この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
- Q遺産分割には期限がある?
- A
いいえ。遺産分割自体に期限はありません。何年経過していても遺産分割は可能です。ただし、長期間遺産分割をしないままでいると、相続財産の減少・特別受益や寄与分の主張の制限・不動産相続登記をしないことによる罰則などの不利益を生じる可能性があります。
このページでは、遺産分割の期限や消滅時効について詳しく説明します。
- 遺産分割の期限の有無
- 遺産分割を放置した場合に生じる4つの不利益
- 遺産分割や相続に関連する手続の期限

遺産分割とは
相続人が複数人いる共同相続の場合、被相続人が有していた権利義務(相続財産)は、共同相続人全員の共有(または準共有)になるのが原則です。(遺産共有。民法898条1項)。
遺産共有のままだと、共同相続人は単独で相続財産を処分することができません。この遺産共有状態を解消するためには、「遺産分割」をしなければいけません。
遺産分割とは、相続人が複数人いる共同相続の場合に、遺産(相続財産)が誰にどの程度帰属するのかを決める手続のことです。
遺産分割自体に期限はない
「遺産分割はいつまでにすればよいのか?」
この質問は非常に多いですが、結論から言うと遺産分割に期限は設けられていません。時効で遺産分割できなくなるようなこともありません。
また、遺産分割を他の共同相続人等に請求する権利が消滅時効によって無くなってしまうこともありません。
そのため、相続開始から何年経っていても、遺産分割自体をすることは可能です。しかし、遺産分割をせずに長期間放置していると、いくつかの不利益やリスクが発生します。
遺産分割を放置すると発生するリスク
上記のとおり、遺産分割自体には期限がないため、相続が開始してから数年経った後で遺産分割することは可能です。
とは言え、遺産分割を放置すると、いくつかの不利益やリスクが生じます。早めに遺産分割に取り掛かる必要があります。具体的には、以下のような不利益があります。
- 個々の相続財産が時効や法定の期限によって失われる可能性がある
- 相続開始から3年以内に不動産の相続登記をしないと罰則を受ける
- 相続開始から10年経過すると、特別受益や寄与分を主張できなくなる
- 数次相続が発生して相続関係は著しく複雑になる
以下、それぞれについて説明します。
リスク1:個々の相続財産が時効や期限によって失われる
遺産分割それ自体には期限はありません。しかし、遺産に属する個々の財産は、消滅時効や除斥期間消滅などの期限が設けられている場合があります。
遺産分割に期限がないからといって、個々の相続財産の期限を過ぎてしまえば、その財産を相続人が受け継ぐことはできなくなります。
例えば、以下の財産には期限があるため、注意しましょう。
債権の消滅時効による遺産の減少
債権とは、特定の人に特定の行為を請求する権利のことです。例えば、被相続人が誰かにお金を貸していた場合、貸金の返還を求める債権(貸金請求権)は、相続人に相続されます。
しかし、遺産分割をせず債権を放置していると、消滅時効によって債権自体が消滅してしまう場合があります。債権自体が消滅してしまえば、当然相続人が受け継ぐこともできません。
債権は、権利を行使しないまま以下のいずれかの期間が経過すると時効により消滅します(民法166条)。
- 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間
- 権利を行使することができる時から10年間
また、債権によっては上記よりも短い消滅時効期間が設定されている場合もあります(短期消滅時効)。債権の時効期間は気にかけておいた方がよいでしょう。
預金・郵便貯金の消滅時効
預金・郵便貯金からお金を払い戻す権利(払戻請求権)も債権です。そのため、時効によって消滅する可能性があります。
消滅時効期間を過ぎると、銀行側から消滅時効を援用(主張)されて、預貯金がなくなってしまう可能性があります(ただし、実際に銀行側が消滅時効を援用するケースは稀です。)。
消滅時効期間を過ぎそうな場合の対処法
一番の対処法は、急いで遺産分割をして払い戻すことですが、難しい場合は、時効の更新をしておきましょう。
時効の更新とは、更新事由が発生した場合に時効期間の進行をリセットする制度です。更新時から期間がゼロから再スタートになるので、時効で消滅するのを先に延ばすことができます。
例えば、時効を更新するには、以下のような方法があります。
- 訴訟を提起して、債権の支払いを認容する確定判決を取得する
- 債務者と交渉して、和解や債権の存在を承認させる
この時効の更新は、遺産分割前であっても、共同相続人各自が単独で行うことが可能です。時効になる前に、時効更新の措置をとっておきましょう。
株式の期限
株式にも期限があります。
遺産分割を進めず、株主の名義変更をしないまま5年経過してしまうと、株式を発行した株式会社が、所在不明と判断して、その株式を強制的に買い取ってしまうおそれがあります(会社法197条)。
会社が買い取ってしまうと、遺産ではなくなってしまいます。遺産分割を早めに進めるか、発行会社に連絡しておきましょう。
取得時効による遺産の減少
消滅時効とは逆に、取得時効が成立する可能性もあります。取得時効とは、一定の期間の経過によって権利を取得できる制度です。
共同相続人のひとりが、遺産を自分の物であるとして占有したまま一定期間が経過した場合、取得時効が成立するケースもあり得ます。
取得時効が成立すると、その財産は占有していた共同相続人固有の財産となり、遺産ではなくなってしまいます。他の共同相続人からすれば、受け継ぐはずだった遺産が減ることになります。
リスク2:相続開始から3年以内に不動産の相続登記をしないと罰則を課される
法改正により、遺産に不動産がある場合、相続登記をすることが義務化されました。
この不動産の相続登記は、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内にする必要があります。相続登記しないまま期限を過ぎた場合、罰則(10万円以下の過料)を課されるおそれがあります。
不動産が遺産に含まれている場合は、特に急いで遺産分割に取り掛かることをお勧めします。
3年を経過してしまいそうな場合の対処法
3年経過するまでに遺産分割が終わらなかった場合は、共同相続人が単独で「相続人申告登記」をしておくことによって、罰則を免れることができます。
なお、相続人申告登記をした後に遺産分割が完了したら、改めて相続登記しなければいけません。
リスク3:相続開始から10年経過すると特別受益や寄与分を主張できなくなる
遺産分割では、特別受益や寄与分を主張して、共同相続人間での不公平を解消し、相続分を調整できます。
しかし、相続開始から10年経過すると、特別受益や寄与分を遺産分割で主張することができなくなります(民法904条の3)。
10年経過後は、不公平があっても、遺言で指定された指定相続分(相続分の指定がない場合は法定相続分)を基準として遺産分割するほかなくなります(ただし、共同相続人全員の合意で異なる相続分にすることは可能です。)。
そのため、遺産分割を先延ばしにすると、特別受益や寄与分を主張しようとしている人にとっては大きな不利益を生じるおそれがあるのです。
特別受益が主張できなくなる
特別受益とは、被相続人が生前に行った一部の共同相続人に対する婚姻・養子縁組のためまたは生計の資本としての生前贈与や遺贈・死因贈与のことです(民法903条1項)。
特別受益が認められると、特別受益分を相続財産に加算・考慮した上で贈与等を受けた共同相続人の相続分が減らされるとともに、共同相続人全員の相続分が計算し直されます(特別受益の持ち戻し)。
ただし、この特別受益は、相続開始から10年を経過すると、遺産分割で主張できなくなります(民法904条の3)。
もし10年経過しそうな場合は、急いで家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てる必要があります。
寄与分が主張できなくなる
寄与分とは、被相続人の財産の維持や増加に特別の寄与をした共同相続人がいる場合に、その寄与行為を金銭的に評価したもののことです(民法904条の2第1項)。
寄与分が認められると、寄与分を考慮した上で寄与行為をした共同相続人の増やすとともに、共同相続人全員の相続分が計算し直されます。
ただし、この寄与分は、相続開始から10年を経過すると、遺産分割で主張できなくなります(民法904条の3)。
もし10年経過しそうな場合は、急いで家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てる必要があります。
10年を経過してしまいそうな場合の対処法
もし遺産分割協議の話し合いが長引き、相続開始から10年を経過してしまうそうな場合は、急いで家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てましょう。
相続開始から10年以内に遺産分割調停を申し立てれば、その後の調停や審判でも特別受益や寄与分を主張できます(民法904条の3ただし書き1号)。
リスク4:数次相続により手続が複雑になる
数次相続とは、ある人について開始された相続における相続人が死亡して、その相続人についても相続が開始される状態のことです。
遺産分割をいつまでもしないでいると、相続人が亡くなって別の相続が発生し、相続関係が非常に複雑になってしまうケースがあります。
放置すればするほど多くの相続が発生して、相続関係を整理するだけでも大変です。ひとつひとつ早めに遺産分割を済ませておくことが大事です。
遺産分割に関する期間
遺産分割しなければならない期限はありませんが、遺産分割に関わる制度には、前記の特別受益や寄与分以外にも期間が設けられている場合があります。
遺産分割の禁止期間
例えば、もうすぐ成人する未成年者が相続人に存在する場合に、一定期間遺産分割を禁止して、未成年者が成人するまで待つケースもあります。
そこで、以下の場合には、一定期間、遺産分割することを禁止できます。
| 禁止の方法 | 禁止できる期間 |
|---|---|
| 被相続人が遺言で禁止する (民法908条1項) | 最長5年 |
| 共同相続人全員の合意により禁止する (民法908条2項、3項) | 最長5年(最長5年の更新可能) ただし、期間の終期は相続開始から10年を超えることができない |
| 家庭裁判所の審判により禁止する (民法908条4項、5項) | 最長5年(最長5年の更新可能) ただし、期間の終期は相続開始から10年を超えることができない |
遺産分割調停・審判の取下げの制限
長期にわたり話し合いを続けてきたにもかかわらず、自分に不利と思った相続人が、調停や審判を取り下げようとすることがあります。
取り下げられてしまうと、それまでの話し合いがすべて無駄になってしまいます。
そこで、相続開始から10年経過した場合は、他の共同相続人の同意がない限り、調停や審判を取り下げることはできません(家事事件手続法199条)。
遺産分割の取消しの期限
遺産分割協議や調停であっても、詐欺や強迫に基づいて成立したものであれば、取り消すことが可能です(遺産分割審判は不服申立てや再審でなければ取り消せません。)。
もっとも、詐欺・強迫などの法律行為の取消権は、追認できる時から5年の期限(消滅時効)があります。
共有物分割手続
遺産共有を解消するには、遺産分割をしなければならないのが原則です。
ただし、被相続人が他者と共有していたため、遺産となった物の共有持分については、相続開始から10年を経過した場合、遺産分割ではなく共有物分割手続によって権利の帰属を決めることができます(民法258条の2第2項)。
遺産分割以外の期限にも注意
前記のとおり、遺産分割には期限がありませんが、相続に関わる手続には期限が設けられていることが多いです。
遺産分割はいつでもできるからといって、他の相続手続の期限を過ぎてしまわないように注意しましょう。
例えば、以下の手続には期限があります。
相続放棄・限定承認
相続放棄とは、相続をしない(相続財産を一切受け継がない)ことです。他方、限定承認とは、「相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して」相続することです。
遺産(相続財産)に借金などの負債が含まれている場合には、相続放棄や限定承認をしなければならないケースもあるでしょう。
ただし、この相続放棄と限定承認は、相続の開始を知った時から3か月以内に家庭裁判所に申述しなければいけません(民法915条1項本文)。
この期間(熟慮期間)を過ぎると、相続放棄や限定承認できなくなってしまうので、注意が必要です。
相続税の申告・納付
遺産分割が終わっていなくても、相続税は、相続開始を知った時から10か月以内に税務署に申告しなければいけません。
10か月以内に申告しないと加算税を課される上、配偶者控除や小規模宅地の特例など節税措置を利用できなくなります。
10か月以内に遺産分割が終わっていない場合は、とりあえず法定相続分に基づいて申告し、遺産分割が終わった後に更生の申告することになります。
また、10か月過ぎる前に「3年以内の分割見込書」を提出しておくと、後に遺産分割した場合に、配偶者控除や小規模宅地の特例を使うことができます。
遺留分侵害額請求
兄弟姉妹を除く相続人には、「遺留分(いりゅうぶん)」と呼ばれる最低限の取り分を確保できる権利が与えられています。
遺言で遺留分よりも少ない相続分しか与えられなかった場合、兄弟姉妹を除く相続人は、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを他の相続人や受遺者に請求できます。
ただし、この遺留分減殺請求は、以下のいずれかの期間を経過すると、主張できなくなります(民法1048条後段)。
- 遺留分権利者が相続開始および遺留分を侵害する贈与・遺贈のあったことを知った時から1年間(消滅時効)
- 相続開始時から10年間(除斥期間)
もし期間を経過しそうな場合は、急いで他の共同相続人や受贈者に遺留分侵害額を請求しなければいけません。遺留分侵害額を請求する予定の場合は、早めに行動を開始しましょう。
死亡一時金の請求
国民年金の第一号被保険者(20歳以上60歳未満の自営業者、農業者、学生、無職者など)が亡くなった場合、遺族は死亡一時金を受け取れるケースがあります。
この死亡一時金は、受取資格のある遺族に固有の権利であるため、相続財産ではありません。ただし、死亡一時金は、被保険者が亡くなってから2年以内に請求しなければ、権利が消滅します。
死亡保険金の請求
被相続人が生命保険などに加入していた場合、生命保険金が支払われます。生命保険金は、相続財産ではなく、保険契約や保険約款で定められた受取人固有の財産として扱われるのが原則です。
ただし、この生命保険金を請求する権利も、被保険者が亡くなった時から3年の期限があります。
早めに遺産分割に取り掛かろう
遺産分割には期限がありません。被相続人が亡くなってから10年後に遺産分割することも法律上は可能です。
とは言え、相続財産(遺産)をいつまでも誰のものか確定させないままでおくと、後に、その財産の処分等が問題となった場合にトラブルを生じることになります。
実際、遺産分割未了財産の処分等のトラブルは少なくありません。また、特別受益や寄与分が主張できなくなるなどの不利益も生じます。
相続財産がある場合には、将来のトラブルを回避するためにも、早めに遺産分割に取り掛かる方が良いでしょう。
この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
この記事が参考になれば幸いです。
民法と資格試験
民法は、私法の基本法です。我々の生活に最も身近な法律です。
そのため、例えば、司法試験(本試験)、司法試験予備試験、司法書士試験、行政書士試験、宅建試験、マンション管理士試験・・・など、実に多くの資格試験の試験科目になっています。
これら法律系資格の合格を目指すなら、民法を攻略することは必須条件です。
とは言え、民法は範囲も膨大です。メリハリを付けないと、いくら時間があっても合格にはたどり着けません。効率的に試験対策をするには、予備校や通信講座などを利用するのもひとつの方法でしょう。
STUDYing(スタディング)
・司法試験・予備試験も対応
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参考書籍
本サイトでも民法について解説していますが、より深く知りたい方や資格試験勉強中の方のために、民法の参考書籍を紹介します。
逐条解説 改正相続法
著者:堂薗幹一郎など 出版:商事法務
民法改正に対応した逐条解説書。相続を扱う実務家向けですが、持っていると何かと便利です。立法担当者や現役裁判官による著書であるため、内容に信頼性があります。
資格試験向けの参考書籍としては、以下のものがあります。
民法(全)(第3版補訂版)
著者:潮見佳男 出版:有斐閣
1冊で民法総則から家族法まで収録されています。基本書というより入門書に近いでしょう。民法全体を把握するのにはちょうど良い本です。
民法VI 親族・相続 (LEGAL QUEST)第8版
著者:前田陽一ほか 出版:有斐閣
家族法全体の概説書。条文・判例から書かれているので、学習の早い段階から利用できます。情報量もあるので、資格試験の基本書として十分でしょう。
親族・相続(伊藤真試験対策講座12)第4版
著者:伊藤真 出版:弘文堂
いわゆる予備校本。予備校本だけあって、実際の出題傾向に沿って内容が絞られており、分かりやすくまとまっています。民法は範囲が膨大なので、学習のスタートは、予備校本から始めてもよいのではないでしょうか。




