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遺産分割の対象となる財産の範囲や評価を確定させる基準時はどの時点か?

この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。

Q
遺産分割の対象となる財産の範囲や評価は、どの時点を基準にすればよい?
A

民法で明確に決められているわけではありませんが、遺産分割の対象となる財産の範囲や評価を確定させる基準時は「遺産分割時」と考えるのが一般的です。

このページでは、遺産分割の対象となる財産の範囲や評価の基準時について詳しく説明します。

このページで説明していること
  • 遺産分割の対象となる財産の範囲や評価の基準時とは何か
  • 遺産分割対象財産の範囲や評価の3つの基準時
  • 相続開始時を基準時としなければならないケース
  • 遺産分割対象財産の基準時が問題となりやすい財産

遺産分割の対象となる財産の確定

相続人が複数人いる共同相続の場合、被相続人が亡くなり相続が開始すると、被相続人が有していた権利義務(相続財産)は、共同相続人全員の共有または準共有になるのが原則です(遺産共有。民法898条1項)。

この遺産共有状態を解消するには、共同相続人全員で遺産分割をして、具体的な遺産の帰属を確定させなければなりません。

ただし、遺産分割をするには「いつの時点で存在していた遺産分割の対象にするのか」「対象になる財産の評価額をいくらとするのか(遺産分割対象財産の評価)」を決めておかなければいけません。

そこで問題となるのが「遺産分割対象財産の範囲や評価をどの時点で判断・確定させるのか」です。遺産分割の基準時の問題です。

遺産分割対象財産の範囲や評価の基準時とは

遺産分割するには、前提として対象になる財産の範囲や評価額を確定させておかなければいけません。とは言え、財産の範囲(存否)や評価額は変動することがあります。

相続開始時には存在していたものの、遺産分割する際には失われている財産もあるでしょう。不動産や株式などは、相続開始時から遺産分割するまでの間に評価額が変わっているかもしれません。

そのため、どの時点で存在している財産を対象とし、どの時点での財産の価値を評価額とするのかによって、遺産分割の内容も変わってきます。

そこで、いつの時点で存在している財産を対象にし、いつの時点での評価額を基準に遺産分割するのかを決めておく必要がありますこれが「基準時」の問題です

民法では、いつを基準時にすべきかについて明確な規定がないので、解釈によって決めることになります。

遺産の範囲や評価に関する3つの基準時

いつを遺産分割の財産の範囲や評価の基準時とするかについては、以下の3つが考えられます

遺産の範囲や評価の3つの基準時
  • 相続開始時:被相続人が亡くなった時
  • 遺産分割時:遺産分割が成立した時
  • 共同相続人全員の合意で決めた特定時

基準時1:相続開始時

基準時については、相続が開始した時(被相続人が亡くなった時)とする考え方があります(相続開始時説)。

この見解によると、相続開始時に存在した財産を対象とし、相続開始時遡って財産を評価して遺産分割することになります。

もっとも、相続開始時には存在したものの遺産分割時には失われている財産を遺産分割の対象にしても、実際に現物がない以上、ただ紛争が増えるだけで無意味な場合が多いです。

また、相続開始時の評価額を基準にすると、相続開始から遺産分割までの間に評価額の大きな変動があった場合、相続人間で不公平を生じる可能性があります。相続開始から遺産分割までに長期間経過していると、相続開始時の評価額がわからなくなるケースもあります。

そのため、遺産分割する財産の評価基準時は、後述する遺産分割時とするのが実務です。ただし、特別受益や寄与分の算定については、相続開始時の財産評価額を基準とする点には注意が必要です。

基準時2:遺産分割時(実務)

上記のとおり、相続開始時を基準とすると、財産の消失や価格の変動によって共同相続人間に不公平が生じる可能性があります。そのため、実務では、遺産分割時を基準とするのが通常です

遺産分割時とすると、現に遺産分割をする際に存在する財産だけ対象となるので、相続開始後になくなった財産があっても不公平は生じません。

また、相続開始時にさかのぼって評価する必要がなく、価格変動による不公平も生じにくいメリットがあります。

ただし、相続開始時の評価額が明確で変動がなく、しかも遺産分割時までに失われにくい財産は、相続開始時を基準時とすることもあります。典型的なものは、銀行預金・郵便貯金です。

遺産分割時の具体的な時期

遺産分割時を基準時とする場合、具体的には以下の時を基準時とすることになります

遺産分割時
  • 遺産分割協議
    共同相続人間で話がまとまった時(遺産分割協議書を全員で取り交わした時)
  • 遺産分割調停
    話し合いがまとまり、家庭裁判所によって調停調書が作成された時
  • 遺産分割審判
    家庭裁判所から審判書が共同相続人全員に送達されてから、誰も不服申立てをしないまま2週間が経過して審判(決定)が確定した時

基準時3:共同相続人の合意で決めた基準時

前記のとおり、実務では遺産分割時を基準時とするのが一般的ですが、必ず遺産分割時でなければならないと法定されているわけではありません。

そのため、共同相続人全員が、遺産分割時でない時を基準時とすることを合意した場合は、基準時を変えることも可能です

例えば、共同相続人全員の合意によって、基準時を相続開始時に設定することもできます。また、財産ごとに基準時を変えるケースもあります。

例えば、預貯金は相続開始時を基準時としつつも、それ以外の財産は遺産分割時とするようなケースもあります。

遺産分割協議や調停の場合の基準時

遺産分割協議や調停は、共同相続人間での話し合いです。共同相続人全員が合意すれば、遺産の範囲や評価の基準時を自由に決められます。

そのため、遺産確定の基準時を相続開始時にすることも、遺産分割時にすることもできます。また、あえて遺産分割対象の範囲については相続開始時を基準時としつつ、評価は遺産分割時を基準時とすることも可能です。

とは言え、遺産分割対象財産の範囲と評価の基準時を別々にすると、複雑になりすぎて話し合いがまとまらないおそれもあります。

遺産分割協議や調停でも、特別な事情のない限り、範囲と評価は別々にせず、どちらも基本は「遺産分割時」を基準時とする方がよいでしょう

遺産分割審判の場合の基準時

遺産分割審判では、裁判所が法令に基づいて遺産分割の内容を決定します。そのため、実務上の通説である遺産分割時を基準時とするのが通常です

ただし、共同相続人全員が基準時に関しては合意が成立している場合には、審判でも共同相続人の合意した基準時が採用されることもあります。

また、基準時を遺産分割時とすると、共同相続人間に著しく大きな不公平が生じる場合には、例外的に、相続開始時を基準時とするケースもあります。

相続開始時を遺産確定の基準時とする制度

前記のとおり、実際に遺産分割をする財産の範囲や評価額は、遺産分割時を基準時として決めるのが、実務での原則です。

もっとも、遺産分割で特別受益や寄与分を算定する場合や遺留分を算定する場合は、遺産分割時ではなく、相続開始時を基準時として財産を評価します

また、遺産分割ではありませんが、遺留分や相続税も相続開始時を基準時とした財産評価額で計算されます

特別受益の算定

特別受益とは、共同相続人の一部が被相続人から受けた婚姻・養子縁組のためまたは生計の資本として受けた生前贈与や遺贈のことです(民法903条1項)。

特別受益がある場合、各共同相続人の具体的相続分は、以下のように計算されます。

特別受益の計算
  1. みなし相続財産の算出
    相続開始時における相続財産の額に婚姻・養子縁組のためまたは生計の資本としての生前贈与の額を加算して、「みなし相続財産」を算出します。
  2. 一応の相続分の算出
    みなし相続財産を相続分(遺言で相続分の指定がある場合や指定相続分、ない場合は法定相続分)に従って、各共同相続印の「一応の相続分」を算出します。
  3. 具体的相続分の確定
    生前贈与や遺贈を受けた共同相続人(受益相続人)の一応の相続分から、生前贈与および遺贈を受けた額を控除し、各共同相続人の具体的相続分を確定させます。

寄与分の算定

寄与分とは、共同相続人が、被相続人の事業に関する労務の提供・財産上の給付・被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした場合に、その寄与行為を経済的に評価したもののことです(民法904条の2第1項)。

寄与分がある場合、各共同相続人の具体的相続分は、以下のように計算されます。

寄与分の計算
  1. みなし相続財産の算出
    相続開始時における相続財産の額から寄与分を控除して「みなし相続財産」を算出します。
  2. 一応の相続分の算出
    みなし相続財産を相続分(遺言で相続分の指定がある場合や指定相続分、ない場合は法定相続分)に従って、各共同相続印の「一応の相続分」を算出します。
  3. 具体的相続分の確定
    寄与行為をした共同相続人の一応の相続分に、あらかじめ控除しておいた寄与分を加算して具体的相続分を確定します。

遺留分侵害額の算定

遺留分とは、遺言によっても侵害できない相続人(兄弟姉妹を除く)に保障される最低限の権利のことです。

遺言で遺留分よりも少ない相続分しか与えられなかった相続人は、他の共同相続人や受遺者に対して遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求できます(民法1046条1項)。

この遺留分は、以下のように算定します。

遺留分侵害額の計算
  1. 遺留分権利者個々の「個別的遺留分」を計算する。
    【総体的遺留分 × 法定相続分】
  2. 遺留分算定の「基礎財産」を計算する。
    【被相続人が相続開始時に有していた財産 + 生前贈与財産 - 相続債務の全額】
  3. 遺留分権利者の具体的な「遺留分額」を計算する。
    【基礎財産 × 個別的遺留分】
  4. 遺留分額から,「遺留分権利者が受けた遺贈・特別受益に該当する生前贈与の額」および「遺留分権利者が相続によって取得すべき遺産の額」を控除し、「遺留分権利者が負担する相続債務の額」を加算して、「遺留分侵害額」を計算する。

相続税の算定

遺産分割時を基準時とした財産評価額で遺産分割した場合でも、相続税は、相続開始時を基準時とする評価額で課税されます

なお、相続税は財産によっても計算方法が異なります。正確な金額は税理士に相談することをお勧めします。

評価の基準時が問題となりやすい財産

評価額が一定で変動の小さい財産であればトラブルになるケースは少ないですが、不動産や株式など評価額に大きな変動が生じる財産は、紛争も大きくなりやすいです。

預金・郵便貯金

遺産評価の基準時は遺産分割時が原則ですが、預金や郵便貯金は、相続開始時を基準時とするのが一般的です。相続財産になるのは、相続開始時の残高だからです。

預貯金の利息

預金残高は、相続開始後も利息が付いて増えることはありますが、利息は相続財産に含まれないので、遺産分割は不要です。利息は、共同相続人に各自の相続分に応じて分割承継されます。

ただし、共同相続人全員で合意すれば、利息も預貯金と一緒に遺産分割することは可能です。この場合には、基準時を遺産分割時とすることになるでしょう。

遺産分割前の仮払いが使われた場合

遺産分割する前でも、共同相続人は各自単独で、民法で定められた一定額を払い戻せます(民法909条の2)。

この預貯金払戻し制度を利用して払い戻された金額は、一部遺産分割したものとして扱われます。そのため、全体の遺産分割をする際に、払戻し制度で払い戻された金額は調整されます。

一部の共同相続人が勝手に払い戻した場合

仮払い制度を利用せず、預貯金口座が凍結される前に、一部の共同相続人がキャッシュカードを使って払い戻ししてしまうケースがあります。

このようなケースで遺産分割時を基準に預貯金を分配すると、勝手に払い戻しした相続人ばかり利益を得てしまいます。そのため、相続開始時を基準時にすることが多いのです。

相続開始時を基準時として相続分を決めた上で、勝手に払い戻した共同相続人への支払い額から差し引き、不足する場合は、他の財産で調整するなどの方法をとることになるでしょう

不動産

不動産も、遺産分割の対象です。遺産分割時点で不動産が残っていれば、必ず遺産分割の対象にしなければいけません。

この不動産は、評価の基準時をいつにするかで揉めやすい財産です。物件によっては、基準時をいつにするかによって、数百万〜数千万近く違いが生じるケースもあります。

前記のとおり、相続開始時の価値を基準としてもトラブルが増えるだけです。遺産分割時を評価の基準時にするのが一般的でしょう

ただし、ケースによっては、不動産だけ、他の財産と異なる基準時にして調整を図るような場合もあります。

なお、不動産は、基準時だけでなく評価方法(固定資産評価、路線価、実勢価格)でトラブルになるケースも多いです。

株式などの投資資産

株式国債社債投資信託、金、FX、仮想通貨なども遺産分割の対象にする必要があります。また、不動産と同様、投資資産は時期によって価額変動が大きいため、評価の基準時で紛争が起きるケースがあります。

これらも相続開始時の価値を基準にすると不公平がどうしても生じます。最も不公平になることの少ない遺産分割時を基準時とした方がよいでしょう。

なお、実務では、遺産全体を遺産分割する前に、共同相続人全員で合意して一定の日に売却し、そのお金を後で遺産分割する方法をとることも多いです。

遺産に該当するか否か自体が争われる場合

財産評価の基準時を遺産分割時にするとしても、ある財産が遺産(相続財産)に含まれるのかどうかが争いになっていては、いつまでも遺産分割できません。

相続財産該当性自体に争いがある場合は、別途、遺産確認の訴えを提起し、訴訟で遺産であるか否かを決める必要があります。その上で、遺産分割することになります。

この遺産確認訴訟は、遺産分割調停や審判と違い、家庭裁判所ではなく地方裁判所に訴えなければいけません。

この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
この記事が参考になれば幸いです。

民法と資格試験

民法は、私法の基本法です。我々の生活に最も身近な法律です。

そのため、例えば、司法試験(本試験)、司法試験予備試験、司法書士試験、行政書士試験、宅建試験、マンション管理士試験・・・など、実に多くの資格試験の試験科目になっています。

これら法律系資格の合格を目指すなら、民法を攻略することは必須条件です。

とは言え、民法は範囲も膨大です。メリハリを付けないと、いくら時間があっても合格にはたどり着けません。効率的に試験対策をするには、予備校や通信講座などを利用するのもひとつの方法でしょう。

STUDYing(スタディング)
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参考書籍

本サイトでも民法について解説していますが、より深く知りたい方や資格試験勉強中の方のために、民法の参考書籍を紹介します。

逐条解説 改正相続法
著者:堂薗幹一郎など 出版:商事法務
民法改正に対応した逐条解説書。相続を扱う実務家向けですが、持っていると何かと便利です。立法担当者や現役裁判官による著書であるため、内容に信頼性があります。

資格試験向けの参考書籍としては、以下のものがあります。

民法(全)(第3版補訂版)
著者:潮見佳男 出版:有斐閣
1冊で民法総則から家族法まで収録されています。基本書というより入門書に近いでしょう。民法全体を把握するのにはちょうど良い本です。

民法VI 親族・相続 (LEGAL QUEST)第8版
著者:前田陽一ほか  出版:有斐閣
家族法全体の概説書。条文・判例から書かれているので、学習の早い段階から利用できます。情報量もあるので、資格試験の基本書として十分でしょう。

親族・相続(伊藤真試験対策講座12)第4版
著者:伊藤真 出版:弘文堂
いわゆる予備校本。予備校本だけあって、実際の出題傾向に沿って内容が絞られており、分かりやすくまとまっています。民法は範囲が膨大なので、学習のスタートは、予備校本から始めてもよいのではないでしょうか。

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