。
破産管財人の財産換価(第2版)
編集:岡伸浩ほか 出版:商事法務
破産手続における破産管財人の財産換価処分について、財産の種類ごとなどに具体的な手続や方法を解説する実務解説書。実務家向けの本ですが、破産手続における財産処分のイメージをつかめるかもしれません。
司法試験・予備試験など資格試験向けの参考書籍としては、以下のものがあります。
倒産法(LEGAL QUEST)
著者:杉本和士ほか 出版:有斐閣
法科大学院生や司法試験・予備試験受験生向けに書かれた基本書・概説書。破産法だけでなく、倒産法全般について分かりやすくまとめられています。
倒産法講義
著者:野村剛司ほか 出版:日本加除出版
こちらも法学大学院生や司法試験・予備試験受験生向けに書かれた教科書。著者が実務家であるため、実務的な観点が多く含まれていて、手続をイメージしやすいメリットがあります。
倒産法(第3版)伊藤真試験対策講座15
著者:伊藤塾 出版:弘文堂
いわゆる予備校本。予備校本だけあって、実際の出題傾向に沿って内容が絞られており、分かりやすくまとまっています。学習のスタートは、予備校本から始めてもよいのではないでしょうか。



